中国でも通じる日本のRPGのお約束と、ゲーム以外から学んだ「勇者」の概念【中国オタクのアニメ事情】
中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
新年あけましておめでとうございます。
今回は2024年最初の記事になるということなので、近年中国国内で広まり定着している日本のRPG関連のお約束的な知識と、日本の古典的名作RPGの中国のオタク界隈での評価や人気がイマイチな理由などについて、中国の過去のゲーム事情と一緒にまとめてみようかと思います。
現在の中国のオタク界隈、日本のアニメ視聴者の間にはさまざまな日本の作品における「お約束」「説明不要の定番設定」が広まっているようですが、近年広まりが実感できるネタのひとつに
「勇者が主人公となって活躍する日本のファンタジー作品の世界観」
というのがあるそうです。
日本の作品における勇者とそれを取り巻くファンタジー世界観に関しては「ドラクエ」などをはじめとする日本のRPG、いわゆる「JRPG」と言われている作品の影響が大きいと思われます。
しかし中国のオタクな方々の話を聞いたりオタク界隈の話題を追いかけたりしてみると
「実は中国では日本のRPG経由で『勇者』について把握した人は少ない」
などといった少々興味深い事情も見えてきます。
日本のゲームの歴史とは違う中国独自のゲームの歴史とその記憶
中国本土で日本のゲームが本格的に流行り、広い範囲で遊ばれるようになったのは1990年代前半~半ばごろからだと思われますが、実は中国本土で日本のRPGが広い範囲で気軽に遊ばれるようになったのは比較的最近の話になるようです。
1990年代前半~半ばごろの中国では、テレビで「北斗の拳」や「SLAM DUNK」などの、中国で社会現象レベルの大人気になる日本のアニメ作品が放映され、海賊版経由ではあるものの日本のマンガが大量に広まるなど、中国本土で飛び交う日本の娯楽コンテンツが急速に増加していった時期ですが、日本のゲームもかなりの勢いで広まっていたそうです。
当時の中国はまだ娯楽の少ない時代だったこともあり、ゲームに対する「抵抗力」のない人が多く、海賊版ゲーム機で遊べるファミコンのゲームに時間を忘れてハマる人が大人から子供までかなり出ていました。
当時私は親の仕事の関係で中国にいて現地校に留学していたのですが、学校の同級生だけでなく、その親や親の仕事関係で会うようないい歳をした方々まで、数時間どころか十数時間ぶっ続けでゲームを遊んだなどという話をよく聞き、ゲームは1日1時間世代だった身としてはかなりの衝撃を受けた記憶もあります。
この時代の中国におけるゲーム機の広まり方に関しては、中国国外とは完全に別のものになっていたようで、ソフトに関しても海賊版ルートで散発的に広まっていたことから、アニメやマンガと比べて、日本の作品として広い範囲で思い出になる、名前が強く意識される作品はなかなか出なかったようです。
特にRPG作品に関しては、言葉の問題に加えて、海賊版ソフトのROMの質やコピー技術の問題、さらには需要の減少などにより、ほとんど広まることはなかったそうで、当時の日本で人気になっていた名作RPGに関してもあまり意識されていなかったという話を聞きます。
当時のゲーム体験がある中国のオタクの方によると、やはり言葉の問題は大きかったそうで
「ファミコン時代はRPGとは縁がなかったですし、ディスクメディアの時代になっても初期の頃はゲームの日本語テキストに混じっている漢字の部分を拾って読んでなんとなく理解しようとするくらいが限界でした。当然ながらJRPGは日本語がわからないと楽しめません。あの頃にあった中国のゲーム雑誌『RPG攻略記事』は日本語がわからない中国のゲーマーへのストーリー紹介としての価値もありました」
「現在の中国で人気の高いJRPGはいくつもありますが、その中で皆の記憶に残っていて話題になるのは、主に公式で中国語版が存在するシリーズの、後のほうで出た作品です」
という話を聞いたこともあります。
この言葉の壁の問題は、基本的には中国語翻訳されて中国に広まった日本のアニメやマンガの作品と違って、日本のゲームの影響や作品の知識や思い出が断片的、局地的なものになった原因でもあるようです。
ちなみにRPGだけでなく、同時期の日本で昔の作品扱いになっていた名作に関しても、中国であまり人気にならなかった作品は少なくないそうです。たとえば「スーパーマリオ」なども当時一定の人気や知名度はあったものの、日本やほかの国のような爆発的なものではなかったらしく、中国のオタクな方からは
「中国国内における任天堂のイメージはマリオではなくピカチュウです。これに限らず中国市場において『外国のゲーム系IPは知名度が高い=人気と需要が高い』とは限りません。そういった事情を関係者が把握していなかったから失敗した企画も少なくないです」
といった話もありました。
またほかにも、中国でも大人気でコラボグッズが出た際には大ニュースになったりする「ポケモン」に関しても、中国独自のゲーム環境により生じたと思われる事情があるそうです。
現地のファンの方によると、中国本土ではゲームではなく主にアニメによってポケモンが広まったことから「ポケモンの原体験がアニメ」という人も多く、「ポケモン」のゲームとアニメの受け止め方に関して中国国内独自の部分があるそうです。
中国のオタクな方からは
「中国のポケモンファンにとってはアニメが最大の公式媒体になっているので、アニメの展開やアニメ主人公のサトシの扱いが悪いと感じて不満を爆発させるファンがたくさん出て炎上状態になることも珍しくありません。先にゲーム体験のポケモンがあるので、アニメは別物と割り切れる日本のファンとは違います」
などといった話も出てきました。
日本のファンタジー作品や、増加する異世界転生モノで把握する日本のRPGのお約束
普及したゲーム機の種類や時期、言葉の壁など中国独自の事情はあるものの、現在の中国ではいわゆるJRPGというジャンルが認識されていて人気の作品も出てはいるようですし、RPGに限らず、日本のゲームの「人気シリーズ」「日本ゲーム史における名作」の知名度はかなり高いそうです。
しかし昔の名作RPGに関する知名度は高くとも、実際にプレイして楽しんだ人は少ないらしく、日本と違って昔のRPG関連のネタで盛り上がることもあまりないのだとか。
私が以前中国のオタクな方々と、日本の作品に出てくる日本のRPGのお約束ネタやそのお約束を作った作品に関して話した際には
「中国国内ではゲーム機の普及した時期と日本語の問題から、ドラクエなどの日本の古典的名作RPGが人気になったことはありません。言ってみれば人気になる機会自体がなかったのだと思います。JRPGの基礎を作ったことのすごさや、シリーズのファンにとってはそのゲームの基礎的な部分が変わらないことに需要があるといった事情に関して、知識としてはともかく実感として把握するのはとても難しいです」
などといった話も出てきました。
そんなわけで、中国本土においては日本のゲームは広まっていたものの、比較的最近まで日本のRPGに関してはイマイチな状況が続き、日本ならば一般常識として把握されているような日本のRPG事情、定番要素についてもなかなか広まらなかったようです。
しかし、近頃の中国のオタク界隈を見ていると、ゲームからではなく日本のRPGをベースにしたファンタジー世界観の作品やVRMMOを題材にした作品などを通じて間接的に「日本のRPGの基礎知識」が定着しているのが感じられます。
特に近年の中国で「異世界系」というカテゴリで扱われている日本の異世界転移・転生系のアニメやマンガによる影響は大きいらしく、中国のオタク界隈ではいつの間にか「日本のRPGの基礎知識」が定着するとともに、「勇者と魔王」などのお約束的な要素が「日本の国民的RPGのドラクエなどを基にしたものである」といった情報も知られるようになり、それにともなって中国における日本の過去に発売された名作RPGの知名度も高まっていった模様です。
また、日本のラノベやネット小説でも定番になっているVRMMOに関しては、オンラインゲームという設定ではあるものの「中国人が実体験として慣れ親しんでいるMMOとは明らかに違う独特なゲーム世界」という認識も広まっているらしく、中国のオタクな方からは
「最近は日本のオンラインゲーム、特にVRMMOを題材にした作品は、ゲームではなく独自のファンタジーだと受け止められるようになっています。そしてそれはJRPG的な世界観やバランスになっていることが多いので、日本の二次元の異世界系作品だと判断されることも多いです」
といった話もありました。
実際、2023年に中国でも注目を集めた「シャングリラ・フロンティア」の内容に対して、中国のオタク界隈では「現実のMMOと違う」というツッコミがかなり出たそうですが、それに対して「創作の都合」などの声に混じって
「あれはJRPGなど日本の家庭用ゲームの影響も混じった世界観だから……」
といった声も出ていたそうです。
そしてそんな中国の状況で興味深いのが、比較的最近のアレンジが入った作品経由で日本のRPG的な世界観やお約束が浸透していったことにより、日本では「使い古されている」と言えるようなRPG由来の定番要素が、逆に新鮮に受け止められるケースもあるということです。
たとえば、2023年のアニメで中国においても高い人気となり熱心なファンを獲得している「葬送のフリーレン」では、「真っ当な勇者が出てくる」という部分が中国のオタク層にとっては非常に新鮮に受け止められ、作品の人気や高い評価にもつながったそうです。
中国のオタクな方からはこのあたりに関して
「最近の日本のファンタジー作品から、中国では、勇者に関して主人公あるいは主人公の味方側にいることは少ない、勇者は主人公と敵対するあるいは主人公の妨害をするような役割になることも多いというイメージが広まっていました」
「『葬送のフリーレン』に出てくる勇者ヒンメルは、中国のオタクの間に広まった作品の中ではとても珍しい、真っ当に描写されるカッコイイ勇者ということで新鮮でしたし、人気も出ました」
などといった話もありました。
比較的早い段階で日中の人気作品の違いが縮小していったアニメと違って、ゲームに関しては中国独自のゲーム環境などから、昔の思い出も現在の人気作品の傾向も日本とは異なるものになっています。そしてその中でも日本のRPGに関してはかなり独自色の強い人気作品、思い出の作品が存在するジャンルとなっています。
近年は中国語に対応している日本のRPG作品も珍しくなくなっていますし、日本のRPGの影響を受けた世界観のアニメやマンガが中国でも人気になるなど、中国でも日本のRPGの「お約束」を受け入れやすくなっているといった話も聞こえてきます。
今後の中国で日本のRPG的な世界観、お約束の目立つ作品がどのように受け入れられていくのか、日本のRPGそのものがどのように受け入れられていくのかも、中国オタク事情的にはかなり気になるところですね。
90年代から十数年中国の学校に通い「日本のアニメや漫画、オタク文化が好き」な中国人達と遭遇。以後中国にいつの間にか広まっちゃった日本のオタクコンテンツやオタク文化等に関する情報を発信するブログを運営中。
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