【劇場アニメのBESTソングは……?】出口博之×鮫島一六三(BANBANBAN)が2023年のBESTアニメソングを語りまくる!「しゃべる! アニソン」第5回Part3

毎年、数多くのアニメが発表されると同時に、各作品を盛り上げるアニメソングも続々と世に放たれている。星の数ほど生まれるアニメソングから、ミュージシャン・DJの出口博之と、芸人にしてアニソンDJの鮫島一六三(BANBANBAN)が、その年、特に印象に残ったのアニメソングを好き勝手に語り合う恒例の企画が今回もやってきました!

今回は2023年に発表された放送・配信されたTVアニメの中から、お2人が特に語りたいアニメソングを3曲ずつ。さらに劇場公開作品から1曲ずつ選んでいただき、全3回にわたってじっくりたっぷりと掘り下げていきます!

これを読めば、今聴くべきアニソンがわかる……はず!

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それでは「しゃべる!アニソン特別編 2023年BESTアニソン語り」、ラストの今回は劇場用アニメの楽曲から2024年のアニソンシーンの予測を語り合います!

「地球儀」(「君たちはどう生きるか」主題歌)/米津玄師


出口 続いて、2023年度の劇場版作品でこれは!と思ったアニメソングは「君たちはどう生きるか」の「地球儀」! 2023年は大作がいっぱいあったから、どれを選んでも今年の顔になるとは思ったんですが、やはりアニメ作品の枠組みで考えると「君たちはどう生きるか」は大きかったと思うし、作品自体の作者の原動力というか一番根っこの、作者のエゴみたいな部分が反映されたような作品でした。

鮫島 僕も見に行きましたけど、まったく意味がわからなかったです。でもずっと見てました(笑)。

出口 エゴというと誤解を生むような言葉かもしれないけど、そのすさまじさというか「俺はこれで生きるんじゃい!」っていう作者の叫びみたいなものが聞こえるなと思って、そこに対するタイトルが「君たちはどう生きるか」という逆説的なものになっていて、なかなかすごかった。そんななかなか込み入った作品の受け皿になるのが、このシンプルな曲だったと。

鮫島 音数も少ないし。

出口 でも、地球儀を回すっていうのが同じところを回るようでいて、1周回るとまた違った世界になっている……とか言ってることはすごく本質的。そういうクリエイターの業みたいな、物を作るとは、という本質的な部分がこの曲にはあるのかなと思う。面白いのが米津玄師さんの曲って変なコード進行とかフックだらけのメロとかひと筋縄ではいかない曲が多かったんだけど、この曲に関してはそういったギミックがほとんどない。めちゃくちゃシンプルで装飾がない分、メロディが浮き彫りになっている。

鮫島 確かに生々しさがありましたよね。

出口 あとちゃんとしたイヤホンとか大音量で聴くと、椅子がきしむ音が聴こえてきたりして、隣で誰かが歌っているすごい狭い世界を感じさせる。その辺も宮崎駿さんがコンテを描いてる時の椅子のきしむ音だとか、米津さんが曲を作ってる時に座っている時の音だとかいろいろと解釈されていたり。

鮫島 そこは絶対にAIには無理な音ですからね。生々しい、血の通いまくった、血の見える曲だと思いました。

出口 それを言ったらほかの曲もそうなんだけど、その中でも2023年の劇場作品で特に印象に残ったのは「君たちはどう生きるか」の「地球儀」だと思いました。

「BLUE GIANT」楽曲全般

鮫島 劇場版「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」主題歌の「美しい鰭(ひれ)」は美しかったし、「グリッドマンユニバース」の「uni-verse」もすごい好きでしたし、去年の年末から始まった映画がロングランすぎて今年までかかった「THE FIRST SLAM DUNK」の「第ゼロ感」もよかったんですけど、ひとつ選ぶなら「BLUE GIANT」! これは主題歌ではなく、映画で演奏されていた曲全般がすごく肉体的でよかったなと感じました。演奏シーンはモーションキャプチャーを使って描かれているんですけど、なんというかそのシーンが雑なアニメーションにも見えたりするんですよ、構図というか、ちょっと絵がゆがんでいるというか整っていない。でも、それすらも生々しくて、決してこれは雑に作ってるんじゃなくて、きっと狙ってこうしてるんだろうなっていう、整ってなさが好きでした。

制作者のインタビューも見たんですが、「BLUE GIANT」ってもともと漫画で、きっと読者の頭の中にはベストな演奏が聞こえているはず。映像化した時、制作者はそこと戦っていかないといけないじゃないですか。やっぱりまず読者、観客に喜んでもらえる演奏シーンを作らないといけないのと同時に、ジャズの有識者にも喜んでもらう演奏シーンを作らないといけない。プロとアマを両方満足させる完成度を狙っていたようで、そういう意味では戦ってましたね。

お笑いの世界でも、「霜降り明星」がM-1チャンピオンをとった時のネタが、すごくポップな漫才だったんです。その時に立川志らく師匠は「君たちは大衆にはめちゃくちゃ受けるだろうから、これからはうるさ方と戦わないといけないよ」って言ったんです。うるさ方っていうのは「プロ」ってことで、プロの目線と戦わないといけないよっていうこと。でも霜降り明星は現在、そこと戦って勝ってるので、やっぱりプロとアマチュア両方を満足させるエンターテイナーはいいものなんだと思います。そういうところで「BLUE GIANT」には、“霜降り明星”みを感じました(笑)。

アニメとしても、挫折とかも感じさせてくれるいい音楽アニメでしたね。もともと演奏がうまかったキャラクターが「俺、うまいだけ」って気づくシーンとかも生々しくてよかったです。プロとしてやっていると、「下手なほうがいいの?」って時があるじゃないですか。

出口 そこが褒められない、評価されない時の気持ちだよね。でもそれっていろんなところに通じるものの見方かもしれない。

鮫島 辛いシーンでもあるしわかる気がする。もう1回、2回とみたい映画ですね。すばらしい迫力の映像をいっぱい作っていただき、制作の皆様にはありがとうございますと御礼を言いたいくらいです。…私はどの立場の人間なんでしょうか(笑)。

2024年はアニソンシンガーの逆襲に期待!

出口 なごり惜しいですけど、いよいよ今回の対談もクライマックスです。じゃあ2024年はどうなっていくんでしょうか。2023年を総括しつつ2024年はこうなるんじゃなかろうかというところなんですが、やっぱりいろいろ話してきた中で言うと大きなテーマは「人間っぽさ」「生々しさ」みたいなところだと思います。

鮫島 やっぱり10FEETの「第ゼロ感」とか、「グリッドマン ユニバース」「【推しの子】」のかけ声とか「ソングオブザデッド」の一体感とか、みんな「体で感じたい」「ひとつになりたい」という気持ちがどんどん高まっていると思います。コロナ禍では配信中心に楽しんでいた感じもありましたけど、今はひとつになれるんだからなっちゃおうよという流れが感じられます。

出口 そこが2024年の予想じゃないけど、こういう風になったら面白いなと個人的に思うのが、いろんな物事が体験型になってくるのかなということ。そのいっぽうで、きちんと考えないといけないよねと言うのが、2023年を大きく象徴する曲として「アイドル」があったわけで、4億ストリーミング再生というべらぼうな数を叩き出してるんだけど、そこにきちんと対価が払われているのかということ。もしかすると聴かれているだけかもしれない。買った人、そこにきちんとお金を払った人は、実数としてどれだけいるのかは考えていかないといけない。エンタメが今、ほぼ無料で観られる状況であるから、広く世の中に認知されるというところと、ライブをやったりCDをリリースした時にきちんとお金を払ってもらえるのかというのは、もう少し切り離して考えないといけないと思います。30万フォロワーいます! ワンマンライブやります、来てください!ってふたを開けたら20人とか、すごく極端な例ですけどあるじゃないですか。

鮫島 あります! それうちの相方!(笑) Tiktokフォロー10万人ですけどファンいませんから! BANBANBANにもファンはいませんから!

出口 ファンはいますよ(笑)。親御さんも家族もいるじゃないですか!

鮫島 まあ、インフルエンサーと言われる人たちが、どれだけ効果があるのかわからないですよね(笑)。

出口 自分の部屋やスマホの中にある世界から一歩外に飛び出して、イベントやフェスの会場などでしか体験できないものを、もう少し気軽に楽しめるような。ユーザーをそこに誘導するようなことを、作る側はもう少し考えないとなと思う。そのヒントみたいなものは、今すごく増えている映画のリバイバル上映にあると思っていて、結局配信じゃなくて映画館で観ようというのも体験型の世の中になってきていることなんじゃないかな。エンタメにお金を使う余裕が生まれづらい昨今の情勢もありますが、そういったところが2024年以降のテーマになるのかな。

鮫島 私はアニソンシンガーさんの逆襲に期待したい。やっぱりここまでアニソンを盛り上げてきたのはアニソンシンガーさんだと思うので。昨年驚いたのが、亜咲花さんが2023年タイアップが1曲もなかったって話です。意外でした。でも彼女自身は精力的に活動されていて、昨年はアニサマには出演してないんですが、アニサマ初日に埼玉県のライブハウスをおさえて昼間にワンマンライブをやって、「私のライブの後にアニサマにいってください」って誘導していたんです。ほかにもAichiアニソンフェスというのが開催される予定だったんですが、1週間前に中止が発表された時、出演予定だった愛知県出身の亜咲花さんは「愛知県のどこかでライブを緊急開催するかも! ただ今から会場探すので、見つけられたらですが…愛知県をどうしてもアニソンで盛り上げたい。今回遠征する予定だった方もいると思うので。楽しい愛知の思い出で帰ってほしいの!この想いがたくさんの人に届いてほしい。」


とXに投稿して、すぐに会場を見つけてチケットを即完売させてました。
ほかにも競馬がお好きで、競馬のイベントとか番組にもいっぱい出てるんですが、ちゃんとアニソンシンガーとして出てるんです。アニソンシンガーでタイアップがなくても、こういう活動ができるんだっていうことをすごくアグレッシブに動いて教えてくれた方で、我々もこういう活動をするべきだよなって思いましたね。全然へこたれてない。タイアップがあろうがなかろうが、私はアニソンを歌ってきた人間だからこれからもどんな場所でもアニソンを歌いますよという気概が見えました。アニソンシンガー業界は亜咲花さん中心かはわからないのですが、彼女のような純粋なアニソンシンガーさんには期待したいですね。ほかにもオーイシマサヨシさんや鈴木このみさんがいらっしゃると思うのですが、YOASOBIさんのようなJ-POPから来た方たちと戦うというか、共存共栄できたらいいですよね。

出口 切磋琢磨というかね。

鮫島 がんばってほしいし、(自分もDJとして)かけていきたいと思います。アニソンシンガーさんの活動を微力ですが応援していきたいと思います。……誰なんでしょう、私(笑)。

出口 感動しながら聞いてるんですが、どの立場の方なんでしょう(笑)。でも本当にそうだと思います。ここまですそ野が広がって、メインのカルチャーになったということは。アニソンシンガーに憧れる人たちを、どんどん次の世代に増やさないと。

鮫島 そうですね。だから大石さんがポルシェに乗っていることを公言しているのってめちゃめちゃいいと思います。

出口 そこに今の時代ならではの憧れ方や魅力の伝え方みたいなところを発信していただいて、活躍していただけたらと思います!

出口博之

出口博之

ロックバンド・モノブライトのベーシストとして、2007年7月メジャーデビュー。ベーシストとして多数のアーティストのライブ・レコーディングに参加するほか、作編曲、DJ、ライター、番組MCなど媒体を選ばず幅広く活動中。

鮫島一六三

鮫島一六三

お笑いコンビBAN BAN BANの「フリーザじゃない方」。2010年、アニソンDJイベント「アニソンディスコ」をコンビで立ち上げ国内外、会場の大小問わずさまざまな場所でアニソンを鳴らす。吉本興業所属。



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