【本日発売】シミュレーションRPG「BAR ステラアビス」レビュー!お酒×RPGという異色の組み合わせを世界観とシステムで巧みにつないだ意欲作

2024年2月29日、PS5/PS4/Switch向けシミュレーションRPG「BAR ステラアビス」(以下、ステラアビス)が発売される。今回は本作をひと足早く遊ぶ機会を得たので、そのレビューをお届けしよう。世界観やあらすじを始め、お酒を交えて人と話すシステムや、「ヨイの世界」を探索するRPGパートなどを解説していく。

奪われた顔と腕を取り戻すべく、主人公は「ヨイの世界」でデッドシェイカーを探す



風に舞うチラシをたまたま拾い、導かれるままにステラアビスというバーにたどり着いた主人公は、マスターから勧められるままにカクテルを飲む。やがて酔いつぶれて眠っていた彼が目を覚ますと、そこは「ヨイの世界」という謎の世界だった。


いつの間にか顔と腕を奪われていた主人公のサマヨイは、ヨイの世界で出会った、神のしもべを名乗る不思議な生物・ティプシィと協力することに。主人公は自分の顔と腕を奪った犯人を追いかけるため、ティプシィは自分の世界を脅かす者を倒すため、2人はデッドシェイカーという存在を追い、ヨイの世界に点在する「醒界(せかい)」をまたぐ冒険に出る。というのが本作のあらすじだ。




理由は不明だが、ヨイの世界に入って以降の主人公はバーに閉じ込められており、店の外には出られない。そのため、基本的にはバーで過ごしつつ、お酒を飲んで眠りにつき、目覚めた先にあるヨイの世界で探索を行う。つまり本作では、プレイヤーはバーとヨイの世界を行き来することになる。


バーでは常連客たちとお酒を交えながら会話を行い、ヨイの世界では自然豊かなフィールドを散策し、敵と戦ったりアイテムを集めたりするという具合だ。その流れをくり返し、デッドシェイカーを追いかける中で、ヨイの世界やそこで起こった事件などの謎を暴いていく。詳しいことは後述するが、一見するとあまり関係のなさそうなこの2つは、世界観やストーリーだけでなく、システム面でも密接に関わっている。



さらに、バーとヨイの世界ではストーリーの雰囲気もまるで違う。バーは、心地よいピアノが流れる、まさに大人の空間といった趣で、ストーリーもまた客との会話を中心に静かに進んでいく。だが主人公はバーに軟禁されているし、さらに物語が進んでいくと店内で不穏な現象が起こるようにもなるなど、バー側のストーリーはミステリーやサスペンス、あるいはホラーを思わせる雰囲気に満ちている。



いっぽうヨイの世界は、豊かな自然が広がり、バーとは対照的にとても華やいだ印象である。神のしもべを名乗るティプシィを筆頭に、フィールドに出てくる敵もスライムや巨像といったように、なにかとファンタジーめいている。デッドシェイカーという謎多き敵を追いかけて世界を巡るという展開は、RPGでは王道的な展開だ。




ヨイの世界に行けるのは、バーのステラアビスでお酒を飲み、酔っ払って眠った者のみという条件がある。つまり2つの世界は密接に関わっており、ストーリーの進展に応じて双方のつながりが徐々に見えてくる。序盤から伏線らしき描写が散りばめられているのも求心力となって、プレイ中は先の展開がしきりに気になった。



バーでは相手に合わせて適切に相槌を打ち、会話を盛り上げる



ステラアビスには、大学生や配信者など、さまざまな経歴の常連客が訪れる。話したい相手を選んだ後、お酒を頼むと会話に進む。会話で重要なのが「相槌」で、時おり相手からふられる質問に対し、「肯」、「否」、「笑」、「疑」のいずれかで返す。すると、会話中の画面下にある印象値が変動。ウケがいいと右に向かってひし形のアイコンが増え、印象が悪くなると逆に減る。


画面上にあるアイコンは会話の段階を示しており、その数だけ質問される。なお、会話に入る前に「乾杯」すると、それで枠をひとつ使う。なので、質問の回数は実質アイコンの数-1と考えていいだろう。乾杯は会話前のお約束みたいなもので、相手の印象を良くするための基本でもある。特に意図がなければ乾杯はしたほうがいいというのが個人的な印象だ。



会話中はひとつのお酒を最大3回まで飲めるが、連続で飲むと眠気が蓄積していき、一定の値に達するとその場で眠ってしまい、強制的にヨイの世界に行ってしまう。質問に相槌を打つと眠気は少し下がるので、会話を最後まで続けるなら飲酒と相槌を交互にこなしていくのがコツだ。うまく会話を終えると、互いにお酒を追加で頼み、さらに会話を続行することもできる。




お酒を交えて誰かと相席すると、具体的に2つのメリットが得られる。ひとつは飲酒による自身の強化。会話の前に頼めるお酒の種類により、カクテルなら毒無効、地形無効、いつでも逃走可能など、さまざまな効果を得られる。なお、頼めるお酒の種類はお金を使って増やすことが可能だ。


2つ目は「キズナ」で、これのレベルが上がると主人公や話し相手のステータスが強化されたりする。つまり相席しながらお酒を飲むと、ヨイの世界の冒険に役立つ強化が得られるわけだ。ヨイの世界ではステラアビスの常連客が仲間として出現する場合もあるため、相席した人の強化にもしっかり意味がある。



会話を盛り上げて相手の印象をよくしつつ、自分は眠らないよう適度にお酒を飲む。こう書くと難しそうに思えるが、実際にやってみるとそうでもない。特に物語序盤の会話では、まずは乾杯、以降の質問には基本的に「肯」や「笑」で答えればよく、飲酒は相槌が終わった後にすればいい。質問されている最中に飲むと、無視・沈黙ととらえられてしまい、相手の印象値が下がることもあるため、質問中以外での飲酒を心がけよう。


バーでオトナな時間を楽しめるだけでなく、ヨイの世界で役立つ強化も得られるという、無駄のないシステムは本作ならではの魅力だ。会話を重ねるにつれて相手に対する思い入れも強くなってくるうえ、ステラアビスという謎の多いバーに関する情報も明らかになってくるため、ストーリーの解明にも役立つ。なにかと有意義なシステムだ。ちなみに、酔い潰れるかどうかはその会話中のみの話。客がいる限り相席は何度でもできるので、そこは安心していい。


ヨイの世界ではターン制が軸のシミュレーションRPGに



会話中に酔い潰れるか、飲酒後にカウンター席について「眠る」を選ぶと、ヨイの世界に行ける。ヨイの世界自体は複数の醒界で構成されており、その醒界は階層ごとに複数のマップが連なるダンジョン。その構造は入るたびに変化する。


パーティーは主人公を含めた3人、つまり2人まで仲間を加えることができる。バーの常連客のうち誰が仲間になるのか、そもそも今回の挑戦で2人も仲間にできるのかという問題もある。先の展開がまったく読めず、つねに緊張感が漂っているのも特徴だろう。


マップのつながり方はもちろん、出現する敵やアイテムも毎回変化する。各階層を進む中で、敵と戦ってレベルを上げたり、道中で草を刈り、お金やアイテムを見つけたりして自身やパーティーを強化しながら、最深部で待つボスと戦い勝利する。これがヨイの世界の基本的な攻略パターンだ。クリアした場合は、所持金、着けている装備品、持っているアイテムをすべて持ち帰れるが、敵に倒されて帰還すると、アイテムだけはすべて失われてしまう。

また、いずれにせよ、それまで経験値を貯めてあげたレベルと、後述の「ステラ」もリセットされる。



攻略において特に重要なのはバトルだ。

フィールドにいる敵に触れるとバトルに突入。バトルはターン制となっており、味方側と敵側が交互に動く。フィールドはマス目で区切られており、移動や攻撃の範囲もすべてマスが基準になっている。

攻撃技はステラと呼ばれ、前方、周囲、数マス先の遠距離を攻撃する基本的なステラのほかに、追加で効果を付与できるタイプのステラが用意されている。



基本となるステラに対し、追加効果を付与できるタイプのステラを最大3つまでセットできる。1、2、3のスロットにセットしたステラは順番通りに発動していく。

ここが本作のバトルの核と言ってもいい要素だ。このステラをセットする順番によって、攻撃方法や効果はさまざまに分岐していく。



たとえば、特定の地形に乗っている敵に対して威力が上がるタイプと、攻撃範囲に電撃を発生させるタイプのステラがあるとする。前者を1、後者を2のスロットに装備して使った場合、双方の強みは生かせない。1が発動した時点で、敵のいるマスにはなにも地形効果が出ていないからだ。したがって2のステラも意味がない。2ターン目以降なら、2のステラによって生じた電撃の地形があるので、1のステラも一応は使えるが、ターン制の本作でターンを無駄にまたぐのは効率が悪い。


2つのステラを逆にセットすると、今度は最初のステラで電撃が発生するので、2の威力を上げる条件を満たすことができる。わざわざターンを待たずとも、1ターンで、しかも自分ひとりでコンボが成立する。これでターンを無駄遣いせず、効率的に敵にダメージを与えられるわけだ。



とはいえ、基本となるステラに付与する追加のステラが増えたり、そのステラ自体が強いほど、ステラの発動に必要なMPも上昇するのが悩ましいところ。やみくもに強いステラを付けたところで、そもそもMPがなければ話にならない。さらに、ヨイの世界では手に入るステラもランダムなので、上記のようなコンボが毎回成立するとは限らない。挑むたびに中身を確認し、臨機応変に効果的な組み合わせを見つける必要がある。


考えることが多く、最初は上記のバランスを取るのがとても難しい。だが、自分でコンボを生み出したり、未知のステラに対する扱い方などに慣れてくると、手持ちのステラで最善の戦いができるよう頭を悩ませる行為自体が楽しくなってくる。

各階層を進むためのルートには、いくつか種類がある

先がわからぬ緊張感と試行錯誤を楽しむリプレイ性が売り



前述の通り、ヨイの世界ではあらゆる要素がランダムに起こるので、各醒界を攻略するには運もからんでくる。

熟知したステラが多く出て、序盤から強力なコンボを使えることもあれば、いくら草を刈っても回復系のアイテムが出ず、ろくに戦闘もできず不意のバトルで全滅することもある。特に各醒界で待ち受けるボスは、どのような攻撃をしてくるかは挑んでみるまではわからないため、一度死んで覚えるのが前提と言ってもいい。ツいていないときは無理にクリアしようとせず、練習と割り切って新しいコンボや戦い方を試してみるのもオススメだ。


だが、強力な効果を持つお酒をバーで飲んで自分を強化してから探索に行く、フィールド上にいる敵を先制攻撃して有利な状況でバトルを始める、レベルはパーティーで共通なので、敵はなるべく倒して味方全員を強化するなど、大小さまざまなテクニックを覚え実践していくと、最初は自分を振り回していた運の要素が徐々に後退していき、やがてテクニックで対処できる場面が増えてくる。



さらに、ボスを倒そうが道半ばでやられようが、所持金と着けている装備だけは持ち越せるのもポイント。

持ち帰ったお金を使って新しいカクテルを解放し、より強力な効果を得てもいいし、そのカクテルを飲みながらキズナのレベルを上げ、相席した相手をヨイの世界で仲間にしてともに戦うという選択肢もある。くり返し挑んで、より強い装備品を見つけていけば、以降のヨイの世界で序盤を有利に進められるだろう。



同じ展開には二度とならないというルールのもと、探索の基本を知ったり、敵に対する有効な位置取りや戦法を考えたりするため、パターン化がしにくい「ステラアビス」では、途中でやられるのが当たり前。試行錯誤が前提と言っていい。

しかし、上記のように死んでも持ち越せる要素はあるし、醒界を突破していくうちに、持ってきたアイテムを保存しておく箱が解放され、できることも増えてくる。それなりに難易度の高いゲームではあるが、くり返し挑めば少しずつ道が開けるようになっているため、諦めない心意気がなにより重要だ。


飲まないとたどり着けない異世界という設定や、飲んで話して自分や仲間を強化するというシステムなどにより、「ステラアビス」は、お酒とシミュレーションRPGという突拍子もない組み合わせをしっかりつなぎ合わせている。

不穏だが先の気になるストーリーがプレイヤーのモチベーションにもつながり、難しくランダム要素の多いRPGパートに対する意欲も湧いてくる。やり応えのあるゲームを求めている人はもちろん、会話を楽しむタイプのアドベンチャーゲームが好きな人にもオススメの1作と言える。

  • 【タイトル情報】
  • ■「BAR ステラアビス」
  • ジャンル;シミュレーションRPG
  • 対応機種:PS5/PS4/Switch
  • プレイ人数:1人
  • 発売日:2024/2/29
  • 価格:7,920円(税込)
  • メーカー:日本一ソフトウェア

©2024 Nippon Ichi Software, Inc.

夏無内好

夏無内好

活動歴約10年のフリーライター。専門学校を出た後、大手のゲーム雑誌の記事作成や編集プロダクションの攻略本作成などを経験。週刊誌での長期連載やプレスリリースのリライトも経て、最近はアキバ総研などのウェブ系でも執筆を始める。 基本的に雑食で、RPGからアクション、シミュレーションやFPSまでなんでもやる。

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