今年で10周年!2014年冬アニメ「妖怪ウォッチ」「鬼灯の冷徹」「スペース☆ダンディ」をプレイバック!【アニメ10年ひと昔】

「十年ひと昔」と申しますが、アニメの世界で10年前は大昔のように感じることもあれば、今でもバリバリ現役のシリーズ作品がすでに放送されていたりという、微妙かつちょうどいい間合いの時間です。

今回はそんな10年前──2014年の冬クール、TVアニメの世界でどんな作品が放送されていたのかを見ていきたいと思います。

妖怪ウォッチ


社会現象を巻き起こしたメディアミックス作品、そのアニメ版は2014年冬クールにスタートしました。主人公のケータは平凡な小学生ですが、ひょんなことから妖怪ウォッチを手に入れて妖怪が見えるように。ケータと仲間たちは、妖怪たちが巻き起こす不思議な事件に関わり、妖怪を「ともだち」にしていくのです。

「妖怪ウォッチ」自体はゲームを始点に、アニメや漫画、玩具「妖怪メダル」をはじめとしたグッズ販売など、さまざまな展開を見せましたが、社会現象としての盛り上がりとなるうえで、大きな原動力となったのがアニメ版と「妖怪メダル」です。2014年1月8日にアニメ版がスタートし、1月11日に玩具「妖怪メダル」が展開を開始すると、6か月前に発売されたゲームの売上が上がり始めるという現象が発生。その後、2014年の5月には発売初週を越える売上本数を叩き出すことまでに至りました。ゲームソフトの売上は発売直後がピークであるのが普通ですから、いかにアニメ版と妖怪メダルが大きな影響を及ぼしたかがわかります。

子どもたちの中に未知なる存在が入り交じり、ちょっと不思議な日常生活が描かれる……という図式は古くから受け継がれている児童アニメの王道です。「妖怪ウォッチ」アニメ版における特徴は、現代的なキャラクター造形に加え、大人を巻き込む構造が意図的に作られていることにあります。たとえば、ケータのコンプレックスは「普通であること」ですし、「ともだち」のひとりである妖怪執事・ウィスパーは、タブレット端末でWikipedia的なページを検索しての「知ったかぶり」が得意技、ネコ妖怪のジバニャンは怠け者かつアイドルに入れあげる……といった具合。現代的かつ、広い年齢層から共感を呼ぶキャラクター造形がされているわけです。そして「日常における不運な出来事は妖怪が起こしている」という設定は、世代を問わず心の救いになります。不運に見舞われた時「これも妖怪のせいなのね」と気持ちが楽になった人も少なくないのではないでしょうか。

また、アニメ版には親世代にしかわからないパロディも散りばめられており、親世代も子供と一緒に笑いながら見られるようになっています。こうしたコンセプトが色濃く現れているのがアニメ第1話。作品のカラーを視聴者に印象づけるために重要なこの話で、普通の少年であるケータは、両親の夫婦げんかを起こす妖怪に遭遇し、ジバニャンは「僕は死にましぇん!」と1991年放送のドラマ「101回目のプロポーズ」で流行った台詞を叫ぶのです。

そして「妖怪ウォッチ」は社会現象を起こしました。アニメ版は全214話というロングランとなり、妖怪メダルは各地で品切れが続出。前述したようにゲームも好調な売り上げを記録し、「妖怪ウォッチ」というIP自体は2024年現在も継続的な展開が行われています。

鬼灯の冷徹

江口夏実氏による同名コミックがアニメ化した作品で、舞台はなんと地獄です。本作の地獄は、罪人たちを苦しめる場所であると同時に、人間臭い鬼たちが獄卒を務める職場。主人公の鬼神・鬼灯(ほおづき)の周囲には、頼りない上司の閻魔大王や、安定を求めて獄卒に就職した茄子、女好きの白澤(はくたく)、昔話「かちかち山」の兔であり怒ると怖い芥子(からし)、常識人の桃太郎や彼との雇用形態について考えるキジ、ゴシップ記者の猫又・小判、アイドルだがキャラが迷走気味のマキなど、現代的かつ人間味に溢れたキャラクターたちが集い、さまざまな事件が起こります。

日本人にとって身近な概念である地獄に対し、現代的な解釈を加えて親しみやすい場所にしたのが、本作の人気の秘密。地獄は人手と予算の不足にあえぎ、TVやラジオがあってアイドルがいて、マンガやアニメ、インディーズバンドなどのサブカルがあり、職業としての獄卒をやる鬼たちはこうした娯楽に息抜きを求める……と、現代日本と相似の構造になっており、ちょっとサラリーマンもの的なテイストがあります。

同時に、古来より伝わる正しい地獄の知識が盛り込まれているのも見どころ。「果樹園を焼いた者はサトウキビで叩かれる」など、数多ある地獄に落とされる罪や罰が解説されます。つまり、ウンチクものとしての面白さも持っているのです。

本作のヒットを受けて非公式の謎本が多数発行されたのに加え、「昔からある事物に現代的なキャラクターを登場させる」という、本作と同じテイストの作品が多数発表されました。「鬼灯の冷徹」は、日本のエンタメ業界に新たなフォーマットを作り出したとも言えるでしょう。

原作は現代日本のサブカルネタが多いのも特徴でしたが、アニメ版ではこうしたノリがさらにパワーアップ。大きな樹が出てくるCMや、(原作で桃太郎のお供たちが歌ったのを踏まえてか)某国民的昔話のエンディングに似た曲などが作品を彩っています。連載前に発表された、本作の原型となる読み切りコミック「地獄の沙汰とあれやこれ」も正史として組み込むリスペクト精神や、怪奇ものとしての側面を踏まえ、原作でも言及があった稲川淳二氏をナレーションに起用する心配りも話題となりました。

なお、鬼灯役の安元洋貴氏は本作が初主演。低い声で訥々(とつとつ)としゃべるさまがイメージ通りで、原作ファンも納得のキャスティングでした。

スペース☆ダンディ


今もなおコアなファンを持つコメディアニメが「スペース☆ダンディ」です。新種の宇宙人を探す宇宙人ハンターであるダンディは、旧型掃除機ロボットのQT、小生意気な宇宙人のミャウとともに、一攫千金を狙って宇宙を駆け巡ります。そこで3人は毎回ろくでもない事件に巻き込まれるのです。

頭がよくてカッコイイ主人公が華麗に活躍するアニメ界において、お馬鹿な宇宙人ハンターとポンコツロボットとボンクラ宇宙人がツルんで大騒ぎする本作は、ほかにない個性を発揮して視聴者を惹きつけます。そもそも、主人公のダンディからして、セクシーなウェイトレスが売り物のレストランに入れあげるばかりか、本業の宇宙人ハンター業も鳴かず飛ばずでいつも貧乏というろくでなし。相棒のQTは忠実どころかダンディを見捨てることもありますし、ミャウの部屋は通販の買い物とフィギュアでゴミためのようになっているという有様で、実にどうしようもない面々です。しかし、そこには人情と人間臭さがあり、視聴を続けていくとそのどうしようもなさにこそハマっていきます。

そうしたエッセンスが詰まっているのが、ファン投票とスタッフセレクションでともに選ばれた2話「幻の宇宙ラーメンを探すじゃんよ」と、20話「ロックンロール★ダンディじゃんよ」の2本です。

前者でダンディは、宇宙の果てで孤独にラーメン屋を営む宇宙人に「一緒に来るか」と手をさしのべます。そして後者では、バンドを組んだダンディと謎のイケメン、ジョニーが練習もせずに夢を語り続けるのです。作画が取りざたされるご時世に毎回絵柄が変わるうえ、伏線回収が重視される中で投げっぱなしの話も少なくありません。

そんな計算されたフリーダムさを備えた本作を手がける中核スタッフは、プロデューサーの南雅彦氏、総監督の渡辺信一郎氏、脚本の佐藤大氏と信本敬子氏。実はこの面々、「カウボーイビバップ」を手がけたメインスタッフでもあり、一見両作品は正反対のようでありつつも、隠れた共通点がポツリポツリと見つかります。

そんな「スペース☆ダンディ」は2014年に2シーズン展開した後、今年2024年には再放送が行われており、新たな展開に期待したいところです。


(文/箭本進一)

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