中国独自の「日本の作品のエルフ」のイメージと元気が無いまま終わりそうな中国の2024冬アニメ事情【中国オタクのアニメ事情】
- 「ロードス島戦記-英雄騎士伝-」を配信で観る
中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
今回は中国の動画サイトで配信されている日本の2024冬アニメの動向や、中国におけるエルフのイメージに影響を与えた日本の作品や、中国独自の「日本の作品に出てくるエルフ」のイメージなどについて紹介させていただきます。
元気がないまま終わりそうな2024冬アニメ
前回の記事にも書いたとおり、2024冬アニメの配信される時期は、中国の学期末や春節(旧正月)の長期休暇が重なることから、新作アニメ関連の話題も盛り上がりにくい傾向があります。今年はそこに中国国内の規制や景気の冷え込みなども加わり、例年と比べて元気のない状況になっていました。
その状況は、春節の長期休暇が終わって中国国内が動き出した後もあまり変わらないようで、春節後に配信が始まった新作アニメはいくつかあるものの、全般的に盛り上がらない状態が続いているようです。
そんな中で比較的人気と評価が高い作品としては、「ダンジョン飯」や、10月のシーズンにやや遅れて配信が始まり現在2クール目に突入している「葬送のフリーレン」などがあるそうです。また「ダンジョン飯」に関しては中国のオタクな方から
「ダンジョン飯は原作ファンがしっかりしているので濃い討論が行われています。原作マンガを買っているファンも多く、発売時期については未定ですが、国内向けの簡体字中国語版の原作最終巻までの出版に関する情報が出ているなど、作品に対する安心感があります」
といった話もありました。
またほかにも、日本での放映開始から遅れてはいるものの「マッシュル-MASHLE-」の第2期や「青の祓魔師島根啓明結社篇」など、過去に中国で人気になった作品の続編の配信も始まっているそうです。
近頃の新作アニメの配信状況に関して、中国のオタクな方々からは
「数年前は2024冬シーズンでも20~30作品程度の新作アニメが配信されていたことを考えると、寂しさを感じてしまいます。現在の中国では、規制の動向や炎上のリスクが予想しがたいうえに、被害も大きなものになりがちで、企業レベルでは守りに入り自主規制を強化していくなどの方針になるのは避けられません。昔の中国でよくあった『何でもいいから話題になって注目を集めれば勝ち、問題が起こったら、怒られたらやめればいい』というやり方はもう危なくてできません」
「現在の環境では、中国のネットの難しさが強く意識されるようになっています。映画や書籍のような旧来のメディアのほうが、関係者の経験が豊富で判断材料にできる過去の事例も多いので、スピードは遅くても安定しており、扱いやすいといった空気も出ているくらいです」
などといった話も聞こえてきます。
現在の中国では、よくも悪くも審査検閲のシステムが構築され、データや経験が蓄積されている映画や書籍などの旧来のメディアのほうが安定しているように見えてしまうのは、ちょっとした皮肉にも感じられますね。
中国で独自に形成されていく、日本の作品に出てくるエルフのイメージと、影響を与えたと思われる作品やキャラ
中国でも、エルフをはじめとするいわゆるファンタジー系の種族はオタク関連の娯楽分野におけるある種の基礎知識になっているようです。またこれに関しては、日本作品の影響もかなりあるそうで、欧米系の作品とは別に「日本の作品に出てくる」ファンタジー系の種族に関しても、中国独自のイメージが蓄積されています。
特にエルフに関しては、「葬送のフリーレン」や「ダンジョン飯」といった近頃の中国でも人気になっているアニメ作品でエルフのキャラが目立つことから、改めて「日本の作品に出てくるエルフ」の定番設定やイメージに関する議論が巻き起こったりもしているのだとか。
中国のオタクな方々から教えていただいた話によると、中国におけるエルフのイメージに対する影響として大きいのは、やはり「ロードス島戦記」のディードリットだそうで、中国にオタク層が形成されはじめた2000年代半ばよりかなり前の1990年代ごろから、OVAや翻訳小説を通じて、エルフだけでなくいわゆる和製ファンタジーの知識とイメージを中国の若者に植え付けていったそうです。
このあたりに関して、中国のオタクな方からは
「『ロードス島戦記』は、見方によっては中国におけるファンタジーの原典のひとつと言えます。もちろ『ロード・オブ・ザ・リング』などからの影響も大きいですが、中国で『指輪物語』関連の要素が本格的に意識されるようになったのは実写作品の『ロード・オブ・ザ・リング』からなので、目立った影響が出たのは『ロードス島戦記』よりも後だったと思います」
といった話もありました。
また、その次に中国に入ったエルフ関連で影響の大きい日本の作品とキャラクターとしては「ゼロの使い魔」のティファニアがいるそうです。「ゼロの使い魔」は、現在の中国の娯楽コンテンツにおける一大ジャンルであるネット小説に対して大きな影響を与えており、「穿越」と言われる異世界転移的なジャンルの確立の元になった作品のひとつだとも言われています。
ちなみに、この頃から「日本のファンタジー作品に出てくるエルフ」のイメージが日本とズレはじめたという説もあるそうです。以前、中国のオタクな方々と話した際には
「中国に入ってきた『ゼロの使い魔』などの日本のラノベ作品や、それを原作としたアニメやマンガ作品に出てくるエルフのヒロインは、イラストなどのサービスシーンが豊富でお色気要素も備えていました。また豊満に感じられる体系に描かれているエルフキャラも多く、日本の作品のエルフに関しては『胸が大きくセクシーな種族』という印象も強くなっていったように思います」
などといった意見も出てきました。
それ以外にも現在の中国では「日本の作品のエルフは菜食主義者」というイメージがあるそうですし、少し変わったところでは、「日本の男性エルフは悪役キャラ、主人公の味方側ではないキャラ」といったイメージもあるそうです。
これについては中国のオタクな方の話によると
「中国に広まった日本の作品には男性のエルフで印象に残るキャラがあまりいないので、日本の作品の男性エルフに関しては『ソードアート・オンライン』のオベイロンなど、人気作品に出てくる外見がエルフ的な悪役キャラのイメージと重なっていったようです」
とのことでした。
「ソードアート・オンライン」の作中の設定では、オベイロンはゲームのアバターで耳が長い妖精種族なので、日本ではエルフ扱いされることはほぼないと思われますが、中国では大雑把にエルフのカテゴリーとして扱われてしまうこともあるのだとか。
この「耳が長ければエルフ扱い」な傾向に関しては、現在の中国における「エルフ」の訳語から来る混乱も影響しているようで、中国のオタクな方からは
「『エルフ』に関して中国語では、昔から『精霊』や『小妖精』など翻訳が一定しないところがあるので、種族の区別も混乱しがちです。中国では設定にこだわりのある人やファンタジー世界観に詳しい人でなければ、ハッキリと種族の設定が出ていない、ファンタジー作品に出てくる耳がとがっていて人間サイズのキャラはだいたいエルフという認識になっているかもしれません」
「『ロード・オブ・ザ・リング』のエルフが中国語で『精霊』と訳されていることもあってか、現在は日本の作品のエルフも『精霊』と訳されることが多くなっているようです。しかし日本のファンタジー作品で使われる外来語混じりの用語、たとえば『精霊』や『フェアリー』や『エレメンタル』などの翻訳に関する混乱は残っています」
などといった話もありました。
日本のオタクと比べて中国のオタクにはよくも悪くも用語や概念の「正しい定義と使い方」にこだわる傾向があるそうですが、ファンタジー系のジャンルでは「正しいエルフ像」などに関する議論も定期的に発生しているようです。
しかしエルフに関しては、中国国産のファンタジー要素がある作品に加えて「ロード・オブ・ザ・リング」や日本の「ロードス島戦記」など、古典扱いのファンタジー作品、さらに近年の日本のファンタジー系作品や近頃中国国内における知名度が上がり知識も広まっている「ダンジョンズ&ドラゴンズ」や欧米のファンタジー系作品等々、参照する作品も多岐にわたり議論は尽きないとのことです。
またそういったさまざまな要素が蓄積された結果、中国のオタク界隈では「エルフ」というファンタジー種族の定義に関して独自のイメージやある種のこだわりが生まれているそうですし、今後も中国独自の「エルフ」や「日本の作品に出てくるエルフ」のイメージが形成されていくのかもしれませんね。
90年代から十数年中国の学校に通い「日本のアニメや漫画、オタク文化が好き」な中国人達と遭遇。以後中国にいつの間にか広まっちゃった日本のオタクコンテンツやオタク文化等に関する情報を発信するブログを運営中。
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