アニメ大成功ルートはもう難しい? 中国の4月新作アニメ事情と「原作どおり」にとてもこだわる中国のオタク事情
中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
今回は中国の動画サイトで配信されている日本の4月新作アニメ動向や、中国のオタクの間に広まった「魔改造」という言葉やアニメ化の際の原作重視の姿勢などについて紹介させていただきます。
過去の連載
⇒中国独自の「日本の作品のエルフ」のイメージと元気が無いまま終わりそうな中国の2024冬アニメ事情
動きの少ない4月新作アニメと次があるかはわからない劇場版スパイファミリーの大ヒット
前回の記事でもお伝えしたとおり近年中国で行われている娯楽分野に関する規制強化の影響などもあってか、中国で配信されている日本の4月の新作アニメに関して活発な動きは出ていないようです。ただそれとは別に中国のオタクな方々からは直近のシーズンの状況と比べれば「まだ安定しているように思える」といった声も聞こえてきます。
また新作アニメの配信とは対照的に中国のゴールデンウイーク(黄金周)に合わせて公開された作品がヒットするなど日本のアニメ映画が好調です。
まず4月の新作アニメについてですが、中国でも熱心なファン層がいるとされている「響け!ユーフォニアム3」が安定して人気となっているそうですし、続編作品ではほかにも前回の記事を書いた後に配信が始まった「ゆるキャン△ SEASON3」も好評で順調に評価と再生数を獲得しているとのことです。
それから新規作品のなかでは「夜のクラゲは泳げない」が注目を集めて熱心なファンを獲得しているとのことですし、ほかにも「じいさんばあさん若返る」が気軽に見ていられる作品として手堅い需要があるそうです。
また前シーズンから続いている作品では「ダンジョン飯」が人気を維持しています。「ダンジョン飯」は中国にも原作をずっと追いかけている熱心なファンは多くいるそうで、アニメと原作の違いや世界観に関する考察など、面白さや好みにとどまらない良くも悪くも濃い討論が行われる作品となっています。
そして日本のアニメ映画では4月に公開された「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」と「ハウルの動く城」が大ヒットしているそうです。この記事を書いている6月初めの時点での興収はそれぞれ「スパイファミリー」が約2.8億元(約66億円)、「ハウルの動く城」が約1.6億元(約35億円)とかなりの人気になっています。
この「スパイファミリー」の大ヒットに関して中国のオタクな方からは
スパイファミリーは近年の中国で最も人気になった日本のアニメと言えます。中国国内ではアニメの正規配信が行われオタクの間だけでなく一般向けとしても大人気になり、国内の2次元系イベントでも扱いやすい題材になりました。そして続編や中国語吹替版の配信によって人気が維持され、それが中国国内での劇場版上映の大ヒットにつながったのは日本アニメの中国市場への展開として本当に理想的でした!
などといった話がありました。
しかしそれと一緒に
でも現在の規制管理の強化や国内の景気の悪化を考えると、スパイファミリーのようなやり方がもう一度成立するかは何とも言えません……
などといった話も出てきました。
現在の中国における日本の新作アニメ配信を取り巻く状況を考えると「スパイファミリー」に限らず過去に中国で大人気になった作品と同じような流れでの成功を期待するのは難しく、今後のことを考えるとあまり楽観的な気分にはなれないようです。
アニメ化で嫌われる「魔改造」とこだわりの「原作党」
日本から中国のオタク界隈に広まったオタク関連の言葉は少なくありませんが、そんな言葉のひとつに「魔改造」やそれが短縮された「魔改」という言葉があるそうです。
この「魔改」は、「オタク」から転じてインドア趣味などを意味する言葉として使われるようになった「宅」や、日本のアニメや漫画、ゲームなどの流れにある作品やジャンル全般を指す「2次元」といった言葉のように一般レベルで普及しているわけではないものの、中国ではオタク的な活動をする際に何かと意識する機会のある言葉になっています。
中国のオタクな方々から教えていただいた話によると、この「魔改」という言葉は日本で使われる「フィギュアの魔改造」や出典とされる「プラモ狂四郎」のプラモの改造的な意味などで使われることもあるそうですが、現在の中国のオタク界隈では主に「映像化の際の改変」、特に「原作とは違うストーリーやキャラにしたり、世界観などの設定を変更したりする」ことに対してよく使われているとのことです。
またこの言葉は中国のオタク界隈にあるという強めの「映像化は原作どおりにするべきである」という考え方に関連して何かと使い勝手のいい言葉として広まってしまっているとのことで、原作付きアニメに対して批判的な文脈で使われがちな言葉にもなっているのだとか。
中国発祥のオタク用語には別のメディアで展開する作品に対して良くも悪くも原作重視な態度の人間を指す言葉として「原作党」という言葉があるのですが、近年はこの「原作党」的なスタンスからの批判、なかでもアニメ化の際に「魔改」だと批判する声がかなり目立つようになってきているという話もあるそうです。
こういった原作重視の姿勢に関して以前中国のオタクな方々と話した際には
中国では日本よりもさらに原作を重視する考えが強く、漫画やラノベを原作としてアニメが制作される際には「原作どおりに作るべき」「原作どおりでなければならない」という考えがオタクにとっての正解、それを主張するのがオタクとして正しいという空気が存在します。
この原作重視の姿勢に関しては中国の文化的な背景も影響していると思います。中国では伝統的に古典名著などに関して「改変せずにオリジナルのままでなければならない」という考えがあり、名作の「改変」や「翻案」に対しては現代でもかなり強烈な批判が発生します。たとえば日本と違って中国国内では三国演義が娯楽の題材として使われることが少なかった原因のひとつがこの考え方です。
などといった意見も出てきました。
そして近年の環境では中国から日本の原作コンテンツに接する方法が増え中国語化された情報も蓄積されていることもあってか、中国のオタク界隈では日本のアニメ化に関して原作重視の度合いがさらに強くなり「魔改」という批判が発生する頻度も高まっているそうで。
このあたりに関しては以前中国のオタクな方から
昔から原作党みたいな人はいましたが、昔は「ここは原作の方がいい」というくらいの考えや意見の表明で、現在のように「魔改」だと怒って強く批判するようなことはあまりなかったと思います。
などといった話を聞いたこともあります。
また中国のオタク界隈におけるこういった「魔改」的な批判に関しては
中国では映像化の際に制作関係者に対してだけでなく、制作に直接関わったとされる原作者に対しても「魔改」だという批判が巻き起こることがあります。日本のように原作者が関わっていた場合はファンもある程度許容するのではなく、作者に対して「原作の設定を無視する、キャラや世界観を崩壊させるのは許せない」という怒りになってしまうケースもあります。
もっとも、原作そのままでアニメ化すれば人気になって評価されるとは限りませんし、「原作どおりのアニメ化」や「原作を超えた表現」に対する解釈も個人で異なるため現在の中国のオタク界隈でも「原作の扱い」は難しいものがあります。もちろんメディアに合わせた改変に関しては原作を尊重している、原作を理解しているというのが感じられればあまり問題ではないのですが、こういった部分に関しては明確な基準が無いうえに中国では個人レベルでも非常に攻撃力のある国へ「通報」が可能なのでリスクを意識せずにはいられません。
などといった話もありました。
映像化における原作からの改変に関しては日本でも何かと問題になっているかと思いますが、中国のオタク界隈で発生するゴタゴタを見ていると、どこの国でも人気や評価の高い原作の扱いは簡単ではないのだろうと感じてしまいますね。
90年代から十数年中国の学校に通い「日本のアニメや漫画、オタク文化が好き」な中国人達と遭遇。以後中国にいつの間にか広まっちゃった日本のオタクコンテンツやオタク文化等に関する情報を発信するブログを運営中。
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