【ざっくり!平成アニメ史】第1回 平成元年(1989年)――OVAからTVアニメへ、の「パトレイバー」、そして声優ユニット「NG5」の人気が爆発した新時代の幕開け

2019年4月30日、31年に及ぶ「平成」の幕が下りる。国内外問わずさまざまな出来事のあった激動の時代だが、アニメ業界にも数え切れないほどの作品が生まれ、いろいろなトピックが世の中をにぎわせた。

アニメは世につれ、人につれ。

ということで、今回より1年ごとに平成のアニメを振り返る連載、堂々スタート!

ファミリー向けとアニメファン向けアニメの両極化が進んだ平成の幕開け

前年より体調を崩されていた昭和天皇が、1月7日に崩御。翌1月8日より「平成」に改元され、新たな時代がスタートした。

この時期のアニメ業界は、当時のアニメ雑誌にも書かれるほど「冬の時代」だった。

その理由は諸説ある。ひとつには、当時日米合作アニメが多数制作されていたため、主力アニメーターが国外で活躍していたことから、国内のアニメ制作現場が手薄になっていた――という説があるいっぽう、アニメを楽しんでいた視聴者側の状況の変化も大きかったと思われる。

その説明の前に、1980年代後半のアニメ事情について振り返ってみたい。

「ヤマト」「ガンダム」などに端を発する1970年代後半のアニメブーム以降、アニメファンの存在が世に認知され、そういった「濃い人たち」向けのアニメが急増したのが1980年代初頭だ。

同時期、ファミコンに代表される新たなホビー「テレビゲーム」が、子どもたちの間で大ブームとなる。それまでゲームセンターなどでしか遊べなかったビデオゲームを、自宅のテレビで遊ぶことができる。

そんなテレビゲームは、たちまち子どもたちの心をがっしりとつかんだ。

ビデオデッキが一般家庭に普及し始めたのもこの時期だ。1980年代初頭だと、1台20万円オーバーとまだまだかなりの高額商品ではあったが、「好きな物には投資を惜しまない」のがオタクの習性。経済力のあるアニメファンを中心に、いつでも、何度も好きなアニメを観ることができ、予約録画、コマ送りなど映像をじっくり堪能できるビデオデッキは着実に広まっていった。そんな中で登場したのがOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)である。「好きな物には投資を惜しまない」アニメファン向けに作品を作り、購入してもらうことでダイレクトに製作費が回収できることから、よりアニメファンの嗜好に寄せたコアな作品が次々と作られるようになるのである。

つまり、テレビアニメのメインターゲットたる子どもたちはテレビゲームに夢中となり、太客のアニメファン向け作品はOVAという、よりニッチな市場に軸足を移したのである。その結果、1989年当時のテレビアニメの主流は「ドラゴンボールZ」「シティハンター」「YAWARA!」「悪魔くん」といったマンガ原作もの、「ドラえもん」「チンプイ」「ビリ犬なんでも商会」「パラソルへんべえ」などの藤子アニメ、「おぼっちゃまくん」「ダッシュ!四駆郎」「新ビックリマン」「GO!レスラー軍団」といった「コロコロコミック」「コミックボンボン」連載の児童向け、またはホビーアニメ、「魔法使いサリー」「ジャングル大帝」「がきデカ」「みなしごハッチ」などのリバイバル・懐かし原作ものアニメといった具合に、ファミリー向け、低年齢層向けの作品の比率が多めだったといえる。

多様化する趣味嗜好にあわせて細分化が進んだ結果、かつてのような大きなブームを生み出すパワーを持った作品が生まれにくくなっていたのが、1989年――平成元年のアニメ業界なのだ。

しかし、それでもアニメファンの間で話題となったテレビアニメがなかったわけではない。

その代表が「機動警察パトレイバー」だろう。前年より低価格のOVAシリーズとしてスタートした本作は、その好評を受け1989年7月に劇場版第1作を公開。そして10月より満を持してTVシリーズの放送をスタートするという、かつてない展開を見せた。

また、「天空戦記シュラト」「魔動王グランゾート」もアニメファンに絶大な支持を受け、放送終了後にOVAとして展開した。1980年代半ばより、アニメファンに人気の出たテレビアニメの続編をOVAという形で発表するという潮流はあったが、この時期になるとそのメディア展開はかなり一般化していたことがうかがえる。「好きなものには投資を惜しまない」アニメファンの習性がここでも見受けられる。現在、多くの作品で採用されているイベント上映、有料配信などの源流をここに見ることができる。

また今も高い人気を誇る漫画家・高橋留美子のマンガを原作とする「らんま1/2」がアニメ化したのもこの年。本作では作品人気もさることながら、声優人気も加熱。まだ若手の山口勝平、林原めぐみ、山寺宏一、高山みなみ、井上喜久子らが出演。その人気の過熱ぶりは、後年女性声優ユニット「Doco」が結成されたことからもうかがえる。

さらに前年度放送のアニメ「鎧伝サムライトルーパー」から生まれた男性声優ユニット「NG5」(草尾毅、佐々木望、竹村拓、中村大樹、西村智博)も、平成元年に活動を開始。

今や当たり前のように行われているアニメ発の「声優ユニット」活動だが、そのルーツがここにある。

もうひとつ、言及しておかねばならないのが、同年に日本全土を震撼させた、東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件である。

幼女を標的とした連続殺人事件の犯人が、いわゆるオタク・ロリコン・ホラーマニアであるという報道が行われたことから、激しいオタクバッシングが日本中に巻き起こったのである。この事件の影響は当時のアニメにも少なからぬ影響を与え、またアニメファンをはじめとするオタクにとっても大きなトラウマとなった。その影響は、今もなおアニメファンの間にくすぶるメディア・マスコミへの不信という形で残っていると言える。

平成のアニメ事情は、そんな激動の1年で幕を開けた。

次回は平成2年。果たしてどんなアニメが登場したのだろうか。

おすすめ記事