【ざっくり!平成アニメ史】第2回 平成2年(1990年)――子ども向けロボットアニメ復権、テレビゲームとの接近、GAINAXのTVアニメ進出と転換期を迎えたアニメ業界
さまざまなアニメが生まれては消えていった、激動の平成。31年の歴史を、アニメタイトルとともに振り返る連載第2回。はじまりはじまり~!
⇒【ざっくり!平成アニメ史】第1回 平成元年(1989年)――OVAからTVアニメへ、の「パトレイバー」、そして声優ユニット「NG5」の人気が爆発した新時代の幕開け
世紀末に至る激動の1990年代は、前年から続くリバイバルアニメ・ブームとともに幕を開けた。1月放送開始の「平成天才バカボン」「つる姫じゃ〜っ!」を皮切りに「楽しいムーミン一家」「もーれつア太郎」「三丁目の夕日」「三つ目がとおる」といった懐かしのマンガを原作とした、もしくはリバイバルアニメが1年を通じてコンスタントに放送されたのが印象的であった。このトレンドは数年後まで続くことになる。
また現在まで続く国民的アニメ「ちびまる子ちゃん」がスタートしたのもこの年。誰もが共感できるコミカルで人情味あふれるドラマや、キートン山田によるウィットに富んだナレーション。さらに原作者・さくらももこの幼少期にあたる昭和40~50年代を舞台にしたことで、当時の文化・風俗を知る世代からも大いに注目を集め、幅広い層から支持を集めた。
いっぽう、ロボットアニメの制作に定評のあるサンライズは「勇者エクスカイザー」を発表。こちらはアニメ本編、玩具ともども大ヒットを記録し、「勇者」シリーズの礎を築いた。主人公の子どもと人格を持った頼れるお兄さん的なロボットの交流を軸に、日常ドラマとロボットアクションが展開する「勇者」シリーズは、メインターゲットである子どもたちの心をつかみ、1990年代を代表するシリーズへと成長していく。
「勇者」シリーズ以外にも、まるで80年代のリアルロボットアニメブームの反動のごとく、低年齢層向けのロボットアニメが急増したのも特筆すべきことだろう。
その中でも、80年代後半より小学生男子から絶大な人気を集めていた「SDガンダム」に影響を受けたコミカルテイストなロボットアニメが数多く制作された点に触れておきたい。1988年に放送され大人気を博した「魔神英雄伝ワタル」の続編「魔神英雄伝ワタル2」を筆頭に、「キャッ党忍伝てやんでえ」「NG騎士ラムネ&40」「からくり剣豪伝ムサシロード」「RPG伝説ヘポイ」といった、等身が低めのロボットが活躍する作品が数多く放送されたのがこの年の特徴だ。とりわけ「魔神英雄伝ワタル2」「NG騎士ラムネ&40」「RPG伝説ヘポイ」「からくり剣豪伝ムサシロード」は、「ドラゴンクエスト」などのRPGから多大な影響を受けたロードムービー的な要素が強く、ゲームの影響を受けた世界観やストーリーが描かれた。
奇しくも1990年11月には、任天堂の新ゲームハード「スーパーファミコン」が発売され、テレビゲーム人気がさらに加熱するタイミングであった。グラフィック、サウンドともにファミコン以上の性能を誇るスーファミの出現は、以前にもましてアニメ業界にとって脅威となったのではないだろうか。一説によると、年末商戦ではスーファミが玩具市場を席巻。ロボットアニメ玩具はほとんど売れなかったそうだ。
なかでも「ラムネ&40」は、視聴率、玩具売り上げともに不振だったことから放送短縮の憂き目にあったが、ハイティーン以上のアニメファンに大いに受け、ノベライズ、OVA、ラジオドラマなどのメディア展開が行われた。本作をきっかけに、その後もねぎしひろし監督と脚本のあかほりさとるは多くの作品でタッグを組み、1990年代のアニメブームの中核をなすことになる。
アニメとテレビゲームが融合した内容、OVAでの映像展開、ラジオを通じたファンとの交流、ノベライズでの作品補完など、後のアニメ業界の動向を予感させる、まさに象徴的な作品だったと言える。
象徴的、という意味で忘れてはならないのが「ふしぎの海のナディア」である。劇場版アニメ「王立宇宙軍 オネアミスの翼」やOVA「トップをねらえ!」など、濃いめの視聴者をターゲットにした作品でアニメファンから評価を得ていたアニメ制作会社・GAINAX初のTVアニメだ。
自主映画制作チーム「DAICON FILM」などのメンバーが集まって設立された同社が手がけた本作は、ジュール・ヴェルヌの空想科学小説「海底2万里」を原作としているものの、当初より制作陣に影響を与えたアニメや特撮をオマージュするシーンが多発。最終的には「宇宙戦艦ヤマト」の出撃シーンを、そのまんまトレースしたようなシーン(N-ノーチラス号の発進シーン)が出てくるなど、従来のTVアニメにはないマニアックな内容がアニメファンに衝撃を与えた。そのほか、それまでのヒロイン像をぶち壊すワガママなヒロイン・ナディアも、大きな話題を呼ぶことになる(あと、NHKアニメとは思えないお色気シーン、ラブコメ描写なども……)。
本作の総監督は、後に「新世紀エヴァンゲリオン」や「シン・ゴジラ」を手がける庵野秀明。中盤の「島編」を監督したのが、後に実写映画「ガメラ 大怪獣空中決戦」特技監督で名を馳せ、「ローレライ」「日本沈没」「シン・ゴジラ」など数々の話題作を手がけたほか、2018年、「ひそねとまそたん」で久々にアニメ業界にカムバックした樋口真嗣。キャラクターデザインは貞本義行、音楽が鷺巣詩郎など錚々たるスタッフが名を連ねていた。
過剰にマニアックで、それでいて王道のジュブナイル・ストーリーが展開する本作は、幅広い層に受け入れられた。もちろんアニメファンからも高い評価を得て、後に劇場用アニメも制作されたほど(ただし制作途中でGAINAXは予算を使い果たしたため降板。残りをグループ・タックが仕上げることになる)。後に「エヴァンゲリオン」を生み出すスタッフが、1990年に本作を発表していたという事実は、新時代の到来を告げるエポックな出来事だったと言える。
もうひとつ押さえておきたいのが、バラエティ番組「ギミア・ぶれいく」内で放送されたアニメ作品群だ。もともとは夜10時台に放送される大人向けのバラエティ番組だったが、1989年10月より番組内の1コーナーとして藤子不二雄Aの「笑ゥせぇるすまん」の放送をスタート。従来のアニメにはなかったブラックな内容が大きな話題を呼び、1990年には人気コンテンツのひとつへと成長していた。うっかり視聴して、トラウマを植え付けられた子どもも少なくはないはず。同年、石ノ森章太郎原作の「八百八町表裏 化粧師」も、番組内で放送された。
アニメファン向けではなく、大人のためのTVアニメというあまり前例のない事例として、これらの作品も押さえておきたい(それまでも、大人向けアニメはないわけではなかったが)。おすすめ記事
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