もうひとつの日本から、もうひとりの「僕」が現れるーー。アニメ映画「あした世界が終わるとしても」櫻木優平監督インタビュー

2019125日より公開となるアニメ映画「あした世界が終わるとしても」は、アニメーションスタジオ・クラフタースタジオのオリジナル作品。TVアニメ「イングレス」でTVシリーズ初監督を務めた櫻木優平さんが、監督と脚本を手がけた長編アニメーション映画だ。

高校三年生になった幼馴染の真(シン)と琴莉(コトリ)の前に、ある日突然もうひとつの日本から、もうひとりの「僕」が現れるーー。真と琴莉の揺れ動く心を描いたラブストーリーと、もうひとつの日本で繰り広げられるSFの世界。キャラクターに寄り添いながら、2つの世界をていねいに描きあげた櫻木監督に、作品の見どころやこだわり、制作時のエピソードなどを語ってもらった。

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ーー 本作の制作経緯について教えてください。

櫻木監督 脚本・監督を務めた「ソウタイセカイ」という作品がきっかけです。作品としては完成していましたが、もし作れるならもう少しその先を作ってみたいという気持ちがありました。

ーー 原作小説が発売されて、劇場版が公開という流れですが、順番やタイミングなどは意図したものだったのでしょうか?

櫻木監督 映画のほうが先に走っていました。脚本ができあがったタイミングで小説の話をいただき、「出すなら早いほうがいい!」ということで急いで並行して進めました。映像と文字を同時にというのは大変でしたが、ノベライズの作業自体は脚本に肉付けをする感覚で、割と楽しく書けたなという印象です。

ーー 物語はどのように構築していったのでしょうか?

櫻木監督 クラフターが会社として映画を作ろう!というのがある中で、ベースとなる“2つの世界”についてはみんなで考えて出したアイデアです。そこを軸にキャラクターを作り上げていきました。主人公、ヒロイン、そしてそれぞれに相対するキャラクターは最初にできあがっていたので、あとはどう展開していけば面白くなるのかを考えながら、何度も何度も書き直したので、結果「ソウタイセカイ」とはまったく違うプロットになっています。

ーー 何度も書き直した部分を具体的に教えていただけますか?

櫻木監督 一番は、キャラクターの感情の流れです。キャラクターの進む道はこれでいいのか、観る人が共感できるのか、面白い話になっているのか、などを考えながら書き直しました。SF作品は設定とのつじつまを合わせる必要があるので、1か所書き直せば、ほかも書き直す必要が出てきます。そのうえ、もうひとつの世界のもうひとりのキャラクターがいるので、片方を修正すればもう片方もという感じで。いろいろな方に助言をいただきながら進めたのですが、「ここをちょっと変えるとどうかな?」と言われるたびに、「そこを変えたら、あれとあれも変えなくちゃいけないんだよなぁ……」ってなっていましたね(笑)。組み直すのが大変なパズルをやっている感じでした。

ーー 何度も書き直した結果、キャラクターやストーリーは予定と変わりましたか?

櫻木監督 ストーリーの基本的な軸はズレていません。キャラクターがどこの末路にたどり着くのかという点はかなり変わったかもしれません。キャラクターに役目をしっかり持たせることで、ストーリー展開をシンプルにわかりやすくすることを常に心がけていました。

ーー 新宿を彷彿とさせる背景にした理由を教えてください。

櫻木監督 日本の象徴となるわかりやすい場所を意識しました。最初は渋谷も思い浮かんだのですが、最近新宿に若者が増えてきた印象があり、いろんなタイプの若者が集まる場所のように感じたので新宿を選びました。渋谷は再開発中なので、作品ができあがった後に風景が変わるのも嫌だったのも理由のひとつです。スタジオが新宿なのでロケハンしやすいっていうのもありましたけどね(笑)。聖地巡礼しやすい場所が登場するので、作品を観た後にふらついていただければ。

ーー キービジュアルでは、伏し目がちな真と、真の前を歩く琴莉が印象的です。

櫻木監督 どちらを前に描くかについては議論しました。今の時代は、女性が前でいいんじゃないってことになって。キャラクター的にも琴莉が意気揚々と前を歩き、引っ張っていく。その後を真が何を思いながらついていくのか……という感じが物語の想像をかき立てると思い、この形にしました。

ーー 歩くシーンがとても多いと感じました。通学しているというのも理由のひとつかと思いますが、なにか意味があるのですか?

櫻木監督 言われてみれば、確かに歩くシーンは多いかもしれません。単に、歩きながらしゃべるというのは演出として好きですね。歩くシーンでもどっちがどっちを引っ張って、どっちがどっちを後ろから見ているのかの立ち位置は常に意識していました。

ーー 2つの世界にそれぞれ対峙するキャラクターが登場することで、描きたかったことを教えてください。

櫻木監督 描きたかったのは、同じ遺伝子を持っていても環境によって人の性格や生き様は変わるということです。真がいる世界では戦争も起きないし、マンネリ化しつつある世界です。何かを変えたいと思いながらも結局何も変えられていない。

逆に、ジンは自分で動き何かを変えていかなければ生きていけない世界にいます。片方は自分からコトを起こし、片方は望まない形でそれに巻き込まれていく。だけど、最終的には同じような気持ちを持ち生きていく。そういった流れが描けたらいいなと思い、設定を考えていました。

ーー アフレコ現場でのエピソードはありますか?

櫻木監督 当たり前のことなのですが、みなさんとてもプロ意識が高く、腑に落としてから芝居をしたいという方ばかりでした。真を演じた梶裕貴さんは、セリフの提案までしてくださいました。とても楽しくやりとりさせていただきました。

ーー 櫻木監督が作品を通して伝えたいこととは?

櫻木監督 リアリティに一番気をつかっています。現在の若者のリアルをベースに描きたかったので。それに対して非日常がぶつかります。現代の若者に、作中のような非日常が実際に起きたとき、どういうリアクションを取るのかなと。平和に慣れながらもどこか不安定な世の中で、もし非日常が訪れたら一体自分は何をするべきなのか、そんなことを考えていただけたらと思います。いろいろなジャンルのアニメをひとまとめにしたような作品で、どんな方にも楽しんでいただけるものに仕上がったので、ちょっとでも気になったらぜひ劇場に足を運んでみてください。

(取材・文=タナカシノブ)

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