【ざっくり!平成アニメ史】第3回 平成3年(1991年)――「ガンダムF91」「0083」、映画とOVAで2面展開したガンダム! そして角川アニメが動き出す……!! その時、テレビアニメは!?

さまざまなアニメが生まれては消えていった、激動の平成。31年の歴史を、アニメタイトルとともに振り返る連載第3回。今回もいってみよう!

ファミリー向け作品が増加するテレビアニメ、マニア向けアニメの主戦場OVAといった具合に、なんとなく棲み分けができつつあった1990年だが、その傾向は平成3年(1991年)に入るとますます顕著になっていく。

「きん注」「サイバー」をはじめ、小粒だがキラリと光る佳作が多かったTVアニメ

テレビアニメを見てみると、やはりローティーン向けのロボット・SFアニメの印象が強い。勇者シリーズ第2作「太陽の勇者ファイバード」。等身大ヒーロー×パワードスーツもので、アニメファンにキャラクター人気も博した「機甲警察メタルジャック」。小学生がクラス一丸となってロボットで戦うエルドランシリーズ第1作「絶対無敵ライジンオー」が発表された。前2作はタカラ、広社はトミーから玩具が発売されており、この年に話題を呼んだロボットアニメ系玩具が、後に合併する両社から発売されていたのは面白い。

そして変わらずリバイバルブームは続き、「丸出だめ夫」「おれは直角」「21エモン」といった懐かしのマンガがアニメ化。また、懐かしアニメのリブートものとして、「ゲッターロボ號」「魔法のプリンセス ミンキーモモ」が発表された。それぞれ、70年代、80年代に高い人気を誇った作品を、当世風にアレンジした新作である。「ゲッターロボ號」は、元祖「ゲッターロボ」では不可能だった「玩具で再現可能な3形態の合体ロボット」を実現。また補助メカとのスーパー合体で、さらなるパワーアップという当時のトレンドを取り入れていた。

いっぽうの「ミンキーモモ」は、一見お気楽極楽な魔法少女ものに見せかけて、エイズ問題や自然破壊など社会的なテーマを盛り込んだり、前作の主人公――いわゆる「空モモ」と新主人公の「海モモ」の邂逅を通じて描かれるドラマ。そしてあまりにも現実的でシビアな物語の結末など、監督・湯山邦彦&脚本・首藤剛志の作家性を前面に押し出した、非常に見ごたえのある作品であった。なお、このタッグは後にアニメ「ポケットモンスター」を手がけることになる。

また当時の日本は空前のオカルトブームだった。ツチノコ、人面犬、Mr.マリック、ドラマ「世にも奇妙な物語」などなど、都市伝説から怪談、UMA、超能力まで何でもござれのバーゲンセール状態。チャンネルを変えれば、どこかの局がオカルトネタを放送していた(というのは言い過ぎだが)。というわけで、テレビアニメ「ハイスクールミステリー学園七不思議」や、OVA「うしろの百太郎」「恐怖新聞」と「つのだじろう」作品が立て続けにアニメ化された。1991年のアニメ業界は、ちょっとした「つのだじろう」ブームだった。

そんな中で、この年のエポックな作品をあげるとするなら、「きんぎょ注意報!」と「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」ではないだろうか。

「きんぎょ注意報!」は当時「なかよし」(講談社)に連載されていた、猫部ねこ原作の少女マンガを原作とするアニメだが、本作ではキャラクターが困ると大きな汗のしずくが出現するというマンガ的な演出を初めて使用した作品と言われており、後のアニメに多大な影響を与えている。

そのほか、リアル等身のキャラ、5等身キャラ、3等身のSDキャラと登場人物の体型が場面に応じてフリーダムに変化したり、劇中に吹き出しが出たりと、今では当たり前のように使われているギャグ表現を積極的に取り入れ、大きな注目を集めた。

「サイバーフォーミュラ」は、サンライズ制作のSFレースもの。人工知能を搭載した近未来のレーシングカー・アスラーダと、そのドライバーとなった主人公・風見ハヤトを中心に、チームメイトとのドラマやライバルとの激闘が描かれた。当初は4クール放送が予定されていたが、玩具売り上げ、視聴率があまり振るわず3クールで放送は終了した。

しかしストーリーが圧縮されたことで、シリーズ後半はたたみかけるような熱いドラマが繰り広げられ、その結果、アニメファンから絶大な支持を集めるようになる。本作を手がけたのは、後に「機動戦士ガンダムSEED」シリーズを手がける福田己津夫監督。本作で初めて監督を務めた福田は、TVシリーズ以降に展開したOVAシリーズでも監督を歴任。2000年まで続くロングランシリーズへと成長させる。

本作の特徴として、女性人気が異常に高かったことがあげられる。実際にOVAのアンケートでは、男女比が2:8だったこともあるそうで、男性キャラクターを演じる声優陣によるキャラクターソングCDも多数発売された。

とはいえ、やはりアニメファン向けの作品よりはファミリー向け、低年齢層向けアニメが主流だった、というのが1991年のテレビアニメの印象だ。では、コアなアニメファン向け作品は、どこで発表されていたのだろう。

ガンダム、角川、GAINAX! アニメファン向け作品が充実の映画、OVA

1991年、アニメファン向け作品の主戦場は劇場用アニメ、そしてOVAだった。

まず劇場用アニメ「機動戦士ガンダムF91」、OVA「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」とテレビ以外のフォーマットで、「ガンダム」シリーズ2作が発表されたことは、この年最大のトピックだろう。

「F91」は監督・富野由悠季、キャラクターデザイン・安彦良和、メカデザイン・大河原邦男といった「ファーストガンダム」の中心メンバーが再結集した新作ということで期待値も高かったが、興行収入自体は想定していたほどではなく、予定されていた続編のテレビシリーズは企画倒れとなってしまった。

対する「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」は、1989年に発表されたガンダムシリーズ初のOVA「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」の商業的成功を受けて制作された、外伝的OVA第2弾だ。本作は、「SFとしてのリアリティ」「ミリタリズム」といった、模型雑誌で主流となっていたガンダムワールドの解釈をアニメの世界に持ち込んだ最初期の作品といえる。メカニックデザインとして「ガンダム・センチネル」「ガンダム・センチネル0079」で注目を集めていたカトキハジメが参加したのをはじめ、「ファーストガンダム」以降に業界に入ってきた若手クリエイターも多数参加。こちらは全13話を再編集した劇場版も制作されるほど商業的な成功を収めることになる。

ハードなメカニック描写や、腐敗する民主主義の象徴としての地球連邦軍とサムライが集うジオン軍の対比、そして泥臭い人間描写(これも非常に観念的な言葉だが……)という、後の「ガンダムらしさ」を形成する新時代のガンダムとして、ターニングポイント的な作品となった。

またこの年、角川書店が劇場用アニメ、OVAというフィールドで続々とアニメを発表したことも特徴だ。当時は、まだライトノベルという言葉が存在しない時代だったが、映画として「アルスラーン戦記」、OVAとして「魔獣戦士ルナ・ヴァルガー」「帝都物語」「ロードス島戦記」(これは正しくは前年からリリースがスタート、1991年に完結)といった同社発行の小説作品をアニメ化。またマンガ雑誌「コミックコンプ」、ゲーム雑誌「マル勝ファミコン」で連載されていた「サイレントメビウス」「魍魎戦記マダラ」も映像化し、話題となった。角川作品がアニメ業界を席巻するようになるのは、この数年後である。

「ふしぎの海のナディア」で名を馳せたGAINAXだが、1991年はOVAを中心に活躍した。そのひとつが「おたくのビデオ」だ。本作は史上初の、「オタクの日常を描いた」アニメである。GAINAX関係者も実写パートで大勢出演。アニメ業界が熱く盛り上がった80年代の空気感を追体験できる、ドキュメンタリー的な面のある作品だった。

そして島本和彦のマンガを原作とする「炎の転校生」も、同社の制作でOLAという形でリリースされた。OLA?と思われる人も多いだろう。当時、新たな映像ソフトとして「レーザーディスク」が注目を集めていたことから、本作は史上初のレーザーディスクのみでリリースされるアニメ「OLA(オリジナル・レーザー・アニメーション)」として発売されることになった。だが、あまり売り上げに結びつかなかったそうだ。後に、改めてVHS版が発売された。

そのほか映画では、高畑勲監督の「おもひでぽろぽろ」。後に「この世界の片隅に」を監督する片淵須直が画面構成として参加し、マッドハウスの丸山正雄社長がその才能を見い出すきっかけとなった「うしろの正面だあれ」。大友克洋と江口寿史がタッグを組み、高齢化社会を題材にした変わり種のSF「老人Z」。ディズニーアニメ第2黄金期の幕開けといわれる「リトル・マーメイド」(アメリカ本国では1989年公開)と、注目すべきタイトルが立て続けに公開された。

また「東映まんがまつり」が本格的に「東映アニメフェア」へと移行したのも1991年3月からだ。複数の子ども向け映画をまとめて上映する「東映まんがまつり」は、春休み、夏休み、冬休みの時期に催される恒例イベントとして長らく定着していたが、1990年7月には、当時人気絶頂だった「ドラゴンボール」で知られる鳥山明原作のアニメのみを集めた「東映アニメフェア'90夏 鳥山明 THE WORLD」というイベント色の強いスタイルで興行が行われた。結局1991年3月の興行以降も引き続き「アニメフェア」の冠で開催されることになったわけだが、これも「テレビまんが」の時代から「アニメ」の時代へと移り変わったことを象徴する、ひとつの事件と言えるだろう。

最後に、アニメ関連のラジオ番組――アニラジ事情についても触れておこう。3月に放送を終了した「魔神英雄伝ワタル2」の続編として、10月に「魔神英雄伝ワタル3」がラジオドラマという形で放送開始した。本作は「ラジオ+アニメーション」――「ラジメーション」というコンセプトを掲げ、「声優のトークパート+ラジオドラマ」というフォーマットが試験的に導入された。この試みは一定の成果を得たようで、以降同様のコンセプトのメディアミックス番組が増加。90年代におけるアニラジの標準フォーマットの一つとなっていく。

こんな具合に、さまざまな形で次の時代に向けての試行錯誤が繰り広げられていたのが、1991年のアニメ事情だったといえる。

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