「あなたに、会いたい…」を「会いたかった」に変えた20年の想い。「センチメンタルグラフティ20周年スペシャルイベント~再会~」昼夜レポート

「センチメンタルグラフティ20周年スペシャルイベント〜再会〜」が2019年1月19日、東京・一ツ橋ホールにて開催された。

「センチメンタルグラフティ」は、1998年1月22日にセガサターン向けに発売された恋愛シミュレーションゲーム。その後は各ハードへの移植やアニメ「センチメンタルジャーニー」の放送、後続のシリーズ作品などの展開が2004年のPS2「センチメンタル・プレリュード」発売まで続いた。だが不思議なことに、当時の個人的な体感としては、本作が一番盛り上がったのは発売前夜の1年間だった気がする。ゲーム本編の発売が延期されたこともあり、先行して展開された膨大な量のグッズや周辺展開がとてつもない盛り上がりを見せたのである。それほど本作における甲斐智久氏によるキャラクターデザインとイラストは秀逸で、当時のオタクの心をつかんでいた。結果としてセガサターン版「センチメンタルグラフティ」は20万本を越える売上を記録し、90年代ギャルゲーブーム末期の輝きを放つ作品のひとつとなった。

同作のメインヒロイン12人のキャストは、青二プロダクションの新人声優6人と一般公募による6人がキャスティングされ、12人は声優ユニット「SGガールズ」として活動した。声優自身がステージに立つ作品としては「アイドル防衛隊ハミングバード」や「サクラ大戦」シリーズといった前例はあったものの、声優キャストがユニットとして活動し、メンバーの一部を一般から公募するという手法を採用した本作は、今の声優アイドルグループ人気にもつながる時代の大きなターニングポイントのひとつと言える。

「センチメンタルグラフティ」に関しては、20年を経た今となっても契約関係の複雑な移動(現在はガンホー・オンライン・エンターテイメントが権利を保有)や、制作にまつわるさまざまな大人の事情が語られることが多い。今回イベントに登壇した当時の主要スタッフである多部田俊雄氏も、「20数年前はみなさんにご迷惑をおかけしてしまい、力及ばず申し訳ありませんでした」と語ったほどだ(多部田氏は、今回のイベントの契約関係の取りまとめや物販を担当している)。それだけに、2018年1月にセンチメンタルグラフティ20周年プロジェクトが立ち上がった時、当時を知る人間はこのニュースを驚きを持って迎えたと思う。しかし実際に20周年を記念したイベントに向けて最初に動き出したのは「大人たち」ではなく、かつてSGガールズとして活動した声優キャスト自身だったのである。

キャスト陣はカラオケボックスで打ち合わせをし、メンバー同士の決起集会でイベントに向けたお互いの意志や熱量の確認を行ない、前述の多部田氏や、同作の音楽を担当した濱田智之氏といった当時のスタッフを巻きこんでいった。そして、メーカーではなくキャストが中心となっての20周年イベントという、前代未聞のアプローチを可能にしたのは、クラウドファンディング(プラットフォームはCAMPFIRE)だった。2018年10月11日、目標金額1000万円でスタートしたクラウドファンディングは開始約10分で目標金額を達成し、最終的には34,701,700円の支援総額を達成した。そして3か月後、ついに実現したのが今回のイベント「センチメンタルグラフティ20周年スペシャルイベント~再会~」というわけだ。

イベントには「センチメンタルグラフティ」安達妙子役の岡田純子さん、「センチメンタルグラフティ2」安達妙子役の有島モユさん、沢渡ほのか役の鈴木麻里子さん、永倉えみる役の前田愛さん、山本るりか役の今野宏美さん、森井夏穂役の満仲由紀子さん、七瀬優役の西口有香さん、杉原真奈美役の豊嶋真千子さん、松岡千恵役の米本千珠さん、遠藤晶役の鈴木麗子さんが出演した。作品間で声優交代があったキャストを両方呼ぶイベントというのは、個人的にはちょっと記憶にない。残念ながら綾崎若菜役の小田美智子さん、星野明日香役の岡本麻見さん、保坂美由紀役の牧島有希さんの出演はかなわなかったが、イベントパンフレットには3人からのメッセージが寄せられていた(牧島さんからは、イベントに参加できない残念さと作品に関われた幸せさをこめた「参加できなくて、せつなさ炸裂~!」のボイスメッセージも届いていた)。

会場照明が暗転し、ゲーム「センチメンタルグラフティ」オープニングテーマ「雲の向こう」が流れる中、イベントはスタート。大倉らいた氏書き下ろしのオープニングメッセージをキャスト陣がキャラクターとして演じるボイスが流れたのだが、当時の伝説的なコピー「あなたに、会いたい…」のフレーズが「あなたに、会いたい……会いたかった!」になっていて、20年の時を越えて何かがつながったような、不思議な感動があった。

冒頭にキャスト陣からの簡単な挨拶があったのだが、「ダブル妙子の岡田純子です!」「ダブル妙子の有島モユです!」の名乗りはやはりインパクトがある。前田愛さんが「20年たってこの景色が見られるとは思いませんでした」と語ると、今野宏美さんは第一声から「泣いちゃうからやめて、よろしくお願いします~」と半泣きでふにゃふにゃになっていた。また会えた、会いたかったという言葉、そしてクラウドファンディングでこの場所につれてきてくれたファンへの感謝であふれた挨拶だった。


最初のコーナーは、「センチメンタルグラフティ」の名シーンを生アテレコで再現する内容。シーン選択にはキャスト本人も関わっていたようだ。実写背景を使った「センチメンタルグラフティ」の特徴的なゲーム画面がスクリーンに表示されると、そのたびに会場がざわめく。選ばれたシーンはほのかとラベンダー畑を見に行ったり、デートや告白にまつわるシーンが多かった。妙子に関しては岡田さんと有島さんがそれぞれ違うシーンを演じるのだが、ダブルキャストというよりは、「1」と「2」、それぞれの場所、それぞれの時期の妙子の雰囲気と想いが感じられてとてもよかった。


全体的な印象として、20年前のままのキャラクターを演じているのに、演技に深みが増しているようにも感じられて、声で演じる声優ならではの不思議な感覚を受けた。スクリーン表示が乱れる場面が2度ほどあったのだが、少しだけ素を見せたアドリブで乗り切りながら、自然な流れではにかむえみるの演技に戻っていった前田愛さん、映像トラブルを冷静に流しながら、続くシーンでの魂を込めた、会場を震わせるような迫力のシャウトで会場と自身の気持ちをぐいっと物語に引き寄せた米本千珠さんにはプロの役者魂を感じた。アンモナイトを見せるるりかや、流星群を一緒に見つめる七瀬、主人公のためにバイオリンを奏でる晶といったかつての名場面を今の役者たちが演じることで、ファンたちとキャストが一緒に20年の時間を取り戻しているようだった。

「たった一つの想い出のコーナー」では、メンバーそれぞれが思い出の写真を見せながらエピソードトークを展開。米本さんは20年前、中野サンプラザで行なわれたラストコンサートの控室の写真を紹介し、緊張するタイプだった米本さんと鈴木麻里子さんが、控室でこっそりビールを少し飲んでいたという時効エピソードを告白。そのことを初めて知った多くのメンバーは驚いていた。今野宏美さんは1997年1月19日、うさぎ組(SGガールズの一般公募組)6名が発表された、まさにはじまりの日の写真を披露。今回イベントに参加できなかったメンバーも、写真の公開を快く承諾してくれたとのことだ。思い出の写真には20周年プロジェクトが動き出してからの写真も多く、メンバーが現在進行系で活動を楽しんでいることと、この日に向けて話し合い、準備を重ねてきたことが伝わってきた。個人的には安達妙子役の岡田純子さんと有島モユさんがウサ耳をつけたツーショット写真や、20周年の書き下ろしイラストと同じ配置で撮った集合記念写真が印象に残った。

ゲームコーナーの「イラスト伝言ゲーム」は、10秒という時間制限に対してお題が難解すぎて(「黄道十二星座」など)あまりうまくいかなかったのだが、北チームリーダーの鈴木麻里子さんに対して、南チームの西口有香さんがヤングチームを自称。2人がバチバチ対立感をあおっていく様子がそれだけで面白い。負けた北チームは、罰ゲームとして「センチメンタルグラフティ」関連ものまねを披露。なかでもリーダー鈴木麻里子さんのえみりゅんの真似は素晴らしかった。

昼の部はトークメインのイベントと予告されていたが、ステージを締めくくるミニライブもあった。ここでは生バンドで(!)「約束」「未来〜センチメンタルグラフティ」「たった一つの想い出」の3曲を披露。「未来~センチメンタルグラフティ」は今回のプロジェクトをきっかけに制作された完全新曲で、12人の少女たちの物語を詰めこんだ大倉らいた氏の原詩を元に、濱田智之氏が作り上げた楽曲だ。キャスト陣がステージから楽しそうにコールをあおっていき、ラララの歌声に合わせて会場が一体になって大きく手を振る姿はとても幸せな光景だった。次ページでは、ライブメインの夜の部をレポートしていく。

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