作詞のマエストロ:阿久悠が遺した、子どもたちへの熱き心のメッセージCD「誰もが勇気を忘れちゃいけない ~大事なことはすべて阿久悠が教えてくれた~」【不破了三の「アニメノオト」Vol.03】

「アニメノオト」第3回は、2018年12月19日に発売になったCD「誰もが勇気を忘れちゃいけない ~大事なことはすべて阿久悠が教えてくれた~」に注目します。このCDは、2007年8月に惜しまれながら世を去った名作詞家・阿久悠が遺した膨大な仕事の中から、アニメや特撮などのテレビ主題歌や、ラジオや映画のテーマソング、新たに作られた童謡など、主に子どもたちに向けて作られた楽曲を中心に編集された2枚組全50曲収録のコンピレーション・アルバムです。また同時に、50曲中12曲が初CD化という、レアなアニソンを求めるファンには待望のソング集でもあります。

CDのタイトルになっている「誰もが勇気を忘れちゃいけない」とは、阿久悠作詞による1974年に放送された特撮ヒーロー番組「ウルトラマンレオ」の主題歌の一節です。当時、1973年に刊行された五島勉の著書「ノストラダムスの大予言」に端を発する「終末ブーム」が、小説・映画「日本沈没」(1973)の大ヒットを経て子どもたちの「将来」のイメージに暗い影を落としていました。その頃の憂鬱な雰囲気や厭世的な諦めムードは、漫画・アニメの「ちびまる子ちゃん」でも描かれたことがあるほど。そして1974年、その余波があのウルトラシリーズにも到達します。「ウルトラマンレオ」主題歌に織り込まれた、「地球の最後」「誰かの予言」「何かが終わりを」といったフレーズは、まさに終末ブームの先端にこの作品が位置していたこと、そして阿久悠がその機運を確実に意識していたことを裏付けています。さらに、東京が大津波に没しようとしている中、あのウルトラセブンが倒されるという絶望的な状況から物語がスタートする第1話は、まさに「この世の終わり」を感じさせるに十分な、鬼気迫る迫力を放っていたのです。

しかし、阿久悠はそこにひと筋の希望の光を与えてくれます。それこそが「誰もが勇気を忘れちゃいけない」という一片の言葉でした。単純に「ウルトラマンレオが助けてくれるよ」ということではなく、君たち自身が何かをしなくては、未来は切り開けないんだ……という投げかけが、そこには含まれています。危機感や絶望感をあおるだけではなく、前向きなメッセージで子ども達の頭上にのしかかる暗雲を吹き払い、勇気を奮い立たせる……。阿久悠が主題歌に込めた言葉には、そうした強い力がありました。そこから45年の歳月が過ぎ、当時何気なくテレビを見ていた子どもたちは大人になり、振り返ってみれば、大事なことをいくつも阿久悠の詞から教わっていたことに気付かされます。そうした楽曲を集めた本CDは、「平成も終わりを告げようとしている今、昭和を象徴する作詞家・阿久悠の手がけた歌から、未来へつなぐメッセージを再考するための音楽集」と銘打たれています。

CDには、この「ウルトラマンレオ」を筆頭に、「デビルマン」(1972)、「ファイヤーマン」(1973)、「ウルトラマンタロウ」(1973)、「スーパーロボット レッドバロン」(1973)、「宇宙戦艦ヤマト」(1974)などの番組のオープニング、エンディング、挿入歌がズラリと並んでいます。あらためて眺めてみると、阿久悠によるアニメ・特撮ソングがこの1972年~1974年あたりで爆発的に増えていることがよくわかります。そして、この短い期間の中で、阿久悠の歌詞世界が大きな進歩を遂げていることにも注目すべきでしょう。初期の「デビルマンのうた」では、デビルマンというヒーローの出自、境遇、武器名などをていねいに説明していくという、同時代の特撮番組「仮面ライダー」の主題歌等でも取られたおなじみの手法で歌詞が書かれています。しかし徐々に、上記の「ウルトラマンレオ」でも述べたような、「君たちはどうする?」という投げかけが含まれていくように変わっていきます。その最たるものが1974年の「スーパーロボット マッハバロン」主題歌「マッハバロン」。当時番組を体験した子どもたちにとって、強烈な思い出として心に刻まれている「じゅうりん(蹂躙)」というワード。およそ子ども番組の主題歌では考えられないような、この言葉のチョイスも含め、前半の歌詞には、「悪の支配に対して、君ならどうする?」という子どもたちへの強い問いかけ(詰め寄り、と言っても過言ではないほどの)が展開されます。「ウルトラマンレオ」と並び、この「マッハバロン」の歌詞の世界こそ、「阿久悠のメッセージを再考するための音楽集」という本CDのテーマを象徴していると言えるでしょう。これら、1974年に向かう阿久悠子どもソングの爆発と充実の過程については、本CDの企画・監修・解説を担当した秋廣泰生氏によるライナーノート「阿久悠と子どもの歌・研究序説」にも詳しく解説されています。

また本CDには、アニメ・特撮主題歌以外の子どもの歌も多く収録されています。1966年の「トッポ・ジージョのワン・ツーかぞえうた」は、阿久悠のシングル盤A面のデビュー曲。その作詞キャリアのスタート地点からして、すでに子どもの歌との強い関わりを持っていたことがうかがえます。また、1971年の「ピンポンパン体操」は約260万枚を売り上げたという空前の大ヒット曲で、1972年末の第14回日本レコード大賞では童謡賞を受賞しています。前年の1971年には尾崎紀世彦の「また逢う日まで」で大賞を受賞している阿久悠が、翌年には童謡賞を獲得している……。この事実だけでも彼の才能の振り幅と守備範囲の広さ、そして子どもの歌への本気度が垣間見えるような気がします。

そしてさらに注目すべきは、子どもに向けた歌を作りたいとみずから企画・提唱し、1977年にコロムビアレコード内に設立したレーベル「ぱくぱくポケットレコード」の楽曲群です。NHK「おかあさんといっしょ」「みんなのうた」、フジテレビ「ママとあそぼう!ピンポンパン」「ひらけ!ポンキッキ」などが生み出した数々のヒット新童謡の境地に、阿久悠がテレビの力に頼らずに挑戦した知られざる名曲たちです。堀江美都子、水木一郎、前川陽子、かおりくみこ、こおろぎ'73など、コロムビアのアニメソング常連歌手が参加しているのもポイントです。レーベル設立に際し阿久悠は、「子どものためにという思い上がりを捨てて、笑い転げる、泣き叫び駆け巡る、という喜びを大人自らたずねることだと思う」と、その意欲を語っています。1977年の阿久悠というと、都はるみ「北の宿から」(1976)、沢田研二「勝手にしやがれ」(1977)、ピンク・レディー「UFO」(1978)で、日本レコード大賞3年連続受賞という前人未踏の偉業を築きつつあった、まっただ中のタイミング。全キャリアを見渡してみても、最も多忙を極めたであろうはずのこの時期に、みずから子どもソング専門レーベルを立ち上げていたという事実にこそ、大きな意味があります。人気作詞家がたまたまアニメ・特撮主題歌を依頼されたわけではなく、阿久悠自身にそもそも子どもの歌に賭ける情熱があふれていた……。これらの歌は、その証(あかし)と言えるでしょう。

アニソン・サントラファン目線としては、映画「哀しみのベラドンナ」(1973)、アニメ「星の王子さま プチ・プランス」(1978)、映画「伊賀野カバ丸」(1983)、映画「オーディーン 光子帆船スターライト」(1985)関連楽曲の初CD化がとにかくうれしい本作。ですが、ここはひとつ、「大事なことはすべて阿久悠が教えてくれた」という企画趣旨に立ち返り、阿久悠の子どもに対する眼差しの厳しさと温かさ、そして、その詞の世界を今一度じっくりと味わう機会として、このディスクの音の耳を傾けてほしいところです。

そして去る1月17日には、本CDの発売を記念したイベント、「日本コロムビアpresents CD『誰もが勇気を忘れちゃいけない』発売記念 トークライヴ『大事なことはすべて阿久悠が教えてくれた』」が、新宿のROCK CAFE LOFT is your roomで開催されました。本CDの企画・監修・解説を担当した秋廣泰生氏を迎え、筆者・不破が進行役を仰せつかったこのイベントでは、収録曲から秋廣氏自身がさらにセレクトした曲を聴きながら熱い思い入れを語っていただきつつ、収録曲の選曲意図や、曲順構成の謎、なにゆえジャケットに「王様ランキング」(作:十日草輔)のイラストが使われているのか……など、数々の疑問にお答えいただきました。秋廣氏は、ウルトラシリーズをはじめとする特撮ヒーロー作品の映像商品制作や、出版物、CD、Blu-rayの構成執筆を手がけるクリエイター。1972年~1974年の阿久悠爆発・充実期を、まさしくターゲット世代である幼児~低学年の年齢で体験し、かつ、その後のヒーロー作品の歴史と各世代への受容の様子もつぶさに見てきた氏からこそわかる、昭和の時代の阿久悠子どもソングに込められたメッセージの鮮やかさとその重みについて、3時間たっぷり語っていただきました。

このイベントがCD発売元の日本コロムビアの主催であったことにも注目です。アニソンやサントラに関するこうしたトークイベントは、ここ10年あまりでかなり盛んに実施されるようになりましたが、レコード会社みずからが企画しての開催は稀有なこと。製作側自らが、しっかりとCD内容の「意図開き」を行い、商品に込めた熱い想いを語り、ファンの疑問に答えるという形は、販促的な色の強いインストアイベント等とはひと味違った、さらに一歩踏み込んだ「濃い」企画としての新しい試み。今後もぜひ継続的に開催していただきたいスタイルのイベントでした。

(文/不破了三)

【商品情報】

■CD「誰もが勇気を忘れちゃいけない ~大事なことはすべて阿久悠が教えてくれた~」

・企画・監修・解説:秋廣泰生

・ジャケット・イラスト:十日草輔(『王様ランキング』より)

・発売日:2018年12月19日

・価格: 3,200円(税別)

・レーベル:日本コロムビア

【イベント概要】

■日本コロムビアpresents

CD『誰もが勇気を忘れちゃいけない』発売記念 トークライヴ

「大事なことはすべて阿久悠が教えてくれた」

・日時:2019/01/17(木) 19:30~

・場所:ROCK CAFE LOFT is your room

・出演:秋廣泰生(ライター/映像演出家)、不破了三(音楽ライター)

・主催:日本コロムビア

■収録内容

<DISC-1>

1.マッハバロン / すぎうらよしひろ

NTV系『スーパーロボット マッハバロン』

2.ファイヤーマン / 子門真人

NTV系『ファイヤーマン』

3.レッドバロン / 朝コータロー

NTV系『スーパーロボット レッドバロン』

4.ウルトラマンタロウ / 武村太郎、少年少女合唱団みずうみ

TBS系『ウルトラマンT』

5.パジャママンのうた / 石毛恭子、東京ちびっこ合唱団

CX系『ママとあそぼう!ピンポンパン』

6.ワイルドセブン / ノンストップ

NTV系ドラマ『ワイルド7』

7.デビルマンのうた / 十田敬三、ボーカル・ショップ

NET系『デビルマン』

8.ウルトラマンレオ / 真夏竜、少年少女合唱団みずうみ

TBS系『ウルトラマンレオ』

9.青春まるかじり / 黒崎輝(協力:高木淳也・真田広之) ※

映画『伊賀野カバ丸』

10.ピンポンパン体操 / 杉並児童合唱団、お兄さん(金森勢)

CX系『ママとあそぼう!ピンポンパン』

11.ヤンマだアゲハだマメゾウだ / ヤング・スターズ

NET系『ミクロイドS』

12.MACのマーチ / 真夏竜、少年少女合唱団みずうみ

TBS系『ウルトラマンレオ』

13.HOSHIMARU音頭 / TPO、池田智子

科学万博-つくば'85

14.ツンツンソング / 嶋崎由理、コロムビアゆりかご会

TBSラジオ『全国こども電話相談室』

15.愛の勇者たち / ささきいさお

TBS系『ザ★ウルトラマン』

16.プラトニック / 鹿取容子 ※

映画『オーディーン 光子帆船スターライト』

17.哀しみのベラドンナ / 橘まゆみ ※

映画『哀しみのベラドンナ』

18.ジャンヌの涙 / 橘まゆみ ※

映画『哀しみのベラドンナ』

19.眠れマッハバロン / すぎうらよしひろ

NTV系『スーパーロボット マッハバロン』

20.私のオーディーン −オーディーンの乙女− / 鹿取容子 ※

映画『オーディーン 光子帆船スターライト』

21.真赤なスカーフ / ささきいさお、ロイヤル・ナイツ

よみうりテレビ系『宇宙戦艦ヤマト』

22.兄さんのロボット / コロムビアゆりかご会

NTV系『スーパーロボット レッドバロン』

23.つむじかぜ / ノンストップ

NTV系ドラマ『ワイルド7』

24.星のサンバ / トゥインクル・シスターズ ※

ABC系『星の王子さま プチ・プランス』

25.スターダスト ボーイズ / 影山ヒロノブ

テレビ朝日系『宇宙船サジタリウス』

<DISC-2>

1.バースデイの唄 / 堀江美都子、こおろぎ'73

ぱくぱくぽけっとレコード

2.じゃりん子チエ / ビジー・フォー

映画『じゃりン子チエ』

3.ドロンチョドロドロヨゴラッタ / パインストーンズ、杉並児童合唱団

CX系『ママとあそぼう!ピンポンパン』

4.トッポ・ジージョのワン・ツーかぞえうた / 山崎唯

TBS系『トッポ・ジージョ・イン・ジャパン』

5.ヒマラヤ雪男くん / 小林亜星、コロムビアゆりかご会

ぱくぱくぽけっとレコード

6.毛虫のモモちゃん / 前川陽子

ぱくぱくぽけっとレコード

7.アメリカなまりのニワトリ / スチーブン・トート、こおろぎ'73 ※

ぱくぱくぽけっとレコード

8.星の王子さま プチ・プランス / 鈴木賢三郎 ※

ABC系『星の王子さま プチ・プランス』

9.結婚行進曲 / かおりくみこ、大倉正丈

ぱくぱくぽけっとレコード

10.DOMO DOMO コンチェルト / 星野知子、森の木児童合唱団 ※

CX系ドラマ『サザエさん』

11.びっくりマークの日々 / 星野知子、森の木児童合唱団 ※

CX系ドラマ『サザエさん』

12.秋田から来た先生 / 左とん平

ぱくぱくぽけっとレコード

13.ズッコケ純情 / 中野康 ※

ポプラ社刊 こども文学館『ズッコケ三人組』

14.フレンズ / ヤング・フレッシュ

TX系『ピンク・レディー物語 栄光の天使たち』

15.ウルトラ六兄弟 / 武村太郎、少年少女合唱団みずうみ

TBS系『ウルトラマンT』

16.今日もどこかでデビルマン / 十田敬三

NET系『デビルマン』

17.ザ・ウルトラマン / ささきいさお、コロムビアゆりかご会

TBS系『ザ★ウルトラマン』

18.飛べ!!宇宙のレッドバロン / 団しん也

NTV系『スーパーロボット レッドバロン』

19.ミクロイドS / ヤング・スターズ

NET系『ミクロイドS』

20.スーパーモンキー孫悟空 / ピンク・レディー

TBS系『飛べ!孫悟空』

21.戦え!ウルトラマンレオ / ヒデ夕樹、少年少女合唱団みずうみ

TBS系『ウルトラマンレオ』

22.夢光年 / 影山ヒロノブ

テレビ朝日系『宇宙船サジタリウス』

23.時の中を走りぬけて / 石原慎一

映画『ウルトラマンUSA』

24.宇宙戦艦ヤマト / ささきいさお、ロイヤル・ナイツ

よみうりテレビ系『宇宙戦艦ヤマト』

25.追い出しの歌 / 左とん平 ※

映画『ミュージカルファンタジィ ジャックと豆の木』

※初CD化音源

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