【ざっくり!平成アニメ史】第5回 平成5年(1993年)――テレビアニメのあり方を変えた!? 「無責任艦長タイラー」の衝撃! そして爛熟のOVA、アイドル声優時代の到来!!
さまざまなアニメが生まれては消えていった、激動の平成。31年の歴史を、アニメタイトルとともに振り返る連載第5回。今回もスタート!
(※画像は公式サイトより)
テレビアニメの主流は原作ものアニメ!
この時期のテレビアニメの主流は、原作つきアニメだった。
あいかわらず「ドラゴンボールZ」の人気は衰えることはなく、毎回視聴率は20%オーバー。そのあまりの人気ゆえに、野球中継の開始時間を「ドラゴンボールZ」終了後にずらす、なんて珍事も発生するほどだった(今では考えられないが、当時の野球中継はほかのどんな番組よりも優先して放送されるくらいの社会的地位があったにもかかわらず!)。また、当時は「週刊少年ジャンプ」の人気がグイグイと上昇している時期であり、続々と連載作品がアニメ化。1993年は「ジャングルの王者ターちゃん」「SLAM DUNK」の2作品が放送スタートした。
また「ろくでなしBLUES」が「ろくでなしBLUES 1993」のタイトルで劇場用アニメ化(1992年にもアニメ映画化されたが、1993年版でキャストやスタッフがほぼ一新された)。「ジョジョの奇妙な冒険」第3部がOVA化するなど、ジャンプアニメが百花繚乱。
ライバル誌にあたる「週刊少年サンデー」からは「剣勇伝説YAIBA」「GS美神」がテレビアニメ化。「今日から俺は!!」がOVA化。「週刊少年マガジン」からは「シュート!」がテレビアニメ化され、3大少年誌の人気アニメがブラウン管を盛り上げた。
また、「忍たま乱太郎」「3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?」「しましまとらのしまじろう」といった、今も人気のキッズ向けアニメもこの年より放送開始。キッズアニメ、と言いつつも「忍たま乱太郎」は、個性豊かな男子キャラに女性ファンが急増。いろいろな意味で幅広いファン層を形成しているし、「うちのタマ知りませんか?」はファンシーな絵柄に似合わず、「出会いと別れ」「生と死」といった重たいテーマのストーリーを時折ぶっ込んできたりと、なかなかあなどれない内容にアニメファンから高い評価を得た。
何もかもが新しかった「タイラー」
90年代のアニメの定番、ロボットアニメはこの年も好調。エルドランシリーズ「熱血最強ゴウザウラー」、勇者シリーズ「勇者特急マイトガイン」といった定番シリーズに加え、SDロボたちが熱血スポーツバトルを展開する「疾風!アイアンリーガー」が放送スタート。大河原邦男による、さまざまなスポーツをモチーフにしたSDロボたちの活躍に、子どもたちの人気が集中した。
また、久々の「ガンダム」TVシリーズとして「機動戦士Vガンダム」の放送がスタートした。当時人気のRPG要素を導入した……と設定資料や企画書に記載されていたVガンダムだが(おそらくパーツ換装や武器のパワーアップでレベルアップしていく的な構想があったのだろう)、どうもその目論見はうまく機能せず視聴率、玩具、プラモデルの売り上げは思うほどは立たなかったそうだ。しかし、VHS、LDといったパッケージの売り上げが好調だったという。結果的に、本作は今後数年にわたり立て続けに「ガンダム」シリーズがTV展開する嚆矢(こうし)となった。
そんな中で登場したのが、「無責任艦長タイラー」である。本作は吉岡平原作のSF小説……今でいうところのライトノベル「宇宙一の無責任男」シリーズを原作とするアニメであり、おそらく初めてテレビアニメ化されたライトノベル作品だろう。
と同時に、本作は史上初めてビデオなどのパッケージ商品での販売を前提としたテレビアニメだと言われている。また、テレビ放送に先駆けた情報ビデオをはじめとするキャストやスタッフが登場する関連ビデオ、イメージソングCDやミュージッククリップ集、テレホンサービス「8585(パコパコ)ダイヤル」、イベントの開催といった実験的な施策が数多く行われ、現在のアニメビジネスのひな形を作ったとも言える。
企画団体「タイラープロジェクト」に参加したのは、キングレコード、バップ、メディアリングといった複数メーカー。これがアニメ業界における、製作委員会制度の元祖という説もあり、まさしくさまざまな面で非常に画期的な作品だった。余談だが、食玩プラモも発売されたが、子ども向けの軟式プラではなく、通常のプラモデルと同じ素材だったことも、当時「大きなお友達」の間で大きな話題となった。
結果として本作は成功と言えるだけの収益を上げ、OVAシリーズも後に制作されることになる。
ハイクオリティな映像が魅力のOVA作品
さて毎年のように、アニメファンをうならせる新作が発売されていたOVAだが、1993年ほど多くの話題作がリリースされた年はないだろう。
この時期のOVAには、目の肥えたアニメファンも納得するクオリティの映像と、ていねいに演出された作品が多いというイメージがある。
その代表としてあげたいのが「ああっ女神さまっ」、そして「ぼくの地球を守って」の2作品だ。「女神さまっ」は藤島康介原作の人気マンガのアニメ化作品で、冴えない大学生のもとに母性溢れる女神・ベルダンディーが降臨。そのまま同居してしまう、という男子にはたまらないシチュエーションのラブコメディ。本作は麗しい女神とのなんともむずがゆいドラマもさることながら、藤島康介ならではのこだわりのメカニック描写が魅力である。美女とメカというオタクの2大好物を高いクオリティで共存させたことで、大きなヒットを記録。
また、女神三姉妹を演じた井上喜久子、冬馬由美、久川綾によって結成された声優ユニット「GODDESS FAMILY CLUB」も人気を博した。
いっぽう、「ぼくの地球を守って」は、少女マンガ雑誌「花とゆめ」(白泉社)に連載された、日渡早紀原作マンガのアニメ版だ。前世の記憶に翻弄される若者達の愛憎を描いた本作は、当時のスピリチュアル全盛な風潮と合致。オカルト雑誌にも、本作の影響を受けた読者による、「前世の仲間」を募る呼びかけの投稿が殺到したという逸話を持つ作品である。
そんな本作のアニメ化を手がけたのは、Production I.G。リアリティあふれる人物や都会の描写はさすが、といったところ。後藤隆幸の端正なキャラクターデザインも見ごたえがあった。
ちなみにエンディングテーマ「時の記憶」の作詞・作曲を手がけたのは、菅野よう子だった。この曲は、本作の幻想的な世界観を見事に表現した名曲アニメソングであり、当時から一部のアニメファンの間では非常に高い評価を得ていた。この時点ではまだゲームミュージックとCMソングを主に手がけていたため、アニメファン的にはまだ無名の存在であった菅野だが、彼女が「マクロスプラス」のサウンドトラックでアニメ業界に衝撃を与えるのは翌年のことである。
名作だらけでアニメファンも時間が足りない!? 爛熟のOVA
アニメ史的に忘れてはならないのは、OVA「アイドル防衛隊ハミングバード」だ。本作は、おそらく最初の、「声優がアイドル活動をすることを前提として」制作されたアイドルアニメだ。
自衛隊が民営化されたことで、芸能界はアイドルを戦闘機パイロットにしてしまった! というぶっ飛んだ設定の本作だが、メカ、アクション、アイドル、美少女と、僕たちの大好きなものを全部乗せにした高カロリーな作品。
主役のアイドルグループ「ハミングバード」の取石姉妹を演じたのは、すでに声優として活動中だった三石琴乃、玉川紗己子、天野由梨に加え、歌手出身の草地章江、アイドル出身で本作が本格的な声優デビュー作となる椎名へきるの5人。彼女たちは劇中のライブシーンや主題歌だけでなく、実際にライブ活動も展開し人気を博した。
そのほか、「NG騎士ラムネ&40 DX ワクワク時空 炎の大捜査戦」「超音戦士ボーグマン2 -新世紀2058-」「タイムボカン王道復古」「超時空世紀オーガス02」「魔神英雄伝ワタル 終わりなき時の物語」「魔法のプリンセス ミンキーモモ」「エイトマンAFTER」といった人気テレビアニメの続編もの。「銃夢」「特捜戦車隊ドミニオン」「人魚の傷」といったテレビアニメではなかなか描けない、ハードな内容の作品。さらに手塚治虫の名作を監督・出崎統、キャラクターデザイン・杉野昭夫という名コンビがじっくりと映像化した「ブラック・ジャック」、前年の「天地無用!魎皇鬼」と同じくパイオニアLDCから発売され「月刊少年キャプテン」(徳間書店)でコミカライズ展開も行われた「モルダイバー」、スーパーロボットアニメのオマージュと学園ドラマがミックスした「流星機ガクセイバー」、「NG騎士ラムネ&40」スタッフによる新作「KO世紀ビースト三獣士」などなど、あげればキリがないほど数多くの傑作OVAがリリースされた。
そのほか、OVA専門誌「アニメV」(学習研究社)誌上では、「雲界の迷宮ZEGUY」のキャスティング投票企画が行われていた。読者が投票でキャストを決める、というなかなかすごい企画だが、そんな企画も通ってしまうほどOVAには勢いがあったのである。
バーチャル・アイドル「ウインビー」誕生
劇場用アニメでは、押井守監督の「機動警察パトレイバー 2 the Movie」が、この年の目玉と言える。当時の国際事情を下敷きに、実際に東京に「レイバー(劇中に登場するロボット)」が存在したら、都心を舞台にテロが行われたら、といった状況をシミュレートして作られた本作は、ニュース番組映像や爆撃シーン、人々の行動パターンなどが徹底的にリアルに作りこまれていた。いっぽうで、主人公たち特車二課のメンバーの登場が極端に少なくなってしまい、そこを不満に思うファンも少なくはなかったが、それでも認めざるを得ない説得力と、映画としての魅力にあふれていた本作は、業界内にも多くのファンを生んだといわれている。
そのほか後に「少女革命ウテナ」を手がける幾原邦彦監督の「劇場版美少女戦士セーラームーンR」や、「クレヨンしんちゃん」の映画シリーズ第1作「クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王」がヒットを記録。また、故・景山民夫の小説を原作とする「Coo 遠い海から来たクー」も、年末映画として話題となった。
最後にアニラジ事情にも触れておこう。
1991年の「魔神英雄伝ワタル3」をきっかけに、再評価され始めたアニメを題材としたラジオだが、この時期になるとかなりの本数が文化放送、ニッポン放送などを中心に放送されていた。
そんな中でスタートしたのは「ツインビーPARADICE」だ。コナミのシューティングゲーム「ツインビー」を題材としたこの番組では、それまで特に名前が設定されていなかったパイロットにそれぞれ「ライト」「パステル」と命名。彼らを中心としたラジオドラマと、まだ若手だった国府田マリ子をパーソナリティーに据えたトークパートの2部構成で放送された。
そもそもこの番組は、コナミが立ち上げた「ウインビー国民的アイドル化計画」の一環としてスタートした企画。まだ「パステル」と命名される前のウインビー(cv:椎名へきる)を、「主演ゲームやアニメビデオ、グッズ販売、イベント、ライブなどで『バーチャル・アイドル』に育て上げていこう」という壮大なプロジェクトの一つだったのである。その結果、ウインビー(パステル)をアーティストとして扱ったCDが複数枚リリースされ、好評を博した。
これは制作サイドが自覚的に、キャラクターを「バーチャル・アイドル」として売り出そうとした最初の例である。本作がなければ、もしかしたら現在のアイドルアニメやボーカロイド文化、バーチャルユーチューバーもなかったかもしれない。
また、「ツインビーPARADICE」からは椎名へきる、国府田マリ子という2大アイドル声優が羽ばたいていくこととなる。ちょうど90年代半ばはアイドル冬の時代といわれていた時期である。新たなアイドルを欲していたアイドルファンも巻き込む形で、アイドル声優人気は徐々に盛り上がりをみせ始める。
(※文中の敬称は省略しております。ご了承ください)
おすすめ記事
-
農家のおじさんに迫る魔人ブウ…10月発売の「ドラゴンボール ザ ブレイカーズ」新PV公…
-
氷川きよし、ジャンプイベントで「ドラゴンボール超」OP曲を熱唱!フルサイズ初披露…
-
もちろん襟も立てられる! 「ドラゴンボールZ」から、トランクスの超ショート丈ジャ…
-
「ドラゴンボール超」主題歌集&サウンドトラック発売決定! 串田アキラが歌う挿入歌…
-
映画「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」最新映像が解禁! 謎の新キャラ&あの組…
-
大塚明夫が猫で田中真弓がおじいちゃん⁉「俺、つしま」2021年夏アニメ化決定!
-
ドラゴンボールレトロソフビコレクションに、劇中で一度だけ登場したサイヤ人スーツ…
-
【秋アニメ】声優業界は特殊な“個性”持ちが集う業界だった!? 「僕のヒーローアカデミ…
-
次のフリーザ編の商品化キャラは果たして……?「ドラゴンボール特集展示」in TAMASHII…
-
9/29開催の「PlayStation祭 OSAKA 2019」の新たな出展タイトルが判明! イベントや…
-
ドラゴンボールZ 復活の「F」、来場者特典が決定! 鳥山明による描き下ろし資料集…
-
アニメ映画『ドラゴンボールZ 復活の「F」』、主題歌担当・ももいろクローバーZがゲ…