ありがとう、ヨコハマいちの名探偵たち! 笑って、泣いて、最後にまた笑って!! 「ミルキィホームズ ファイナルライブ Q.E.D.」レポート

2019年1月28日、「探偵オペラ ミルキィホームズ」のメインキャストを務める三森すずこさん、徳井青空さん、佐々木未来さん、橘田いずみさんによる声優ユニット「ミルキィホームズ」が、最後のライブ「ミルキィホームズ ファイナルライブ Q.E.D.」を日本武道館にて開催した。

2019年1月28日、月曜日。

平日にも関わらず、九段下の駅から上る坂道には、ユニットとしてのミルキィホームズの最後を見届ける人たちの長い行列ができた。当日券なしの完売、文句なしのソールドアウトだ。会場にはミルキィの歴史を一緒に歩んできた関係者や、ゆかりのある人々、懐かしい顔がいくつも駆けつけた。週末が忙しい特殊な業界だから、ちょっとした同窓会にはかえってよかったかもしれない。これは、特別な日なのだと。ミルキィホームズという存在が特別だったのだと、改めて感じる開演前だった。

「声優ユニット」としてのミルキィホームズの特色は、どんなものだろうか。

いつだって明るく楽しく、笑顔のステージ。通常のライブの枠に留まらない、エンターテインメント性に満ちた演出と構成。そして経験と練習の積み重ねに裏打ちされた、実はストイックなパフォーマンス。個人的にはこんなイメージだ。

声優ユニットとしての活動がクローズアップされるようになった頃から、メンバーから感じるようになったのが、普通のライブではやらないような、何か面白いことをやりたい!という強いモチベーションだ。武道館で空を飛んだり、ステージでお餅をついたり、太鼓を叩いたり。2012年の最初の武道館あたりから、ミルキィホームズのライブでは大がかりで新しい演出による驚きを感じることが増えたと思う。

それと同時に見落とされがちなのが、ライブパフォーマーとしてのミルキィホームズの高いクオリティだ。「ミルキィホームズ ファイナルライブ Q.E.D.」にて、おなじみのアバンタイトルミュージックとともにステージに登場したミルキィは、「正解はひとつ!じゃない!!」「ナゾ!ナゾ?Happiness!!」「びよんど THE ミルキィウェイ」を立て続けに披露。「ヨコハマいちの名探偵、ミルキィホームズです!」の名乗りと今日を最高の1日にしようという短い意気込み、円陣を挟むと、そのまま「ミルキィ A GO GO」「ミルキィ100ワールド」「恋の調査報告書」「総天然色フルパワー」をノンストップで休みなく歌いきった。

これだけのセットリストを、ヘッドセットで踊りながら歌うのは簡単なことではない。それをさほど息を切らす様子も見せず、さらっと笑顔でやりきってみせるのが今のミルキィホームズだ。もちろん、ライブ全編を通して4人がノンストップで踊り続けるのは現実的ではない。メンバー4人がそれぞれの個性を見せるソロステージをつなげていく構成は、ミルキィのセットリストを洗練させていく中で生まれたものだ。今回の武道館で先陣を切ったのは徳井さんの「SU☆PA☆PA☆スター」。ワイヤーによるフライングで楽しそうに宙を舞う姿は、ミルキィのなにか面白いことをやろうという姿勢を詰めこんだ表現だ。

佐々木さんの「ヒロイン探偵物語」の美しく音楽的な歌声。三森さんは「偉人先人 Oh, Hero!!」で格闘用のグローブを身につけ、ムエタイのワイクーのような舞いと、ボクササイズのような振付を見せた。青い薔薇を携えた橘田さんの「禁断サンクチュアリ」は彼女にしか作り出せない世界だ。ここまでのライブを見て思い出したのは、2015年9月19日に開催された「ライブ ミルキィホームズ 秋の大運動会」だ。「大運動会」というコンセプトのよさもあり、私感だが、今のスタイルを確立したミルキィホームズとしての最高傑作と言ってもいいライブだったと思う。だが最後のライブなのであれば、あの日を超えていってほしいと思った。

ライブ中盤の「Reflection」「オーバードライブ!」「勝利ノキズナ」はミルキィのかっこいい一面を詰めこんだ並びで、特に「勝利ノキズナ」で拳を掲げた4人の立ち姿の強さや、ピアノの旋律や鳴くギターに合わせた激しいダンス、そしてサビでエネルギーが吹き上がるような歌声の四重奏は圧巻と言ってよかった。

ここまでは、今のミルキィホームズの到達点を見せるステージ。ここからは「ミルキィホームズ」の歴史を振り返っていくようなパートだ。

4人が歌う「ふたりはミルキィホームズ」OP「ぐろーりーぐろーいん☆DAYS」は、同作の主人公の「2人」に対する呼び水だ。「ミルキィさん!」「ちょっと待ってください!」と登場した愛美さんと伊藤さんは、「ふたりはフェザーズ!」そして「6人でミルキィホームズ シスターズ!」の決めポーズ。黒と白の2人が6人の真ん中に立って「ピンチにパンチ」を歌う姿もこれが最後と思うと、胸がぎゅっとなる。その後のMCで2人からあふれた寂しさや様々な感情を思えば、ふたりが最高の笑顔の「セイシュンビギナー!」を刻んでくれたのは本当に素晴らしい頑張りだった。

森嶋秀太さん演じる小林オペラを、リアルタイムでは知らないファンも多いと思う。最初のPSP用ゲームソフト「探偵オペラ ミルキィホームズ」の主人公であり、ミルキィホームズを導く先生でもある……のだが、その後はイギリスに渡航しっぱなしで、アニメなどでの活躍は限定的である(彼に率いられたミルキィホームズがどれだけ有能で無敵なチームになってしまうかは、「探偵オペラ ミルキィホームズ Alternative ONE & TWO」を見よう)。だからこそ、今回のステージで思いを込めて「ANSWER」を歌った森嶋さんが、「これは重要なファクターだ!」の名台詞を放ったり、シャロたち4人に力強く指令を飛ばす姿を見せてくれたのは、最初のゲームもまた「ミルキィホームズ」にとって大切な歴史であることを示しているようで嬉しかった。

過去ではなく、最新の姿を見せたのが明坂聡美さん。「Brilliant Wish ~華麗なる欲望~」は2017年のアルバム「横濱行進曲」に収録された楽曲だ。ホームズ探偵学院のアンリエット生徒会長のイメージでキュートに歌いながら登場した明坂さんは、途中で衣装を脱ぎ捨てて黒のドレス姿になり、怪盗アルセーヌに変身した。サビではアンリエットとアルセーヌがデュエットする、おそらく最初で最後の姿を見せた。南條愛乃さんは「ココロノエデン」。美しくしっとりと歌い上げる姿は普段の明智小衣の騒がしいイメージとは違うが、これは小衣がスペシャルアニメ「探偵オペラ ミルキィホームズ サマー・スペシャル ~さようなら、小衣ちゃん。ロング・グッドバイ・フォーエバーよ永遠に…~」で見せたトランス系トップアイドルとしての姿だからだ。ミルキィと過ごした10年間を懐かしく振り返った南條さんが「これからもこの関係性が続けばいいな…」とつぶやいていたのが記憶に残った。


ミルキィホームズが過ごしてきた時間と関係性をぎゅっと凝縮したライブ本編のラストを飾ったのは、「バイバイエール!」。ゲーム「探偵オペラ ミルキィホームズ 2」のエンディングテーマだが、最高の笑顔で次のステージへと羽ばたく姿を描いた歌詞は、まるでこの日、最後のライブのためにあつらえたようだった。いろとりどりのテープが空を舞う中、よっつの歌声と笑顔がひとつになった姿は、無敵の光景だった。

いつだって明るく楽しく、最後まで笑顔で。ミルキィホームズというユニットとともにあったそのイメージは、最後のライブの本当に最後をどう飾るのかを難しくした部分もあるように思う。アンコール頭にはこれまでのミルキィを振り返るようなエモーショナルな映像が流れたのだが、映像の途中でぶつん、とブラウン管が消えるようなエフェクトでぶった切ると、そのまま最高にハッピーなタオル曲「ミルキィアタック」に突入した。この演出はミルキィには浪花節は似合わないという照れ隠しであるとともに、曲の後半に用意された「ありがとう ありがとう 出会ってくれてありがとう」から始まるこの上なくダイレクトな感謝と愛情の表現をぶつける意味もあったと思う。

4人もまた、最高のライブで高揚したテンション、楽しさ、寂しさが入り混じって、どんな表情をしていいのかわからないように見えた。だが、手紙朗読のコーナーで最初に進み出た佐々木さんの言葉で、空気が変わった気がする。「岩手の吹雪の中にいた私を見つけてくれて、夢をかなえるきっかけをくれたのがミルキィホームズでした」から始まった手紙では、感謝や、愛情や、不安や、さみしさが、包み隠すことなく表現されていた。その言葉を聞いていた3人の元に佐々木さんがしょんぼりと歩いていくと、橘田さんの背筋がピンと伸びて、来い!とばかりに抱きしめるための両手を広げて待ち受けた。その姿の頼もしさと、あたたかさ。

この10年間を宝物と呼んだ徳井さんは、最高のファミリー、最高の人生をくれた「ミルキィホームズ」と、ファンへの感謝を伝えた。三森さんが「ミルキィホームズになるために声優になった三森すずこではなく、表現者として声のお芝居をもっともっと探求したい三森すずことして」と明日からの決意を語った言葉には、この言葉に辿り着くための10年間だったのかもしれないと感じさせられた。手紙を巻物で用意して、「ちゃんと便箋にすればよかった」と、半分泣きながらも会場を笑わせて、空気をやわらかくしようとする気遣いは橘田さんならではのものだ。感動の手紙朗読のコーナー中に、メンバーから「自分が言いだしたんでしょ」と普通にツッコミが入るのもミルキィならでは。ミルキィホームズに出会って本当の自分を見つけられたという橘田さんは、万感の想いを込めた「いってらっしゃい」の叫びで手紙を締めくくった。

「聞こえなくてもありがとう」のBGMとともに流れた思い出の映像。三森さんが「私たちのはじまりの曲です」と告げて歌った「雨上がりのミライ」。そして、ミルキィホームズ最後のシングルナンバー「そして、群青にとけていく」。最後に4人はステージにそっと探偵帽を置くと、キラキラした泣き笑いの表情のままつないだ手をかかげ、ゆっくりとステージから消えていった。

ファイナルライブの演出として、完璧とも思えるラストの流れ。鳴り止まない拍手が「ミルキィ!」の名を呼ぶダブルアンコールに変わるまで、本当にアンコールをしていいのかうかがうような間があったほどだ。

だが、これはミルキィホームズのライブ。最後のライブでも、最後のライブだからこそ。ラストは絶対に笑顔で締めくくるはずだ。その確信があったから、「うわーー!!」と叫びながらステージに駆けこんできた4人が乱暴に探偵帽をひっつかんだ時には、思わず笑顔になってしまった。ほんとうのラストナンバーはもちろん、「正解はひとつ!じゃない!!」だ。ライブタイトルの「Q.E.D.」はこの曲で最高に盛り上がるコールであり、数学の証明終了を示す記号でもある。いつまでも続くと信じていたユニットのファイナルはとても寂しい現実だが、同時にユニットの旅の終わりとして、こんなに幸せな結末はそうはないはずだ。

歌い終えた4人はしーっと会場を静かにさせると、肉声で最後のメッセージ。声優ユニット・ミルキィホームズとしての最後の名乗りを済ませると、耳になじんだ、はじめての言葉で10年の活動に終止符を打った。

「ヨコハマいちの名探偵、ミルキィホームズでした!!」

(文/中里キリ)

【セットリスト】

M01:正解はひとつ!じゃない!!

M02:ナゾ!ナゾ?Happiness!!

M03:びよんど THE ミルキィウェイ

M04:ミルキィ A GO GO

M05:ミルキィ100ワールド

M06:恋の調査報告書

M07:総天然色フルパワー

M08:SU☆PA☆PA☆スター(徳井青空)

M09:ヒロイン探偵物語(佐々木未来)

M10:偉人先人 Oh, Hero!!(三森すずこ)

M11:禁断サンクチュアリ(橘田いずみ)

M12:ミルキィホームズがやって来る、イエィ!イエィ!イエィ!

M13:Reflection

M14:オーバードライブ!

M15:勝利ノキズナ

M16:ぐろーりーぐろーいん☆DAYS

M17:ピンチにパンチ(ミルキィホームズ シスターズ)

M18:セイシュンビギナー!(フェザーズ(愛美・伊藤彩沙))

M19:ANSWER(森嶋秀太)

M20:Brilliant Wish ~華麗なる欲望~(明坂聡美)

M21:こちらミルキィホームズ!

M22:みるみるUPっぷ↑↑

M23:カラフル with you

M24:いつだってサポーター!

M25:ココロノエデン(南條愛乃)

M26:プロローグは明日色

M27:ミルキィtea time

M28:Day by Day ~キミと一緒に

M29:毎日くらいまっくす☆

M30:バイバイエール!

EN01:ミルキィアタック

EN02:雨上がりのミライ

EN03:そして、群青にとけていく

WEN:正解はひとつ!じゃない!!

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