【ざっくり!平成アニメ史】第6回 平成6年(1994年)――「Gガンダム」「マクロスプラス」「レイアース」「チャチャ」──新時代を切り開く話題作多数で盛り上がった1年!

さまざまなアニメが生まれては消えていった、激動の平成。31年の歴史を、アニメタイトルとともに振り返る連載第6回。今回もスタート!

格闘技&サッカー熱がアニメにも影響!

1993年は、立ち技系格闘技世界一を決定する「K-1 GRAND PRIX '93」(第1回大会)や、アメリカの総合格闘技団体「UFC」の第1回大会「UFC1」が開催されたほか、ゲームセンターや家庭用ゲーム機では格闘ゲーム人気が最高潮を迎えていた。

このムーブメントはアニメにも大きな影響を与えており、テレビアニメでは「機動武闘伝Gガンダム」「レッドバロン」「真拳伝説タイトロード」「メタルファイター♡MIKU」。劇場用アニメでは「ストリートファイターII MOVIE」「餓狼伝説 -THE MOTION PICTURE-」といった格闘技をモチーフにしたアニメが多数発表された。

なかでも物議を醸したのが、今川泰宏監督による「機動武闘伝Gガンダム」である。それまでの「ガンダム」は「モビルスーツ」と呼ばれる人型兵器による戦争を通じて人類同士のリアルなドラマが描かれるSFアニメだったのだが、本作の内容は「世界各国のガンダムが、国の威信をかけて異種格闘戦をする」というマンガチックなもの。これには長年ガンダムを応援してきたファンもびっくり。そして猛烈な拒絶反応を示した。

本作が生まれる経緯としては、前年の「機動戦士Vガンダム」が商品展開や若年層への訴求がうまくいかなかった、という反省から、当時はやっていた格闘ゲームの要素を入れることになった、という事情がある。結果としてSDガンダムなどで「ガンダム」に親しんできた低年齢層のファン獲得に成功。また主人公ドモン・カッシュの師匠・東方不敗の強烈なキャラクター性や格闘家同士の熱いドラマが受け、徐々にアニメファンによる人気も上向いていった。最終的に、商業的には良好な結果になったほか、本作で取り入れられた5人組の主役チームというフォーマットは、本作以降の「ガンダム」シリーズに多く採用されるようになり、「ガンダム」像の更新、ファンの世代交代を成功させた。

本作がなければ、「ガンダム」シリーズの延命はなかったとも言われており、シリーズのターニングポイントと言ってもよいだろう。

同時期に放送されていた「レッドバロン」は1970年代に放送された特撮ロボットもののリメイクで、「Gガンダム」と同じコンセプトの、ロボットプロレスもの。「真拳伝説タイトロード」は同名の格闘ゲームのプロモーションとして制作された1クールものアニメだった(ただしゲームは結局発売されなかった)。これらの格闘アニメはいかにもな熱血男子キャラが主人公の作品だったが、「メタルファイター♡MIKU」は美少女がメタルスーツという強化アーマーを装着して戦う女子プロレスものだった。こちらもゲームなどにマルチメディア展開された。

劇場用アニメでは「ストリートファイターII MOVIE」「餓狼伝説 -THE MOTION PICTURE-」と、当時人気を2分していた格闘ゲームが夏映画として激突。大きな話題を呼んだ。「ストリートファイターII MOVIE」は、篠原涼子による主題歌「愛しさと切なさと心強さと」の主題歌シングルが200万枚オーバーの大ヒット。「餓狼伝説 -THE MOTION PICTURE-」も、大張正己監督が描く美形キャラと、異常にセクシーになった女性格闘家・不知火舞の描写が印象的だった。

日本プロサッカーリーグ――Jリーグ発足以来、最初のリーグ戦が行われたのも1993年のこと。日本中を巻き込んだサッカー熱を受けてサッカーアニメも続々と放送開始。一世を風靡したジャンプマンガ原作の「キャプテン翼J」、清水エスパルス2軍の選手を描く「ゴールFH」、日伊共同制作でサッカーの世界史を描く「サッカーフィーバー」が放送された。

このように、1994年は社会的な流行とアニメが密接な関わりを持っていた年だったと言える。

アニメの音楽に一石を投じた「マクロスプラス」と「マクロス7」

「ガンダム」がいろいろな意味で話題を呼ぶ中、「マクロス」シリーズ最新作もTVアニメとOVAの2ラインで展開した。

まず8月にOVA「マクロスプラス」のリリースがスタート。本作は、男女の三角関係を軸に、最新鋭戦闘機(バルキリー)の採用試験レースやバーチャルアイドル「シャロン・アップル」を使った陰謀などが繰り広げられる作品。本作を手がけたのは「ガンダム0083」で演出・絵コンテを担当した渡辺信一郎監督、脚本に信本敬子、音楽に菅野よう子といった、後に「カウボーイビバップ」を手がけることになる面々。さらに絵コンテを樋口真嗣、コンサートシーンを森本晃司が手がけるといった具合に、当時若手だった気鋭のクリエイターの面々が名を連ねる。

本作の特徴として、CGをアニメ表現に積極的に取り入れていた点があげられる。バーチャルアイドル・シャロンのコンサートシーンや戦闘シーンのデータ表現といった部分で、効果的に取り入れられたCG表現は、新たなアニメーションの可能性を感じさせた。

また、本作で初めてアニメの劇伴を手がけた菅野よう子は、緊迫感と迫力に満ちたBGM、独特の世界観を持つシャロンの音楽などで高い評価を得た。本作が彼女のキャリアにおいて大きなターニングポイントとなったことは間違いない。

いっぽう、10月からは久々のTVシリーズ「マクロス7」がスタート。こちらはロックバンド「ファイアーボンバー」のボーカリスト・熱気バサラが、熱すぎるロックスピリッツとギター&ボーカルで銀河を救うというSF活劇。「マクロスプラス」の洋画チックなイメージから一転し、こちらは少年マンガ的な世界観となった。バサラの歌パートを担当したのは、福山芳樹(これは翌年の1995年に公表された)。ロックバンド・ハミングバードのメンバーとして活動していた彼は、本作をきっかけにアニメ業界で名を知られるようになり、後にアニソンボーカルユニット「JAM Project」のメンバーとしても活躍するようになる。また、ファイアーボンバーの楽曲を収録したアルバムも20万枚超のヒットを記録(CDのリリース自体は翌1995年のこと)。音楽的にも高い評価を集めた。

そのほか、本作でもOP映像にCGで描かれたファイアーバルキリーが登場し、話題となった。

このように新世代のクリエーター、新技術を柔軟に取り込むことで「マクロス」シリーズは、大きく飛躍、拡大、発展していくことになる。特に両作品が、アニメにおける音楽の多様性、大衆性に一石を投じたことは間違いない。「マクロス」シリーズはアニメ作品における音楽の先導者として、「プラス」「7」以降もさまざまな影響をアニメ作品に与え続けている。

 

女子の活躍が目立った1994年

この年の特徴として、女の子が活躍する作品のアニメファン人気が高かったこともあげられるだろう。

その筆頭が、創作集団・CLAMP原作の「魔法騎士レイアース」だ。同人サークル出身で、それまでは高めの年齢層向けの作品を中心に発表してきたCLAMPだが、本作は少女マンガ雑誌「なかよし」(講談社)の連載と並行してアニメも展開。3人の女子中学生が異世界に召喚され、魔法騎士として戦うといういわゆる「異世界召喚もの」で、途中からは巨大ロボットに乗って戦うという予想外の展開に、視聴者は度肝を抜かれた。

第1部のストーリーは悪い魔法使いにさらわれたお姫様を救う、という王道のストーリーに見せかけてこれまた予想外の結末を迎え、第2部では国家間の戦争に突入。CLAMPらしい、非常に骨太なストーリーが描かれた。

本作は田村直美が歌った主題歌「ゆずれない願い」の主題歌シングルが100万枚の大ヒットを記録。番組自体も高い人気を獲得し、放送が1クール延長された。

個人的には最後のOPテーマ「光と影を抱きしめたまま」の、美しすぎる作画は非常に印象的だった。細やかな髪の動きや、ケレン味あふれるアクションなど見どころ満載。機会があれば、ぜひ一度見ていただきたい。

高田裕三のマンガを原作とする「BLUE SEED」も忘れられないタイトルだ。こちらは現代の日本を舞台に、伝奇・日本神話・妖怪がらみの事件を解決するというストーリー。もともとはOVAでリリースされる予定だったが、前年の「無責任艦長タイラー」のヒットを受けて同じような売り方をしよう、ということになり、急遽TVシリーズにシフトしたという逸話がある。そのため、第1話だけ作画クオリティが高かったり、パンチラなどのお色気描写が多めだった。

本作では林原めぐみ演じる主人公・藤宮紅葉の人気もさることながら、川井憲次による音楽が高い評価を得たのもポイントだ。クラマックスを盛り上げた劇中歌「まつりうた」は、後に小学校低学年の音楽の教科書にも掲載された。

もうひとつ押さえておきたいのが「赤ずきんチャチャ」である。本作は「りぼん」(集英社)連載の彩花みんのマンガを原作とするアニメだ。

原作は魔法の学校を舞台に、見習い魔法使いのチャチャが仲間達とドタバタを繰り広げるコメディ作品だったが、テレビアニメ化にあたりスポンサーからの要望に応える形で、大魔王という敵キャラを設定。チャチャは「愛よ」「勇気よ」「希望よ」の合言葉とともにマジカルプリンセスに変身して敵と戦うという、原作のコメディ要素とアニメオリジナルのバトルヒロイン要素をミックスした内容になってしまった。

その結果、予想外にキャラクター同士のドラマが広がりを見せたほか、大地丙太郎、佐藤竜雄、桜井弘明といった若手スタッフによる実験的ともいえるギャグ演出やハイテンションな展開が徐々に話題を呼び、アニメファンから高い評価を得た。

このほか、テレビアニメでは人気シリーズ第3弾「美少女戦士セーラームーンS」。日曜朝枠にもかかわらずトレンディドラマ顔負けのドロドロな恋愛ドラマを描いた「ママレード・ボーイ」。実写映画と同時展開したロボットアニメ「ヤマトタケル」。刑事ドラマをロボットアニメでアレンジ、警察ロボットと少年の友情がお姉様方も虜にした「勇者警察ジェイデッカー」。世界名作劇場シリーズ初のオリジナル作品「七つの海のティコ」。八代亜紀の主題歌がインパクト大だったジャンプマンガ原作の「とっても!ラッキーマン」といった作品があげられる。

1994年は硬軟取り混ぜたアニメが発表され非常に豊作な1年だった、という印象である。

よりディープに、よりマニアックに深化するOVA

前年に続き、OVAは1994年も充実。人気テレビアニメの続編もの、原作ものが相変わらず好調で、「宇宙の騎士テッカマンブレードII」「疾風!アイアンリーガー 銀光の旗の下に」「新世紀GPXサイバーフォーミュラZERO」「無責任艦長タイラー特別編」「逮捕しちゃうぞ」などがリリースされた。そのほか、ちょっぴり懐かしい作品の再アニメ化、リメイクが目立ったのもこの年の特徴。「新・キューティーハニー」「ダーティペア FLASH」「装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端」や、前年の「キャシャーン」のスタッフが続投する形で「GATCHAMAN」がリリースされた。特に「GATCHAMAN」は、梅津泰臣のスタイリッシュなキャラクターデザインが非常にカッコよかった。

変わり種としては、同年放送のTVシリーズのビデオに1話ずつOVAが収録された「覇王大系リューナイト アデュー・レジェンド」がある。これはTVアニメとして放送されていた「覇王大系リューナイト」のパラレルワールドを描いた作品で、キャラクターもより大人びたハードな印象にアレンジされていた。

また、大人気RPG「ファイナルファンタジー」もこの年にアニメ化。「ファイナルファンタジーV」の200年後を描いた冒険活劇が展開した。雨宮慶太監督の特撮映画「ゼイラム」をアニメ化した「I・R・I・A ZEIRAM THE ANIMATION」は、漫画家・桂正和による美麗なキャラクターデザインが印象的だったほか、漫画家・麻宮騎亜のマンガを原作とする「COMPILER」なども話題となった。

このような原作もの、リメイクもの、タイアップものが増えるいっぽうで意欲的なオリジナルタイトルも発表された。その代表が、ポニーキャニオンのOVA10周年タイトルとしてスタートした「KEY THE METAL IDOL」だ。SF要素とアイドル要素、濃厚な人間ドラマが凝縮された作品で、リリース当時は大々的にPRされた。本作はOVAとしては全15話とボリューム多めだったり(当初は全26話での制作が予定されていたとか)、第1巻を1000円、以降の各巻は2500円でリリースしたりと制作・販売面でも挑戦的な作品で、1997年までリリースは続いた。

また、この時期いろいろな意味で精力的なリリースをしていたのがコンテンツ制作会社・ケイエスエスだ。「マーズ」「マップス」「おいら宇宙の探鉱夫」といった一般向け作品と並行して、この年「ピンクパイナップル」という成人向けアニメレーベルを設立。当時、話題になっていた美少女ゲーム「同級生」を成人指定でアニメ化した。同レーベルは、その後も長年にわたり多数の作品をリリースし続けている。

また映画では前出の「餓狼伝説 -THE MOTION PICTURE-」「ストリートファイターII MOVIE」のほか、高畑勲監督の「平成狸合戦ぽんぽこ」、ディズニー映画「ライオン・キング」が公開され、それぞれ一般層にも広く浸透した。

声優雑誌、そして「少年エース」創刊

最後に、アニメを取り巻く雑誌事情にも触れておこう。

前回、アイドル声優ブームについて触れたが、1994年になるとアイドル的な声優人気はさらに過熱。その盛り上がりを受けて秋ごろに「声優グランプリ」(主婦の友社)、「ボイスアニメージュ」(徳間書店)が立て続けに創刊された。

内容は、グラビアやインタビュー、イベントレポートといったもので、取材対象の多くが女性声優だった。

また角川書店(現・KADOKAWA)よりマンガ雑誌「少年エース」が創刊されたのもこの年のこと。同社から発行されていたマンガ雑誌「月刊コミックコンプ」「コミックGENKi」の編集者を中心に創刊された本誌は、創刊当初よりアニメ放送に先駆けてコミカライズ版を掲載するというスタイルを多くとっており、特に創刊直後の90年代はその傾向が顕著であった。そこで生まれてきたのが「新世紀エヴァンゲリオン」「VS騎士ラムネ&40炎」「機動戦艦ナデシコ」「ブレンパワード」といった作品である。角川書店が培ってきたメディアミックスの手法を駆使し、本誌は1990年代後半のサブカルチャーの中心地としての地位を確立していく。

(※文中の敬称は省略しております。ご了承ください)

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