旧作のよさはそのままに、メカ全体に現代風なリファインを施した!「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」メカニカルデザイン・玉盛順一朗インタビュー

「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」でメカニカルデザインを務めている玉盛順一朗さんは、元々は工業デザイナーだったが、その頃からヤマト愛が強い熱狂的なヤマトファンで、同人誌活動などに参加しているうちに、いつしか「ヤマト」の制作の現場に入っていたという変わった経歴を持つ人物だ。そんな玉盛さんが、今回の「2202」や前作の「2199」のメカデザインでこだわった点はどんなところなのだろうか。

2019年3月1日に上映がスタートする『第七章「新星篇」』で、「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」が完結を迎えるということで、今回、玉盛さんの、ヤマト愛あふれるこだわりの濃厚インタビューをお伝えしよう。

現代に合うようにリファインはしたが、必要のないものはあえて入れずにデザインした

--まず「ヤマト」のメカデザインに携わることになった時のお気持ちを聞かせください。

玉盛 最初にお話をいただいたのは、「2219」の企画段階で出渕総監督からお声がけいただいた時で、もう10年になります。2008年ごろに企画のお話をいただいて。以前から同人誌などでのお付き合いもありましたし、ヤマトのイラストを描いたりしてましたので、その時は「待ってました」っていう感じでした。

--「2219」のメカデザインでは、どういうところをデザインの核に持ってこようとしたのでしょうか?

玉盛 「宇宙戦艦ヤマト」は1974年の作品ですし、我々も成長して大人……おじさんになってますので(笑)、その眼鏡にかなうような形で時代にふさわしいもの……たとえば、アニメのメカデザインも、ヤマト、ガンダム、マクロスといった作品を経てきているから、その視点で新しくとらえなおしたいと思いました。また、アニメ表現の技術もCGなどさまざまに進化していますので、そうした制作方法も意識して、今までにない表現を目指したいと思いました。

--具体的にはどういった表現でしょうか?

玉盛 CGは人の手では描けない光の表現が得意ですけど、旧作の「ヤマト」でも、艦体表面のゆるやかなカーブとかそういった部分は、当時のスタッフがすごい工夫をして、艦隊の分割線で丸みを表現したりしていたんです。しかも、手描きのアニメでそれをいちいち動かしてたんですよ。そういうチャレンジ精神に非常に感動して、今やるなら同じことはできないし、CGならではのやり方で、光の反射が自動的に入ったり、影が入ったり、そういったところを最大限に生かせるようなデザインができないかと。そういったところを目指しました。



--部分的に細くなったり、丸みが増したりとかっていうのができるようになったってことですか?

玉盛 そうですね。たとえば、遠くに見えるときは線が自動的に省略されて、近づけば細かいディテールが見えるといったのも、CGならではのやり方でできるんじゃないかなぁというのを意識してデザインしたということです。

--これはヤマトに限らないと思うんですけれども、昔のアニメを現代の手法やCGで描き起こしてリバイバルするとなると、メカニカルデザインの方法論も変わってくるかと思います。セル画アニメではいろいろ省略されていたりとか、結構適当につくったなみたいな部分もあると思いますが、それをCGに置き換えると全部細かくつくらなきゃいけないと思うんですけれども、そのあたりはどうでしたか?

玉盛 逆にね、細かくつくらないように考えてるんですよ。というのは、人間の印象っていうのは主観を大切にしてますから、昔のアニメは、人の気持ちにそって適宜省略することが可能だったんですよ。半面今は、やろうと思えば全部つけられる。細かい排水口1個1個全部つけて、細かいネジとかもね、そういうのも全部つけられるんですけど、そういう3DCGのモデルをポーンと置いても、もうお腹いっぱいなんですよ。だから、適宜省略する形で見せるっていうことで、必要がないものは入れない、必要なものだけ入れるっていう取捨選択は、気を付けてやっています。



影響を受けた作品は、ヤマト、ガンダム、マクロス

--玉盛さんは、そもそも「宇宙戦艦ヤマト」という作品に対してどういう印象をお持ちでしたか?

玉盛 子供のころは「ゲッターロボ」とか「マジンガーZ」「ウルトラマン」とかそういった作品が好きだったんですけど、当時、戦艦が主役のアニメってなかったんです。それがすごい新鮮で……。怪獣の形をしたガミラスの兵器「バラノドン」や浮遊大陸っていうのが木星の上を飛んでいるシーンがすごいいいなーって、小学二年生のときくらいに思いました。「宇宙戦艦ヤマト」って決して戦争ものじゃないんです。イスカンダルを目指して旅をしていくんだけども、その中ではなるべく戦闘を避けていく、生き残るために戦うっていうシチュエーションで、そういう宇宙を旅する冒険ものっていうのが幼心に響いてましたね。

--今回リメイク、リファインした形でヤマトに関わるようになってから、ヤマトの印象は変わりましたか?

玉盛 「2199」に関しては基本的に第1作(「宇宙戦艦ヤマト」(1974))のリメイクなので、同じような感じですが、「2202」は「さらば」(「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」(1978)」や「ヤマト2」(「宇宙戦艦ヤマト2」(1978))のリメイクなので、やはりバトルが主体になっています。それはそれで「ヤマト2」の醍醐味でもありますけどね。第1作で瀕死の状態だった地球も、もう滅びるしかないんじゃないかって状態から再興して。それで力をつけて、地球艦隊を持つに至った。で今度は白色彗星帝国と戦うと。それはそれで醍醐味ですよね。

--玉盛さんはもともと工業デザインをやられていて、アニメ業界に入られたということですが、アニメのメカニカルデザインという観点で影響を受けたアニメ作品やデザイナーさんなどがいれば教えてください。

玉盛 ヤマト、ガンダム、マクロスですね。デザイナーはいっぱいいますけど、中学生のころはスタジオぬえとか、大河原邦男さん、あと松本零士さん、といった大物の方ですかね。

--ヤマト、ガンダム、マクロスというと、やはりメカのかっこいいアニメばかりですね。

玉盛 出身が沖縄だったので、テレビ番組のチャンネル数が限られてるんですよ。放送してないアニメが多くて、実際にやってたのが、このビッグタイトルだったわけで。

--もともとやっぱりこういった艦船ものが好きだったのですか?

玉盛 そうではないです。新しいメカが好きでした。それで見ているうちに、スタジオぬえや出渕裕さんなど、メカニカルデザイナーっていう職業があるんだって意識し始めて。そのあたりからですかね。あと、宮崎駿さんも好きですね。

--宮崎さんはメカも大好きですもんね。

玉盛 単純なメカじゃなくて、人間の世界にちゃんと息づいているメカっていう部分では、宮崎さんのデザインはやはりすごいと思います。

「2202」ならではのメカデザインの変更ポイント

--「2199」と「2202」で少しメカの形状を変えたということをほかのインタビューでおっしゃっていますが、具体的にはどのように変えたんでしょう。

玉盛 「ヤマト」自体、旧作の中でも絵が一定してなくていろんな形状があるんですね。「さらば」や「ヤマト2」でも描き方が変わりましたし、「完結編」(「宇宙戦艦ヤマト 完結編」(1983))では、さらに整理された感じで描かれていて、それぞれのファンにとっての理想の形が異なるんですね。さらに、アニメだけじゃなくて、プラモデルで展開されてきた面も大きくて、プラモデルで親しんでいたファンも、「これが自分のヤマトだ」っていう自分なりのヤマト像を持ってる。それらを大切にするためには、ひとつのデザインだけで「どうだ、これだ!」とは言い切れないんですよね。だから、ファンの気持ちを考えたら、最低2つのデザインが必要じゃないかっとイメージを考えました。

74年の第1作では、波動砲とか先のほうがせばまって若干とんがったようなイメージで、人の手でつくったような曲面が多かった。それが、「さらば」や「ヤマト2」では改造されて、少し変わってきた。なので、「2199」のときは第1作を意識して、今回の「2202」では第1作の風味を少し外しつつ、波動砲の上のほうの「フェアリーダー」周りを少し垂直にしたりしました。それで「さらば」以降のヤマトの力強さが出たと思います。

--「2202」では、地球艦隊が出てきたり「2199」とは全然時代背景が違っています。「時間断層」っていう新しい設定も出てきて、人の手を離れてどんどん発展していくという背景が描かれましたが、そうした背景を踏まえつつ地球艦隊をリファインするにあたって、意識して変えられた部分はありますか?

玉盛 地球艦隊では、アンドロメダや主力戦艦、護衛艦、パトロール艦をデザインしたんですけれども、これらの艦船をデザインしているときには、「2202」の具体的な設定がまだ深まってない時期だったんです。次元断層の中で自動的に、工場の中でつくられるようなイメージ、っていう話はあったんですが、「じゃあ具体的にどんなもんですか?」って羽原監督に聞いたりして、まだ具体的なビジュアルのイメージができていないところで進めていったんです。


完全に機械でつくっている自動工場のようなものでは、人の手の温もりがないし、かなり整備されてディテールとかあまり入れられないのかなとかとか、いろいろ悩みながらデザインしていきました。たとえば、甲板には手すりがあるじゃないですか。でも、人員をなるべく減らすような、省略可された船になってるとすれば、手すりってほとんど必要ないんじゃないかとか。あと、はしご(ラダー)も収納式になっているんじゃないかとか、カバーで覆われて見えないんじゃないかとかね。ヤマトは側面にはしごが1列2列、そして下にも並んでるんですよ。そして裏返ったときにもはしごが見えるんです。こういった部分は、アンドロメダにはないですね。あったとしても、格納されてるんじゃないかっていう解釈です。人の温もりが少し薄い感じということですね。

--あと「銀河」ですね。最初に見たときにはすごくびっくりしましたが、あれはどういうコンセプトというか、何を考えてデザインされたんでしょうか。

玉盛 やはりびっくりされましたか(笑)。「銀河」については、ヤマトの姉妹艦としては初めての船なので、賛否両論が出るというのは予測してました。90年代半ばにOVAで「YAMATO 2520」がつくられたんですが、そのころに、「2202」の副監督でもあり、デザイン・美術を見ていらっしゃる小林誠さんが出したアイデアがあって、それが今回の「銀河」に相当するものなんです。それを先代の製作陣が気に入ったっていうエピソードもあり、ヤマトの姉妹艦としてふさわしい船ではないかと個人的には思っているんですけど、それを「2202」の世界観に合うように整理した感じでしょうか。

「銀河」はただの艦(フネ)じゃなくて実験艦なんですね。波動エネルギーを手に入れた人類が、まだ解明されてない宇宙のテクノロジー的なものの中から生み出した実験艦、というコンセプトに共鳴しました。単にヤマトの量産型っていうものではないので、この世界観をもっと深めることができるんじゃないかなとは思いながら、デザインの最終的なまとめは小林誠さんですけれども、形を整理する段階で関わりました。

--銀河には観測ドームがついてたりとか、やはりヤマトのようで、ヤマトでないようなものっていう感じがしました。

玉盛 デザイン的には、「アンドロメダ」に続く新しい方向性に対してクラシカルなんですね。だいたい、実在する多くの戦艦が大正時代のデザイン、設計でできているんですよ。戦艦「大和」もそうだし。そういったことを考えると、19世紀のエッフェル塔とかですね、イギリスやフランスで産業革命のあと19世紀に現れた「ネオゴシック」、古いゴシックじゃなくて、産業に適したネオゴシックのクラシカルな雰囲気を取り入れてできる部分があるんじゃないかなっていうところで、「銀河」でも観測ドームあたりを意識してデザインを整理しました。


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メカアニメはアニメ放映後の商品展開が大事、っていうこともおっしゃられていますが、プラモデルなどのカラーリングなども意識してデザインされたんでしょうか?

玉盛 限られたスケジュールの中でデザイン作業を進めながら、どんどんモデリングをつくっていましたが、プラモデルのほうのデザインも実は同時に進んでいました。そのギリギリのタイミングで、喫水線をちょっと上げて、魚雷発射管の一番目と二番目の間に来るっていう修正案を考えたんですが、もうアニメのほうのモデリングは完成しちゃっていたらしく、そのままで進めています。結局、プラモデルの場合、並べたときにどの程度、アニメのヤマトと一緒で、どの程度異なるかだと思うので、ほかの艦と並べたときや、物語上の位置づけを総合して考えると、ヤマトそのままのデザインで出すと違和感があるのではないかと私は今でも思っています。たとえば、船体の側面に窓を増やすとか、戦闘艦じゃないっていうアピールが必要ですね。最終的には調整された感じになりましたけど。

「アンドロメダ」のデザインに込められた、玉盛さんならではのこだわりとは?

--「銀河」と並んで「アンドロメダ」も、「2202」では大きくデザインが変わっていると感じました。

玉盛 基本的に、旧作のアンドロメダの印象は変えずに、デザインをリファインしただけで、3DCGで表現できるように形を整理したということです。なので「まったく同じじゃないか」っていう人もいれば、「かなり変わった」っていう人もいますね。

--アンドロメダって、ヤマトよりも、より3Dモデリングするのが難しい船なんじゃないかと思ったりもしますが、どうでしたか?

玉盛 そうなんですよ。普通のアニメの工程だと、たぶんデザイナーさんがデザインして、その後3Dさんがモデリングするときに苦労するんじゃないかなって思うんですが、私の立場としては、なるべく3Dさんが苦労せずにモデリングできるような形で整理してお渡ししたかったので、私自身で簡単な3Dモデルをつくってお渡ししたりしました。そのおかげで、やり取りはだいぶスムーズに進んだと思います。

--「アンドロメダ」の形ですが、波動砲口のところで、少し下向きにカーブがついた印象があるんですが。

玉盛 旧作のデザインでは、アンドロメダの艦首のところが、横から見ると垂直という風に解釈されていて、プラモデルでもアニメでもだいたいそのように描かれています。ただ、斜めからのパースがついたアンドロメダの設定画では、少し上側が大きい斜めに見えるんですね。それは、当時のメカデザインを担当した宮武一貴さんが、第1作からかなり主観的なイメージを大切にして描かれていて、ヤマトでも一度迫ってきてから遠くに行くっていうようなシーンを考えて、迫力ある姿で描いていたし、アンドロメダもそうだと思うんです。ダイナミックさを表現するために、斜めに見えるようなパースをつけたんじゃないかと。当時、多くの人にとって、「さらば」や「ヤマト2」を繰り返し見る手段ってそんなになかったと思いますし、おそらくプラモデルのパッケージに使われた設定画の絵の印象が、多くのファンにとってすごく焼き付いている部分もあると思うんですね。だから、ヤマトもひとつのイメージで固定するのはできないって言ったのと同じように、アンドロメダもそれぞれ違うイメージがあって当然だと思います。

だけど、アンドロメダに関しては、パースで見たあの絵がいいんだよ、って思っている方が多いので、あえてそれに近づけるように考えて、羽原監督に相談しました。羽原監督も「そのイメージで僕もいい」って言ってくださったので、それで少しだけ角度を付けました。宮武さんは、あの当時もものすごい密度でメカを描いていて、アニメーターにわかりやすいような図面を引いていたりするんですね。理解しやすいように、わかりやすいように、アレンジして、形を変えたりしているのが宮武さんの図面の特徴で、立体のための図面じゃなくて、説明のための図面であるというところは「コスモタイガーII」の図面を見てもわかります。なので、アニメーターへの説明用の図面をもとに、そのまま立体をつくると危険なんですよ。上から見た図と下から見た図で、波動砲の先っぽの線の太さが違うってことは、下から見て太い、上から見て細いってことは、下にちょっとこう傾いてるんですよ。

--あ~、なるほど。

玉盛 宮武さんの言わんとしてるところはそこだっていう風に感じ取ってですね。で、実際に宮武さんにお会いして、そのほか疑問点があったところなどを聞いて、なるほどーと思った部分をいろいろ反映させて、最終的にアンドロメダの波動砲まわりの形をつくっていきました。

--最後に、第六章ではバトルシーンが多く、さまざまな艦船が登場して、壮絶な戦闘を繰り広げますが、玉盛さんの中で特に思い入れがある艦船などはありますか?

玉盛 んー……、山南艦長が乗っていたアンドロメダですかね。波動砲のまわりが「時空の泡」でボカボカッってざっくりえぐりとられるような破壊のされ方をしたんですよ。大型魚に食われた魚みたいな感じでね。で、そのあと改造されて、横に仕切り板が入った形で、波動砲の一部だけデザインしました。で、壊れた設定も描いたので、そこには思い入れがありましたね。ここも3DCGでていねいに再現して、すごくいいのができあがったと思っています。

--ありがとうございました。

(編集部/鎌田)

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