【ざっくり!平成アニメ史】第7回 平成7年(1995年)――「エヴァ」「スレイヤーズ」「攻殻機動隊」! アニメの歴史を変えたマスターピースが登場した1年!

2019年4月30日、31年に及ぶ「平成」の幕が下りる。

国内外問わずさまざまな出来事のあった激動の時代だが、アニメ業界にも数え切れないほどの作品が生まれ、いろいろなトピックが世の中をにぎわせた。

アニメは世につれ、人につれ。

というわけで1年ごとに平成のアニメを振り返るのが、この連載「ざっくり!平成アニメ史」だ。今回は平成アニメ史を大きく塗り替える作品が大挙して登場した平成7年(1995年)だ。
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「スレイヤーズ」「エヴァンゲリオン」、そして林原めぐみ

1年を通して話題作にこと欠かなかった平成6年に続いて、平成7年も多くのアニメが界隈を盛り上げた。

まずはアニメファンの間で話題となった作品をあげてみよう。

平成7年を代表する作品といえば、「スレイヤーズ」。そして「新世紀エヴァンゲリオン」だろう。まず4月に「スレイヤーズ」の放送がスタートした。本作は、神坂一のライトノベルを原作とする作品で、いわゆるファンタジーRPG的な世界観をベースに、キャラクターの軽快な会話劇や派手なアクションが繰り広げられるエンタメ作品である。もともと原作の持つ面白さもさることながら、本作の人気をブーストしたのは、主人公リナ・インバースを演じた林原めぐみの存在であった。すでに一定の人気を獲得していた彼女だが、本作ではギャグからシリアスまでこなせる演技の幅や、奥井雅美と歌った主題歌で聴かせた歌唱力など、その魅力がいかんなく発揮されていた。

そして「新世紀エヴァンゲリオン」――通称「エヴァ」は、今や語るまでもない歴史的ヒット作と言われているが、放送開始当初はGAINAXの新作TVアニメということで一部のアニメファンが注目する1作品に過ぎなかった。しかし、第1話、第2話の異様なテンションの高さや、それまでのテレビアニメにはないダイナミックな演出と、明朝体の文字を使ったテロップ。そして魅力的なヒロインの描写や細やかなミリタリ描写。そして思わせぶりなセリフや衒学的な設定の数々など、オタク心をくすぐる数々の要素を持つ作品だと理解されていくに従い、クチコミで徐々に人気が上昇。翌年の大ブレイクへと至る。

本作で特に人気を集めたのが、ヒロインの綾波レイだった。無表情、無感情といった性格や、包帯、眼帯といったフェティッシュな姿など、それまでのヒロイン像を覆すキャラクター性を持った綾波レイは、後続の作品に絶大な影響を及ぼした。特に「綾波系」と呼ばれるようになるキャラ属性を生み出した影響は大きく、複数ヒロインが登場するアニメでは似たようなキャラクターが必ず登場するようになってしまったほどだ。

ちなみに綾波レイを演じたのも、林原めぐみだ。この年、リナ・インバースと綾波レイという2大ヒロインを演じたことで、彼女の人気は不動のものとなる。

また、「エヴァ」で特徴的だったのが、ロボットアニメ(劇中では人造人間と呼ばれているが)であるにもかかわらず、放送中にはロボット玩具が発売されなかった点である。その特異なデザインから「売れないだろう」と、多くの玩具メーカーから批判されていたと言われており、最終的に玩具とビデオゲーム化のライセンスを取得したセガと角川書店(現・KADOKAWA)がスポンサーとなった。そういった経緯もあり、製作費を回収する手段としてまずは音楽CDやVHS、LDなどを売らねばならなかったそうだ。結果的に、主題歌シングルCDやサウンドトラックはヒットを記録。TVシリーズのVHS、LDもTVアニメとしては異例の売上を記録するなど、パッケージのみで十分な売上を立てたと言われている。

そんなわけで、パッケージの売上のみでもTVアニメは成立するのでは? そんな可能性を示したのが「エヴァ」だったとも言える。

そのほかOVAからTVアニメへと舞台を移した「天地無用!」、OVA版とほぼ同タイミングで放送された「神秘の世界エルハザード」といったパイオニアLDC作品。あかほりさとる原作のメディアミックス作品にして、電撃ブランド初のTVアニメ作品「爆れつハンター」。秋元康原作の変身ヒロインもの「ナースエンジェルりりかSOS」。そして、「ガンダム」シリーズの「新機動戦記ガンダムW」などがアニメファンを中心に話題を呼んだ。

なかでも「ガンダムW」は、「サムライトルーパー」を手がけた池田成監督(途中で降板)と、キャラクターデザイン・村瀬修功が再びタッグを組んだ話題作であった。個性的なガンダムのカッコよさもさることながら、美少年たちが繰り広げるバトルアクションに、女性人気が集中。数多くのスピンオフ作品や続編OVA、その総集編劇場版など、平成ガンダムシリーズの中でも特に幅広くメディア展開するヒット作となった。

この時期、これらの作品の人気が牽引する形でアニメブームが到来したと言える。その影響は、翌年以降のTVアニメで目に見える形であらわれてくる。

バラエティに富んだTVアニメ作品群

そのほかのTVアニメに目を向けると、1月から「ちびまる子ちゃん(第2期)」、「鬼神童子ZENKI」、「NINKU -忍空-」といった人気原作マンガものがスタート。また、「世界名作劇場」シリーズ21作目の「ロミオの青い空」も1月に放送を開始。少年売買や過酷な労働環境を描いた原作小説に対し、アニメ版は少年達の友情や必死に生きる姿に重点を置いていた。そのため、多くの女性ファンから支持を集めた。

4月に入ると、一挙に新作アニメが放送を開始。「セーラームーン」初期スタッフも参加した変身ヒロインもの「愛天使伝説ウェディングピーチ」、女子中学生が中華風の異世界に転生して冒険を繰り広げる「ふしぎ遊戯」、ほのぼのとした絵柄ながら意外とませてる小学生男女の恋愛模様を描く「あずきちゃん」といった少女マンガものに勢いがあった。

また、「クマのプー太郎」「ぼのぼの」といった不条理ギャグマンガ原作のアニメも、この時にスタート。どこか大人びたギャグと、ゆるキャラにも通じるコミカルなキャラクターが、大人だけでなく子どもにも受けていた。

このほか、知名度は低いものの、押さえておきたいのが「ビット・ザ・キューピッド」だ。本作は、日本で最初にCGで制作されたTVアニメシリーズと言われている。制作はグループ・タックとサテライト(当時はソフトウェア開発会社の1事業部だった)。サテライトは本作で初めてTVアニメ制作に参加。本作の制作をきっかけに同社は本格的にアニメ制作に乗り出していく。

そしてハイティーン層に大ヒットしていたギャグマンガ「行け!稲中卓球部」が、まだ当時は珍しかった深夜アニメとして放送をスタートした。ハードな下ネタとブラックジョークが売りの本作だが、まだ当時は深夜アニメというものが未開の地であったこともあり、制作側もどこまで原作を再現してよいものか、と手探りしながら作っている感がひしひしと感じられる作りであった。

このように、平成7年のTVアニメはアニメファン向けの作品とファミリー向け、ヤング層向けの作品が混在した、カオスな状況にあった。しかし、その中に後のアニメバブルに至るきっかけが潜んでいたことに注目したい。

静かに始まった「攻殻機動隊」の劇場公開

アニメ業界の地殻変動は劇場用アニメにも発生していた。

この年、押井守監督の「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」が公開された。本作は士郎正宗のマンガが原作であり、ネットワークや義体化した人間と機械の関係性。また外部媒体に人間の記憶が移植された場合、元の人格と移植された人格は同一なのか、など、ハードなSFドラマが展開した。また、ビジュアル面でも光学迷彩や、黒い画面に無数の文字が流れるシーン、水溶液に浸る草薙素子など先鋭的な表現が多々あり、多くのクリエイターに衝撃を与えた。

とはいえ映画公開当時、日本国内ではそれほど大きな話題になったとは言えず、本格的に評価されるようになるのは翌年、アメリカにおいてビルボード誌のビデオ週刊売上1位を記録してからのことである。

また、大友克洋の短編を映像化したオムニバス作品「MEMORIES」も話題となったほか、スタジオジブリの「耳をすませば」もヒットを記録した。本作は、同名の少女マンガを原作に宮崎駿が脚本を手がけ、それまでジブリを作画面で大いに支えてきた近藤善文が初の長編監督を務めた恋愛ものだ。中学生の男女の瑞々しい交流を描いた本作は、今も恋愛アニメの金字塔として語られる名作となったが、近藤は1998年に病死してしまったため、本作が唯一の長編監督作品となってしまった。

そのほか「マクロス7 銀河がオレを呼んでいる!」と「マクロスプラス MOVIE EDITION」が、「マクロスフェスティバル’95」と題して劇場公開されたほか、「スレイヤーズ」と「はじまりの冒険者たち ~レジェンド・オブ・クリスタニア~」が「角川アニメフェスティバル」と題して、夏に公開された。

このように、大作系からアニメファン向けのコアなタイトルまで幅広い作品が劇場公開された1年であった。

美少女アニメに特化するOVA

OVAシーンは、前年までの盛り上がりからすると、よりニッチな方向に突き進んだ1年だったかもしれない。

平成7年のOVA作品の主流は、何はともあれ「美少女」だった。「アイドルプロジェクト」「卒業 ~Graduation~」「銀河お嬢様伝説ユナ」「プリンセス・ミネルバ」「負けるな!魔剣道」「女神天国」といった作品が、ゲーム、小説、マンガなどさまざなメディアを横断して展開。

ちょうどこの時期はパソコンが家庭に普及し始めた時期で(11月にはWindows95が日本で発売された)、アニメ的な絵柄の女性キャラとの恋愛や性的な交流を描くパソコン用美少女ゲームが多数リリースされていたほか、表現能力のあがった次世代ゲーム機(プレイステーション、セガサターンなど)の出現によって美少女キャラクターとの恋愛を体験するゲームが続々と登場し始めていた。それまでもアニメやマンガに登場する美少女キャラクターに人気が集まることはあったが、ゲームはそれまでの作品と違い、プレイヤーがキャラクターとの恋愛を擬似的に体験できる点で、圧倒的に新しかった。美少女キャラは、ただ愛でるだけの存在から、(決められた選択肢の範囲内という制限つきだが)コミュニケーション対象へと変化したのである。

しかし、いかにグラフィック性能が上がってきたとはいえ、ゲームはまだまだ映像メディアに比べると一歩も二歩も後れを取っていた。

そんなわけで、この時期の美少女アニメは、そういったゲームでは描ききれなかった美少女キャラクターを補完するメディアという側面もあった。90年代半ばから後半にかけて、アニメと美少女ゲームは相互補完の関係となる。

なかには、トミー(現・タカラトミー)の子ども向け玩具「バトルスキッパー」と美少女キャラを組み合わせた、「美少女遊撃隊バトルスキッパー」なんて変わり種もあった。

そのほかアニメ制作会社・AICより多数のOVAがリリースされた。人気シリーズ最新作「戦ー少女イクセリオン」をはじめ、海外でも高い評価を得たサイバーパンク作品「アミテージ・ザ・サード」、OVAリリース直後にTVシリーズが放送された「神秘の世界エルハザード」、「天地無用!」のスピンアウト作品「魔法少女プリティサミー」など、いずれも大きな話題を呼んだ。

いっぽうで、「ガンスミスキャッツ」「精霊使い」「不思議の国の美幸ちゃん」「秘境探検ファム&イーリー」「3×3 EYES ~聖魔伝説~」などマンガ原作ものも変わらず発売。今では深夜アニメとして放送されていてもおかしくはない作品ばかりと言えるが、当時としてはゴールデンタイムのTVアニメにするにはちょっと大人っぽい作品という印象である。そういった作品が、この時期に数多くOVAとして映像化された。

そして、往年の名作アニメ「宇宙戦艦ヤマト」の続編が、満を持してOVA「YAMATO2520」として登場した。本作は「ヤマト」シリーズプロデューサーの西崎義展が製作総指揮を務め、シド・ミードがフューチャーコンセプトデザインを担当。新時代のヤマトにふさわしい豪華な布陣のもとリリースがスタートしたが、制作会社・ボイジャーエンターテインメントの倒産により第3巻でリリースは中断。未完の大作となってしまった。

ちなみにイメージソング「明日の君を守りたい ~YAMATO2520~」を歌っていたのは、メジャーデビュー間もないTOKIOだった。ヤマトらしい壮大なスケールのロックバラードとなっており、機会があればぜひ聴いていただきたい名曲だ。

このようにちょうど90年代の折り返し地点に、後のアニメ史に大きな影響を与える作品が同時多発的に登場したのは非常に興味深い現象である。この年にまかれた種は、翌年に大きく花開くことになる。

(※文中の敬称は省略しております。ご了承ください)

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