アニメーター/イラストレーター・深川可純 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第31回)

駆け出しアニメーターの生活は苦しい。だが、救いがないわけではない。努力と忍耐の先に活路が開けることもある。第31回でフィーチャーするのは、長く過酷な下積み時代を乗り越えて人気作家の座を獲得した、アニメーター兼イラストレーターの深川可純さん。深川さんといえば、「アイドリッシュセブン」と「ゾンビランドサガ」で見せてくれた、人間味あふれるキャラクターデザインが記憶に新しい。「ゾンビランドサガ」は、ドワンゴが主催し、アキバ総研など5大アニメメディアが協力したネットユーザー投票イベント「アニメ総選挙2018年間大賞」において、数々の強豪アニメを抑え、見事No.1に輝いた作品である。深川デザインの特筆すべき点は、男性ファンと女性ファン、双方から厚い支持を集めていることだ。そんな深川さんが、キャラクター創造でこだわっていることは何か? 当記事はその問いにズバリお答えしよう。現場で今も苦悩している後輩の励みになればと、自身の死ぬほど辛い経験についても語っていただいた。まさにゾンビのごとく蘇った深川さんのたくさんの思いが詰まったロングインタビュー、ぜひ最後までお読みいただきたい。

(編注:写真は、深川さんがアニマルシェルターで引き取り、家族の一員として心の支えにしている犬猫)

作画で「作り手のメッセージ」を届けたい


─「アキバ総研」インタビューに応じてくださり、ありがとうございます。早速ですが、深川さんにとってアニメ作画の魅力とは何でしょうか?


深川可純(以下、深川) テレビによって間口が広がって、たくさんの人に作品を届けられるのはもちろんですが、人の心に届く作品には必ず作り手のメッセージが込められているので、それを作画表現によって伝達することができる、というところに魅力を感じます。原作付きのアニメーションですと、原作が伝えたいことを原作者の思わく通り届けることがとても大切です。好きな作品のメッセージが届けられた時にはうれしいですね。


作画の技術は大切ですし、そこに命をかけるアニメーターさんの気持ちもとてもわかるし尊敬します。けれども、「この作画のこの部分がスゴイんだ!」という思想が入ってしまったら、作品を通して本当に伝えたいことがブレてしまうと思うんです。ブレちゃいけないものを守りつつ描く、というのが私の信条です。


─深川さんが一番深く感動した、アニメ作品は?


深川 細田守監督の劇場版「デジモンアドベンチャー」(1999)です。画と音がすばらしくリンクしていて、心を鷲づかみにして、しかもジェットコースターみたいに振り回される感覚を覚えた、スゴイ作品です。


─PSPゲーム「銃声とダイヤモンド」は、「10回は購入したいくらい」お好きだとか。


深川 はい(笑)。ほかにもゲームとかテレビドラマとか映画とか、気づかずに影響を受けた作品は数えきれないくらいあります。絵を描く時って頭を使うんですけど、色を塗る時とか清書する時とか、単純作業も多いんですよね。単純作業中は頭の中が暇になってしまうのでその時は映像をひたすら流していて、少なくとも週に3本くらいは映画を観ています。


─実写作品もたくさんご覧になっているのですね。


深川 視野を広げて世界を見たいので、ドラマや映画だけじゃなく、雑学的なものを教えてくれるバラエティ番組も観るようにしています。


─目標とする方は? 過去のインタビューによれば、西田亜沙子さんが昔からお好きで、「電波女と青春男」(2011)の原画を描かれたこともあるそうですね。


深川 アニメーターって、メチャメチャうまい人がたくさんいるじゃないですか。だから、基本的に皆さん好きなんです。なかでも線に命が宿っている人、絵に伝達力がある人が好きで、その時の感情だったり、趣向だったり、意思だったり、線で伝えたいものが顕著に表れている人の絵には心が動かされます。西田さんはまさに線で語っていらっしゃる方で、「女体のすばらしさ」というのを汲み取って描かれていて、言葉にしなくても伝わるんです。


─西田さんとは師弟関係があるのでしょうか?


深川 それはなくて、一方的に好きな方です。私は誰かにガッツリ指導された経験がなくて、恩師と呼べる方がいないんです。だから、1本の線に込められている情報を読み取るように意識したり、情熱やこだわりを持って線を引くようになったんだと思います。

キャラクターデザインで「人間を描く」


─お得意な作画を教えていただけますか? 過去のご発言には「フェティシズム」というキーワードがありました。


深川 自分の伝えたいものを描くというのを極めると、やっぱり怨念みたいなものが宿って、それを伝えようとするからこそ、フェティシズムみたいな感じになるのかなと思っています。それも含めて、いろんな作風を描けるようになりたいと思っています。


─お好きなジャンルはありますか?


深川 すごく個人的な好みを言うと、実写よりのハードボイルド、泥臭い人間ドラマとかが好きなんですけど、たぶんアニメでは需要がないんじゃないかな。皆さん、びっくりされるんですけどね(笑)。


─キャラクターデザインにあたり、気をつけることは?


深川 具体的ではないんですけど、「人間を描く」ことをすごく意識しています。キャラクターだけど彼らにも人生があって、それが姿勢や顔つきであったり、服装であったり、表れるものだと思っていて。それはシルエットにも反映されるし、キャラクターの描き分けにもつながる、と考えています。


─流行との付き合い方はどうされていますか?


深川 時代の流れを追うのもひとつのスキルだと思っています。自分の中で固定概念を持たないよう、柔軟にいろんなものを「ステキだな」と思える感性がすごく大事だと思っていて、常に意識しています。若い時にしか描けない絵だったりとか、人生を歩んで経験を積まないと描けない絵だったりとかもあるとは思うんですけど、私はいくつになっても初心に返るというか、いろんな絵柄を描けるようにしています。だから、「pixiv」とかも見て流行の絵を研究して、学ぶことも多いです。

ほぼ全キャラデザインの「ゾンビランドサガ」


─「ゾンビランドサガ」(2018)のフランシュシュ7人は、いずれも魅力的ですね。デザインのポイントは?


深川 女の子のいいところって、抱きしめたらやわらかそう、いい匂いしそう、あったかそう……、みたいなところだと思うんです。それを絵で表すにはどうしたらいいか、とことん突き詰めて描きました。

「ゾンビランドサガ」


─過去のインタビューによれば、さくらのモデルは女優の橋本環奈さんだとか。ほかのメンバーにもモデルがいるのでしょうか?


深川 一応いらっしゃって、下敷きにはなっています。お話してもいいかわからないので、皆さんで想像してみてください(笑)。


─ゾンビバージョンは、メンバーの死因を踏まえてのデザインだとか。


深川 そうですね。ゾンビになる前に何があったんだろう? って、彼女たちの人生を考えました。


─幸太郎も強烈なキャラですが、デザインで工夫したことは?


深川 幸太郎は「なんだコイツは!?」という設定のキャラクターなので、残念な見た目の男性にしたらダメかも、すごく嫌われてしまうかも……と思って、雰囲気だけはイケてる感じのメンズにしました。なぜ肩にジャケットをかけているのかについては、マントっぽく翻っていたらキャラクター的にカッコいいな、と思ったからです。動きもつけやすくなったと思います。


─デザインはメインキャラだけですか? デスおじ、剛雄、万梨阿、麗子、大古場など、サブキャラも個性的でした。


深川 サブキャラもやりました。モデルがなかったキャラもいて、リリィのパピーもいちからデザインを起こしました。サブキャラもメインキャラと作り方は同じで、人生を考えてデザインしています。たとえば万梨阿は、暴走族でイキってるんだけど、まだ「いい子感」が残っている性格なんですよね。それを、前髪が整っていたりとか、そういったところで記号的に出しています。連れの2人も完全に文系で、やらされてる感が出るデザインにしました。


─オープニング「徒花ネクロマンシー」でバックダンサーをしている、ゾンビのデザインもでしょうか?


深川 それは朴性厚さんという天才が、すべて描かれました。絵コンテ・演出だけじゃなく原画も描かれていて、私は少し作監修正を入れさせていただいただけです。


─デザイン案は複数出すのですか?


深川 「ゾンビランドサガ」で初めて提出した時には頭身が高かったんですけど、デザインはまったく変わってないんです。なので、案をいくつも出すのは得意じゃないです。プロとしてはあんまりよくないことなんですけど、自分が考えて出した案にすごく愛着を持ってしまって、「これが通らないと、すごくヘコんじゃうなぁ……」というのを出しちゃうんですよね。ちゃんとしている方は、何案も出して、あえて愛着を持たないようにしておられるんですけど、私は怨念を込めて描いているので、そういうのはなかなかできないんです……(苦笑)。デザインに限らず、構図とかもそうですね。


─衣装にも感性のほとばしりを感じました。


深川 ファッションはすごく身近なものですし、突き詰め過ぎるとパリコレみたいに難しくなっちゃうんですが、こだわると楽しいです。服の系統とか女の子だと顕著だと思うんですけど、やっぱりキャラクターの人生を考えて、このキャラはこういう服の系統が好きかな?とか、こういう服は嫌かな?とか、考えますね。


キャラクターは人間だと思っているので、「人間に興味がある」ということがすごく大事になってきます。人間が好きだからこそ観察するし、いろんな人の奥深さに魅力を感じて、それを伝達したいと思うんです。


─純子は昭和のアイドルでしたが、それが服装にも表われているということですね。


深川 純子やサキの服については、古いままを持ってきたら、ちょっと耐えられない感じになるかもしれないと思いまして、昔っぽいけど今でも着られるレトロ感、最近流行っている「レトロかわいい」感じの服にしました。

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