【ざっくり!平成アニメ史】第8回 平成8年(1996年)――「ナデシコ」「セイバーマリオネット」「ラムネ」、そして「エヴァ」! テレビ東京から始まるTVアニメ新時代

2019年4月30日、31年に及ぶ「平成」の幕が下りる。

国内外問わずさまざまな出来事のあった激動の時代だが、アニメ業界にも数え切れないほどの作品が生まれ、いろいろなトピックが世の中をにぎわせた。

アニメは世につれ、人につれ。

というわけで1年ごとに平成のアニメを振り返るのが、この連載「ざっくり!平成アニメ史」だ。今回は加熱するエヴァ人気にあおられるようにアニメバブルが到来した平成8年(1996年)だ。

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激変するTVアニメ事情

「スレイヤーズ」「エヴァンゲリオン」といった大ヒットアニメの登場で、にわかに盛り上がり始めたアニメ業界。平成8年は、その熱気にわいた1年であった。

顕著なのが、テレビ東京系列の夕方枠アニメのラインアップである。

なかでも話題を呼んだのが、「スレイヤーズNEXT」「セイバーマリオネットJ」「機動戦艦ナデシコ」「VS騎士ラムネ&40炎」など。これらの作品が1年を通じて、大きな話題を提供し続けた。

「スレイヤーズNEXT」「セイバーマリオネットJ」は、小説を原作とする作品で、「機動戦艦ナデシコ」「VS騎士ラムネ&40炎」は原作のないアニメオリジナル企画作品。いずれも角川書店(現・KADOKAWA)の雑誌やレーベルで原作小説、またはコミカライズ作品を発表。玩具、グッズ展開は控えめだが(「ナデシコ」は放送期間にプラモデルを発売)、サウンドトラックやキャラクターソングを収録したCDは続々とリリース。そして2クールでの放送(26話前後)と、前年の「スレイヤーズ」「エヴァンゲリオン」の展開を踏襲した作りである。

また、美少女キャラを前面に押し出した作風も特徴あろう。従来であればOVAで発表されていたであろうこれらの作品も、パッケージビジネスの形を取ればTVアニメとして成立することが、これらの作品で実証されていった。

このほか、同様の作品に「魔法少女プリティサミー」もあげられるが、こちらはパイオニアLDCから発売されていたOVA「天地無用!」シリーズのスピンオフ作品。人気キャラクター・砂沙美が魔法少女として活躍するという内容で、もともとが「魔法少女アニメ」のパロディ的なニュアンスを持ったOVA作品だった。こうしたアニメファン向けのパロディ作品が、ネタで終わることなくきちんとTVアニメ作品として成立し、商業的にも成功を収めたということで、もっとも成功したこの時期のアニメシーンを象徴する作品のひとつと言える。

「天空のエスカフローネ」も、この時代を代表する作品だ。少女マンガ的な恋愛要素とハードなファンタジー戦記要素。さらにロボットアクション要素を持つ本作は、「マクロス」の河森正治が原作を手がけ、劇伴は菅野よう子、溝口肇による重厚なオーケストラを採用。また、キャラクターデザインに結城信輝、メカデザインに山根公利、主演・主題歌はまだ高校生だった坂本真綾が手がけるなど豪華な布陣で制作。さらに、当時としてはまだ最先端の技術だったCGが実験的に導入されたり、メカバトルでも武器の重さや重心を感じさせる殺陣を描いたりと、作画・演出面に多くの見どころがある作品であった。

ここで、前年放送をスタートした「新世紀エヴァンゲリオン」についても触れておこう。本作は、この年の年始あたりから、大きなムーブメントの兆しを見せ始めていた。タイミングとしては、次々とメインキャラが脱落していき、主人公・碇シンジがどんどん精神的に追い詰められていく物語後半にさしかかるあたり。生物学・心理学・宗教関係の単語も増え始め、そのミステリアスな世界観に視聴者たちのテンションもグングンと上昇していった。その盛り上がりは、クライマックス直前の第24話(渚カヲルの登場回)でピークに到達。いよいよ人類の存亡をかけた最終決戦が描かれる……! そう期待した視聴者を裏切るように、第25話では登場人物の心理的な葛藤やトラウマが延々と語られる内容で、視聴者の度肝を抜いた。

そして最終話である第26話では、ついにシリーズ最高視聴率の10.3%を記録。日本中のアニメファンがその結末に注目する中、突然学園ものアニメ風のシーンが挿入されたり、長い自問自答の果てに自分を肯定してあげることのできたシンジに対して、主要キャラが勢揃いして「おめでとう」と祝福したりと、物語的なオチは完全に放棄した衝撃の内容であった。

これには誰もが唖然。ある者は大絶賛し、ある者は憤慨。アニメファンの間で、あの最終話の是非を問う「エヴァ論争」が巻き起こった。この盛り上がりは、サブカルチャー論壇やメディアで活躍する文化人・芸能人にも飛び火し、やがて一般紙や新聞にも取り上げられ始めた。

そんな状況の中、4月には第25話、第26話を当初の脚本に沿った形で作り直すこと、そして完全新作となる劇場版の制作が発表された(この完全新作は結局制作されることはなかった)。

そして深夜帯での再放送がスタートし、高い視聴率をたたき出した。この放送を通じて「エヴァ」に触れた一般の新規視聴者も少なくはなく、これが「エヴァ」ブームをさらに加速させることになる。

結果的に、「エヴァ」が深夜放送におけるアニメの可能性を示したことで、翌年以降の深夜アニメ急増につながったほか、「エヴァ」以降のテレビ東京系列の夕方アニメの成功が、放送権料の高いゴールデンタイムから夕方枠を中心としたアニメ放送スタイルへの移行をうながした。

これらの作品は、それまで主流だった3~4クールものアニメに比べ、2クールというコンパクトな作りになっており、ストーリー展開もテンポアップ。また早いサイクルで続々と新作が放送されるようになり、常に新たな刺激をアニメファンに提供し続けることとなった。

その功罪はここでは語らないが、少なくとも次々と新たなアニメが発表されるようになったこの時期、アニメファンはかつてない興奮と刺激に酔いしれていたことは間違いない。このある種の高揚感と熱狂が、90年代後半のアニメファンの間に渦巻き、業界側も堰を切ったように斬新な作品を発表するようになる。

深夜アニメ時代前夜に登場した「エルフ」

深夜アニメについて先述したが、これまでも不定期に深夜アニメは制作されていた。しかし、現在の主流である「アニメファン向けの作品」というよりは、「大人でも楽しめる一般向けアニメ」というニュアンスが強く、あくまで深夜枠のバラエティ、ドラマの亜種のような位置づけであった。

しかし、この年にテレビ東京にて放送された「エルフを狩るモノたち」は、それらの作品とは異なり、完全にアニメファン向けの深夜アニメであった。異世界に召喚された現代日本人の男女が、元の世界に戻るために、若いエルフの女性の肌に刻まれた呪文を集めるというストーリーで、毎回エルフが服を脱がされるというコメディタッチな作風だった。

本作をもって深夜アニメの元祖と語られることもあるが、それはある意味では正しいと言える。

このように、テレビ東京を中心にアニメ熱が盛り上がっていったのが1990年代後半のアニメシーンであり、その幕開けとなったのが平成8年(1996年)だった。

そのほかのTVアニメを見てみると、やはり強いのが「週刊少年ジャンプ」(集英社)連載漫画原作のアニメだ。「こちら葛飾区亀有公園前派出所」「地獄先生ぬ~べ~」「みどりのマキバオー」「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」がこの年から放送を開始。また、アニメオリジナルの続編として「ドラゴンボールGT」がスタートした。

また、現在も続く人気アニメ「名探偵コナン」の放送がスタートしたのもこの年のこと。

「ゲゲゲの鬼太郎(第4期)」「YAT安心!宇宙旅行」「爆走兄弟レッツ&ゴー!!」といったキッズ向けアニメも人気を集めたほか、「こどものおもちゃ」「水色時代」といった少女マンガ原作ものアニメも話題となった。

あまりにも面白すぎる声優のアドリブで話題となったのが、フルCGアニメ「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」だ。本作は1980年代に人気を博したロボットアニメ「トランスフォーマー」シリーズの1作品で、フルCGで描かれた、動物からロボットへと変形(変身)するトランスフォーマーたちの戦いを描いた作品だ。内容は正義のサイバトロント悪のデストロンの2陣営によるバトルなのだが、子安武人、高木渉、山口勝平、藤原啓治、千葉繁、長島雄一(現・チョー)などなどアクの強いキャストが台本にはないアドリブセリフを連発。他作品のパロディや時事ネタ、ついには字幕スーパーにも突っ込みを入れたりとやりたい放題。そのノールールな演技から、老若男女問わず高い人気を博した。

また、毎年放送されていた「ガンダム」シリーズだが、この年放送の「機動新世紀ガンダムX」をもってテレビ朝日夕方枠の放送はいったん終了となった。一説によるとこの時期、孫正義率いるソフトバンクと実業家ルパート・マードック率いるニューズ・コーポレーションの合弁会社がテレビ朝日の筆頭株主になるという、日本の放送局にとって初の外資とベンチャーによるM&Aが一因だと言われている。

結局、朝日新聞社がテレビ朝日の筆頭株主になることで一応の決着がついたのだが、この買収騒動の中で、アニメを夕方やゴールデンタイムに放送していては企業価値が下がる、ということで、「ガンダムX」はそのあおりを食らい、早朝6時に放送時間が移動になったうえで、放送短縮の憂き目に遭ったということらしい。

そのほか、「超者ライディーン」「勇者指令ダグオン」といった、サンライズ作品が女性からの人気を集めた。「超者ライディーン」は、1975年放送のロボットアニメ「勇者ライディーン」を原案とするヒーローもので、男性アイドルグループの美少年たちがライディーン戦士に変身し、悪と戦うといった内容。「ダグオン」は勇者シリーズの7作目にあたる作品で、従来のシリーズとは異なり男子高校生たちが等身大ヒーローに変身、ロボットに融合し悪と戦うという内容だった。

どちらも男児向けのヒーローものとして人気を博しつつも、女性アニメファンからの支持も集めた。「超者ライディーン」は2クールの予定が3クールに延長されたほか、女性向けサービス多めのドラマCDやキャラクターソングCDがリリースされ声優によるライブイベントを開催、「ダグオン」は放送終了後もドラマCD、キャラクターソングCD、OVAが制作された。

時代の荒波に取り込まれ始めるOVA

OVAでは、続編もの、原作ものが話題の中心となった。

面白いのが「それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ」「鉄腕バーディー」「マスターモスキートン」「魔法使いTai!」「MAZE☆爆熱時空」といった作品である。これらは、この年にOVAとして発表されたが、後年改めてTVアニメとして制作された。90年代後半、アニメファン向けの作品がOVAからTVアニメへと移行していったことがうかがえる現象だ。

また、ゲーム原作ものOVAも多くリリースされた。「超人学園ゴウカイザー」「闘神伝」「パンツァードラグーン」「ファイアーエムブレム 紋章の謎」「宝魔ハンターライム」「パワードール」など、キャラクター人気の高い作品を中心にアニメ化した。

劇場用アニメでは、CLAMP原作のマンガ「X」が長編アニメ化。同じ「X」つながりで、ロックバンド・X JAPANが主題歌「Forever Love」を担当した。本作は監督がりんたろうで、キャラクターデザインを結城信輝が手がけ、美麗なキャラクターと東京タワーを残して崩壊する東京というインパクト大なビジュアルを描き出した。衝撃的すぎるラストシーンに、観客も一同唖然とするばかりであった。

また、ピクサーのCGアニメ映画「トイ・ストーリー」が日本公開されたのもこの年のこと。初の長編CG劇場用アニメということで大きな話題となったが、その内容も、子どもはCGで描かれたおもちゃの大冒険に胸躍らせ、大人はノスタルジーに涙する、まさにエンターテインメントの王道と言える作りだった。日本国内ではセルビデオが190万本を売り上げる大ヒットを記録した。

このように、日本国内のアニメビジネスの転換。深夜アニメ時代の幕開け。CGアニメの出現など、非常に多くのトピックに沸いたのが平成8年のアニメ事情であった。

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