【TAAF2019】高畑勲追悼特集2:「じゃりン子チエ」に見る、原作を超える演出のリアリティとは?
2019年3月8日~11日にかけての4日間、東京・池袋にて開催中の「東京アニメアワードフェスティバル2019(TAAF2019)」。今回のTAAF2019では、昨年惜しくも他界された、日本を代表するアニメーション監督、高畑勲さんをしのぶ「高畑勲追悼企画」が行われている。ここではそのうち、3月9日(土)に行われた「高畑勲追悼企画2 -原作を尊重し、原作を超える演出- 『劇場版じゃりン子チエ』」の上映会とその後に行われたトークイベントについてレポートする。
その前に「じゃりン子チエ」について少々おさらいしておこう。「じゃりン子チエ」は、かつて月刊「漫画アクション」に連載されていたはるき悦巳による漫画作品。1978年から連載が開始されてから1997年まで約20年続き、単行本コミックは全67巻にものぼる大作である。TVアニメについては1981年4月にこちらの劇場版が公開され、その後同年10月から1983年3月にかけて1年半テレビシリーズも放送された。なお、その後1991年から1992年にかけて、TVシリーズの第2作「チエちゃん奮戦記 じゃりン子チエ」も作られ放送された。なお、劇場版と最初のTVシリーズは、いずれも高畑勲さんが監督を務めている。アニメーション製作は東京ムービー新社(現トムス・エンタテインメント)。
「劇場版 じゃりン子チエ」のアニメ版を特に印象付けたのは、声優に、当時の吉本興業の漫才師を多数登用した点だ。チエの父親・テツ役の西川のりおをはじめ、祖父・祖母役に鳳啓介・京唄子のコンビ、さらに上方よしお、横山やすし・西川きよし、ザ・ぼんち(おさむ・まさと)、島田紳助・松本竜介、オール阪神・巨人、さらには桂三枝、芦屋雁之助など、大阪の芸能界きっての顔ぶれが並んでいた。本作はそれだけ大阪という街に密着した作品であり、その濃厚な世界観を表すのに彼らが適当だと、高畑監督が考えた結果なのだろう。しかし、この目論見は見事に当たり、「じゃりン子チエ」のアニメ版は、当時かなりの成功を収めた。なお、チエの声を担当していたのは、後に国会議員にもなる中山千夏さんで、テツ役の西川のりおとの名コンビが好評を博した。
終演後のトークイベントでは、本作で作画を担当していた、日本を代表する名アニメーター・友永和秀さんと、学生時代に本作に触れた経験を持つアニメーター・沖浦啓之さん、そしてモデレーターとして映像研究科の叶精二さんが登壇し、高畑監督作品ならではの作画や演出などについて活発なトークを繰り広げた。
まず友永さんといえば、「ルパン三世 カリオストロの城」(宮崎駿監督)のカーチェイスシーンを作画したことで有名だが、その「カリ城」が1979年の作品で、それからほぼすぐに、宮崎駿監督とはまったく異なる雰囲気を持った高畑勲監督の作品を手がけることになったわけで、そのあたりどうだったのかと叶さんから聞かれたところ、「いたって普通だった」と答えた後に、いたって日常的な芝居や動作ばかりの作品なので、ごまかしが効かない点はいろいろ大変だった、と当時を振り返った。その際、たとえば、居酒屋のシーンであれば、そこがどのくらいの広さの空間で、何歩歩いたらカウンターに着くとか、そうした細かい指示を高畑監督から受け、それを芝居にしていったという。また、高畑監督は、原作漫画の持つ雰囲気や空間を非常に意識していたそうで、そのあたりのとらえ方は、宮崎駿さんともまた違って、非常にリアルなものだったと語った。
また、沖浦さんが本作を観て感心するのは、キャラクターの日常的な動きの細かさだという。ただ歩いているだけのシーンでもしっかりと体重移動をしていたりと、各シーンごとに非常に細かいコントロールがなされていると感じたそうだ。こうした細かい動きというのは、どの時点で誰が指示を入れてくるのかと友永さんに質問すると、友永さんは、「よく覚えてないんだけども」と断りつつも、高畑さんはラフ原画のチェック段階で、「この動きを再現するのには、この絵が足りないんじゃないか」といったかなり細かい指示を入れていていたように記憶していると語った。
また、本トークのテーマである「原作を尊重し、原作を超える演出」という部分でいうと、本作の中では、かなり極端なデフォルメ表現も多々現れる(巨大なゲタが飛んでくる、「ゴジラ」作品の劇中劇など)が、これらは原作漫画にはないものであり、こうしたデフォルメを多用するのは、高畑監督作品の中でも異例だ(ちなみに、製作期間もわずか半年程度と、高畑監督作品の中では異例の短さである)。こうした原作にはない、アニメならではの演出については本作内にも多々あるが、それらはすべてシーンのつながりを自然に見せるためのものだったのではないかと沖浦さんは分析する。また、物語の終盤、チエたち家族3人で遊園地に行くシーンは原作にはないものだが(原作では金閣寺に行く)、友永さんも「この意図はよくわからない」としながらも、きっと、観覧車に乗って風景を眺めるシーンが浮かんじゃったんじゃないのかなあ、と回想した。いっぽう沖浦さんは、チエにしても、基本的にはギャグなんだけども、芝居は日常芝居で細かく描かれていて、しんみりさせるところもある。そういうところは高畑さんは一切ブレてなくて、だからこそああいうたまに飛躍するようなデフォルメがあっても破綻しないのではないかと分析してみせた。
最後に友永さんからは、「本作は今から40年前、自分が20代の青春時代に原画として携わった仕事で、『カリ城』と並んで記憶に残っている作品。こういう作品に携われて本当に幸せだった。ありがとうございました」とコメントが寄せられ、イベントは終了となった。
・東京アニメアワードフェスティバル2019(TAAF2019)公式サイト
(C)はるき悦巳/家内工業舎・東宝・ユニバーサルミュージック・TMS
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