【TAAF2019】オープニング作品「エセルとアーネスト ふたりの物語」上映&トークイベントレポート。「スノーマン」のレイモンド・ブリッグズの両親の人生を描く

2019年3月8日(金)、「東京アニメアワードフェスティバル2019(TAAF2019)」が、東京・池袋にて開幕した。8日~11日までの4日間、池袋の街にある映画館などを中心とした各会場で、国内外のさまざまなアニメ作品が上映されるほか、アワードの表彰や、アニメに関するシンポジウムが行われるなど、さまざまなイベントが用意されている。


「TAAF2019」は、東京アニメアワードフェスティバル実行委員会と、一般社団法人日本動画協会が主催し、東京都が共催する国際アニメーション映画祭。2002年に「東京国際アニメフェア」の一環として行われた「東京アニメアワード」を独立・発展させた国際アニメーション映画祭であり、2014年より開催され、今回で6回目の開催となる。


そのオープニング作品として同日夜に上映されたのが、イギリスで2016年に制作された長編アニメーション作品「エセルとアーネスト ふたりの物語」である。本作は、「スノーマン」や「風が吹くとき」などの名作で知られる児童文学作家、レイモンド・ブリッグズ氏の両親の人生を描いたグラフィックノベル「エセルとアーネスト」を原作とした長編アニメーション。製作に9年もの歳月を費やした大作である。声の出演は、イギリスを代表する2人の名優、ブレンダ・ブレッソン(「秘密と嘘」)と、ジム・ブロードベント(「アイリス」)。監督を務めるのは、「風が吹くとき」にアニメーターとして参加し、「スノーマンとスノードッグ」の監督を務め、レイモンド・ブリッグズ氏とも深い親交のあったロジャー・メインウッド。なお、メインウッド監督は、本作の日本公開(20119年秋)決定後、昨年2018年9月20日に、65歳の若さで惜しくも亡くなられた。監督にとっての遺作ともなる作品だ。


ストーリーは、1928年のロンドンから始まる。牛乳配達のアーネストと、メイドだったエセルは恋に落ちて結婚する。やがて、最愛の息子レイモンドが生まれるが、すぐに第二次世界大戦が始まり、レイモンドは5歳で疎開に出される。激しい空爆で被害を受けるロンドンの街。そんな苦難の日々をエセルとアーネストは、ほのぼのとしたユーモアで乗り切っていく。やがて、戦争が終わり平和な時代がやってくるが、その後も2人と家族の間にはさまざまな問題が起こり、やがて老いを迎えていく……。そんなロンドンの一般市民の日常を緻密に描いた作品だ。

「エセルとアーネスト ふたりの物語」

本作の素晴らしい点は、その緻密な作画だろう。暖かみのある色彩とタッチで描かれたヨーロッパの絵本の世界がそのまま動いているかのような、美しい作画にまずは圧倒される。94分の長編作品であるが、ここまで細かい作画を行うためには相当な枚数のセルを描きこまなければならなかっただろうことが容易に想像できる。第二次世界大戦という厳しい時代を中心に描いた作品ではあるが、その雰囲気はあくまでほのぼの。絵柄もそうだが、日本の4コママンガ的なユーモアにあふれた日常の小エピソードが連続していく感じは、まさに日本の同時代を切り取った名作アニメ作品「この世界の片隅に」にも通ずるものがある。ある意味では、英国版「この世界の片隅に」と言っても過言ではないような雰囲気を持った作品である。


映画上映後には、本作プロデューサーのカミーラ・ディーキンさんと、「この世界の片隅に」などを手がけたアニメ監督・片渕須直さん、そして、TAAF2019 フェスティバルディレクターの竹内孝次さんの3名を招いてのトークショーが行われた。会場に集まったお客さんの多くが、レイモンド・ブリッグズ氏のファンであり、本作の出来にも感銘を受けていたようだ。また、「この世界の片隅に」とも関連して、広島からやってきた新聞部の高校生も来場しており、広島との時代的な関連性などについて質問を行っていたのが印象的だった。

竹内孝次さん、カミーラ・ディーキンさん


トークの中でも、本作と「この世界の片隅に」との関連性・類似性などについて意見が交わされた。本作の主人公であるエセルは登場時は35歳だが、そういう年齢の女性を主人公にした作品は日本ではまず見ない。そういう意味で、ある種新しい日常を描いた作品であると片渕監督。また、「この世界の片隅に」も、製作当初は資金集めで非常に苦労し、クラウドファウンディングで資金を調達した作品として知られているが、その点、同じような日常風景を切り取った本作も、資金面では苦労したのでは?と竹内さんが問うと、カミーラさんは、それは確かにそうで、7年かけて資金を調達した。通常、大人向けのアニメーション作品は資金繰りで苦労するもの。本作の場合は特に、事実に基づくリアルなエピソードでつづられているため、より商業的な成功を危ぶむ声も聞こえたが、むしろそれが本作の強みになっていると信じていたと語った。


また、作画に関しては、車などの乗り物関係については一部CGを使ったり、家の中などのカメラワークも一部CGを使っているものの、人や動物の動きなどに関しては本作はほとんど手描きで製作されているということがカミーラさんより語られた。このほか、舞台となった当時のロンドンの雰囲気などを実に細かく描写していることについては、片渕監督より、かなり緻密に調べてその世界を全体として作らないといけないはず、と語られ、その関連で、片渕監督と竹内さんがかつて一緒に仕事をした「名探偵ホームズ」(1984年)のロンドン・ロケハンの様子などにも話が及んだ。また、カミーラさんからは、本作の監督であるメインウッド監督は、非常にディテールにこだわる人で、当時のイギリスのたとえば車のスイッチなどの位置にまで細かくこだわって正確に再現していたというエピソードが語られた。

カミーラ・ディーキンさん


このほか、片渕監督からは「この世界の片隅に」の製作中、みずからが日本の当時の世界の片隅を描いている中で、ほかの世界の片隅がどうなっているのかが気になって、いろいろ調べたという話がなされた。そこで知識としては知っていたことが、この映画を見たことで非常にリアルに感じられたと語った。


最後に、この映画をどんな人に見てほしいかという問いに対して、カミーラさんは、もちろんこの時代の記憶があるような年齢の方にも見てほしいが、むしろこの時代を知らない子どもたちにも見てほしい。そして、イギリスの小学校で行われたプログラムのように、子どもたちにも、この時代についていろいろ調べてみるきっかけにしてほしいと語った。

本作「エセルとアーネスト ふたりの物語」は、2019年秋、岩波ホールほか全国で順次公開予定だ。

・「エセルとアーネスト ふたりの物語」作品紹介ページ(TAAF2019公式サイト)
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(C) Ethel & Ernest Productions Limited, Melusine Productions S.A.,
The British Film Institute and Ffilm Cymru Wales CBC 2016

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