【TAAF2019】「シンポジウム2 日本のアニメーションを考える グローバルとユニーク」:アニメーション制作に必要なスキルは「コミュニケーション能力」? プロデューサー陣が語るアニメ制作の本音
2019年3月10日(日)、「東京アニメアワードフェスティバル2019(TAAF2019)」のプログラムの一環として、「シンポジウム2 日本のアニメーションを考える グローバルとユニーク」が、豊島区庁舎にて開催された。
このプログラムは、日本のアニメーションの第一線で活躍するプロデューサーが集い、多様化していく世界のアニメーション事情の中で、日本のアニメーションの立ち位置を確認するというもの。世界と日本のアニメーション事情の違いを確認し、日本のアニメーションはどう進歩していくべきなのかが議論された。
今回登壇したのは、加藤浩幸さん(アニメーションプロデューサー、「ポケモン」シリーズなど。OLM)、田中伸明さん(プロデューサー、「ちびまる子ちゃん」など。日本アニメーション 制作部長)、本多史典さん(アニメーションプロデューサー、「攻殻機動隊S.A.C.」「精霊の守り人」「図書館戦争」「東のエデン」など。シグナル・エムディ)の3名。フェスティバルディレクター・竹内孝次さんが司会進行を務めた。
今後、アニメ制作関係者に求められるものとは
「デジタル化が、アニメ作品にどんな影響を与えるのか。どんなものをつくり、予算の配分を考えているのか」がテーマとなった今回のシンポジウムでは、まず本多さんより昨年劇場公開された「フリクリ」新作についてのエピソードが語られた。
「エピソード5」は、絵コンテのみアナログで制作。そのほかの工程はフルデジタルで制作されたそうで、その結果、単純にアニメーターの作業量を増やすことに成功。ほぼ社内と国内のスタッフで完成させることができたうえに、多額の賃金を得たアニメーターもいたという。
また、加藤さんによるとOLMはマレーシアに2Dアニメ制作スタジオを設立。そこでは動画と仕上げを中心に手がけている。同じスタッフが両方の作業を手がけることで、コストの削減、作業の効率化を実現。その結果アニメーターの給料も上昇したそうだ。
日本アニメーションの田中さんは、「ちびまる子ちゃん」の制作現場に関しては、演出家の中にはデジタルでコンテを書いてくる人もいるが、監督がデジタルに対応できていないので、一度プリントアウトして確認していると語るいっぽうで、2019年内には動画から仕上げまでの作業をデジタル化したいという意向を示した。
このようにデジタル化の波は、すさまじい勢いで制作現場に押し寄せているようだ。
その結果、「少ない人数で制作にかかわることで、ギャランティを山分けできる可能性がある」と加藤さんは語る。しかし、現在アニメーターはフリーランスが多く、そのため彼らには出来高でギャランティを支払わざるをえない状況があるという。そこで、「もし賃金、待遇の改善を考えるならば、会社に所属してヒット作を出すことで、ボーナスをもらうという道もあるのでは。またデジタル化する際、パソコンもソフトも企業が買うことになるので、企業に入ったほうがメリットがあるのでは。単価計算はフェアなシステムだとは思うが、プラスアルファを求めるならば会社に入るのがいいのでは、というのが制作側の正直な気持ち」と語った。
いっぽう田中さんは、「フリーの外注アニメーターが多いので、そういう方にデジタル環境を導入していただくために、日本アニメーションとしてはいくらか補助を出せたら」と、アニメーターのサポートに積極的な姿勢を見せた。
次に、今後のアニメ業界に期待することに話題が及ぶと、加藤さんは「AI」と回答。特にディープランニングを活用した彩色作業や仕上げ作業で、AIの活躍する可能性があるとコメント。しかし、「瞳の中」のような日本のアニメならではの独特のディテール部分を機械化することは難しく、そこは人間の手での作業が必要だとも語った。
また、デジタル化することでアニメ制作のワークフローが変化していくことも示唆された。その結果、「単純に原画、動画の進行を管理する“制作進行”というポジションがなくなり、よりスタッフと面白いものを作れる、クリエイティブな面が“制作”に求められるようになる」とコメント。
さらに、本多さんは「デジタルを使う以上、何を発注できて何が発注できないかを、制作にも理解してもらいたい」と語った。
そのほか、制作進行にはコミュニケーション能力を身につけてほしいという話題が飛び出した。やはりさまざまなスタッフの間に立ち、交渉し、調整していくというポジションである以上、人付き合いも重要なスキルになるということで、履歴書では「リーダーシップ、チームワークを取れるか」「体力があるか」「部活で集団スポーツをやっていたか」「どんなバイトをやっていたか」をチェックするそうだ。
田中さんは、「アニメ業界を目指す学生の卒業制作については、個人制作のものが多く、あまりチームワークで作ることをやっていない印象がある」と指摘。
竹内ディレクターも、「たとえばフランスの映像学校では、まず集団作業をやらせる」と海外のアニメーター育成機関の状況を紹介。
それを受けて加藤さんは「我々が作っているのは商業作品。究極的には自分を殺して、周囲にあわせる覚悟があるのかを問いたい。キャラクターデザイナーになっても、自分の絵を描けるわけではなく、クライアントなどの意見も聞かねばならない。自分の個性や絵を制御しながら作るのがアニメ」とコメントした。
これは、アニメ業界を目指す学生にとっても非常に参考となる意見だったのではないだろうか。
終始、和やかな雰囲気の中で、忌憚ないアニメ業界の現状やスタッフに求められるスキルや心構えが語られた。アニメ業界関係者も、アニメに興味のあるファンにとっても、非常に有意義な時間となったのではないだろうか。
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