イケメンボイスでビジネス書を! オーディオブックの新レーベル「極上voiceメソッド」【コラボのゲンバ第5回】

アニメや声優などのサブカルチャーとさまざまな業界のコラボレーションが活発化する今日この頃、「おっ!やってくれるな」「何?そうきたか!」とファンの心を刺激してくる商品、コラボ企画が続々と登場している。そこで、アキバ総研的に気になる「コラボ」の企画現場に伺い、企画の魅力やおもしろエピソード、苦労話などの制作裏話を、あれこれうかがっていこう!という連載が「コラボのゲンバ」だ。

第5回に登場するのは、ビジネス書をイケメンボイスでお届けする、「オトバンク 」×「フロンティアワークス」によるオーディオブックの新レーベル「極上voiceメソッド」。

今回お話をうかがったのは、株式会社オトバンク オーディオブック事業部の制作ディレクターの望月鷹裕さんと広報の佐伯帆乃香さん。豪華声優陣をガイド役に、ビジネス書や自己啓発書をお届けするという新レーベル誕生の経緯や制作時のこだわり、発売後の反響やアフレコの裏話、そして今後の展開について語ってもらった。

—— 新レーベル「極上voiceメソッド」を立ち上げた経緯を教えてください。

佐伯 フロンティワークス様と提携して何か新しいものを作りましょう! というときに、当社が得意とする「ビジネス書」を新しいコラボで、ビジネス書初心者にもターゲットを広げたいというところから始まりました。オーディオブックのビジネス書に関しては、これまでは特に多い購入者層が男性だったということもあり、新しい層に届けたいという想いで立ち上げました。

望月 この企画の以前に、フロンティアワークスさんと一緒にグランブルーファンタジーのコラボショップを展開したことがあるのですが、その際に来店された女性客の割合が予想以上に多く驚きました。そこで女性のファンの方の熱量に直接触れたこともあり、弊社の強みである「オーディオブック」と、フロンティアワークスさんの強みである「アニメや女性向けのコンテンツ作り」のノウハウをかけ合わせられないか…と考え始めました。今まで弊社ではまだ届ききっていなかった女性をターゲットに、新しい形でビジネス書を届けたいという想いからできあがった企画です。

—— ターゲットのメインは女性ということなのでしょうか?

佐伯 主にはビジネス書の初心者がターゲットで、その中でも今回は女性をメインに検討しました。

初心者向けという点では、中身をダイジェストにしたり、表現を口語体にすることで、ビジネス書を身近に感じてもらいたいということを大事にしました。ビジネス書を漫画にするというシリーズが今、ヒットしているという背景もあるので、そこに音声でアプローチする方法を探しました。

望月 オーディオブックの場合、ビジネス書のユーザーは男性が多いんです。「漫画でわかるビジネス書」というようなシリーズもいろいろ出ている中で、ビジネス書自体の敷居は以前より低くなっているものの、なかなか読むきっかけがないという声もよく耳にします。今まで少なかった層に、ということでビジネス書初心者、その中でも特に今回は女性層を意識はしました。ですが男性が聞いてもスッと入ってくるものを作ることを心がけました。

—— 男性からの反響はいかがでしたか?

望月 「嫌われる勇気」シリーズは特に反響が大きかったです。しっかりとした声で説得力があり、心に響いたという声を多くいただきました。「嫌われる勇気」シリーズ以外は、ダイジェスト版は1時間程度で聞くことができるように作っているのですが、「わかりやすかった」という感想もたくさんありました。

—— ダイジェスト版は手に取りやすい印象です。

望月 オーディオブックに触れたことがないと、音源の長さを見て「わっ、最後まで聞くの大変そう」と手に取るのをやめてしまうこともあるかもしれない。だからこそ、その敷居を下げたいと考え、物語として完結している「嫌われる勇気」シリーズ以外はダイジェスト版にしてみました。ダイジェスト版を聴いて、「もっと詳しく知りたい!」と思っていただけた方は、原作も手にとってもらえれば…という思いもありましたが、実際原作の書籍版も購入したというお声もいただいており、我々も嬉しく思っています。

—— 原作を読ませるというのは原作側にとってもうれしいことですよね。ダイジェスト版にすることでの難しさや、原作側からのリクエストなどはありましたか?

佐伯 2007年くらいからオーディオブックを作っていて、クオリティには満足してもらっています。最近では、「この本をオーディオブックにしたらどうか?」と提案もしていただけるような信頼関係はできあがっています。なので、ダイジェスト版についても好意的に協力していただき、弊社におまかせいただいているものが多く大変ありがたかったです。

望月 もちろん、今回のように書籍ごとにオリジナルのキャラクターを描き下ろし、内容を話すというのは初めての試みだったので、最初の文字だけの企画書の段階では、原作者や出版社の方は「どのようなものができあがるのか?」をイメージするのは難しかったと思います。しかし実際にキャラクターのラフを見ていただき、冒頭のミニドラマのイメージをお送りしたところ、「あ、なるほど!」と。そこからは非常にスムーズにお話が進んだことをよく覚えています。

—— キャラクターを作るうえで特に意識したことはありますか?

佐伯 キャラクターの人格作りはかなりていねいに設定しました。もちろん、すべてを公開するわけではないのですが、声優さんはその細かい設定を踏まえて表現してくれるので、キャラクターに説得力が生まれました。

望月 本から受け取るイメージを大切にしました。「この本ならどういうキャラクターに話しかけられたいか…」というのをフロンティアワークスの方とともにリサーチし、「この人の言葉なら信じられる!」と、本の内容がキャラクターを通じて、より残りやすくなるよう心がけました。

——収録の時、印象的な出来事などはありましたか?

望月 参加していただいた皆さんの実力はいうまでもないのですが、皆様ビジネス書というジャンルに、思った以上に興味を持ってくださったことに驚きました。

特に細谷佳正さんの熱量はすごかったです。「面白いですね、この本!」と大変気に入っていただき、原稿とは別に原作本も改めて購入され、忙しい時間中も読み込んでいたと聞いた時には、本当に頭が下がりました。

細谷さんが演じた青年は斜に構えたところがあって、晢人に食ってかかるような熱いキャラクターです。哲人の言葉に「それは理想論では?」という聞き手の疑問を背負って代弁してくれる役割なのですが、まさに細谷さんははまり役でした。

そんな青年に語る哲人役の井上和彦さんも、長い台詞の数々を本当にていねいに、懐の深い老人を演じて下さいました。原作の時点でキャラクターがある程度できあがっていることもありましたが、お2人の声の深みによって、より作品に説得力が生まれたと思います。

ダイジェスト版の中では、特に「結局、『すぐやる人』がすべてを手に入れる」の森久保祥太郎さんが記憶に残っています。

これは私も収録時に驚いたのですが、森久保さんは普段から自己啓発書の愛好家であり、「こういう仕事をやりたかった!」と本当に嬉しそうにお話しくださいました。お好きなジャンルということもあり、共感するセリフに気持ちが入りすぎるという場面もありましたが、もちろんビシッと調整してくださり、見学に来られていた原作の藤由先生も大変感激して、お2人で収録後に握手をされていたのがとても印象的でした。

—— なるほど。いろいろなタイプのビジネス書、自己啓発書があるのですね。説得力も大切ですが、ビジネス書で癒されるというのもおもしろいです。

佐伯 会社で上司に「読むように」と言われて積読していた本を極上voiceで聴いたら、「ビジネス書なのに癒された」という声もいただきました。あと、オーディオブックを読んだ方の約2割の方が、原作を手にしているというのもうれしい結果です。

望月 実際にオーディオブックを聞いた著者の方から、「自分の書いた言葉だけど、いいこと言ってるみたいに聞こえる(笑)」という感想や、出版社の方からは「声優さんに詳しくなかったけど、いいですね。スッと入ってきます」という声をいただくと、こだわって作った甲斐があったなと思います。


—— 今後「極上voiceメソッド」はどのように展開していくのでしょうか?

望月 今はビジネス書メインですが、広がりはあると思っています。たとえば、ダイエットなどの実用書。インストラクターと一緒にエクササイズするのもおもしろいかなと。個人的には、社長キャラにお金に関する知識を伝授してもらうというような内容にも興味がありますね。

—— キャラクターの幅も広がりそうですね。楽しみにしています。

(取材・文=タナカシノブ)

おすすめ記事