P.A.WORKS期待の新作は、骨太ファンタジーアクション! 「Fairy gone フェアリーゴーン」十文字 青(シリーズ構成・脚本)×齋藤雅哉プロデューサー インタビュー
2019年4月より放送開始されるTVアニメ「Fairy gone フェアリーゴーン」。物語の舞台は、妖精が“兵器”として扱われる世界。長きに渡る戦争が終わりを告げて行き場を失った、それぞれの生きる道を選択した「妖精兵」たちの物語が描かれていく。
今回、小説家として活躍し、本作で初めてTVアニメのシリーズ構成・脚本を担当した十文字 青さん。そして十文字さんの小説が原作のTVアニメ「灰と幻想のグリムガル」にも携わった齋藤雅哉プロデューサーに、多くの謎に満ちた本作についてのお話をうかがってきた。
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最初は暗黒騎士が冒険をするという物語でした(齋藤P)
――本作のプロジェクトはどのようにして生まれたのでしょうか?
齋藤 P.A.WORKSさんと企画の打ち合わせをさせていただく中で「アクション作品がやりたい」という意見をいただき、私のほうからは「ファンタジー作品がやりたい」と提案させていただきました。
その後、16年に放送された、「灰と幻想のグリムガル」のイベント「灰と激奏のグリムガル -Grimgar, Live and Act-」の打ち上げで、十文字先生に「新しい作品が動きそうなのですが、アニメの脚本に興味はありますか?」とお聞きしたんです。それがプロジェクトが本格的に動き出したきっかけですね。
十文字 僕も脚本作りには興味があったので「ぜひ!」と回答させていただきました。ただ、ドラマCDの脚本を書いた経験はあるものの、アニメは初めてだったので、果たして自分にできるのかどうか、正直不安はありました。でも、やってみたら「スタッフと協力して進めていけば何とかなりそうだ」という手ごたえを感じて、今では本読みもすごく楽しくやらせていただいてます。
齋藤 本読みは基本的に和やかな雰囲気のなかで行なわれていますが、やっぱりお互いにどうしても譲れないところは出てくるんです(笑)。
――最初からファンタジー要素として「妖精」を登場させよう、ということで話が進んでいったのでしょうか?
齋藤 実は最初は「パーティー全員が邪神に憑依された暗黒騎士で冒険をする」という設定で企画書を作ったんです。そこからブレインストーミングを重ねた結果、邪神を妖精に置き換えようと。さらに「妖精」ではあるけれど、一般的に思い浮かぶような妖精とはまた違うものを持ち込んだら面白いんじゃないか?という結論に至りました。
十文字 齋藤さんは、「妖精」という言葉に最初はちょっと消極的でしたよね?
齋藤 妖精というと、やっぱりファンシーなイメージがどうしても強かったので……。
十文字 P.A.WORKSさんは「いいんじゃない?」という感じで前向きだったので、齋藤さんは劣勢でしたね(笑)。ただ、繰り返しになってしまいますが、「妖精と呼ばれてはいるものの、容姿も中身もそれとは別モノ」という設定にした結果うまくまとまっていきました。
齋藤 十文字さんが、この作品の人間が生まれてから現在に至るまでの「歴史年表」のようなものを作ってきてくれたのですが、ただの年表ではなく、どういう文化でどういう宗教が根付いていて、どういう経緯で妖精を使役するようになってきたのか……みたいな細かいところまで書いてきてくださったんですね。あまりにも骨太な内容だったので「これは妖精でもいけるな」と確信しました。
十文字 今回はひとりで小説を執筆するのとは違い、大勢で作り上げていくので、この作品への共通認識が必要だろうと考えたんです。年表は「こういう設定でこんな内容にしたい」という話がある程度進んだ段階で作ったので、みんなに「これでいこう」と思ってもらえるんじゃないかという、ちょっとした「勝算」のようなものはありました。
打ち合わせで十文字先生とケンカしているんじゃないかと思われたかも(笑)(齋藤P)
――十文字先生はこれだけの人数で共同作業をされてきたことは今までなかったと思いますが、実際にやってみていかがでした?
十文字 楽しいですね。ひとりで物語を作り上げるのはやりがいがあるんですが、こうやって大勢で一緒に作るのもいいものなんだな、と。僕は基本、人の話をあまり参考にしないタイプで、編集者の意見もそんなに考慮しなかったりするのですが(笑)、最初からみんなで作り上げるという前提でプロジェクトに参加したら、ほかの方の意見を採り入れるのも意外にできちゃうものなんだなという発見がありました。
――齋藤さんも打ち合わせでは「みんなで1から作り上げていく」というのを実感していますか?
齋藤 そうですね。ただ、僕と十文字先生の間だと遠慮なく意見してしまうので……。
十文字 齋藤さんとはわりと激しく議論することもあるので、最初はもしかしたら「この2人、本当にケンカしてるんじゃない? 仲が悪いんじゃないの?」みたいに思われていたかもしれません(笑)。
齋藤 今もお互いに「それはちょっと納得できない」とか言い合ってます。僕ら2人の中では、それが当たり前のやりとりだと思っているんですけどね(笑)。
数話ずつ物語を作っていく「週刊連載のマンガ」みたいな進め方をしています(十文字)
――登場人物の数も多く、それぞれに伏線があるように感じられるのですが、描いていくうえで大変だったところはありますか?
齋藤 メインはマーリヤとフリー、ヴェロニカとウルフランの4名で、全キャラクターをフィーチャーしていく……というわけではないのですが、そのほかの登場人物たちに関してのバックボーンなども拾っていくので、中盤からの物語の流れはかなり苦労して考えました。せっかく書き終えたものの「もっと面白い案が出たから、残念ながらお蔵入りで」となったエピソードも結構あります。
十文字 僕は元々小説を書くときも、ストーリーの展開やキャラクターの動きを先々まで考えて作るタイプではないんですが……アニメの脚本だと、それはあまりよくないんでしょうかね?
齋藤 そうですね。シリーズ構成が大体の流れを作ってからシナリオの初稿を上げる、というやり方が主流かもしれないです。ただ、今回は「最終回はこうなるよね」という顛末を考えておいて、大体3話ごとにエピソードを考えていく……という方法で進めていきました。
十文字 週刊連載のマンガのようなやり方ですね。
齋藤 先の読めないオリジナル作品で、そういう面白いエピソードをあとに取っておいても仕方ないと思うので、どんどん興味を持っていただけそうな展開に持っていきつつ、キャラクターの設定も少しずついじっていく、みたいな作業は、いまだにやっています。
――アフレコの現場ではどのようなやりとりがされているのでしょう?
十文字 僕は声優さんの演技を見るのはすごく好きなので本当は立ち会いたいのですが、北海道に住んでいますので、現場に行くのはなかなか難しいです。ただ、鈴木健一監督をはじめ、アニメ制作のことをよくご存じのスタッフがたくさんいますから、そこは全てお任せしています。
齋藤 「Fairy gone フェアリーゴーン」は共同原作という形で作っていますので、おのおのがしっかりと活躍できる持ち場があるな、というのは感じますね。僕もアフレコ現場には行くものの、直接声優さんとやりとりすることはほとんどなく、鈴木監督や音響監督の明田川仁さんに自分の意見などをお伝えしたうえで声優さんにディレクションしていただく、というやり方をしています。
演じるうえで心がけてほしいと思っているのは、「戦いのシーンと日常シーンのテンションの違い」でしょうか。物語が全体的に暗くならないようにしたい、というのがありまして、たとえばマーリヤは「災いの子」と呼ばれている暗い過去があるのですが、だからといって性格まで暗くならず、根っこの人柄としては明るく演じてもらいたいな、という思いがあります。
個人的には、妖精学者がみんな悪人のようなしゃべり方をするのが、とても面白いです(笑)。
十文字 ネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、インパクトのあるキャラクターもたくさん登場するので、そこも楽しみにしていただきたいです。
――キャラクターといえば、妖精のイラストも独特ですよね。
十文字 キャラクター原案・妖精原案の中田春彌さんが描いてくださるイラストは、言葉ではなかなか表現するのが難しいです。中田さんにしか描けない、唯一無二のデザインだと思います。
齋藤 発注の際は、鈴木監督から参考となるような資料や、テキストで「この妖精はこんな雰囲気で、こんな能力を持っています」といった情報をお渡しするのですが、それを中田さんが料理をすると想像と違ったカッコよさでできあがってくるという……。
十文字 中田さんには何か特別な「ブラックボックス」が備わっていて、それを通して出力されることで、ああいうすごい絵が生まれてくるんじゃないですかね。
齋藤 妖精も活躍する戦闘シーンは、CGも活用しつつ臨場感あふれるものに仕上がっているので、ぜひご注目ください!
――今作では主題歌および音楽プロデュースを(K)NoW_NAMEさんが担当しています。
齋藤「Fairy gone フェアリーゴーン」はダイナミックな作品ということで、音楽でも盛り上げたい、エンタメ感のある演出がしたい、という想いもありK)NoW_NAMEが音楽プロデュースをしています。
激しい戦闘はシンフォニックに盛り上げたり、1対1の戦いではロック調の音楽がギャンギャン鳴ったり、泣かせるシーンはとことん泣かせる……というように、その場面に合った曲で演出を力強く後押しするような音楽を制作しています。ハリウッド映画的なイメージといいますか 「わかりやすく盛り上げたいな」というのがベースにあります。
――齋藤さんがおっしゃったように、物語自体も観ていて入り込みやすさを感じます。
齋藤 ファンタジーと言うと、とっつきづらさを感じてしまう人もいるかもしれませんが、1900年代初頭のヨーロッパをイメージした舞台設定でマーリヤとフリーがバディとして戦う「刑事モノ」みたいなイメージを持ってもらえるといいかもしれないですね。
十文字 齋藤さんがおっしゃるとおり、純粋に物語を楽しんでいただきつつ、毎話毎話なにかが起こりますので、そこでワクワクしてもらえたらいいな、と思います。
――最後に改めて、本作の見どころをお願いします。
齋藤 「大陸全土を巻き込んだ大きな戦争から9年経った世界で、いろいろな意味で傷を負った人たちが今とどう向き合っていくのか?」という大きな軸となるものがありつつ、登場人物たちがお互いの信念をぶつけ合って戦っていくさまを楽しんでいただきたいですね。
十文字 小説を書くときと同じように登場人物ひとりひとりの描き方に神経を使っているのですが、今作に出てくるキャラクターは、生きるうえで挫折を味わってきた人がとても多いんです。彼らの生きざまに共感していただけるとうれしいです。
(取材・文/佐伯敦史)
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