今、振り返る「ミルキィホームズ」はじまりの時と最後の1年間――佐々木未来(声優)×岡田太郎(統括プロデューサー)対談インタビュー
「探偵オペラ ミルキィホームズ」というコンテンツから生まれた声優ユニット・ミルキィホームズは、2019年1月28日に日本武道館で開催された「ミルキィホームズ ファイナルライブ Q.E.D.」でゴールを迎えた。今回「ミルキィホームズ」ファイナルインタビューとしてお話をうかがったのは、そのミルキィホームズのメンバーのひとりだった声優の佐々木未来さん、そして統括プロデューサーの岡田太郎さん(株式会社ブシロードミュージック)だ。
声優ユニットのミルキィホームズとは、なんだったのか。笑顔のファイナルライブは、どうやって生まれたのか。それを改めて確かめるために、この2人に時間を取ってもらった。
佐々木未来さんが、2009年から2010年にかけて行われた全国公開オーディション「エリーを探せ! 全国声優オーディション」で、4500名を超える応募の中からエルキュール・バートン役を射止めた時は、まだ18歳。最後の武道館で彼女が口にした「岩手の吹雪の中にいた自分を見つけてくれた」というフレーズがとても印象的だった。「まさにその吹雪の中にいた頃、声優さんになりたい、歌とかも歌ってみたいという夢を持っていたんです。でも岩手には養成所もなくて。そんな時にインターネットで見つけたのが“エリーを探せ! 全国声優オーディション”の告知でした」。仙台大会を勝ち抜いた彼女は、2010年2月6日、中野サンプラザで行なわれた決勝大会に進出する。そこで佐々木さんは初めて、ピンク、黄色、青の探偵服をまとって歌って踊るミルキィホームズのパフォーマンスを目にした。「当時はミルキィの3人でラジオをやっていたぐらいで、パフォーマンスをお客さんに見せるのは初めてだったんじゃないかな? 実は私、面接で木谷(高明。当時のブシロード社長)さんに、声優と歌、どちらかを選ぶとしたら? と聞かれていて、すごく悩んで『声優です!』と答えたんです。だから中野の決勝大会の日に3人が歌って踊るステージを見て、『いや歌うんかい!!』と心の中でつっこみました」。
「エリーを探せ! 全国声優オーディション」決勝大会には、8人の地区大会優勝者が参加した。その中に、後に佐々木さんの親友になる人物がいた。大阪代表の愛美さんだ。「決勝に進出した人たちはみんな本当にいい子で、すぐに仲良くなりました。私がエリー役に決まったことをみんなが心から祝ってくれたのが泣けました。8人いると、自然にいくつかのグループに分かれるじゃないですか。あいみんと私は、なんとなく違うグループでしたね(笑)。でも、オーディションが終わって後泊する子たちで、あいみんの(ホテルの)部屋に集まって、語りあかしました」。後にさまざまな作品で共演する2人だが、新人時代は仕事での接点は薄かった。「2人とも同じタイミングで上京して友達もいなかったし、年齢も近いし、自然に友達になりました。お仕事ではあまり一緒になるわけでもなかったので、ほんと普通の友達で、その関係性は今も変わりません」。
オーディション終了後、ほどなく上京した佐々木さんは、ユニット、ミルキィホームズの一員となる。先輩たちとはすぐになじめましたか?という少しいじわるな質問に、佐々木さんは爆笑しながらうなずいた。「なじめました、3人とも本当にやさしくて。今思えば、徳さん(徳井青空さん)って本当はすごく人見知りなんですよ。でも新しく入ってきた私が不安にならないように、たくさん話しかけてくれたんだと思います。みもりん(三森すずこさん)は私が初めて上京した日、事務所で会ったんです。それから私が新居に荷物を運ぶのを手伝ってくれて。最初はウィークリーマンションみたいなところに住んでいたので、部屋が寒いよ~って言ったらすぐに毛布を送ってくれたりしました。橘田さんとは入ったばかりの頃、2人で猫カフェに行ったりしました。本当にお姉さんたちがすごくやさしくしてくれたんです」。
そしてもうひとりの岡田太郎さんは、ミルキィホームズの2代目統括プロデューサーだ。統括Pとして表舞台に上がったのは2016年2月のこと。しかしそれ以前からミルキィホームズ関連、特にライブ方面では中核としてチームを引っ張る存在だった。「ブシロードグループに入社する前、初めて仕事で関わったアニサマがミルキィ初出演(2010年)だったり、ワンフェスで僕が別ステージを担当していた時、直前のステージが『ミルキィホームズ』だったり。同じ業界でわりと近いところにはいたんです。正式に業務として公に関わるようになったのは、アニメ『ふたりはミルキィホームズ』(2013)の『ミルキィホームズシスターズ メンバースカウトオーディション』(オーディションでの投票集計係)からでした。ですからフェザーズの愛美さん、伊藤彩沙さんと僕はミルキィ的には同期なんです」。
「ミルキィホームズ」のチームでは、立ち上げメンバーである初代統括プロデューサー・中村伸行さんが長く中心的存在だった。表に出て話をするならもっぱら“のぶちゃん”の役目。その補佐をする立場のスタッフは自然に入れ替わっていたため、岡田さんが「今日からミルキィチームに入ります」というような瞬間はなかったそうだ。メンバーからしても「いつの間にかいて、みんなが信頼する欠かせない人になっていた」という感じだったようだ。フェザーズのファーストライブからライブの指揮をとるようになった岡田さんは、ある時ブシロードの木谷社長(当時)に呼び出される。中村統括プロデューサーが「ミルキィ」のコンテンツ全体を見る立場にいわば「昇格」するのにともない、ライブ現場に関しては岡田さんに多くの部分が任されることになったのである。当時の大一番、2014年5月24日に横浜アリーナで開催された「ミルキィホームズ ライブ 冒険☆ミルキィロード!!」では、すでに岡田さんがライブチームの中心を担っていた。
岡田さんが正式に表舞台に立つようになったのは、2016年2月。寒風吹きすさぶベルサール秋葉原で、中村・初代統括プロデューサーの退社に伴う退任と、岡田さんの統括プロデューサー就任が発表された。「正直に言えば、え、今なの?という感じでした(笑)。それ以前からプロデューサー的なことをやっていたし、コンテンツの顔はのぶちゃんに集約する形でうまくいっていました。社内でもチームの中でも僕は年下でしたから。でも、のぶちゃんが退任(後に退社)するという話を聞いて、それならその後を受けるのは、ミルキィを最後まで見守るのは自分しかいない、もう逃げられない、と思いました。責任感が増しましたね」。
今回インタビューを行なったブシロード社内にある部屋は、岡田さんと中村伸行さんが一緒に働いていた頃、「ミルキィホームズ」のプロジェクトルームだった。2人の机があり、部屋の奥には「ミルキィホームズ」関連の荷物や衣装、小道具がところ狭しと置かれていた。その中に、ミルキィのメンバーがくつろぐためのソファスペースがあったりもした。
中村さんの退社にあたり、岡田さんは2人だけでこう話したそうだ。「これからも『ミルキィホームズ』を盛り立てていくつもりだけど、どんなコンテンツにも、一度区切りをつける時が来ると思う。その時は、自分が最後まで責任をもって見届けるから、心配しないでください。」。
「その日が来てほしくはなかった」という約束は、2018年2月の発表の後、果たされることになる。それはミルキィホームズが1年後に開催されるファイナルライブに向けて1年間の「最終道」を歩むという発表だった。解散発表の頃のことを、佐々木さんはこう振り返る。「どんなコンテンツだって、ユニットだって、いつかは終わると頭ではわかっていたんです。でも自分の中では、ミルキィホームズって終わりがないような、ずっと続くような気がしてたんです。だから発表は正直さみしかったし、びっくりしました。公式発表からファイナルライブまで1年という時間をいただいたんですけど、実際にやってみたらあっという間でした。自分たちがミルキィでいられる時間が限られている中で、どれだけ感謝の気持ちを伝えられるか。ほかにもやれることはあったかもしれないけど、自分たちの中で、できるだけのことは全部やった1年間だったと思います。あんなにお客さんの近くで言葉を交わせた時間はそれまでなかったので、すごくいい時間でした。こんなに愛されてるミルキィが、私も大好きだって思って。いい気持ちで、最後の日を迎えられたと思います」。
岡田さんの中では、ユニットとしてのミルキィホームズのゴールをどうするか、という思いは就任当時からあって、さまざまな人と話し合いをしてきたそうだ。「言葉の選び方が難しいですが、4人のユニットとして永遠にやっていけるのか、50歳60歳になってもあのダンスと歌を軸にしたステージをユニットとしてやっていけるのか。それは難しいだろうとは感じていました。終わるのか、それとも形を変えていくのか。いろいろなことを含めて考えてました。実際2017年12月、両国国技館の“大ミルキィホームズ 十二月場所”が終わったあとに2019年初旬でのファイナルを、メンバーの4人に僕の口から伝えました。その時は正直、悔しかった」。対外的な発表は中野サンプラザ、ミルキィホームズを支えてきたファンクラブ会員の前で行なわれた。発表の瞬間、会場には悔しさと怒りとやるせなさが渦巻いたそうだ。「会社のホームページにぽんと載せるのではなく、4人にも、ファンのみんなにも残酷だけど4人から直接ファンに伝えるべきだと思ったんです。その時に思ったのは、最後のライブの会場からファンが出てくる時、ただ最高に楽しかったと思ってもらおうということです。その後の1年間は、そのことだけを考えました」。
それからの1年間、できることを全てやって走り抜けた時間の評価は、実際に追いかけ続けたミルキアンたちに譲りたい。彼らは1年後、日本武道館での「ミルキィホームズ ファイナルライブ Q.E.D.」のステージに辿り着いた。ちなみに「Q.E.D.」は数式の証明完了の符号であり、ミルキィホームズの代表曲「正解はひとつ!じゃない!!」にあるフレーズでもある。
ファイナルライブで、メンバー4人はかなり平静なテンションでステージに臨んだそうだ。普段はライブ前に楽屋でやる円陣を、ステージで本番中にやった影響もあったかもしれない。円陣のかけ声は、佐々木さんが担当した。雄々しく声をかける前、佐々木さんが「大きい声出します」と断っていたのが面白かった。「かなりオラオラな感じで声をかけたら、意外とみんなびっくりしていましたね。最終道の各公演前にああいう感じで円陣を組んでいたら、橘田さんが大声に本当にびっくりしちゃったんです。それで、大きい声出す前に言ってね?と言われていたのが、武道館のステージでも続いていました(笑)」。
武道館のステージのラスト、4人が探偵帽をステージに置いて去り、その後ステージに走って戻って楽しくはちゃめちゃに締める流れがあった。「あれはメンバーから、ぜひやりたいって提案したんです。あのシーンはグッときましたね、だめですね。ライブ前には当然リハーサルがあったんですけど、あの場面はみんなやりたくないんですよ。心が削られました」。帽子を置く演出は「探偵オペラ ミルキィホームズSS~さようなら、小衣ちゃん。ロング・グッドバイ・フォーエバーよ永遠に…」で、明智小衣が武道館のステージに黄金の仮面を置いて立ち去る演出のパロディでもあり、元をたどれば山口百恵が日本武道館のステージにマイクを置いて去ったエピソードにつながる。岡田さんによれば「パロディとしては山口百恵さんがベースで、アニメの小衣ともつながるねとは話していました。実はステージに帽子を置く演出は、前年にアニサマのサイトーぴー(Animelo Summer Liveゼネラルプロデューサーの齋藤光二さん)からもアニサマラストシーンでの演出として提案されていました。でもこれはやっぱりミルキィのラストでやりたい、ということになりました」とのことだ。
ファイナルライブ、そしてアニサマなどを含めた最終道を通した考え方として聞きたかったのが、最後ゆえのウェットでセンチメンタルな感情と、ミルキィホームズはいつだって明るく楽しく面白く、という土台にある思想のバランスについてだ。「(佐々木さんが拍手をしながら)本当にそれです。それなんです! 最後のセットリストを決める時は後ろから決めていったんですが、ラストの曲をどうするかで大いにもめました。ウェットに行くなら、『聞こえなくてもありがとう』(ファーストシングルのカップリングで、ライブラストの大定番)か『そして群青にとけていく』(ファイナルシングル)。まずこの曲のどちらを歌うのか、どちらも歌うのかで悩んで、『聞こえなくてもありがとう』は最後のアニサマでちゃんと歌えたからいいのかな、となりました」。
実際のライブでは、「聞こえなくてもありがとう」はメンバーにも内緒のサプライズVTRのBGMとして用いられた。ここまで聞いていた岡田プロデューサーが、にやっと笑った。「そういう話の流れになった時点で、サプライズ映像ではいくつかの候補から『聞こえなくてもありがとう』を使おうと思っていたんです。だからその流れになったときに、さっさと次の話に行きました。結果として、ミルキアンのみんなからの“ありがとう”になったし、実際私もちょうど奥村さん(奥村越後屋:初期からミルキィを支えるプロデューサーのひとり)と大声で歌っていました。」と語ると、その頃から始まっていたサプライズの仕込みに、佐々木さんも絶句して笑うしかなかった。感動のサプライズはほぼ岡田さんひとりの胸に秘められ、極秘のプロジェクトとして進行した。「僕は、最後のライブに感動の要素を絶対入れたかったんです。ミルキィのステージに涙はご法度というのがのぶちゃんの考えであり、教えでした。その考えは正しく、今までのステージはその教えを守り、みんなが笑顔で元気になるステージを目指してきました。でも、最後の最後のステージをどうするか考えたときに、ミルキィもミルキアンもスタッフも、すべての感情をさらけ出して、思いっきり泣いて、思いっきり笑えるそんな場所にしたいなと考えました。手紙を読んで帽子を置いた時点で、ミルキィホームズはひとつの区切り。そこから先は、会場も本人たちも僕たちも、『ミルキィホームズ』という作品とユニットを愛した仲間として一緒に歌う感じですね」。
ライブ後は、メンバーたちはいつも通り焼肉に行き、ひとりひと皿牛タンを注文したそうだ。岡田さんは、かつて最後まで見届けると約束した中村さんに「約束は守りましたよ。」と伝えたそうだ。佐々木さんは、「後日、橘田さんの家でファイナルライブの鑑賞会をやって、メンバーが手紙を読んで泣いてるのをけらけら笑いながら見ました。最後をあれだけいいライブで締められたことで、なんだかすっきりして、未来は明るいぞって思えたんです」と、にこにこしながら語ってくれた。
「あのファイナルは、それぞれがミルキィホームズと歩んできた時間の全てを詰めこんで、出し切ったと胸を張って言えるライブになりました。これ以上のものはない、最高ですと言えるものになりました。それは、僕も、メンバーも、会場に来てくれた人たちも、胸を張っていいことだと思うんです。これからつらいことがあったら、あのライブを振り返って、元気になってほしいです。あの1年を映像でも振り返れるように、今準備をしています」(岡田太郎、「ミルキィホームズ」統括プロデューサー)
「さみしがる暇がない1年で、最後にあの日のライブがあったからこそ、前を向いて歩いて、笑顔でいられます。これからもミルキィホームズは私の中にありますし、ミルキアンのみんなの中にもあり続けると思います。これからも一緒に歩んでいければと、思います」(佐々木未来、エルキュール・バートン役)
(取材・構成/中里キリ)
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