「名探偵コナン 紺青の拳」が何度見ても“おいしい”10の理由【犬も歩けばアニメに当たる。第46回】

心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを、アニメライターが紹介していきます。

今回取り上げるのは、公開中の「名探偵コナン 紺青(こんじょう)の拳(フィスト)」です。

昨年公開の前作「名探偵コナン ゼロの執行人」で、歴代最高興行収入の記録を打ち立てた劇場版「名探偵コナン」。今作も、公開初日で興行収入が4億円を突破し、2週連続で週末興行収入1位を獲得。前作を上回る好スタートを切りました。

初めて見る人の心もつかみ、見れば見るほど深掘りできて、何回見ても楽しめる魅力と見どころを、初日に映画館に足を運んだ筆者が、ネタバレなしでご紹介します。

安室透不在でも快進撃! 劇場版「名探偵コナン」の底力


映画「名探偵コナン 紺青の拳」が快進撃を続けている。前作「名探偵コナン ゼロの執行人」の歴代1位の大ヒットの牽引役、女性ファンに大人気のキャラクター、安室透(あむろとおる)が不在の今回も、前作を上回る好スタートを切った。

今回は、劇場版で初めて海外のシンガポールを舞台として、高校生にして空手の達人、400戦無敗の“蹴撃の貴公子”京極真(きょうごくまこと)が初登場。怪盗キッドと蹴撃の貴公子と探偵コナン、三者の三つ巴の戦いが見どころだ。

謎とアクションがたっぷり楽しめる舞台仕立てと緻密な構成、そしてキャラクターの個性と感情の流れを大切に、幾重にもおいしい細やかな描写。そのおもしろさ、心地よさは、一度見るだけではもったいない!

2度3度、何度見ても心地よく幸せに楽しめる10の理由を説明しよう。


●(1)「シンガポール観光」を満喫する

今回の舞台は、劇場版初の海外、シンガポールだ。マリーナベイ・サンズをはじめとするシンガポールを象徴する名所の数々が、臨場感たっぷりに描かれたうえで、時にはパニックの舞台となり、ド派手に破壊される。


1度目は無心に楽しみ、2度目以降は、コナンたちと一緒にシンガポールに出かけるつもりで、観光気分で「現地情報」を頭に入れていけば、また新鮮な気分で楽しめるだろう。

ちなみに前作ではSNSなどで、ファンが劇場に見にいくことを「執行されてくる」といっていたが、今作では「出国する」というらしい。

●(2)犯罪心理学のスペシャリスト「レオン・ロー」が魅力

今回のゲストキャラのキーパーソンは、犯罪心理学のスペシャリスト、レオン・ロー。警備会社を経営し、世界最大のブルーサファイア「紺青の拳」を警護する。サファイアを狙う怪盗キッドが対決する相手でもある。

このレオンが、なかなか魅力的な相手役なのだ。人の心理にさとく、常に相手の一歩先を読み、心の弱みをつく心理戦をしかけてくる。

最後まで見たら、2度目は、謎めいた彼の真意を想像しながら見たくなる。俳優の山崎育三郎が声を演じているが、独特の存在感を出している。

●(3)縦横無尽の推理をかみくだく

ミステリーだから当然だが、推理もがっつり楽しめる。殺人、襲撃、宝石の危機と事件が続き、一度見ただけでは、全貌をつかみきれない。

「誰がやったのか?」「どのようにやったのか?」「なぜやったのか?」が幾重にも積み重なり、謎を構成している。奔走するコナンが、手がかりを得ながら、その謎をひも解いていく。

細やかに複線が張りめぐらされているので、最初は見流してしまったカットも、2度3度と見れば、きちんとヒントが提示されていたことに気づくだろう。

●(4)人外!? 災厄!? 大迫力のアクションを堪能する

タイトルに「拳」の文字が入り、400戦無敗の男・京極真が初クローズアップされていることからもわかるように、今回の見どころのひとつは徒手格闘戦だ。TVシリーズ登場時から、「もはや人外」との声も高かった京極真の空手アクションは、登場するアニメをまちがえている勢いで楽しめる。

おなじみ、ハンググライダーを活用した怪盗キッドの空中飛行も爽快だ。自由自在、スピード感と浮遊感、爽快感をたっぷり味わえる。

もちろん、巨大構造物がからむクライマックスは大迫力! 迫りくる危機、「そこまでやるの!?」という容赦ない破壊と重量感は、今作でもたっぷり楽しめる。

●(5)鈴木園子の“ヒロインっぷり”に感動する

京極真がクローズアップされたことでライトが当たったのが、鈴木財閥のお嬢様、鈴木園子だ。蘭の親友で、日頃はミーハーでお節介なところが目立つが、今回は“乙女”だ。可憐さが際立つ。

相思相愛の京極の心に火をつけ、戦いに本気にさせるために、今回毛利小五郎一行の中で一番の災難にあっているが、それもヒロインならではだ。

京極を見つめる一途な瞳、恥じらう仕草、いつもと違う髪型にときめいた観客は多いはず。レアな園子は、何度見ても愛おしい。

●(6)怪盗キッドと京極真のライバル対決にニヤニヤ

怪盗キッドと京極は、ここまでのTVシリーズですでに邂逅し、鈴木財閥が所有する宝石を“狙う者”と“守る者”として対決しているライバルだ。

キッドは得意の変装と秘密道具、意表をつく策略が武器。対する京極は、圧倒的なパワーと飛び抜けた身体能力を持ち、身ひとつで不可能を可能にする男。キッドは1対1で対戦すれば不利になるため、いかに京極をかわして目的を達成するかの勝負となる。

今作でも、キッドは京極をやや苦手に感じているようだ。いっぽうの京極は、ミーハーな園子が「キッド様♪」と騒ぐ怪盗キッドに対して、穏やかならぬ気持ちを持っている。

いろんな意味で、対面したら「どうなっちゃうの?」という2人には、常に緊張感がつきまとう。何度見ても楽しい“お約束”感がある。

●(7)怪盗キッドと江戸川コナンの距離感を堪能する

互いの知略と美学、信念を評価しつつも、立場的には相容れないライバルである、怪盗キッドと名探偵コナン(工藤新一)。今作では、対立するライバル関係にある2人のガチの共闘が実現した。

キッドは、劇場版において「江戸川コナン=工藤新一」であることを知る数少ない人間のひとりで、これまで危機において限定的にコナンと協力する場面もあった。また、素顔が似ている「工藤新一」に化けるのが得意技だ。

そんな2人を、開始10分で「協力しあわねばならない関係」に落とし込んだ今作の設定がすばらしい。推理にアクションに、名探偵と怪盗の共同作業が心おきなく展開される。ライバルでよくある話だが、味方になるとお互い頼もしい。

タイトルの「拳」にひっかけて、「怪盗」と「探偵」の立場の違いを、これまでと違う言葉であらわしたキッドのセリフは、心に残る。

ハンググライダーでキッドとコナンが空を飛ぶシーンは、爽快感満点。ハンググライダーでちょっと顔が近すぎる2人の、いつもと違う距離感にも、ニヤリとしてしまう。

●(8)「工藤新一」と江戸川コナンの大小名探偵コンビが楽しい

怪盗キッドが新一の姿に変装していることが多いため、推理に奔走する新一とコナンは、秘密を共有し、しばしば目と目で会話する、同じ顔をした大小コンビも、絵的におもしろい。

共闘するからといって、気が抜けないのがライバルだ。特に問題なのが、新一に変装したキッドと蘭の距離感だ(これも近すぎる!)。

久々に“新一”に会えた蘭は、彼にぴったり寄り添う。修学旅行のエピソード(TVシリーズ2019年1月放送)で、一時的に高校生の姿に戻った新一に対し、蘭は保留にしていた告白の返事をして、正式に“恋人同士”になったのだから。

コナン(新一)としては、気が気ではない。いっぽうのキッドも、積極的な蘭の態度は想定外だ。このドタバタこそ「名探偵コナン」!

●(9)毛利蘭の新一への思いをひもとく

久々に会った“新一”とラブラブな蘭の姿がたっぷり見られるが、その裏にあった彼女の思いは……?

映画の最後で、明かされる蘭の気持ちを知れば、「え、そうだったの!?」と、誰もが最初からもう一度見たくなるだろう。

そして、そのつもりで見てみると、「ん!? これってもしや……」と思うような伏線は、地味にちゃーんと仕込んであるのだ。

●(10)ぶっ飛んだ「名探偵コナン」らしさにツッコむ!

緻密にていねいに組み上げられた謎や構成を堪能したら、改めて、ぶっとんだ「映画らしさ」「マンガらしさ」、というより「名探偵コナン」らしさにツッコミを入れたい。

なぜ、コナンが色黒なだけで正体がわからないのか?
なんでみんな日本語ペラペラなの?
キッドのシルクハットとマント、じゃまじゃない?
京極、もはや兵器ではなかろうか……?

緻密さとハチャメチャさのマリアージュのうえに織りなす謎解きとアクションとロマンスの快感、それが劇場版「名探偵コナン」の楽しみなのだ。


キャラクターそれぞれの「ファンの一番見たい姿」が心地いい


改めて見返して、今作の魅力は、登場人物1人ひとりが「らしく」そして「魅力的に」「ていねいに」描写されていたことだと感じた。

映画初登場の京極真は、鬼神のごとき強さとちょっと隙のあるかわいらしさを見せてくれたし、これまで劇場版に何度も登場した怪盗キッドも、改めて惚れ直した。推理はキレキレなのに、正体を明かせずアタフタするコナンも安定していた。恋する園子はかわいらしく、新一を思う蘭はけなげだ。

それぞれ「ファンが一番見たい」姿で大活躍する。これがファンにとって一番うれしく、そしてある意味難易度が高いことだ。

「『名探偵コナン』ってそんなにおもしろいの?」という初めて見る人にもわかりやすく楽しく、ファンが何度も見ても幸せになれる。

すっかり大型連休の風物詩になった感のある映画「名探偵コナン」。全方位に隙のない今作も、びっくりするほど多くの人を楽しませてくれるに違いない。


(文・やまゆー)

(C) 2019 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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