「富野アニメ」の歩みを歴代TVサイズ主題歌で一気に体験! 「富野由悠季“テレビ”の世界~TVサイズ主題歌全集~」 【不破了三の「アニメノオト」Vo」.06】

アニメの黎明期・発展期に生まれたアニメソングや劇伴音楽などについて、作詞家・作曲家・編曲家・歌手など、レジェンド世代の作り手たちのお話を中心に、ディスクガイド形式でご紹介している「アニメノオト」。第 6 回は、2019 年 10 月 12 日にキングレコードより発売された CD「富野由悠季“テレビ”の世界~TV サイズ主題歌全集~」に注目します。

現在、展覧会「富野由悠季の世界」が全国 6 会場を巡回中ですが、本 CDは、第 1 会場「福岡市美術館」(2019 年 6 月 22 日~9 月 1 日)に次ぐ第2 会場「兵庫県立美術館」(2019 年 10 月 12 日~12 月 22 日)の開幕初日にピッタリと合わせる形でリリースされたものです。その大きな特徴は、数ある富野由悠季監督作品の中から、「テレビ番組の主題歌」かつ「TV サイズ音源」に限定した選曲が行われている点です。よほどのアニソンファン、サントラファンでないと「TV サイズ」という言葉になじみがないかもしれませんが、テレビアニメのオープニング/エンディングで流れる形そのままの、短いサイズでレコーディング、あるいは編集された音源のことを、レコード/CD リリース用のフルサイズ版と区別するために「TV サイズ」と呼んでいます。フルコーラスでなかったり、古い作品の場合、当時のテレビ放送と同じモノラル音源であったりと、価値の一段低い音源と思われがちですが、番組放送当時、私たちが毎週楽しみに待ち、欠かさず聴いていたのは、フルサイズ版ではなく、まぎれもなくこちらのほうなのです。私たちの心の奥に残っている、これらの TV サイズ版こそが、真のアニメソングの姿なのではないか……と、近年ではその存在価値が大きく見直されています。全 44 曲収録ながら CD 1 枚に収まってしまい、その 1 枚で富野作品の歴史の積み重ねを一気に体験できてしまうというのも、TV サイズ音源ならではと言えるでしょう。

本 CD の開幕 1・2 曲目は「無敵超人ザンボット3」(1977)の主題歌 2 曲。アニメ製作会社「サンライズ」(当時は日本サンライズ)が製作した初のオリジナル作品であり、サンライズにおける富野ロボットアニメの始祖にして、本 CD の発売元・キングレコードと富野作品との長年にわたる深い縁の出発点でもある記念碑的作品です。続く「無敵鋼人ダイターン3」(1978)、「機動戦士ガンダム」(1979)の3作品にわたって主題歌の作編曲を担当したのは、渡辺岳夫・松山祐士の名コンビ。また、今ではよく知られていることですが、機動戦士ガンダム主題歌「翔べ!ガンダム」の作詞家としてここから名前の登場する「井荻麟」は、富野氏の作詞家としてのペンネームです。しかしそれが明らかにされたのは 1981 年のこと。ガンダムや「伝説巨神イデオン」(1980)の テレビ放送当時は、恐るべき才能を持った謎の作詞家として、その正体がさまざまに憶測されていたミステリアスな存在でした。

さらに収録作品は、「戦闘メカ ザブングル」(1982)、「聖戦士ダンバイン」(1983)、「重戦機エルガイム」(1984)へと進みますが、これらは後に、1990 年代に始まるゲーム「スーパーロボット大戦」シリーズで「リアルロボット系」(対義語はスーパーロボット系)として整理され、若い世代にも広く知られることになったサンライズロボットアニメのリアル路線を確立した富野アニメ 3 作品といえるでしょう。ロボットアニメに量産機や補給の概念、メンテナンスをする母艦やメカニックマンの存在、戦略的な艦隊の運用など、現実感あふれるミリタリー描写を導入したのも富野監督の大発明のひとつでした。

ザブングル、ダンバイン、エルガイムの 3 作品で導入された富野監督の大発明は、本 CD に収録されている主題歌にも及びます。「ザブングル」の主題歌を担当したのは、当時、特撮番組「太陽戦隊サンバルカン」(1981)、「宇宙刑事ギャバン」(1982)等でも注目を集めていた串田アキラ。しかし、物語中盤から劇中で使用された挿入歌「HEY YOU」「わすれ草」は、ハスキーボイスが特徴の女性シンガー・MIO(現:MIQ)が担当し、続く「聖戦士ダンバイン」では、いよいよ主題歌「ダンバインとぶ」「みえるだろうバイストン・ウェル」に抜擢され、次作「重戦機エルガイム」でも同じく MIOが主題歌「エルガイム-Time for L-GAIM-」「スターライト・シャワー」を歌うという道をたどります。それまでにも「超電磁マシーン ボルテスⅤ」(1977:この作品にも富野氏は絵コンテで参加)など、ロボットアニメ主題歌を女性歌手が担当する先例はあるものの、対象年齢の上がったリアル路線のロボットアニメ主題歌、しかもプラモデルブームを背景にした男性ファンが大半を占める作品に女性シンガーをぶつけるというのは、当時は大きな賭けであったはず。「ザブングル」の、主人公らしからぬジロン・アモスのキャラクターデザインや、シリーズ後半に新しい主役ロボを登場させるなど、当時、「パターン破り」と呼ばれた富野監督の実験的な演出手法は、主題歌歌手の起用においてもまさしく掟破りであり、型破りだったわけです。実際、これ以降の富野作品の主題歌は、しばらくの間、女性歌手が務め続けることになっていきます。

さらに、本 CD の曲目一覧を眺めてもわかるように、「エルガイム」から「前期 OP」「後期 OP」という表記が登場してきます。当時すでに「うる星やつら」(1981)等では試みられていたシリーズ中の主題歌の交代ですが、サンライズのロボットアニメではこれが初めて。また、「風のノー・リプライ」を歌った鮎川麻弥が、次作「機動戦士Ζガンダム」(1985)でも主題歌を担当するというのは、「ザブングル」→「ダンバイン」において MIO が通過してきた道とそのまま重なります。以降、富野作品に限らず、前期/後期で主題歌が変わることも、ロボットアニメ主題歌を女性歌手が歌うことも、いつの間にか当たり前になっていきます。パターンを破っても破りっぱなしにはせず、必ず次のパターンの礎として生かし、次世代のスタンダード・スタイルにしてしまう…… これこそ富野×サンライズ作品が創りあげてきた「新しさ」であり、テレビアニメやアニメソングの形、そのビジネスのあり方までをも変革してきた原動力なのではないでしょうか。

そして「機動戦士ガンダム」の7年後の世界を描く続編として、待望の「機動戦士Ζガンダム」(1985)が登場。後期 OP「水の星へ愛をこめて」は、後にバラエティ・アイドルとして活躍する森口博子のデビュー曲でもあり、NHK が 2018 年に行った番組企画「発表!全ガンダム大投票」において、過去すべてのガンダムシリーズの歌曲を対象とした人気投票で、堂々の1位を獲得するにいたった、時代を超越して愛されている名曲です。今回は 80 秒間の TV サイズテイクを初商品化。オープニング映像ではさまざまな効果音がミックスされていたためわかりにくかったサウンドの全貌が初めて明らかにされました。前期 OP「Ζ・刻をこえて」、ED「星空のBelieve」を含めた 3 曲ともが、ポール・アンカと並ぶ 1950~60 年代アメリカン・ポップスのシンボル、ニール・セダカから楽曲提供を受けて作られた曲だったということも書き添えておきたいと思います。

表向きにはわかりにくいことですが、「機動戦士Vガンダム」(1993)でも変化が起きています。それは、前期 OP「STAND UP TO THE VICTORY~トゥ・ザ・ヴィクトリー~」と後期 OP「Don't Stop! Carry On!」はキングレコードから、前期ED「WINNERS FOREVER-勝利者よ-」と後期 ED「もう一度 TENDERNESS」はアポロン(現:バンダイナムコアーツ)からと、OP主題歌とED主題歌でレコード会社が異なっているという点です。こうした形式は「Vガンダム」が初めてではありませんが、この頃からアニメソングビジネスのひとつの形として一般化していき、90 年代後半や 2000 年代では、これもやはり当たり前の方式になっていきます。アニメソングが前期・後期に分かれ、しかもそれぞれにレコード会社が異なるというのは、シングルレコード時代に A 面にオープニング、B 面にエンディングが収録されていた頃を思うと、ずいぶんと時代が変わってしまった感じがしますが、これも富野アニメがくぐり抜けてきた時代の変化のひとつというわけです。

また、本 CD の終盤には大きなサプライズが用意されています。日本初の 30 分連続テレビアニメである「鉄腕アトム」(1963)の制作進行・演出助手でキャリアをスタートした富野氏が初めてチーフディレクター(監督)の座をつかんだ「海のトリトン」(1972)、シリーズ前半の監督を担当した「勇者ライディーン」(1975)、シリーズ終盤の監督を務めた「ラ・セーヌの星」(1975)といった、いわゆるサンライズロボットアニメ以前にあたる初期監督作品の TV サイズ主題歌もボーナス収録されている点です。現在、富野監督の最新 TV シリーズとなっている「ガンダム Gのレコンギスタ」(2014)の主題歌の後に、突然、あの火山の噴火の SE 音とともに「GO!GO!トリトン」の TV サイズが流れ始める一瞬は、「海のトリトン」の時代から富野作品と共に歩んできた世代にとっては40 数年の時間が一気に巻き戻るかのような感覚になり、万感胸に迫るものがあります。

本 CD はキングレコードからの発売ではありますが、このようにレコード会社の枠を超えて富野監督のテレビ作品を一堂に集めたオールタイム・コンピレーションであることも大きな特徴です。また、下記の初 CD 化音源リストにあるように、「TV サイズ音源」であるがゆえに、これまで商品化されていなかった貴重なテイクを多く含んでいます。これらの発掘をレコード会社をまたいだ形で行うことはとても困難であり、相当な時間と手間と根気の必要な作業であったことは想像に難くありません。展覧会「富野由悠季の世界」、および 2019年11 月 29 日より公開される富野監督の最新作、劇場版「ガンダム Gのレコンギスタ」全 5 部作の第 1 部「行け!コア・ファイター」のタイミングに合わせてのリリースを成し遂げた製作スタッフの熱意と努力に敬意を表したいと思います。

放送当時のことを思い出しながら本 CD を聴いていると、学校から急いで帰ってきてテレビのスイッチを入れるあの瞬間のドキドキや、その横で夕食を準備している音や匂いを思い出したり、エンディングテーマの後に流れていたはずの「予告の音楽」の幻聴を聴いたりなど、ほかの感覚や記憶をも呼び覚まされる不思議な体験をするはず。これこそが「TV サイズ主題歌」ならではの魅力であり、楽しみ方です。この感覚を 10 代~60 代のリスナーが共通して体験することができるというのも、40 年以上に及ぶ収録作品の幅を誇る本 CD だからこそなせるわざ。それは取りも直さず、富野由悠季作品の歴史の重み、息の長さ、テーマの一貫性、魅力の濃厚さを物語るものとは言えないでしょうか。

(文:不破了三)

【商品情報】

■CD「富野由悠季“テレビ”の世界 ~TVサイズ主題歌全集~」

・発売日:2019年10月12日

・価格:3,500円(税別)

・レーベル:キングレコード株式会社

■収録内容

1.行け!ザンボット3* 歌:堀光一路 「無敵超人ザンボット3」OP

2.宇宙の星よ永遠に* 歌:堀光一路 「無敵超人ザンボット3」ED

3.カムヒア!ダイターン3* 歌:藤原誠 「無敵鋼人ダイターン3」OP

4.トッポでタンゴ* 歌:こおろぎ’73 「無敵鋼人ダイターン3」ED

5.翔べ!ガンダム 歌:池田鴻 「機動戦士ガンダム」OP

6.永遠にアムロ 歌:池田鴻 「機動戦士ガンダム」ED

7.復活のイデオン* 歌:たいらいさお 「伝説巨神イデオン」OP

8.コスモスに君と* 歌:戸田恵子 「伝説巨神イデオン」ED

9.疾風ザブングル 歌:串田アキラ 「戦闘メカ ザブングル」OP

10.乾いた大地 歌:串田アキラ 「戦闘メカ ザブングル」ED

11.ダンバインとぶ 歌:MIO 「聖戦士ダンバイン」OP

12.みえるだろうバイストン・ウェル 歌: MIO 「聖戦士ダンバイン」ED

13.エルガイム -Time for L-GAIM-* 歌: MIO 「重戦機エルガイム」前期OP

14.スターライト・シャワー* 歌: MIO 「重戦機エルガイム」ED

15.風のノー・リプライ 歌:鮎川麻弥 「重戦機エルガイム」後期OP

16.Ζ・刻をこえて 歌:鮎川麻弥 「機動戦士Ζガンダム」前期OP

17.星空のBelieve 歌:鮎川麻弥 「機動戦士Ζガンダム」ED

18.水の星へ愛をこめて 歌:森口博子 「機動戦士Ζガンダム」後期OP

19.アニメじゃない~夢を忘れた古い地球人よ~ 歌:新井正人 「機動戦士ガンダムΖΖ」前期OP

20.時代が泣いている 歌:新井正人 「機動戦士ガンダムΖΖ」前期ED

21.サイレント・ヴォイス 歌:ひろえ純 「機動戦士ガンダムΖΖ」後期OP

22.一千万年銀河 歌:ひろえ純 「機動戦士ガンダムΖΖ」後期ED

23.STAND UP TO THE VICTORY~トゥ・ザ・ヴィクトリー~ 歌:川添智久 「機動戦士Vガンダム」前期OP 

24.WINNERS FOREVER-勝利者よ- 歌:INFIX 「機動戦士Vガンダム」前期ED

25. Don't Stop! Carry On!  歌:RD 「機動戦士Vガンダム」後期OP

26.もう一度TENDERNESS 歌:KIX▸S 「機動戦士Vガンダム」後期ED

27.IN MY DREAM 歌:真行寺恵里 「ブレンパワード」OP

28.愛の輪郭(フィールド) 歌:KOKIA 「ブレンパワード」ED

29.ターンAターン 「∀ガンダム」2話~OP 歌:西城秀樹

30.AURA 歌:谷村新司 「∀ガンダム」1話~ED

31.CENTURY COLOR 歌:RAY-GUNS 「∀ガンダム」39話~OP

32.月の繭 歌:奥井亜紀 「∀ガンダム」41話~ED

33.限りなき旅路 歌:奥井亜紀 「∀ガンダム」最終話ED

34.キングゲイナー・オーバー! 歌:福山芳樹 「OVERMANキングゲイナー」OP

35.Can you feel my soul 歌:秘密楽団マボロシ 「OVERMANキングゲイナー」ED

36.BLAZING 歌:GARNiDELiA 「ガンダム Gのレコンギスタ」前期OP

37.ふたりのまほう 歌:May J. 「ガンダム Gのレコンギスタ」後期OP

38.Gの閃光 歌:ハセガワダイスケ 「ガンダム Gのレコンギスタ」ED

39.海のトリトン(GO!GO!トリトン)* 歌:ヒデ夕樹、杉並児童合唱団 「海のトリトン」OP

40.海のトリトン* 歌:須藤リカ、南こうせつとかぐや姫 「海のトリトン」ED

41.勇者ライディーン* 歌:子門真人、コロムビアゆりかご会 「勇者ライディーン」OP

42.おれは洸だ* 歌:子門真人、コロムビアゆりかご会 「勇者ライディーン」ED

43.ラ・セーヌの星* 歌:堀江美都子、コロムビアゆりかご会 「ラ・セーヌの星」OP

44.私はシモーヌ* 歌:堀江美都子、コロムビアゆりかご会 「ラ・セーヌの星」ED

*モノラル録音

■初CD化音源

楽曲録音時に保管されていたオリジナルマスターをはじめ、映像素材から音源を取り寄せ収録するなど、今までパッケージ化されていなかった音源を、18楽曲を初収録。

13.エルガイム -Time for L-GAIM-

14.スターライト・シャワー

15.風のノー・リプライ ※オリジナルテンポより、ピッチUPしたテイクを収録。

16.Ζ・刻をこえて 

18.水の星へ愛をこめて ※80秒TVサイズテイクを収録。

21.サイレント・ヴォイス

22.一千万年銀河

23.STAND UP TO THE VICTORY~トゥ・ザ・ヴィクトリー~

24.WINNERS FOREVER-勝利者よ-

25. Don't Stop! Carry On!

26.もう一度TENDERNESS

30.AURA

31.CENTURY COLOR

32.月の繭

33.限りなき旅路

34.キングゲイナー・オーバー!

35.Can you feel my soul

40.海のトリトン

■展覧会「富野由悠季の世界」開催概要

【開催情報】

第1会場[終了]福岡市美術館

会期:2019年6月22日(土)~9月1日(日)

第2会場 兵庫県立美術館

会期:2019年10月12日(土)~12月22日(日)

第3会場 島根県立石見美術館

会期:2020年1月11日(土)~3月23日(月)

第4会場[予定] 青森県立美術館

会期:2020年4月18日(土)~6月21日(土)

第5会場[予定] 富山県美術館

会期:2020年7月18日(土)~9月6日(土)

第6会場[予定]静岡県立美術館

会期:2020年9月~11月

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