各スタッフのプラスアルファが集まってできあがった――「ゾンビランドサガ」Blu-ray第3巻発売記念、第9話~最終話振り返りスタッフ座談会!

日本中をゾンビィブームに巻き込み、ますますパンデミック拡散中の「ゾンビランドサガ」。3月開催のライブも大成功に終わり、その勢いも止まらない中、Blu-ray第3巻が2019年4月26日に発売された。

第3巻は、ヤンキーもの作品のオマージュや熱いドラマが繰り広げられた第9話。雪山での修行やクライマックスに向けての伏線など、ドラマ的なターニングポイントとなった第10話。記憶を取り戻したさくらに対する幸太郎の力強すぎるセリフに誰もが心を震わせた第11話。そしてあらゆる困難を乗り越え見事にライブを成功させ、物語は大団円を迎えた。かのように見えたが……?というゾンビものらしい後味の第12話を収録。

そこで、今回はBlu-ray第3巻の発売を記念して、境宗久さん(監督)、村越繁さん(シリーズ構成)、竹中信広さん(プロデューサー)に集まっていただき、「ゾンビランドサガ」終盤エピソードについて振り返っていただいた。

今回もゾンビィ愛あふれる、1万字オーバーのインタビューになってしまいました! じっくりとご覧ください。

「ゾンビランドサガ」Blu-ray第2巻発売記念! 神エピソードの第5~8話をメインスタッフとともに振り返るスペシャル座談会!

改めて振り返る「ゾンビランドサガLIVE~フランシュシュ みんなでおらぼう!~」

ーー先日行われたライブイベント「ゾンビランドサガLIVE~フランシュシュみんなでおらぼう!~」はいかがでした?

 感慨深かったです。ここまでやってくれたんだって。

村越 想像以上でした。

竹中 楽しかったですよね。もともと振り付けを発注するときは踊れなくていいと言っていたんです。ほかのコンテンツみたいにライブをすることはあるかもしれないけど、そこを気にしてしまうと演出がこじんまりしてしまうので、アニメではプロのダンサーさんができるような振り付けで作ってくださいと言っていました。それを彼女たちができる限り忠実に再現しようとしてくれて、一生懸命練習してくれた結果だったので、単純に感動しました。実現できないと思っていたものがそこにあったので、よく練習したなぁっていう気持ちなんですよ。途中で上がってきていたダンスの映像を見て、「ライブに間に合うのだろうか?」って思っていたから余計に。

ーーもともとダンスやっている人もいれば、やってない人もいる。それに練習時間もみんなバラバラですし、想像しただけでも大変ですよね。

竹中 だから、ドラマはそこにあったんだろうなと思います。

 最後のみんなの挨拶もグッと来たしね。

村越 僕はひとりだったら泣いてましたね(笑)。みなさんが隣にいたから我慢しましたけど。

ーー田野アサミさんの日本武道館発言もありましたけど(笑)。

竹中 わかってほしいのは、僕らは何も言ってないということ(笑)。確かにあの時だけは僕も感動とかではなく「えっ?」って思いましたけど(笑)。

 そうそうそう。ぶっこんできたなぁと(笑)。

ーーでも、お客さんも熱いし、温かかったですよね。

竹中 あのサイズ感でしか感じられない体感はありましたね。アリーナとか着席ではないスタンディングでのライブ感があったからよかったです。それにライブビューイングの方もかなり楽しめたのではないかと思います。

ーー作品にもかなりリンクした演出だったから、本当に作品を好きな人が集まっていたんだなというのも実感しました。

 あの壊れたステージセットもよかったですね。

竹中 僕らもお客さんもそうだったかもしれないけど、リアルにフランシュシュを見ている感覚はありましたよね。

 本当に応援したくなる感じはありました。

竹中 夜公演ではラップを間違えたりしたけど、あそこでみんなカバーし合う感じもよかったし。

 演出でも何でもなく、そうなるのがすごいし、「これ、3話じゃん!」って思いました。

ーーそして佐賀県凱旋LIVEが、アルピノで開催されることも決定しました。

竹中 どうなるんだろう。本当にできるのかな。

 え? どこまで壊すかってこと?

竹中 そうっすね。どこまで壊していいのかを確認しないと……(笑)。

ーーアニメで見る限り、普通の体育館でしたよね?

竹中 実際そうなんですよ。だから照明とか設備的なところを含めて、課題となる部分は多いと思います。ただ、いろんな意見をもらうことはわかったうえで、今あそこでやらないとこの先できるかわからないですし、先に進めないなという思いもあったので、そこは「みんな迷惑かけてごめんなさい」という気持ちもありつつ、内容に関しては、これから練っていきたいと思います。



第9話「一度は尽きたこの命 なんの因果か蘇り 歌い踊るが宿命なら 親友への想いを胸に秘め 貫くまでよ己の SAGA」



ーーさて、ここから各話のお話をうかがっていきたいと思います。9話はサキの当番回ですけど、ヤンキーネタはやりたかったのですか?

 サキという時点で、そういうことですね。

村越 チキンレースをやろうというのは、結構前の段階からありました。

 死因としてそれが先行してあったからね。それがあっての逆算というか。

竹中 あと、この回はエピソードをかなり削ったんですよ。

村越 めちゃめちゃ大変でした。脚本はますもとたくやさんに担当していただいたのですが、人物の背景などに関して想像にゆだねる部分が一番多かった回かもしれません。

ーーどういうところが大変だったのですか?

村越 どの人物の視点で物語を描くかというところですね。最初は万梨阿の視点からサキや麗子を描いていったんです。でも、どうやってサキの存在や、自分の母親が暴走族であったことを知ったのかとか、そういうことを全部入れていくうちに、予想していたよりも万梨阿の物語になってしまった。そこで境さんが、サキと麗子の物語からズレていっているような気がすると指摘をされて。そこからバランスを考えて今の形になりました。

 サキがおまけにならないようにと思ったんですよね。

ーー万梨阿の母の麗子とサキが親友で、今のサキが麗子に会っても自分の名前を名乗れないというところが大事ですからね。

 だから万梨阿のスピンオフになってしまう可能性があったんです。

ーーそこでいい物語があるのに、前半でおじいちゃんおばあちゃんのファン層を広げてたりしてました(笑)。

竹中 普通のアイドルではない、佐賀だから考えられるアイドルの成長曲線って何だろうとなったときに、おじいちゃんおばあちゃんもライブに来るアイドルって面白いよねってところからだったんです(笑)。でも、本当にこの回は整理しました。

 そもそも死因となったチキンレースも、どうしてああいう状況になったかの説明を一切してないしね。

竹中 最初の脚本だと、チキンレースの前に一度ケンカしてたりしてましたからね。

ーー回想シーンで殺女(コロスケ)の初代総長が、すごい鳥の髪型してましたよね? あれは何だったんですか(笑)?

竹中 あれは演出さんのおふざけですよね?

 そうです。演出の佐藤(威)くんが、「こういう感じにしたいんですけど」と言ってきたんですよ。「え?」って思ったけど。

竹中 最初にコンテで見た時、こんなの脚本にあったっけ?と思ったけど、まぁいいんじゃない?って返した覚えはある。

ーーレディースのチーム名が怒羅美(ドラミ)と殺女というのも面白かったです。

村越 怒羅美という名前は最初からありました。殺女はその後シナリオ時に決まったと思います。

竹中 あれは誰が入れたんだっけ? ますもとさんかな。

村越 だと思います。最初「コロスケ」ってますもとさんが言って、当て字を誰かほかの方が書いて、これでいけるじゃん!となった気が。

竹中 何で怒羅美にしたのかは、まったく覚えてないなぁ。

 伝説の特攻隊長のキャラ決めするときじゃないかな。

村越 僕が最初にもらった設定だと、たしか「我茶品(ガチャピン)」だったんですよ。
(※取材後、「我茶品(ガチャピン)」となっていたのは「怒羅美」ではなく「殺女」の方だったことが判明。記事ではインタビュー時のノリを再現するため、そのままの会話を残しています)

(一同爆笑)

 そうだっけ? それは全然覚えてないな。

竹中 そっちのほうがダメだなぁ(笑)。でもレディースだから女の子の名前にしたんでしょうね。結局コロスケは男だけど(笑)。

ーーネットの反応だと、ヤンキー漫画を知らない世代も多かったみたいですね。

竹中 そこは単純にサキの時代というのもあったからだけど、あの頃ってヤンキー漫画全盛期だったし。

ーーそれで頭に浮かんだのが?

竹中 「特○の拓」ですね(笑)。

 演出の佐藤くんは「特○の拓」がわからなかったから、全巻揃えて読破してましたけどね。

竹中 偉い!

ーーあの「!?」の演出もそうなんですか?

村越 あれはもうマガジン演出です。マガジンに掲載されていたヤンキー漫画、特に「特○の拓」は僕の中で完全にああいうイメージだったので、話が出た時に面白いなと。

竹中 やってみようと思ってやってみたけど、最初「!?」がすごく小さかったんですよね。

 「特○の拓」のマンガを見ると意外と普通のフォントを使ってて、最初それでやろうとしたらちょっとインパクトが弱かったんです。だったら大きく見せようということで、ああいう演出になりました。

竹中 連続するところが面白かったので、これはいけるんじゃないのかなって話になりましたよね。

 入れるタイミングもわからなくて、探り探りでやりました。

ーーあれは元ネタがわからなくても、なんか面白かったです。

 パロディ的なところは置いておいてもヤンキーっぽさは出るんじゃないかなと思ったんです。知っていればなお「バカだな」って思うだろうけど(笑)。

竹中 でも、9話ってわかりやすい感動系じゃないのもいいですよね。昔のヤンキー漫画ってああいう、ちょっと哀愁で終わるみたいなノリがあったじゃないですか。最終的にそうなってたのがいいなと思いました。あと個人的に思い出深いのは、万梨阿たちが最初に出てくるときのスーパースロー!

 アニメでやるのはかなり難しい演出なんだけど、佐藤くんがやってみたいって上げてきたんですよ。基本やってみましょうかっていうスタイルだからOKして。

竹中 僕が見たのはV編の最初のテイクなんですよ。何なんだ、これ?みたいな(笑)。それが笑いなのかどうかも、こっちはよくわからなかったんです。どういう意図なんだろう?って。「ゾンビランドサガ」って、結構V編で「なんだよ、これ?」っていう新しい笑いが生まれてるんです。僕らはシナリオ上で笑いを入れてるけど、現場でさらにプラスアルファで笑いが生まれてるイメージなんです。

ーーあと9話は、歌とBGMが最高に面白かったです。某映画風の登場BGMとか。

 必ずあのBGMを入れようっていう感じで、くり返しやることが面白いかなって。

竹中 確かに。だって途中で全部この曲でって差し替えてましたもんね。

ーーそして最後の「特攻DANCE ~DAWN OF THE BAD~」がすごくカッコよかったです。

竹中 アニメでは結構切っちゃってるけど、実はもっと熱い曲で、〈パラリラ パラリラ〉までは入れたかったんですけどね。そこが入らなかったのは心残り。

 ライブで言うと、スタンドマイクで歌って踊ってほしいという感じでした。

ーー特攻服も、いいですよね。

スタッフ 田野さんが特攻服をすごく気に入ってくれていて、練習中に「作りますよね!?」とノリノリで言っていたことがきっかけで先日のライブイベントでは特攻服の衣装を作りました(苦笑)。

竹中 田野さんはそういうところがある(笑)。でも上がってきたときからこの曲は絶対にライブで盛り上がると思ってたので、実際にライブで見られてよかったです。

 だって〈飛べ飛べ〉って言われたら、飛ぶしかないもんね。

第10話「NO ZOMBIE NO IDOL SAGA」


ーー予告で、10話はゆうぎりの回かな?と見せかけていましたけど、全然違いましたね。

境 見せかけたつもりはなかったんだけど。

竹中 いや! 多少素材を多めに使ってますよ(笑)。

 そうでしたね(笑)。

竹中 10話は難しい話数でしたよ。

ーーちょっと難解というか。山ごもり?って思いました。

竹中 そうですよね。ただ最後に向けての溜めっていうか。安易な発想だけど、強くなるためには修行させなければいけない、修行と言ったら山だろう!というところから始まりました。シナリオ打ちはそういう感じです。

 ちょっとシュールな感じになったら面白いかなと思ったんですよね。8話、9話と熱くきたところで、このあとも熱くなるので、一度シュールな話を入れといたほうがいいかなと。

竹中 あとは屋敷から出ようとか、全員で何かやるっていうのもあまりなかったよね、みたいな話も出たので。

 あと、ここでちゃんと全員での話をやらないといけないなという思いもありました。

ーーそこで純子の釣り好きとかも出てきたし。

 急に悟りを開きだしてね。

竹中 でも、ここのネタをどうやって考えたかはまったく覚えてないなぁ(笑)。

村越 打ち合わせの時はもっと暴走していた気がしますね。

ーー愛の「動体視力がいいから獲物探しやすい」っていうセリフも、意味不明だなと思いました。

竹中 それでいて愛ちゃんの弓は山なりだからね。スパーンと行くのかと思ったら、山なり?みたいな(笑)。あれは演出の後藤康徳さんの仕事ですよね? あの小ボケが伝わってればいいけど。

ーー伝わってると思いますよ。見てて突っ込みましたもん。で、そこから親のイノシシが出てくるという。

竹中 あれも最初は熊だったような気がするんだけど?

 舞台を冬山にしたから、冬眠してるんじゃない?っていう話になったんですよ。

竹中 そうだそうだ、意外と普通の理由だった(笑)。

 でもあの時期にウリ坊がいるのかって言われたら、わからないけど(笑)。あと、この回でやりたかったのは、生首がキレてたら面白いだろうなっていうことだったんですよ。

竹中 それはこの作品でしかできないしね。

ーーあと、ゆうぎりビンタもありましたよね。

竹中 ありましたね。宮野さんのアドリブ込みで面白かった。

ーー「だから今そう言ったんだけど、ねえ大将?」のところですね。ここは、後で口パクを新たに入れたんですよね。

 どこを見て言ってるんだかはよくわからない感じはあるけど、足しましたね。

竹中 ここでゆうぎりのシーンが入ったのは、ほかにゆうぎり回がないからです。あの辺のシーンは、何週目かのシナリオの打ち合わせで足した気がする。

 ゆうぎりと幸太郎の話を考えてたときに、1クールだと入らないことがわかってたので、あのムードなら元々考えていた大人同士の話も入れられるんじゃないかってことで出したシーンだったんです。でも、最終的にビンタで終わるという(笑)。元々ゆうぎりの立ち位置には、幸太郎と対等に話せるキャラクターというのがあったので、ここでそういうシーンを作れるんじゃない?ってことで足したんです。幸太郎の思いとかも少し語れるし、ここでやっておけるなと。

竹中 思い出してきました! 最初、料亭のシーンにするとか言ってたから、それで鹿威し(ししおどし)が残ってるんですよね。こんなとこにねーだろ!みたいなところで、カコーンって言ってるから。

 そうそう。料亭ってなってたけど、ちょっと場末感が欲しいなと思って居酒屋にしたんです。でも鹿威しは残すっていう謎の演出(笑)。

ーーあと、さくらが自分の間違いに気づいて謝ったとき、サキがわりと冷静に応えるじゃないですか? あれはどんなディレクションだったんですか?

 あそこは素直にサキとして反応すればいいかなと思って、突き放して冷たくする必要もなかったし、でも少しあきれた部分はあったのかもしれないのでああいう雰囲気にしたんだと思います。アフレコのときはもうちょっとあっけらかんと言ってくださいと言った気がします。

竹中 あまり感情がない適当な感じで、あまりイヤな響きにならないようにって感じだったかも。

ーーなるほど。

竹中 あと思い出したことでいうと、サブタイトルが決まったのは制作終盤でした。「NO ZOMBIE NO IDOL SAGA」は、もう何の意味もないです。

村越 一番謎のタイトルなんですよね。10話は「NO PAIN NO GAIN SAGA」とか「NO PAIN NO IDOL SAGA」とかいろいろ候補はあったんです。9話はヤンキーの特攻服に入ってる詞を入れようということであの形になったんですけども。

 9話は一瞬で決まったんだけどね。10話はいろいろと候補があった中で、一番意味不明のものになったんです。

竹中 これは響きだけで決めました。

ーーそして、最後はさくらが轢かれて記憶が戻ると。あの車にはねられたシーンは、ロメロがかわいいんだか怖いんだかわからなくなってました。

竹中 もはやしゃべってますよね……。

 ほぼ唯一の見せ場と言っていいラストシーン。

竹中 あのときアフレコ聞いてて、ちょっと悲しくなりましたからね。声だけ聞いて悲しくなり、ブースで高戸靖広さんがひとりでマイクに向かっているのを見て、我に返るという(笑)。

第11話「世界にひとつだけの SAGA」


ーー11話から大きな盛り上がりに向かいますが、「世界にひとつだけの SAGA」というサブタイトルでした(笑)。

竹中 このサブタイは一瞬で決まりました。

村越 最初から変わってないですよね。誰も怒らなかったのでそのままにしました。

竹中 まぁ、嘘じゃないしね。

ーーさくらの生前の記憶が戻ってからの話ですが、ゾンビになってからの記憶がなくなってしまうという展開でした。

竹中 僕は11話についてすごく心配していたんですよ。何度か大塚学さん(MAPPA代表取締役)に、このシナリオで大丈夫なんでしょうか?と聞いてたんです。

 それはさくらのテンション的なところで?

竹中 というより、何かいろいろな不安があったんです。最終話前だし。あとセリフも多いじゃないですか。見せ方としてもこれまでとテンポが全然違うので、そこが演出として難しいのかな?と思ってしまって。

村越 ナレーション的な語りや文字が入ったりしていて、ほかの回とは結構違うことをやっているんですよね。

竹中 なので、これでホントに行けるのかな?ということを相談してたけど、大丈夫だと思うと言われてコンテに入ったんです。でも結果的に出てきたコンテ・演出が素晴らしくて! カット数はすごく少ないんですけど、体感としてはすごく短くて、素晴らしいなと思いました。カッティング(※)を見て安心した記憶があります。

(※編注:編集作業のこと。撮影されたデータを絵コンテに準じて繋ぎ、各カットの尺を調整したり、カット自体を入れ替えたりする作業)

 確かに最終話前の大事な話だったけど、シナリオ的にはラストの幸太郎のセリフがあるだけで、僕は絶対に行けると思っていたんです。もちろん途中の見せ方は大事になるんですけど、宇田鋼之介さん(※)がコンテに入ってくれるということになって「よかった!」って安心してました。最初、11話~12話は自分でコンテ・演出をやらないとダメなんじゃないかなと思って、いろいろ相談してたんだけど、スケジュール的に無理だろうって話になり、そしたらたまたま宇田さんが大丈夫だったので、ぜひお願いします!と。

(※編注:宇田鋼之介……監督、演出家。「ONE PIECE」TVシリーズで境監督と連名でシリーズディレクターを務めていた)

竹中 素晴らしかったです。だから、何か足りないんじゃないかという思いに駆られていたんだと思うんですよね。30分アニメにしたとき大丈夫なのかな?って。

 それは要素的に?

竹中 そうそう。

村越 僕としては、さくらがああいう形で描かれるのでテンション的な心配はありましたけど、境さんがおっしゃった通り、最後のさくらと幸太郎のやり取りが決まった時点で、ああ終われる。この話はちゃんと終われる!って思ったんですよね。

ーー最後は本当に感動しました。さくらが持ってない、つまり不運キャラだったというのは最初から決まっていたんですか?

 いや、これはシナリオを考えながらやっていくうちにできてきたんですよ。

竹中 最後に思いついたとかではなく、1周目のシナリオ会議で11話を詰めているときに思いついたんです。そこから立ち返って要素を足していった感じなんです。

 11話でこうするのであれば、1話でこういうセリフを入れておこうって。シナリオは一度通しで作って、2周目の会議ではちょっと筋が通らないところ、これがあるなら前の話数でこういうことをやっておいたほうがいいねってところをもう一度さらい直して、村越さんに整理してもらう感じでやっていました。その1周目の打ち合わせの時に「さくらが持っていない」ってワードが出てきたんですよね。

村越 さくらがどういう状態であったら面白いかというのが11話でできたので、そこから全部見直すということをしました。

竹中 「さくらが持っていない」というワードができて作品が締まりましたよね。軸が決まったというか。シナリオ的には1話から12話を3周しているんです。

ーーそういうことだったんですか。あとはBAR New Jofukuでの会話が意味深でした。

村越 佐賀にNew Tokyoっていうバーがあって、Newの部分がちょっと意味がわからなくて面白かったので、これは絶対に使おう!と思ったんです(笑)。

竹中 佐賀は新しい東京だ!と(笑)。

村越 看板を見てからずっとあのニューはどういう意味なんだろうと気になっていたんですよ。

 NewでもTokyoでもないけどね(笑)。

ーーあの会話からは、何を受け取ればいいですかね?

竹中 僕らとしてはいろいろと考えた結果、あそこに落とし込んでいるという感じですね。

ーーでは、言葉のまま受け止めます。でも、考察しがいがある感じでしたね。次の話数ではエンディングで出てくるくらいで、ほとんど出てきませんでしたが。

 マスターの大塚芳忠さんがアフレコにいらっしゃって、ほかのキャストが芳忠さんに「来週も来るんですか?」って聞いたら「来ないよ」って言われ、メンバーがうろたえるという。重要そうだから最終話でも絶対に出てくると思ったら、呼ばれてないっていう。

竹中 俺が一番ツッコんだのは、11話で顔を隠しているのに、12話のエンディングで思いっきり顔が出てることですね。何で11話で隠したんだ?っていう。この1話だけの引っ張りに意味はあったのか(笑)。

 別に隠したままでもよかったんだけどね。(キャラクターデザイン)深川(可純)さんが悲しそうな顔をしてたんですよ(笑)。

(一同納得)

竹中 あはは(笑)。だとしたら、それは使っとこ!

ーーあとはさくらをそれぞれ説得しに行くネタは面白かったです。

 あの天丼感ね。それぞれ謎の言い訳をしてさくらの元に行くという。

竹中 あそこも早めに決まりましたよね。何も言えない純子とか。

ーーリリィも意味がわからなかったし、サキのBGMも面白かったです。

竹中 サキも暴力で解決しようとするという。

 頭ぐるぐる廻るのは面白かったなぁ。

ーーゆうぎりも行ったけど、さくらがいなかったという。

竹中 ゆうぎりがあそこで会ってたら解決しちゃうんじゃないかと思ったんですよ。

村越 そこはスカさなければっていう。

ーーそこは12話に取っておいたというのもあるんですね。そして最後の名シーンです。

竹中 あれはもう村越さんですね!

 最初に読んだときシビれた。

村越 そう言っていただいて嬉しかったです。

竹中 村越さんにすごく雑な投げ方をしたんですよ。納得できるようにしてください、くらいの。そしたらあれが上がってきたから、いいっすね~っていう。

村越 ああしないと、あそこまでこじれたさくらを説得できなかったんですよ。どうやって同じ土俵に上げるのかをすっごく悩んで。これは理屈ではなく、有無を言わせない熱量で行くしかないなと思って、ああなったんです。幸太郎ならそれができると。

ーー一度幸太郎は説得を諦めていなくなると思いました。

 「って思うじゃん!」ですね。あれはやりたいと言ってたんですよ。ここで「って思うじゃん」ってネタをやったから、何話か前に戻って、それを入れてるんです。

竹中 リリィとしゃべってるところかなんかかな? 教室でしたよね。 

村越 一度入れましたね。

ーーあの一連のシーンは、宮野真守さんと本渡楓さんの演技も含めてよかったです。

竹中 アフレコの本番で宮野さんのセリフを聞いて、超いい話だなと思ったんです。

村越 本当に素晴らしいことこの上なかったです。あと、手すりの文字はどなたのアイデアなんですか? あの時のさくらの心情にハマってますよね?

竹中 実際にあった文字なんですよね。監督はあそこに(ロケハンで)行った時から、入れると決めてたんですよ。

 写真も撮ってました。

ーー結構はっきりと文字が読めるようになってましたからね。

村越 あれはすごいなと思いました。当然あの注意書きは脚本には書いてないので、うまいなと。

竹中 絵的には監督の写真でほぼレイアウト切ってますもんね。

 そうですね。

ーー11話の演出はどうでしたか?

 ここの演出はほんとに宇田さんにお任せしてました。でも最後の幸太郎がわめいてるシーンは、宇田さんのコンテだと、最後はおとなしく背中を向けて言う感じだったんですよ。それは正面切って真っすぐぶつかり合ってくださいとお願いしたくらいで、あとは上がったまんまのコンテでやったんです。流れ的には11話でさくらをフランシュシュの土俵に戻して、12話でアイドルに戻すという流れを作ろうと思っていたので、それがすごくうまく整理できていたなと思います。

竹中 ホント演出のお手本みたいな話数でしたよね。

 すべてを正しく見せて、面白くしているという感じですね。

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