新時代の到来を告げるキッズアニメ主題歌たち! 令和のアニソンを占う出口博之の「いいから黙ってアニソン聴け! in 2019春」

全国1千万人のアニメソングファンの皆様こんにちは。流浪のベーシスト、アニメソング・特撮楽曲DJの出口博之です。新しいアニメが放送されて1か月ということで、新クールのアニメ作品が出揃う頃にやってくる、主観が過ぎるコラムこと、「いいから黙ってアニソン聴け!」の季節がやってまいりました。

おかげさまで「いいから黙ってアニソン聴け!」、今回で3年目に突入と相成りました。

クールごとに10曲選ぶ、というコンセプトで始まった当コラム、年4回の記事が2年で8回、今回で9回目を迎え、選曲したアニメソングは100曲目前となりました。毎回新しく始まるアニメすべての主題歌120曲前後を聴き、その中から10曲を選んでいるので単純に吟味した数で言えば1000曲以上は聴いている計算になります。

2年間アニメソングを聴き続けると、最近のアニメソングの変遷というか、大きな流れ、いわゆるトレンドみたいなものが何となく見えてきました。音楽的にどうなっているか、作品とのつながりはどうなっているか、全体的な今の流行は何なのか。あくまで私の主観100%の印象になりますが、最近の大きな流れは、音楽的な部分はより音楽的に、アニメソングらしい部分はよりアニメソングらしく、どういった方向性であれ「何をしたいのか」というのが非常にわかりやすい楽曲が多くなっていると感じます。

たとえば前クールであれば、「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」のオープニング「ラブ・ドラマティック feat. 伊原六花」は、鈴木雅之が出てきたらもう優勝!みたいなわかりやすい強さがありました。強烈なインパクトがあったし、何よりアニメ作品との親和性の高さが興味深く、面白かった。思いっきりマーチンなのに、ものすごくアニメに合ってる不思議。

今までなかった面白い組み合わせから生まれる新しいタイプのアニメソングが、この先のシーンを牽引していくのではないか、と感じています。

今期のアニメソングには今までにはない面白さを持った楽曲が目立っていました。アニメソング新時代到来の予感。

そんなわけで、2019年春アニメから10曲! どうぞ!

キャロル&チューズデイ

OP「Kiss Me/キャロル&チューズデイ(Vo.Nai Br.XX&Celeina Ann)」

群青のマグメル

OP「Dash&Daaash!!/風男塾」

けだまのゴンじろー

OP「レッツ!ゴンじろー/CHAI」

ED「わさわさわさ!/デーモン小暮閣下」

さらざんまい

OP「まっさら/KANA-BOON」

ジモトがジャパン

OP「あっぱれ! ジモトがイチバン!!/串田アキラ」

なんでここに先生が!?

OP「ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡/上坂すみれ」

Bラッパーズ ストリート

ED「Bラッパーズのテーマ/Bラッパーズクルー」

MIX

OP「イコール/sumika」

みだらな青ちゃんは勉強ができない

OP「WONDERFUL WONDER/エドガー・サリヴァン」

どうでしょう、新時代到来を予感させる10曲だと思いませんか?

それでは一曲ずつ、じっくりとご紹介!

音楽の純粋な強さが印象的だったのは、「キャロル&チューズデイ」の「Kiss Me」です。

作品自体が音楽のマジックを丹念に描くものになっているので、主題歌含め非常に強い楽曲が揃っています。当然ながらどの楽曲もシングル級の訴求力があり、音楽にかける情熱がひしひしと感じられます。それもそのはず、今作は良質なアニメソングを数多く世に送り出した、音楽に一家言をもつフライングドッグ10周年記念の作品でもあるので、音楽がよくないわけがありません。

シングル級の楽曲がひしめく中で「Kiss Me」は頭ひとつ飛び抜けたOP曲らしい突破力があります。「オシャレで全然アニソンぽくない!」と感じる方が多くいらっしゃると思います。自分もそう思ったのですが、いや待てよと。むしろこれは何よりも「アニメソングらしい」のではないか、と。アツい展開のロボットアニメには熱血ソングが必ずセットになっているように、音楽の本質をテーマとする作品には、音楽的に自由でマジックにあふれた楽曲が寄り添うべき。

この楽曲は、質感は完全に洋楽のそれですが、「キャロル&チューズデイ」の世界観を100%表現している、正しいアニメソングなのです。

今期で特に新時代の匂いを感じたのは、「けだまのゴンじろー」と「Bラッパーズ ストリート」です。
まずは「けだまのゴンじろー」ですが、最初に触れた「面白い組み合わせ」の好例のような新しい組み合わせのアニメソング。それもオープニングとエンディングが同時に生まれたのは奇跡だと思います。ゴンじろーは奇跡のアニメだ!

ED「わさわさわさ!/デーモン小暮閣下」

まずはネタ的にはエンディング曲「わさわさわさ!」でしょう。「お前も蝋人形にしてやろうか!」でおなじみ、「聖飢魔II」のデーモン閣下。男子小学生のアホさ100%の作品にデーモン閣下、この時点で組み合わせが面白すぎるのに、その楽曲は裏打ちが気持ちよいエレクトロ調ディスコビートの歌謡曲、超絶シュールな歌詞なのに歌がうますぎて異次元レベル、って情報量多すぎて最高。

OP「レッツ!ゴンじろー/CHAI」

そしてオープニング「レッツ!ゴンじろー」は、熱心な音楽リスナーならすでに注目している天才ガールズバンド「CHAI(チャイ)」です。いやー、めちゃくちゃカッコいい!

2000年代以降の洋楽のテイストをうまくミックスし、オリエンタルなサウンドに落とし込んでバンドの個性にしているのがCHAIというバンドの恐ろしいところ。世のミュージシャンが「あのバンドみたいな感じにしたいのに全然できない!」と試行錯誤している横で、みんなが目指して挫折したサウンドをいとも簡単に表現してしまう、そんなバンドです。作ってる側からすると末恐ろしさを感じますが、リスナーとしては痛快極まりない。これが聴きたかった感ハンパない。

「レッツ!ゴンじろー」も、サウンドの骨子はCHAIのバックボーンでもある洋楽テイストが感じられます。これまで何度も出てくる洋楽っぽさや、洋楽感、これはどういうことか簡単に説明すると「ボーカル含めた全部の楽器がバランスよく全部聞こえる」ことです。

私たちが聴きなじんでいる多くの邦楽は、ボーカルが一番よく聞こえるように調整されている楽曲が多いんです。ですから、ドラムやベース、ギターなどは一歩引いたバランス(これは音量の問題だけではなく、音域とか周波数とか複雑な話になるので割愛)になっているので、たくさん音楽を聴いていると正直ちょっと物足りなく感じる部分(逆にこの邦楽っぽいバランスがハマる場合もあるので、良し悪しではなく好みの問題)でもあります。

この洋楽っぽい音量バランスがわかりやすく体感できるのが「レッツ!ゴンじろー」なんです。ちょっとボーカルが大きいバランス(アニメソングらしいバランス)ですが、全部の楽器がまんべんなくきちんと聴こえます。このように音楽偏差値がかなり高い楽曲が、男子小学生のアホさの塊みたいな作品のオープニング曲ってのがもう最高。結果的に、アホ男子の音楽的素養が意図しないところでメキメキ育つのも面白い。

「Bラッパーズ ストリート」もマジヤバい。

ヒップホップと小学生男子がここまで相性がいいとは思いませんでした。「おはスタ」内のコーナー「きゃらスタ」での放送なので、純粋な枠でのアニメではありませんが、これは新時代感あります。すごいです。おイモ食べて繰り出す「オナラップ」が得意技とか、いい感じのアホさですが、ラップバトルやヒップホップ用語の解説は非常にていねいでわかりやすく、まさにヒップホップの教科書。学校行く前にこれを見て育った男子が、ゆくゆくは世界的なラッパーに成長する、なんてのも十分あり得ます。

「Bラッパーズのテーマ」は早いテンポで畳みかけるようなラップがビシビシ決まり、曲最後のかけ合いはコード進行とともにテンションがどんどん高まっていく緊張感がたまらない。放送で使用されている楽曲はごく短いですが、楽曲としてもアニメソングとしても非常に完成度が高いです。

「おはスタ」の「きゃらスタ」枠でもうひとつ、「ジモトがジャパン」の「あっぱれ! ジモトがイチバン!!」も聞き逃せません。

聴けば一発でわかるソウルフルなこの歌声は、ご存知、串田アキラさんです。やはり串田さんは、こういったオールドスクールなファンクの曲にとてもよく合います。47都道府県それぞれの「あっぱれ! ジモトがイチバン!!」というアホさも素晴らしい。こんなベタなネタが余裕で成立するのは、ブレない楽曲の強さがあってこそ。

それにしても、とても70歳を過ぎた歌声とは思えません。変わらないというより、さらに深みが増している感さえあります。同年代の水木一郎さんも歌声がまったく衰えないので、この年代のアニソンシンガーは、衰えとは無縁の強靭な肉体と精神を持つ人が多いのかもしれません。

「みだらな青ちゃんは勉強ができない」の「WONDERFUL WONDER」は、ついリピートしてしまう中毒性があります。

メロディラインはクールでオシャレですが、時折現れる童謡的なラインが郷愁を誘い、このポイントが何度も聴きたくなる中毒性を生んでいます。各楽器のバランスはそれぞれが距離感をうまく保ち、決して熱くなり過ぎないソリッドなアンサンブルで楽曲を牽引しているのが非常に新鮮です。こういったタイプのアニメソング、今までなかったかもしれません。

アニメソングの観点からすると、オープニング曲として使用されている時間が特殊です。ほとんどのアニメ作品では、オープニング曲はおよそ90秒、1分30秒ほどですが、この曲は60秒、およそ1分と、他の作品に比べ30秒も短いのです。短いから内容が薄いということではありません。逆に時間を絞ることによって、オープニング映像のテンポ感と楽曲のよさがうまくまとまり、予定調和ではない不思議な違和感を与えています。何度でも繰り返し見たくなるオープニングの中毒性は、この時間の違和感も関係しているのです。

ありそうでなかった新しいタイプのアニメソングだと思ったのが、「群青のマグメル」の「Dash&Daaash!!」です。

新しさを感じたポイントは歌声です。歌っている風男塾は、男装がコンセプトとあって、ほかの女性アイドルグループに比べ歌のキーが低いのが特徴。耳に痛くない絶妙な音域の歌声は、テンションも音域も高めなアニメソングが多い昨今において非常に強力な武器になっています。セクションがめまぐるしく展開する最先端のアニメソングに低いキーの歌がここまで合うとは。予想外の面白さの発見でした。

「なんでここに先生が!?」の「ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡」は、個人的にノーマークでしたが、一発でやられました。

セクシー! エロい! ヤバい!

まあ、やっぱりそこに目が(耳が?)いってしまうのは男としてしょうがない。ですが、このギミックにまどわされず冷静に曲を分析すると、楽曲のよさが尋常じゃないレベルにあるのがすぐにわかります。

メロディの愛らしさ、ポップスのマナーを大切にしたていねいなコード進行、一番盛り上がるサビのリズムが重心の低いフロアタムに変わる意外性のある展開などなど、耳を惹き付ける要素の塊なんです。このポピュラリティは、1980年代の魔法少女アニメの主題歌に共通する部分です。ということは、辿っていくとこの曲は、アイドルソングの系譜にあるといえます。

とにかく抜群に曲がいいので、胸とかお尻とかばっかり見ないで楽曲にも注目してみましょう。気持ちは痛いほどわかるぞ!

各所でいろんな意味で話題になっている「さらざんまい」、オープニング曲はKANA-BOONの「まっさら」

ノイタミナ枠のアニメソングらしいドライブ感がとても気持ちいい。体感としてはちょうどいいテンポに感じますが、実際はBPM207前後の超ハイテンポな曲なんです。超早いテンポなのに楽曲が性急に感じないのはメロディが大きなうねりを生んでいるからで、同時にこのメロディが絶妙にエモい起伏を作っているのが最大の聞きどころ。テンションの高いアレンジに耳を奪われますが、歌の強さが楽曲を引っ張っています。

最後は「MIX」のオープニング曲「イコール」

作品含めて私的に今期イチバンです! いい、っていうか、もうたまらんですね。

超簡単に原作の説明をすると、あだち充先生の「タッチ」の26年後のお話が「MIX」。甲子園優勝から見る影もなく落ちぶれた現在の明青学園野球部に入部した同い年の義兄弟が甲子園を目指す。これだけでもうたまらんですね。最高。

あだち充漫画の要素がふんだんに盛り込まれた作品だけあって、楽曲も歌詞の端々に「南風」「タッチ」など、ファンにはたまらないワードが盛り込まれています。最高。

透明感の中にアツさや男らしさがある楽曲は、あだち充先生が描く世界観と素晴らしくマッチしています。今年の夏(甲子園シーズン)は、DJの現場でたくさんかけたい曲です。

いかがだったでしょうか?

今期も恐悦ながら新クールのアニメ作品から10曲を選曲させていただきました。皆さんの好きな曲は入っていましたか?

いよいよ次クール、夏アニメからは「令和最初のクール」になります。言葉通り、新時代がやってきます。これからアニメソングがどんな風に変わっていくのか、全力で追いかけたいと思います。

それでは、次回は夏にお会いしましょう!


(文/出口博之)

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