それは露崎まひるの見た夢か──「少女☆歌劇 レヴュースタァライト3rdスタァライブ“Starry Diamond”」ライブレポート

「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」のライブイベント「3rdスタァライブ“Starry Diamond”」が2019年11月3日(土祝)、神奈川県・横浜アリーナにて開催された。

1部 スタァライト九九組ライブ

出演者:スタァライト九九組(愛城華恋役・小山百代、天堂真矢役・富田麻帆、星見純那役・佐藤日向、露崎まひる役・岩田陽葵、大場なな役・小泉萌香、西條クロディーヌ役・相羽あいな、石動双葉役・生田輝、花柳香子役・伊藤彩沙 + 神楽ひかり役・三森すずこ)

ライブ1部は舞台・アニメで聖翔音楽学園の舞台少女として活躍してきたスタァライト九九組のオンリーライブだ。今回の九九組ライブのコンセプトは「ノンストップライブ」、そして「8人の舞台少女」。彼女たちは全16曲、九九組の魅力を詰めこんだライブをMCなし休憩なしのノンストップでやり切った。そのテンポのよさと密度の濃さは、時を忘れるような体験だった。なお今回のライブは、神楽ひかり役の三森すずこさんが2部のみの参加と発表されている中での開催となった。

「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」はミュージカルとアニメーションで紡ぐ“二層展開式少女歌劇”をコンセプトに掲げており、舞台とアニメ、キャストとキャラクターが一体になった展開が魅力だ。この作品を追いかけて来た人なら、どの展開においても各シーンの演出、歌詞のパート分けといった細部に至るまでに、こだわりつくした意味や意図が秘められていることはご存じのはず。今回のライブ1部は、単にキャストがひとり欠けたライブではなく、“神楽ひかりがいない聖翔音楽学園”の舞台少女たちのライブだったのではないかと思う。

ライブをレポートするうえで、まずは愛城華恋、露崎まひる、神楽ひかりという3人の舞台少女の関係性に触れておきたい。愛城華恋と神楽ひかりは子供の頃に東京タワーで約束を交わし、2人で一緒にトップスタァになると誓った間柄だ。しかし、ひかりがイギリスの王立演劇学院に留学したことにより、2人は離れ離れとなった。

その後聖翔音楽学園に入学した愛城華恋を、誰より側で見つめてきたのがルームメイトの露崎まひるだ。誰もが舞台の主役であるポジションゼロを目指す舞台少女たちの中にあって、華恋というキラめきのかたわらに寄り添うことに大きな価値を置いているのがまひるなのだ。まひるが内に秘めた感情や、そのバックボーンにある物語については、TVアニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」第5話「キラめきのありか」に詳しい。華恋ちゃんのキラめきを感じられていれば幸せ、というまひるの日常は、神楽ひかりが聖翔に転校してきたことで変化を余儀なくされる。

「スタァライト」の物語は、真矢とクロディーヌ、双葉と香子、ななと純那というペアの関係性を大きな軸にしている。その中にあって、露崎まひると神楽ひかりは愛城華恋を間に置いた三角形という関係性に立っている。そしてこの作品が神楽ひかりと愛城華恋という2人の舞台少女の“運命”を軸にしている以上、まひるの立ち位置は一歩引いたものになりがちだ。ひかりと華恋がダブルセンターに立つ時、まひるはななと純那の側にいることが多い。そんな決して恵まれているとはいえない役割にも関わらず、誰よりもやさしく、あたたかく、仲間たちを慈しむ存在であり続ける姿が、見る者の胸を切なくうずかせ、彼女を応援したい気持ちにさせるのだと思う。

だから、オープニングでの「舞台少女心得」で、華恋(小山百代さん)のパートナーとして歌うまひる(岩田陽葵さん)の姿は、おそらく多くの人がいつか見てみたいと願ったであろう可能性のひとつだ。高く伸びやかな「この大空~」といったひかりの担当パートは、今回岩田さんが担当した。

「舞台プレパレイション」のラストで、2人並んで大きなハートを形作る小山さんと岩田さん。「キラめきのありか」で同じパートを歌う2人。「スタァライトシアター」では2人が前列に並んで歌ったあと、他のキャストが順番に去ったステージにひとり残った岩田さんが、ポジションゼロで美しいバレエダンスをソロで舞い踊った。

そこから小山さんと岩田さんの組み合わせで「Fly Me to the Star」が始まる。露崎まひるがライブのポジションゼロで華恋と共にキラめくライブ、それは8人編成の今日しか見せられない光景だったと思う。ただし、露崎まひるという存在に思い入れをもった視点で見なければ、純粋に完成度の高い8人ライブとしてもきっちり成立しているのが本作のバランス感覚だと思う。

だがその光景がとても幸せなものであるからこそ、露崎まひるという少女は、自分がその場所にいるために仲間が欠けたステージを望むだろうか、という疑問もまた浮かぶ。それに対するひとつの解答が、「Fly Me to the Star」の後半、ステージ上の塔から現れたように見えた三森すずこさんの登場だった。その瞬間、パフォーマンス中にも関わらず、会場に驚きと歓喜をはらんだどよめきが起こった。

三森さんと小山さんが青と赤の光に満たされた会場を巡りながら「Fancy you」を歌うと、ステージに集った9人は「願いは光になって」を披露。小山さんと手を取り合う三森さんの表情はこぼれそうなほどの笑顔だ。そこに入ってきた岩田さんと三森さんが、かわいらしくハイタッチ。

「願いは光になって」の歌詞に散りばめられた「眩しい舞台に、私たち誰一人欠けちゃいけない」のフレーズを、9人揃って歌う。その姿こそが9人と舞台創造科1人ひとりの願いが生んだ光だったのではないかと思う。

そしてあと一点、今回のライブならではの驚きがあったのが、「You are a ghost, I am a ghost ~劇場のゴースト~」だった。以前ライブで見た時は富田さんと三森さんの歌声のパワーと表情の狂気性がとても印象深かった楽曲なのだが、メンバーが変われば構成やパート分け、表現も当然変わる。三森さんが不在の今回、この曲で圧倒的な存在感を見せたのが佐藤日向さんだった。元より、階段の不安定な足場で全身をのけぞらせながらパフォーマンスする柔軟さや表現力、ダンスのクオリティが素晴らしかった佐藤さんだが、この日は朗々とした歌唱面でも驚くほどの力強さを見せた。佐藤さんが舞台の怪物・富田麻帆さんを相手に真っ向から歌声で存在を主張する姿は、この曲に新しい光を当てたように感じた。

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