こうして「邪神ちゃんドロップキック」は第2期を勝ち取った!! 道なき道を切り開く製作総指揮・夏目公一朗×栁瀬一樹宣伝プロデューサーインタビュー!
2018年夏クールを唯我独尊、傍若無人に爆走していき、年明け早々には奇跡のアニメ第2期を勝ち取った現在進行形の伝説的アニメ「邪神ちゃんドロップキック」。
本作は、アニメ本編に負けず劣らず既成概念にとらわれない自由すぎるメディア展開や各種イベント、「邪教徒」と呼ばれる熱心なファンによる布教活動など、独創的なプロモーションにも注目が集まっている。
そこで、今回は本作の製作総指揮を務める夏目公一朗さん。そして宣伝プロデューサーの栁瀬一樹さんに「邪神ちゃん」製作の舞台裏を思う存分語ってもらった。
夏目さんといえば、2006年にアニプレックス代表取締役に就任して以降、2016年に取締役会長を辞任するまでの10年間同社の先頭に立ち、数多くのヒット作を手がけたビッグネームだ。そんな彼がどんな思いを抱き、本作に参加することになったのか。
はたまた待望の第2期の放送はいつ頃になるのか……。
気になるあれこれが、今、明らかになる!?
「邪神ちゃん」製作委員会はゲリラ部隊!?
――「邪神ちゃんドロップキック」におけるお2人の役割をお教えいただけますか?
栁瀬 私は元々NTTドコモに勤めていて「dアニメストア」のサービス企画・設計を行いました。その後KADOKAWAに転職をしてアニソン定額配信サービスの「ANiUTa」を立ち上げ、今は独立していくつかのアニメの企画をお手伝いしています。その過程で、夏目さんともいろいろとご一緒させていただいてきました。
夏目 栁瀬さんとちゃんと面識を持ったのは、KADOKAWAに行ってからかな。その時以来のおつきあいになります。
――本作では夏目さんの肩書きは「製作総指揮」となっていますが、これは具体的にはどういうことをされるポジションなのでしょうか?
夏目 平たく言うと、すべてがうまく回るように気遣いをする仕事です。
栁瀬 今回、「邪神ちゃん」をつくってる委員会のメンバーにはアニメ業界の大きな企業が一切入っていないんですよ。要は「アニメ作りがよくわからない」っていう人がいっぱい集まっているんです。そういうメンバーゆえに、「これってどうやったらいいんだろう?」って、わからないことがたくさんあるわけです。そこを、全部夏目さんに教えていただくという体制になっていまして、だから「製作総指揮」というポジションについていただいているんです。
――では、夏目さんも新鮮な気持ちで仕事に関われたのではないでしょうか?
夏目 そうですね。本当に楽しかったです。こんなに楽しかった作品は……、「邪神ちゃん」くらいです(笑)。
正直にいうとアニプレックスの前身となる会社にやってきてアニメに関わり始めた時から、自分はいきなり制作や宣伝のトップをやることになってしまったので、あんまり現場を経ないままずっと製作総指揮に近い立場に立っていたんです。だから、アニメ製作の現場の本当の楽しさっていうのを味わいきれないまま今まできちゃってたんです。
言うなれば、いろいろなプロデューサーや宣伝マンといった、「アニプレックス」という名の正規軍の人たちに気持ちよくエネルギーを出させて勝ちを拾っていく、というマネジメントをずっとしてきたわけですが、「邪神ちゃん」はジャングルの中から出てきたゲリラ部隊を率いてくような感覚がありました。
――わははは!(笑) 荒くれ者しかしない。
夏目 本当に梁山泊です。その中でも、僕は本作において栁瀬さんの働きがすごかったと思います。とにかくファンの反応をすごくビビッドに、細かく委員会メンバーにメールやLINEで伝え続けてくれてましたから。たとえるならば、蒸気機関車に石炭をくべ続けるような働きをしてくれてたと思いますね。
栁瀬 そういう意味では、夏目さんは線路を敷いてくれる人でしたね。こっちの道で間違いないぞ! って(笑)。
夏目 「邪神ちゃん」の委員会って、腕力だけはあるんだけどどう動いていいかわかんない、みたいな集団だったので、僕がやったことは「邪神ちゃん」をどう第2期につなげていくか。あるいはファンを増やしていく、イコール成功させるためには最低限こういうことが必要で、商品化するためにはこういう人を連れてきて、と教えてあげることでした。たとえばゲームを作ってくれる会社に働きかけたり、グッズを作ってくれる会社に働きかけたりするコアになる人を連れてこなくちゃいけないよねとか、それこそ栁瀬さんみたいに宣伝プロモーションに卓越した人を連れてこなくちゃいけないよね、と……だから、確かにレールを敷いていく役回りだったんです。
――まるでゲリラ部隊に武器を横流しする武器商人みたいな(笑)。
夏目 だからすごく楽しかったのは、ジャングルから出てきたゲリラ部隊が、業界の一角でアニメの新しい作品の届け方、ファンとの盛り上げ方を見せられたかな、というところですね。
「邪神ちゃん」って、アニメの企画が立ち上がった当時は原作コミックスの発行部数もそこまで多いわけではなかったですし、正直に言いますとアニメ化するうえではものすごく強い作品というわけではなかったんです。ただ、作品の持ってるパンキッシュでアナーキーなエネルギーが、もしかしたら何かを起こせるかもしれない……というやや予感に近いものを持っていたんです。
――あ、最初の印象はそういう感じだったんですね。
夏目 そうなんです。アニメ化を考える際にまずは原作コミックスを読ませてもらったんですが、非常におもしろいなぁと。こんなにアナーキーで、ハチャメチャな作品があったのかと。
――パンクですよね。
夏目 ええ、パンクですね。「邪神ちゃん」ってアメリカの「トムとジェリー」に通じるものがあるかなと。ものすごくドタバタな内容で、一方的に邪神ちゃんがゆりねにやっつけられるんだけど、でも実は深い友情がその根本に横たわっている……。という、今のコミックやアニメの中では、非常に特異な物語なんですよね。私もその通りだと思っていて、面白いからやりましょうかという話になったときに、製作委員会から「ならばぜひ製作総指揮に入ってくれないか」と言われたんです。それで、もうずいぶん現場から離れてたけど、新鮮な気持ちで関わってみようかなと思いました。
そういう中で、栁瀬さんはプロモーションのアイデアのひらめきをたくさん持っている方で、委員会の場で次々と「これはこうやったら面白い」「こうやったらもっと面白いんじゃないですか」って提案してくれたんですね。それでこっちも、「それ面白いね」「やってみよう、やってみよう」っていう感じで、彼にわりと自由に泳いでもらったんです。
現在は1クールに50本も60本も、多い月は70本ぐらい新作アニメが出てくるような中で、ほとんどが空気アニメのように流されていく、というもったいない状況が発生しています。その中で、アニメファンにどう突き刺していくかっていうプロモーションは、すごく大事になっていて、とりわけ紙媒体というもののポジションが低くなってきてる中、ネットでどうそれを刺していくのか。ファンにとってどれだけ面白く、話題やしかけを提供できるかということが大事か、ということは私もよくわかっています。そこで、ファンとのやりとりをとにかく大切にする栁瀬さんが加わってくれて、心強かったというのは正直思っています。
大量の作品の中に埋もれないために
――ちなみに栁瀬さんがアキバ総研に「邪神ちゃん」を紹介してくださったのは、放送が始まる1か月ほど前だったと思います。「まずはキャストさんのリレーインタビューを、放送開始前に掲載しましょう!」という話になったんですよね。……そもそも、なぜアキバ総研でそういう企画をやろうと思われたんでしょうか?
栁瀬 こちらであらかじめキャストさんのインタビューを全員分録りためて、写真もちゃんと撮っていたんです。で、これをどこで出そうかな、と思っていたらその時点で、すでにアキバ総研さんの公式投票企画に邪教徒の皆さんが集まっていって、すごく盛り上がっていたんです。それで、「じゃあ、もしよかったらこの素材全部使いませんか?」って連絡をして、お渡ししたんですよね。
――ということは、すでに放送前から邪教徒たちの布教活動が始まっていたんですね。
栁瀬 そうなんです。すでにうごめいていたんです。
――それは自然発生的にですか?
栁瀬 いやいや! 自然とはとても言い難いですね。ちょっと今、それをご説明いたします。
これは2018年4月の公式サイトなんですが、エイプリルフールにネタを仕込もうと思い、タイトルがプロレス技の「ドロップキック」ということで、公式サイトのトップページの画像を実写のドロップキックに変えようと思ったんですね。
でもそこまでだと、まあ「よくある」企画じゃないですか。でもそうじゃなくて、本当に女子プロレスとコラボしようと思いまして、女子プロレス団体の「スターダム」さんを訪ねて、「実は『邪神ちゃんドロップキック』という作品があってですね」と、原作をお見せしたんです。……先方は作品をご存じではなかったですし、内容をその場で理解するのは難しかったのではないかと思いますが……。今思えばかなり強引だったかもしれません(笑)。
――わはははは(笑)。
栁瀬 代表の小川さんは新しいことにどんどん挑戦していくスタイルの方でしたので、とにかくやってみようということになり、その後、後楽園ホールで本当にプロレスのイベントをやることになりました。
――そういう経緯で「邪神級タイトルマッチ@後楽園ホール」が行われたんですね!
栁瀬 そうなんです。結果的に、その日の興行にはプロレスファンではない人たちがたくさん訪れて、初めて女子プロを、スターダムを知ったという方が数多くいらっしゃいました。
話は変わって、なぜ私が「邪神ちゃん」を全力でやろうと思ったのかというと、私自身、アニメが3か月経ったらおしまいという今の風潮に疑問を持っているからなんです。今の深夜アニメって3か月経ったら必ずいなくなっちゃうから、失恋することが決まっている恋愛のような状況なんです。つまり、安心して好きになることが難しいんですよね。そこが今のアニメの課題と思ってます。
「邪神ちゃん」に関しては、原作者のユキヲ先生が「私はこれを一生描いていきたいんだ」とおっしゃっていて、担当編集さんも「これを『あさりちゃん』のように、ずーっと続くものにしていきたいんだ」とおっしゃっているんです。
――ああ~、「あさりちゃん」ですか。
栁瀬 私も、すごくそこに共感をして、「よし! なら一生『邪神ちゃん』をやっていこう!」と思ったんです。「ずっと一緒に寄り添ってくれる」。たぶんそれが、夏目さんがおっしゃられていたムーブメントの根っこになる部分だと思っていて。これって今の「大量生産型」「大量消費型」のアニメに対してアンチテーゼになると思うんです。ですので、ずーっとお客さまと一緒に「邪神ちゃん」が生きていくために、ちゃんとしたコミュニティを作っていこうということを考えていました。これがもし、無策で放送に臨んでいたら、2018年夏の約70作品に埋もれて空気アニメになっていたと思います。
邪教徒たちの思いが作品に勢いをつけた
――なるほど。放送に至るまでにそういう下準備があったわけですね。アキバ総研でもその後、公式投票企画をやるたびに、毎回「邪神ちゃん」がダントツ1位を取り続けたわけですが、その結果、よくも悪くもアキバ総研で「邪神ちゃん」が異様な存在感を発揮することになったように思います。
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栁瀬 そうですよね。「なんなんだ、このアニメ」みたいな。
――もう読者も編集部もわかってるんですよ、組織票だって(笑)。わかってるんだけど、「また邪教徒が来たよ」って……。もう吉本新喜劇ばりの天丼ですよね。3回目、4回目あたりからは。それが作品のノリとあいまって、最終的には「もう『邪神ちゃん』なら仕方がない」っていう空気感になってきたのが本当に面白かったですね。
夏目 はっはっはっは(笑)。
栁瀬 そこで言うと、最初から考えていたことが、邪神ちゃんを大好きなファンの方たちを「邪教徒」と呼んで、組織的に展開していくということです。なぜならアニメは3か月で終わってしまいますから、「邪神ちゃん」をずっと長く続けていくためには、放送終了後も一緒にやり取りできるメディアを作らなければいけないと思っていたんです。そしてそれを「邪教徒」の皆さんと一緒に作りあげてきました。結果的に、こういった施策はすごくうまくいきまして、放送前にいろんな面白ネタをやり、メディアにもたくさん掲載していただきました。SNSでも、Twitterに2.2万人、YouTubeに3.8万人もの方々に集まっていただき……。イベント「すごいサバト」では1席5万円のATM席が倍率20倍で売り切れる、という状態になりました。2期に向けては、1期と2期の間を埋めるための楽曲作成・ボイスドラマ作成をクラウドファンディングで行なっていきます。先に実施したその第一弾「天国への階段」というプロジェクトは4日で目標の300万円を突破し、最終的には500万円超の大成功を収めました。集まったお金でCDを作ってイベントもやっていきます。
――やはり本作の強みは、邪教徒という大きな集団が形成できたことですよね。ファンも、「自分が邪教徒なんだ!」という帰属意識が自信にもつながっていると思いますし。
栁瀬 そう思います。アキバ総研さんの「君はもう入信したか?」というタイトルの記事は秀逸でしたね。
――そこは狙い通りだったという感じですね。逆に邪教徒が、制作側の予想を超えた動きをしたことはありますか?
栁瀬 「すごいサバト」の、フラワースタンドを見ていただけました? 30個以上も来てたんですよ。500人の会場に、30もお花来るっておかしくないですか? しかも、1個に20人くらいの連名で。しかも「邪教徒リスト」が付いてくるんですよ。明らかに想定超えです。
――はははは(笑)。すごい信仰力ですね! 異常な献花率だと思います。皆さん、なにか「邪神ちゃん」に捧げたいっていう思いがあるんでしょうね。
夏目 くくくく……(笑)。
栁瀬 そうですね。邪教徒の皆さまからいただく贈り物を我々は「供物」って呼んでるんですけど、「供物入れ」という箱を用意しておくと、もう段ボール箱3つぐらいじゃ足りないんですよ。しかも、大半が鈴木愛奈さん宛てと思うじゃないですか。ところが、「すごいサバト」で一番多かったのがなんと、運営宛てで。
一同 あっはっはっはっは(笑)。
――いやぁ、愛されてますね!
栁瀬 本当に愛されてると思いました。相思相愛ですね。会場の方が驚いてましたね、「こんなに愛されてる運営はいませんよ」って(笑)。
夏目 もちろんキャストのファンの方もいますからね(笑)。「すごサバ」までにも、秋葉原の小さなイベントスペースで、けっこうイベントを重ねましたよね。立ち見も含めて100人くらい。椅子を置いたら50人くらいしか入らないような場所でイベントを重ねるうちに、邪教徒の熱がだんだんと上がってきて……「あ、本当に熱いファンが来てくれてるな」と実感するようになってくるんです。この作品には、最前列の席を取るために朝早くから並んでくださる方がこんなにもいるんだ、ってのを実感していると、栁瀬さんが「これ、最前列をATM席にしたらいいんじゃないですか?」って言い出したんです。「ATM席」って、この作品じゃないと許されないですよね(笑)。
(※注:「ATM」は作中で邪神ちゃんが他人からお金を借りる時の表現)
――でも邪教徒もそこに乗っかってきて、楽しんでますよね。
栁瀬 そうなんですよ。このやり取りですよねぇ。
夏目 まあ原作コミックの中に「ATM」っていうワードは出てきていたので、僕らとしても「このシャレはわかってくれるよな」っていう思いはありました。で、実際に最初に「ATM」って書いた赤いカバーを席に置いておいたら、邪教徒の皆さんはあれを持って帰ってくれたんだよね(笑)。
栁瀬 しかも、そのカバーを「すごサバ」に持ってきている人もいました。
――なんか信者の証というか、言うなれば「AKB48の最初のライブに来ていた伝説の7人のファン」みたいな人たちですね。「俺、最初のATMなんだぜ」みたいな(笑)。
栁瀬 そうそう!
夏目 本当に邪教徒の「皆で押し上げていこうぜ!」「俺たちがこの作品を育ててこうぜ!」っていう心に、ちゃんと着火することができたな、という思いがあって、そのおかげで我々もいろんな勢いが出てきた感は本当にあります。
――最初に手応えを感じたのはどのタイミングですか?
栁瀬 やっぱり秋葉原の小さいスペースでやったサバトで、会場を邪教徒でいっぱいにできた時ですね。
夏目 2回まわしでしたね。
――キャストの皆さんも、ものすごく作品を愛してることがイベントを見てて、すごく伝わってきました。
夏目 キャストさんの話をしますと、本作はやはり鈴木愛奈さんの力がすごく大きかったと思います。ある意味では、鈴木さんを主役に選んだところから、委員会全体としても、絶対にこの作品を成功させようっていう思いが強まった感がありましたから。
なぜ「2000枚」だったのか?
――そして、無事アニメの放送はスタートし、やはり次は第2期に向けてパッケージを売っていこうという話になるわけですが、Blu-rayを2000本以上売らないと第2期が放送されないという企画は、どのようにして決まっていったのでしょうか?
栁瀬 自分はプロモーションの担当なので、「パッケージって何枚売らなきゃいけないんですか?」と聞いたら、目標が2000枚だって言われたので。じゃあ「目標は上下巻あわせて2000枚な」ってなりました。これは本当に裏表のない数字です。だって目標達成していないのに次にいけないじゃないですか。
――ただほかの作品だと、普通はそういう具体的な数字を隠すじゃないですか。また、ネットでは○○ラインとか言って、「○○枚が第2期決定の最低ライン」みたいな話で盛り上がることもあるので、「あ、2000枚で第2期が作れるんだ」と思った人も少なくはないと思います。
夏目 そこは作品によって違うと思います。あくまで国内外の配信サービス等で十分な売上が立ったうえで、パッケージ販売を考えた時、あと2000枚を売ればシリーズを継続することができるということです。ただこの時は、到達できるかどうか心もとなかったですね。
――配信などの売上から逆算して、2000枚という国内でのパッケージ売上の目標が出てきたと。
夏目 そうです、下限としてね。
――すごくわかりやすいお話だと思います。ちなみに今回「邪神ちゃん」を配信したのが「ビリビリ動画」と「Amazon Prime Video」の2つですが、海外でのウケ方はどうだったんでしょうか?
夏目 中国のビリビリに関しては、常時ベスト3かベスト5に入るぐらいいい反応でしたね。日本の「Amazon Prime Video」もよかったんですけど、アメリカでは、必ずしも大ヒットというわけではなかったですね。
――ということは、アジア・中華圏で「邪神ちゃん」は人気というイメージなんでしょうか。
栁瀬 たぶんアジアかどうかではなくて、中国本土でビリビリにお金を払って動画を見ている人たちは、日本のアニメファンと近しい存在なんじゃないでしょうか。でも、「Amazon Prime Video」という世界全部を包み込む、巨大なプラットフォームでアニメを観ている人たちは、それとはまたちょっと違う種類なんだと思います。アニメイトのランキングで上にはいけるけれども、TSUTAYAのランキングで上にはいけないのと同じだと思うんですね。絶対数でいうとよかったのかもしれませんが、邪神ちゃんと同じ放送クールにはもっと観られてる作品がいっぱいあったと思います。「はたらく細胞」とか「BANANA FISH」とか、……よりメジャーな感じの作品が(苦笑)。
――その後、なんとかノルマを達成し(詳細は下記リンク先のイベントレポートを参照)、第2期が決定したわけですが、その時点ですでに準備が進められていましたね。どのタイミングで第2期の準備を決断されたのでしょうか?
⇒邪神復活決定! ATMな邪教徒たちが奇跡を呼んだ「邪神ちゃんドロップキック」公式イベント「すごいサバト2019」天使の部レポート
夏目 12月には現在のチームを継続して、第2期の準備を始めてくれっていう話をしました。
――それは、もう2000枚売れることを信じていたということですよね。
夏目 そうです。まあ、2000枚の確信は誰も持ててなかったんですけど。ただ、解散しちゃったならば、次に動き出すのはえらい先になっちゃう。監督にも次の仕事が入ってきちゃうし、各クリエイターがあちこちに散っちゃうわけですから。そういう意味では見切り発車に近いスタートでした。
――それに対してスタッフの皆さんも「わかりました!」と?
夏目 そうですね。
――熱いですね~。そこから奇跡の逆転劇に至るわけですが、今回の成功のポイントはどこだとお考えですか?
栁瀬 途中経過を報告していた点と、イベント会場などで大きく売上を伸ばした点の2点ですね。
――イベント会場で売上を伸ばすアニメって、なかなか珍しいですよね。
栁瀬 そうなんですよ。ただ、1月20日までに2000枚売れないといけなかったんですが、1月14日の時点で1900枚くらいだったのは、非常に危なかったですね。1週間前なのに、100枚足りない。1枚2万円ですから1週間で100枚売るのはなかなか難しいです。ただ1月14日の「秋葉原映画祭」の会場に来てくれた方が50~60枚買ってくれて、そこからまたちょろちょろと売れて……。「すごサバ」当日の朝の時点で、本当に1991枚だったんです。それで、「こりゃやばい!」って思ったんですが、その時点で「必ず現地で全部売り切るぞ!」と決めたわけです。その結果、売れたわけです!
――もう映画化決定クラスのドラマですよね。
栁瀬 本当にドラマでした! なので数字を作ってるんじゃないかとうがった見方をされている方もいるかもしれないんですけど、これが真相です。
――でも本当に、「すごサバ」って幸せなイベントだと感じました。自分たちが応援した結果が、目の前で「成功」という形で呈示される。これってファンの皆さんを肯定することでもあるわけじゃないですか。だから、あれは邪教徒たちが自分たちを肯定してあげるイベントでもあったのかなと思います。俺たちが何枚買ったから第2期が決定した!っていうのは、普通はわからないじゃないですか。例えば何万枚売れるクラスの作品だと、1人ひとりの重みってそれほどでもないけど、2000枚となるとすごく重たくなる。自分の買う1枚が確実に影響を与えてしまう。この奇妙な連帯感って今までのアニメにはあまりないような気がします。あえて言うならば、インディーズバンドを追いかけているファンのような気持ちに近いのかなと。
栁瀬 それ、よく言われます! 「邪神ちゃんって、インディーズバンドみたいだよね」って(笑)。
――2000人くらいのファンがいるバンドって、大ホールでのコンサートはできないけど、全国各地の小さな箱ならなんとか埋まるじゃないですか。
栁瀬 そうそう、毎回ファンのみんなが追いかけてくれるから。でもおっしゃってるところは、すごく正しいと思います。そういう作品なんでしょうね。だから、「邪神ちゃん」において映像はひとつの要素に過ぎない。たぶん、こちらから提供できたものは、一緒にアニメを作っていって、何らかの目標も一緒に達成するっていう、ストーリーだったと思います。
――これも私見なんですが、ここ近年の人気のあるアイドルの共通点って、必ずゴールを設定していることじゃないかなと思うんです。「国立に行くぞ!」とか「選挙でこの子を1位にするぞ!」といった目に見えるゴールを設定して、それが結果として出てくると「俺たちが応援したことによって、この子達の夢がかなった。それをみんなでお祝いしよう」となる。要はみんなの力で成功体験を勝ち取って、それを共有するから面白い。アイドルってそのためのひとつの装置なんじゃないか。アニメの「邪神ちゃん」もそういう側面があって、楽しい理由もそこにあったんじゃないかなと。
栁瀬 たぶん、そこだと思います。なぜ「邪神ちゃん」の第2期が決定したのか。それは自分たちが応援したから! そういうことなんですよね。だから本当に皆さんのおかげですよ。
――そこは狙っていた部分もあるとはいえ、結果的に非常に現代的なコンテンツのあり方を示しているなと。製作側もファンの側も共犯関係という。
夏目 共犯関係というと、さっき組織票という話が出てきてましたが、アキバ総研の投票の途中経過が毎週毎週関係者に「今ここまで来てて、次抜かれるかもしれないから、みんな頑張って1票入れて!」みたいなメールが飛んできてたんですよ。だから委員会のみんなで、ちゃんとひとりずつ投票していたんですよ。
栁瀬 キャストさんにも「ボタン押してください!」って言ってました。
――わははは(笑)。じゃあ何票かは鈴木愛奈さんや大森日雅さんのものが入ってるかもしれないですね(笑)。
栁瀬 どなたが投票してくれたかはわかりませんが、多くの関係者も応援してくれていました。あと、パッケージについても音響監督の今泉さんが「景気づけに私も1枚買いました」とおっしゃっていましたし、EDを歌ってくださった三浦祐太朗さんも「自分で1枚買いました」とおっしゃっていました。
――キャストだと橘芽依役の原奈津子さんも、「自分で買った」とおっしゃってましたよね。
栁瀬 原さんも買ってました! あとぺこら役の小坂井祐莉絵さんにも買ってもらいました(笑)。ぺこらのVtuberになってもらった時に、「Amazonでこうやって買ってください」「小坂井さんが自分のアカウントで、自分で買ってください」「サンプルないんで自分で買ってください」って(笑)。その後ぺこらの声で「あなた地獄に落ちますよ?」って言われましたけど。
夏目 サンプルはなかったよね、本当に。
栁瀬 我々も、自分の家にあるのは自分たちで買ったものですね。
――でも、それが売上枚数につながるわけですからね。
栁瀬 そうなんです。自分たちでお金を出すことで、次の仕事(2期)につながるわけですから。
第2期放送はいつ? それは中国次第…?
――ところで、「すごサバ」では年内に第2期の放送を……とお話しされていましたが、具体的にはいつ頃の放送を予定されているのでしょうか?
夏目 制作は開始しているのですが、放送の時期はまだ決まっていません。先にお伝えした通り、昨今のアニメがリクープをするためには中国市場での展開は必須です。しかし、中国で配信するためには事前に作品を納品してチェックしてもらわねばならないんですね。その時間がまだ読めない。
――日本の放送を先行する可能性はないのでしょうか?
夏目 配信の前に日本で放送してしまうと、すぐにネットに海賊版が上がっちゃうんです。そうなると、やはり日本の放送時期を配信に合わせるしかないかな……というのが、今の一番の悩みです。
――やはりビリビリ動画による配信は「邪神ちゃん」を支える重要な要素ですから、中国事情は無視できないわけですね。
夏目 無視できないですね。売上ももちろんそうですが、何よりファンの熱量を無視できない。我々も、昨年ビリビリ動画に招待されて、声優さんとともに中国まで行って、トークショーや握手会をやってきたんですが、向こうのファンの皆さんの熱気がすごかったですね。私の写メとサインをくれって(笑)。
――今後、ファンが「邪神ちゃん」にできることがあるとしたら、どんなことがありますか?きっと皆さんも、もっと奉仕したいだろうと思うんです(笑)。
栁瀬 実は現在、「邪神ちゃんドロップキック アバズレコラボキャンペーン」というものをやろうと思っています。誰とでも付き合います! 誰とでも付き合いますから……みんなでコラボしません? っていうことをご提案したいと思っています。お前は本当に節操がないな! っていう風に(笑)。
――あっはっはっは(笑)。身売りするわけですね!
栁瀬 どんなに小さなお店でも、大学のサークルでも、大きなメーカーさんでも、どなたでもいいからお声がけしてほしいです。アニメコラボしたいなっていう方たくさんいらっしゃると思うのですが、誰にどうやって声をかければいいのか、それを実現するためにはいくら必要なのか普通はわかりませんよね。「邪神ちゃん」はそこを明示します。広告代理店さんも通しません。直接やり取りをして、金額もしっかり出します。あくまでたとえばですが、ロゴを使うだけなら1万円から、ビジュアル描きおろしだったら10万円から、みたいなものを全部出すつもりなので、気軽にお声がけして頂きたいです。
そして第2期に向けて「邪神ちゃん×〇〇」みたいなものを、いっぱい世に出していきたいので、邪教徒の皆さんの中にはご自分の会社やお仕事で邪神ちゃんと一緒にやりたいなって人も、きっといると思いますので、ぜひお声がけいただきたいです!
――ではアキバ総研とコラボしませんか?
栁瀬 やりましょう! すぐやりましょう!
――ではさっそく持ち帰って編集長に報告させていただきます! 今後の展開がますます楽しみですね! ということで、最後に邪教徒の皆さんにメッセージで締めさせていただきたいと思います。
栁瀬 私は邪教徒の皆さんに、本当に幸せになってほしいので、これからも「邪神ちゃん」を追いかけてきたからこそ見られた風景、もう「邪神ちゃん」じゃなきゃこれはできなかったろう!っていう体験をしていただきたいです。
夏目 信じるものは救われる。邪教徒よ、永遠なれ!
――ありがとうございました!
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