太宰治の代表作がサイバーパンクなアクションアニメに! 世界が注目する映画「HUMAN LOST 人間失格」木﨑文智(監督)×冲方丁(ストーリー原案・脚本)インタビュー
太宰治の不朽の名作「人間失格」をダイナミックに再構築した劇場アニメーション映画「HUMAN LOST 人間失格」が2019年11月29日(金)より公開となる。
破滅に至ったひとりの男の生涯を描いた太宰の代表作のイメージを覆し、SF・ダークヒーローアクションとして生まれ変わった本作で監督を務めた木﨑文智さんと、ストーリー原案・脚本を担当した冲方丁さんに、制作時のエピソードや原案となった「人間失格」について、さらにキャストの印象についてうかがった。
—— あの「人間失格」をSF・ダークヒーローアクションにするという大胆な設定を、どう感じましたか?
木﨑文智(以下、木﨑) 崩しちゃいけないところは崩していません。たとえば、大庭葉藏が秘めているものはもちろんですが、柊美子、堀木正雄という存在がなければ大庭葉藏ではないわけですから。
冲方丁(以下、冲方) 絶対押さえなければいけないポイントは見定めていました。そこを崩さなければなんとかなるだろうな、とは思っていましたね。
木﨑 「何を言ってるんだ」って思った企画だったけれど、とにかく形にしようという気持ちが強かったので、苦労しながらもなんとかできあがってホッとしています。
冲方 原案があるとはいえ、これはオリジナルをゼロから作るのと一緒だし、誰もやったことがないところにいこうとしている。レトロフューチャーでサイバーパンクも入れつつ、バイオテクノロジーによるSFだけど、バイオハザードではない。チャンバラもやろう、変身モノの要素もあるとか、いつ空中分解するかわからない企画をよく組み上げたと思います。完成した作品は、木﨑イズム大爆発でしたし、現場にいた方は大変だったろうなと思います(笑)。
—— おふたりの「人間失格」との出会いや思い出を教えてください。
冲方 学校の課題で読んだくらいですよ。「太宰先生を読んで作家を志しました」的な存在ではないですね。でも出版業界においては偉大な先人ですし、培ってきたものは我々に受け継がれ、文明は享受していますよね。
木﨑 「教科書に出てきたかな?」くらいの記憶で、内容もざっくりとしか覚えていなくて。映像化のお話をいただいたときにストーリーを見直して、「あー、そうそう。最後精神病院に入れられちゃうんだよね」と思い出しました。決して楽しい話ではないし、ひとりの人間が落ちていく様を描いた作品です。印象としては、「やっぱり太宰先生ってこういう人だったんだろうか」という思いを馳せる本という位置付けかな?
冲方 太宰先生を弁護すると「人間失格」を書いた頃はすごく精神的に安定して落ち着いていたんです。この作品を通して、暗闇を探り当てたことだけは確かですけどね。文明生活において、人間が陥るであろう暗闇というものを的確にえぐり出したなと思います。
木﨑 しかも、それが現代にも通じるというね。
冲方 そうなんです。古い価値観が揺らいでしまった社会で、父親という旧時代の抑圧に怯えて、それを克服するため流行のものに積極的に参加していったあげく、中毒になり破滅する。そんな人って、現代にいっぱいいるだろうなって。それが若者に対するある種の警告として成り立っていると思います。自分の自己憐憫を大事にしろという。むしろそれが最後の砦になるからと。自分を哀れむ気持ちがない限り、差別されても抑圧されても気づかない。冒頭から「笑いたくないのに笑ってます」ってね(笑)。親の要求に応えることが、子どもにとって最初の使命にもなるので、わかる気がするけれど。そこから反抗が始まって、それはごく自然なことなんだよというメッセージを発していると思うんです、「人間失格」という作品は。
—— 「HUMAN LOST 人間失格」は、フランス・アヌシー国際アニメーション映画祭でも上映され、海外の反応も上々ですよね。
木﨑 企画そのものが「世界に打って出よう!」ということだったので、当然世界に通用する映像、アクション、見せ方は意識しました。そのうえで「ちゃんと日本でも受け入れられるものにしたい」という気持ちもありました。
冲方 木﨑さんは生来海外向けですからね。
木﨑 そもそも僕に話が来た時点で、海外を意識していることはわかりました。企画そのものに最初から海外が視野に入っていたんです。僕のアクション多めの作品は海外ウケがいいので、そのあたりもお話をいただいた理由なのかなと。
—— キャストの皆さんの演技はいかがでしたか?
冲方 かねてからいろいろな作品で拝見している方々なので、ただただ完成版を観るのが楽しみでした。実際、できあがったものを観たら、想像の一段上のものに仕上がっていて、驚きました。特に、宮野(真守)さんが演じる葉藏の東京タワーのシーンとかね。
木﨑 役者ですよね。
冲方 あそこだけ抜き出してもいいってくらい、すごいシーンになっています。あと櫻井(孝宏)さんが演じる堀木の悪役っぷりもいい! 下手するとあの人って主人公食っちゃう演技をするでしょ? 今回もそのよさが存分に発揮されていました。説得に共感を込めるから、すごいですよね。皆さん実力も柔軟性もある。作品のキャラクターだけでなく、役者さん自体にもすでにキャラクターがありますからね。
—— すでにできあがっている方々が、また一段上がるってすごいレベルの話ですね。
冲方 どうしたら、あんな風に仕上がるんですか?
木﨑 プレスコのときは、画はないんですよね。
冲方 際限なく熱演してくださいって感じでお願いするんですか?
木﨑 シナリオからくる何かを感じ取ってというリクエストだったと思います。
冲方 それであの演技が出るんだから、やっぱりすごいですよね。
——「HUMAN LOST 人間失格」のオススメの楽しみ方を教えてください。
木﨑 「この作品はこういう作品です」とは言わずに、観る人にゆだねたいと思います。太宰先生の「人間失格」が持つメッセージ性も込められているので、そのあたりを感じ取って楽しんで観ていただきたいです。
冲方 最初の10分を観れば、あとは引き込まれるだけです。とにかくすごいものになっています。「人間はどうあるべきか」「あなたにとって人間ってなんだ」を問いかけている作品です。作品を通してそれをどう感じたのか、教えてほしいですね。
(取材・文/タナカシノブ)
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