半世紀にわたり巨大ロボットを演出しつづけた先に、何が見えるのか? 富野由悠季監督インタビュー【アニメ業界ウォッチング第60回】
富野由悠季総監督の最新作『Gのレコンギスタ Ⅰ』「行け!コア・ファイター」の劇場上映が、今月2019年11月29日に迫った。
富野監督は『機動戦士ガンダム』(1979年)で知られる作家だが、ガンダムシリーズだけでなく『伝説巨神イデオン』(以下『イデオン』)(1980年)といった80年代作品、『ブレンパワード』(1998年)などの90年代作品、00年代の『OVERMANキングゲイナー』(以下『キングゲイナー』)(2002年)、そして『ガンダム Gのレコンギスタ』(2014年・テレビ版)と、40年以上も一貫して巨大ロボットというモチーフと向き合いつづける稀有な演出家である。
今回は巨大ロボットのデザイン、演出、劇中での生かし方に焦点を絞って、お話をうかがった。
起承転結という原理原則を外すと、観客は離れてしまう
──ロボットアニメには「敵の来襲→出撃→苦戦しながらも勝利→帰還」というパターンがあり、そのパターンを使えば『伝説巨神イデオン』のような観念的な物語も描けます。その“ロボット物のパターン”という強力な武器は捨ててしまったのか、今でも応用しているのか、どちらでしょう?
富野 基本的には、応用しているんでしょうね。なぜなら、劇の根本に起承転結の構造があり、アニメーションでお話を見せるということは、演劇・映画のスタイルを踏襲せざるを得ないわけです。映画の歴史はたかだか120~130年程度ですが、その原理原則は、そうそう変えられるものではありません。テレビシリーズの1つひとつのエピソードを成立させるには、『イデオン』のような作品であっても、起承転結の構造は欠かせません。劇場版『イデオン』のように複数のエピソードを圧縮してまとめるにしても、大きな流れは必要です。なぜなら、起承転結を外してしまうと、観客は見てくれなくなるからです。その原則を守ったうえで、その時代に合ったテーマやメッセージを考えてお話をつくっている、ということなのでしょう。
──『キングゲイナー』の頃になると、敵が攻めてきて味方が応戦するパターンが薄れて、かろうじて残っている程度になっていますね。
富野 はい。もうひとつ演劇的・映画的な原理原則があって、それは敵の輪郭をハッキリさせなくてはいけないということ。『キングゲイナー』の場合、敵が曖昧だったため、芯のある見やすい話になっていなかった。そこは、反省しています。作品の構造として起承転結が抜きがたくキチンと存在している以上、敵方が明快に見えていなくてはいけない。戦闘物だけでなく恋愛物でも同じで、相手の異性の輪郭がハッキリしないと物語が見えてこないでしょう? それだけのことです。
──デザインの話もお聞きしたいのですが、『イデオン』では敵メカのラフを富野監督がお描きになっていました。どちらが敵か味方か、誰にでも一瞬で見分けられるように演出するためですね?
富野 はい、その通りです。
──同じように、『Gのレコンギスタ』(以下、『G-レコ』)でもジーラッハという1本足のメカ、ジロッドという大きなカエルのようなメカ、これらは画面に出した瞬間にどのメカかわかるので効率がいいとおっしゃっていましたね。
富野 そうだと思います。ただし、ああいう特異なメカを『G-レコ』で使ってみたとき、愕然としたことがあります。あそこまでマンガチックなメカを、自由に使えなくなっていたんです。演出家としてのフットワーク、感度が鈍ってきたことを自覚しました。ああいう素っ頓狂な形のメカが、劇を成立させるのに有効だとは思えなくなってしまったんです。
──メカデザインは、監督から「こうしてほしい」と具体的に発注しているのですか?
富野 積極的には、発注していません。『G-レコ』の場合は(メカの戦いよりも)子どもたちが動いている絵づらにシフトチェンジしたとも言えるし、逃げたとも言えます。ぬけぬけと『イデオン』的な“メカの群像劇”にして、見るだけでパッパッとわからせなくてはいけないはずなのに、僕の場合は映画志向が強くなりすぎてしまった。それは美徳ではありません。
──では、敵が攻めてきて味方が応戦するパターンは、今でも有効であると?
富野 もちろん、有効です。……映画というのは、ひょっとすると演劇以上に雑な娯楽媒体なんです。だから、もっとストレートにわかりやすく見せていいのに、どうしてこんなに面倒くさく考えてしまうのか。自分の感覚が経年劣化しているんだろうと思いつつも、いっぱしの作り手になりたいという欲が出てきたんですね。僕レベルの人間なら、それぐらい欲深くはなりますよ。天才ならば思うがままにつくるのでしょうけど、僕には無理です。自己卑下に聞こえるでしょうけど、そうではなくて自己認識です。
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