デジタルと出会ってから何が変わったのか? 河森正治の発想と実験【アニメ業界ウォッチング第54回】
メカニックデザイナーでありアニメーション監督でもある河森正治の過去40年間の仕事を網羅した大展示会「河森正治EXPO」の開催が、2019年5月31日に迫った。
河森正治がアニメ業界に引き起こしたブレイクスルーは数知れないが、そのひとつが1990年代前半、テレビアニメに3DCGを導入したこと。「マクロス7」(1994年)のオープニング、ダイナミックに回り込む背景に仰天した人は多いのではないだろうか? 単に新しいことにトライするというよりは、時代の変化を先読みする勘のよさ、他人が手出ししない領域に分け入る豪胆さが河森正治のクリエイティビティの根底にある。「河森正治EXPO」の準備に追われる合間をぬって、ご本人にインタビューを試みた。
1990年代半ば、「時代は変わりつつある」と実感した
──はじめてデジタルとかCGを現場に導入したとき、何かキッカケがあったのでしょうか。
河森 OVA「マクロスプラス」(1994年)をつくるとき、何度もアメリカに取材旅行へ行きました。エアーコンバットUSAで模擬空中戦を実体験したり、当時最新のコンピュータ技術を知るためにシリコンバレーの会社を取材したついでに、コロッサスという映画制作スタジオへ行きました。サンフランシスの湾岸に建っている巨大倉庫なんですけど、その中でSFX、2Dアニメーション、3DCGアニメーションを別々の2階建てのプレハブでつくっていて、とても面白いスタジオでした。当時、日本では3DCGをつくると「1分間1億円」と言われていました。ところが、コロッサスに言わせると「手で描くより安いから、CGを使ってるんだよ」……手で描くより安い? 一体、どういうことなんだ?と、とてもショックを受けました。好むと好まざるとに関わらず、いずれ3DCGとデジタル化の波は日本にもやってくるだろう。だとしたら、いち早く手をつけておきたいと高梨実プロデューサーと話して、「マクロスプラス」と「マクロス7」で、やれるところからデジタルを導入しはじめました。まだ日本では高価だったので、まずはメカニックと空間表現に3DCGを使いました。
その後、「イーハトーブ幻想~KENjIの春」(1996年)をつくる前の年、雑誌の取材で「札幌に面白いスタジオがあるけど、行ってみる?」と誘われました。その取材で訪ねたのが、サテライトです。当時のサテライトは、世界初のフル3DCGのテレビシリーズ「ビット・ザ・キューピッド」(1995年)を製作中でした。ロボットの歩き回る簡単なカットをつくっているスタッフが「入社3か月目」と聞いて、「たった3か月でカット担当か!」と驚きました。もし手描きのアニメーターだったら、原画を任されるまでに何年かかることか……。時代は変わりつつあるな、と実感しました。
そんなとき、グループ・タックの田代敦巳プロデューサーから「KENjIの春」の企画を相談されました。「ときどきサテライトという会社にCGを頼んでいて……」と聞いて「えっ、あの会社ですか? では、ぜひともサテライトにCGをお願いしましょう」といった具合に、いくつかの運が重なって、「KENjIの春」でCGをたくさん使うことになったんです。その当時はプレイステーションの立ち上げにも参加していて、翌年には「アーマード・コア」(1997年)でメカデザインを担当しました。つまり、ゲーム業界ではメカをCGで表現するのは、すでに常識になっていた。ということは、そう遠くない日に、アニメ業界も必ず同じ流れになる。だったら、ほかの作品があまりCGでは表現しないものを、あえてCGで表現したほうが有効だろうと判断したわけです。「KENjIの春」では手描きの稲を“デジタル田植え”で増やしたり、「地球少女アルジュナ」(2001年)ではバイクとバイクに乗っているキャラを同時に3DCGでモデリングしたり、鳥などの生き物もCGで動かしました。
──その当時、まだセルは使っていたのでしょうか?
河森 「KENjIの春」では従来のセルが7割、撮影までデジタル化したカットが3割でした。まだ過渡期でしたね。
──そこまでデジタル化しながらも、「アルジュナ」には岸田隆宏さんをはじめとして、松本憲生さん、大久保宏さん、錚々たるアニメーターたちが参加していて、作画パートも見どころでしたよね。デジタル処理と作画の割合は、どれぐらい計算していたのでしょう?
河森 デジタル処理でさまざまな効果を入れられることはわかっていたので、それは積極的に使っていきたい。いっぽうで、作画パートの方たちがとてもいい絵を描いてくださるので、そのよさも損なわないように……。気をつけていないと、現場で“作画vsデジタル”の構図ができやすかったのは確かです。今はそんなこと滅多にありませんけど、当時は「作画もCGもどちらも好きです」と言っても、なかなか理解してもらえなかったですね。
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