アニメライターによる2019年春アニメ中間レビュー【アニメコラム】
2019年春アニメを中間レビュー。「コミックNewtype」連載の同名コミックが原作の「世話やきキツネの仙狐さん」、ネット配信のショートアニメ「みるタイツ」、DMM GAMESのゲームをアニメ化した「なむあみだ仏っ!-蓮台 UTENA-」、ソニーグループの「キッズの星」プロジェクト第2弾「Bラッパーズ ストリート」、新章に突入した「ゲゲゲの鬼太郎」の5作品を紹介します。
いつも終電帰りで睡眠時間が平均4時間という過酷なサラリーマン・中野を甘やかすべく、神使のキツネ・仙狐さんが自宅に押しかけてくる同居コメディ。仙狐さんは見た目は幼いが実は800歳で、祖母のような包容力まで兼ね備えたヒロインだ。「今日も遅くまでお疲れ様じゃ」や「よく頑張ったのう」と癒やしボイスを投げかけて、人生を全肯定してくれる。その甲斐もあり、会社と自宅を往復するだけだった中野も、スーパーで買い物をしたり、積んでいたゲームをプレイしたり、海水浴へ出かけたりと、健康で文化的な生活を取り戻していく。
EDロール後の「スーパー仙狐さんタイム」は仙狐さんのお世話を疑似体験できるミニコーナー。耳かきをしてくれたり、一緒に寝てくれたりする様子を主観映像で楽しめる。26時台に放送されているテレビ愛知やサンテレビでリアルタイム視聴をすれば、より感情移入できそうだ。
タイツ表現に定評のあるイラストレーター・よむのイラストを原作とした異色作。公式サイトのキャラクター紹介では好きなタイツのデニール数まで設定されており、タイツの濃さまで忠実に表現。黒一色ではないさまざまなタイツの色彩に目移りしてしまう。タイツが主役ゆえにカメラワークもローアングルが中心。日常生活では決して見ることが許されない角度から描写されており、とくに脱いだり履いたりするカットは妖艶のひと言だ。
監督は「大家さんは思春期!」の小川優樹が務めており、テロップを生かしたEDアニメは本作でも健在。シリーズ構成・脚本は「冴えない彼女の育てかた」の丸戸史明が担当。そのためか第2話では「冴えカノ」ファンも注目の要素が盛り込まれている。
現世に降臨した仏たちが人々を煩悩から救おうと奮闘するストーリー。しかし釈迦如来の「煩悩と向き合うことが生きること」という方針ゆえに、無闇に煩悩を浄化することはなく、梵納寺で共同生活を過ごす日常描写がメインとなっている。
すでに悟りを開いた如来たちに比べると、まだ修行中の菩薩たちは気苦労が絶えない様子。如来はどんな食べ物も美味しく感じる「味中得上味相(みちゅうとくじょうみそう)」という味覚を持っているため料理が下手など、仏教を下敷きにした設定がウィットに富んでいる。動物園に出かけて仏に縁のある動物たちを興奮させてしまったり、ファミレスで全メニュー肉抜きで注文したりと、人間界で巻き起こすドタバタに笑ってしまう。
子ども向けバラエティ番組「おはスタ」内で放送中のラップアニメ。主人公のヨーヘイはおイモを食べてラップを繰り出す「オナラップ」の使い手。公式サイトによると「チキュウを救うために、ヤバいバイブスを持つヤヴァイバーを探す旅へ出かける」ストーリーらしいが、本編では第2話で説明されたっきりで話にはからんでこない。給食をおかわりする権利を賭けたり、魚屋でキハダマグロを値切るためにラップバトルをしかけるというナンセンスな展開と、軽快なフロウが物語を加速させていく。
主演はラップソングプロジェクト「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」で活躍する木村昴。「DEVILMAN crybaby」でもヒップホップMCとともにラップを披露した経験があり、その実力は折り紙付き。さらに「ゾンビランドサガ」で木村と共演し、劇中のラップバトルも記憶に新しい本渡楓がクラスメイトやペットの犬を演じている。そんなキャスト陣によるED曲「Bラッパーズのテーマ」は癖になる1曲だ。コロコロチャンネルで全話配信中なのもうれしい。
「ゲゲゲの鬼太郎」を見ていると、どういうわけか誰かと語り合いたくなってしまうのだが、それは作品の切り口が豊富に用意されているからだろう。水木しげるが描いた原作との比較、400話以上ある過去のシリーズとの違い、ほかの妖怪アニメとの差など話題は尽きない。キャスティング面でも前番組「ドラゴンボール超」で孫悟空を演じ、過去に鬼太郎役を務めた野沢雅子が目玉おやじ役を担当。新章のキーパーソンには妖怪に縁のある役を演じてきた神谷浩史を迎えたことも、他作品への言及を容易にしている。今作ではブラック企業やSNS、ハラスメントにまつわる社会風刺まで巧みに織り込まれており、「鬼太郎」について話していたはずが、まったく異なる話題になっていることもしばしば。「鬼太郎」を語るとき、本編の描写だけで何かを論じるのは退屈極まりないことではないかという気さえするほどだ。
そのためYouTuber(ユーチューバー)のHIKAKINを本人役で起用するというニュースを聞いたときも、実に「鬼太郎」らしいと思っていた。平成最後の放送回に平成元年生まれの有名人をゲストに招くというのも気がきいている。だが予想外だったのはオンエアに先駆けて公開されたキャスト集合写真である。HIKAKINが「ブンブンハローYouTube」のフレーズとともに繰り出すおなじみの敬礼ポーズを、キャスト陣と披露している微笑ましい1枚のはずなのだが、なぜか決して無視できない不思議な力があふれ出ている。「このパワーは一体何だ?」とよく観察してみると、脇を締めて肘を張らずにポージングする野沢雅子の姿が、「ブンブンハローYouTube」ではなく、悟空が瞬間移動するときの構えを彷彿とさせるのだ。まるで悟空本人が乗り移ったかのような写真からは、30年以上同じキャラクターを演じ続けてきた重みが伝わってくる。作品内外で我々をさまざまな場所に誘ってくれる「鬼太郎」から目が離せない。
(文・高橋克則)
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