アニメライターによる2019年秋アニメ中間レビュー【アニメコラム】

2019年秋アニメを中間レビュー。セクシーな水上バトルレース「神田川JET GIRLS」、「カクヨム」原作の異世界ファンタジー「慎重勇者 ~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~」、2クールのオリジナルアニメ「歌舞伎町シャーロック」、新シリーズに突入した「ポケットモンスター」、野原家の名犬がヒーローに「SUPER SHIRO」の5作品を紹介します。

神田川JET GIRLS

架空のスポーツ・ジェットレースに挑む女子高生を描いた部活動アニメ。ジェットレースはサバイバルゲームとボートレース(競艇)を組み合わせたような2人1組の競技で、ウォーターガンを使って相手チームを妨害しながら先にゴールしたほうが勝利となる。
部活動に青春を捧げる熱いストーリーや、水面がキラキラと輝くOP・EDに目を引かれるが、画面の色合いは意外と暗め。思えばプロローグ後の本編は主人公の波黄凛が東京へ向かう夜明け前から始まっていたし、彼女が暮らす学生寮や船宿を思わせるレトロな部室は日が当たらないシーンが目立つ。パートナーの蒼井ミサも蛍光灯の光から逃れるかのように、2段ベッドの下で体育座りをしている姿が印象に残る。
レースは青空の下で行われるものの、橋の多い神田川が舞台のため、バトルは日陰の中でも繰り広げられる。そういった明暗のコントロールの妙にうならされるが、それがもっとも発揮されているのはウォーターガンの攻撃を受けるシーンだろう。ユニフォームがパージされてヒロインたちの素肌が露わになった途端、画面は物理法則を無視した超常的な光に包まれるのだ。我々は神々しい輝きに網膜を焼かれながら、光を抑えていたのはこの瞬間のためだったという事実を知ることになる。2019年秋アニメでもっともハイコントラストな一作。



慎重勇者 ~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~

新米女神のリスタルテが難度S級の世界を救うため、1億人に1人の才能を持つ人間を召喚したものの、ありえないほど注意深い性格だったという冒険ファンタジー。ヒーローは遅れてやって来るものだと相場が決まっているが、本作は「慎重だから」という理由付けがなされているのがポイントだ。そんな勇者に振り回される被害者たちが印象的で、第1話でオーバーキルされまくるスライムですら、ほかの異世界ものでは見られない気色悪いアニメーションを披露している。
その中でもヒロイン・リスタの苦労人っぷりが秀逸。女神とは思えないほどの顔芸をしたり、生乳を放り出したりしながら、懸命に勇者をサポートする姿が健気すぎる。リスタを演じる豊崎愛生のツッコミも軽快で、30分がテンポよく過ぎていく。リスタ人形が踊るEDアニメも何だか不思議な魅力がある。



歌舞伎町シャーロック

Production I.Gによるオリジナルミステリーアニメ。新宿區歌舞伎町のBAR・パイプキャットを舞台に、落語を愛するシャーロック・ホームズをはじめ、6人の探偵たちが推理合戦を披露する。少し面長なホームズや、ラガーマン体型のワトソンといったレギュラーメンバーだけでなく、1話完結型のミステリーということで、各話ごとに登場するゲストキャラたちも一度見たら忘れられない連中だらけ。
イケイケのロックミュージシャンや大柄な相撲取り、つねに被り物をしたバンドメンバーまでバラエティに富んでおり、年齢も人種も性別もさまざま。ミステリーには怪しげな依頼人や容疑者が必要不可欠だと改めて気付かされる。落語という要素の意外な使い方もユニーク。キャラクターの名前は推理小説が由来になっていて、シャーロックの宿敵には意外な人物が当てられている。今後の展開を推理してみたくなってくる作品だ。



ポケットモンスター(新シリーズ)

「ポケモン」シリーズ最新作は副題のないタイトルに原点回帰し、第1話ではピチューとガルーラ親子の交流を描いた。ポケモンたちの鳴き声だけで物語が進むシークエンスは、初代の第3話で見せたピカチュウとキャタピーの月下での会話劇を彷彿とさせる。初代ポケモンが数多く登場することもあって、久々に作品に触れた親世代のファンは懐かしくなる仕上がりだ。
前作「サン&ムーン」はサトシがついにポケモンリーグ初優勝を果たしたことが話題となったが、今回はシリーズ初のダブル主人公を採用。新キャラクターのゴウは幼い頃に出会った幻のポケモン・ミュウをはじめ、すべてのポケモンをゲットするという夢を抱いている。自信家の彼がサトシとどんなコンビになるのだろうか。



SUPER SHIRO

「クレヨンしんちゃん」のマスコットキャラクター・シロが、地球を征服できる力を秘めた骨・ボボボボボーンを手に入れるために戦うヒーローアニメ。発見→バトル→勝利という一連の流れが完全にパターン化されており、エピソード内でも同じ行為を執拗に繰り返しているのが特徴だ。相手の邪魔をしているうちに、妨害という手段自体が目的化してしまうおかしさまで表現されており、意味もない争いに発展することも……。
体をまったく動かさずに尻尾とマントだけをなびかせて走るシロや、毎回必ず爆発オチという様式美も極まっており、日本のアニメというよりは、テックス・エイヴリーやハンナ・バーベラのカートゥーンを見ているような中毒性が生まれている。シロの飼い主・しんのすけもゲスト出演しているが、決して顔は映さないバランス感覚も素晴らしい。



(文・高橋克則)

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