「劇パト」の音楽を掘り下げる! 秘蔵の裏話も満載の機動警察パトレイバー the Movie」極音上映会&川井憲次トークステージレポート!
劇場公開から30年を経てもなお色あせない劇場用アニメ「機動警察パトレイバー the Movie」を、極上の音響設備で堪能できる上映会が、立川シネマシティで2019年11月23日(土)~28日(木)の6日間にわたり開催された。
上映会のオープニングにあわせてスペシャルゲストを招いてのトークステージも開催。11月23日(土)には、篠原遊馬役の古川登志夫さん、パトレイバー広報課の喜屋武ちあきさんが。そして11月24日(日)には音楽担当の川井憲次さん、アキバ総研でも大活躍中の音楽ライター・不破了三さん、さらに23日に続いて喜屋武ちあきさんが登壇し、「機動警察パトレイバー the Movie」の魅力を語り明かした。
今回、アキバ総研では24日のトークステージを取材。その模様をレポートする。
誰もが圧倒された極音上映のスゴさ!
まずは映画本編の上映からスタート。「極音」ということで、今回の上映の最大の売りはサウンドの仕上がり。その成果はいきなり体感することができた。
本作最初のつかみといえば、暴走レイバー捕獲シーンと、そこで流れるBGM「ヘヴィ・アーマー」なのは言うまでもないが、楽曲とSEがそれぞれ粒だって聴こえるのに、お互いがじゃましていないことにまずは驚かされた。タイトルが表示される頃には、すっかり我々の気持ちは「1999年=昭和74年の東京」にタイムスリップ(パトレイバーの世界観では、昭和が終わっていない)!
やっぱり劇場版「パト」はいいなあ~。
最高の音響設備による恩恵は多々あり、なかでも特に印象的なのが、奥行きのあるサウンドスケープである。無数のレイバーが稼働する「方舟」でこだまする作業音。特車二課の日常をより豊かに想像させる細やかな音の演出。廃墟と化した黒幕・帆場暎一の実家に横たわる鳥かごを踏み潰した時の、硬質な、乾いたSE……。
リアルに描き込まれた本作のビジュアルと「極音」が融合することで、さらに作品の臨場感が増す。
そして、もっとも感動的だったのが「建築物の共鳴による低周波」の表現だ。まるで劇場までもが振動するかのような、地を這う低音と「箱舟」の共鳴が生む風洞音。これは極音上映会でしか味わえない「体験」である。音が事件のカギとなる本作だけに、こだわりぬいた「極音」の効果は絶大であった。
エンディングテーマ曲「朝陽の中へ」が終わると、劇場内は割れんばかりの拍手が巻き起こったのは言うまでもない。
ラストバトルにはBGMがあった!? 意外な真相が語られたトークステージ
極音上映の興奮冷めやらぬ中、引き続きトークステージがスタート。
壇上には、本作をはじめ「パトレイバー」シリーズの音楽を手がけている作曲家・川井憲次さんが登場。その相手役を務めるのは、アキバ総研の連載コラム「アニメノオト」でもおなじみの音楽ライター・不破了三さん。さらにパトレイバー広報課を務めるタレントの喜屋武ちあきさんが、特車二課の制服に身を包んで登場。この3名でステージが進行した。
登壇するやいなや「久々に観て、恥ずかしいったらありゃしない。早く帰りたい(笑)」と川井さん。劇伴作家デビューからわずか数年という時期に手がけたこともあり、要所要所で「ああすればよかった」のような反省点が気になってしまうのだそうだ。
そんな川井さんが「パトレイバー」にかかわることになったきっかけからトークはスタート。
音響監督の斯波重治さんとの出会いは、川井さんがもともと手がけていた三ツ矢雄二さんのミュージカルを観た浅梨なおこさん(音響監督)が、川井さんのことを斯波さんに紹介したことだったという。
そして押井守監督との出会いは、実写映像作品「紅い眼鏡」だという。超低予算企画だった「紅い眼鏡」には、音楽制作に割ける予算がほとんどなかったことから、当時としてはまだ珍しかった宅録ミュージシャンだった川井さんに白羽の矢が立ったそうだ。
これらの出会いを経て、斯波さん、押井さんが携わる「パトレイバー」の初期OVAシリーズ(「アーリーデイズ」)に参加。その流れで劇場版にも参加することになったのだ。
ここから話題は「機動警察パトレイバー the Movie」の音楽へと突入。
川井さん自身から語られる制作裏話も大変興味深いが、それを引き出す不破さんの知識量もすごい。不破さん自身でまとめた、川井憲次ワークスの年表やBGMリストをスクリーンに投影しながらのトークは、非常にわかりやすかった。
いずれも印象的な「機動警察パトレイバー the Movie」の音楽だが、作品を象徴する楽曲として帆場暎一が投身するアバンタイトル曲「夏の嘲笑」や、松井刑事が帆場の足跡を追って下町を捜索するシーンで流れる一連のBGM「虚影の街」があげられる。
そして、真夏の乾いた空気感、下町の埃っぽさ、白昼夢の中をさまようような感覚を喚起するこれらの楽曲に使用されている楽器が、スチールドラムである。
この「機動警察パトレイバー the Movie」の空気感を作る楽曲が生まれたきっかけは、本作以前に押井監督と制作した「トワイライトQ 迷宮物件 FILE538」だったという。この作品の制作時、川井さんがシンセサイザーに入っていたスチールドラムの音を鳴らしているのを聞いた押井監督が気に入ったそうで、川井さんもどこかでこの音を使いたいと思っていたそうだ。
しかし、劇場用作品でシンセの音を使うのは……と思っていたところ、たまたまスタジオに放置されていたスチールドラムを発見。これを使ってレコーディングをしたのだという。
話題は、押井監督からの無茶ぶり……もといオーダーに及ぶ。
「押井監督はもともとブラス(金管楽器)があまり好きではないため、押井作品ではブラスは使ったことがない。あえて使ったのは、『アヴァロン』の時くらい」と川井さん。
また戦闘シーンの楽曲については、「いかにもな戦闘曲を入れるのは、押井さんとしてはあまりよしとしない」ということで、川井さんも戦闘シーンの楽曲はあまりダイレクト過ぎないものにしたつもりだという。
そして終盤は、方舟のパージ開始から零式起動シーンまでを貫く3分超の「方舟」、メインコンピューター暴走からメインシャフト倒壊までを貫く5分超の「バベルの崩壊」と、次々とシーンが切り替わる中で音楽が流れ続けるという演出になっている。
昨今はソフトを使って映像と音楽を同期させることが容易になっているが、当時はVHS(ビデオテープ)で映像を渡され、それを流す横で作曲する……という非常にアナログな手法でレコーディングされていたことが明かされた。そんなわけで、少しずつタイミングがずれることもしばしばで、録音の時、途中で演奏を間違えるとまた最初から録りなおしということもあったという。
そのほか、不破さんならではの指摘が、新たな情報の発掘にもつながった。
まず欠番になっている楽曲「M-21」について不破さんが尋ねると、朝陽をバックに零式とアルフォンスが対峙するシーンの曲は作ったものの、「やはりいらない」という演出上の判断から、結局劇中では使用されなかったことが川井さんから明かされた。
ただ、この実際の映像では低いシンセ音が鳴っており、おそらくこの音は欠番になったトラックの一部を切り取って使っているのでは、と川井さんは推測。とはいえ楽曲自体は完成させることなく没にしたため、音源は残っておらず、どんな曲だったかも覚えていないそうだ。
また細かいところでは、ピザ屋の店内BGM「GEGE」や劇中CMで流れた「政府広報」などは、ほかのBGMと差別化するという意味も含めて、ちょっと古めの打ち込み曲のようなダサい曲をあえて狙ったという。川井さんいわく、「そういう(わざと安っぽく作る)のが燃えるんです。時々やりすぎて怒られるんですけど」とのこと。遊び心あふれる2曲といったところか。
トーク終盤、喜屋武さんが「川井さんにとってのパトレイバーのイメージは?」と尋ねると、「いつも思っているのは湾岸の風景。それもちゃんと整備されていなくて、雑草が生えて、無造作に土管が置かれている湾岸のイメージ」と川井さん。「それを押井さんと見出したのが『トワイライト!Q』だった。あの世界観をなんとか踏襲できないかと思って」制作されたのが、「パトレイバー」の音楽と語った。
そのほか「パトレイバー」の話題だけでなく、他作品のエピソードを交えてトークは展開。「パトレイバー」ファン、川井憲次ファンのみならず、映画ファン、サントラファンも満足のトークイベントとなった。
「30年前の作品を皆さんで楽しめるなんてこんなに幸せなことはない」と、川井さんも喜びをかみしめ、不破さんも「続編の『機動警察パトレイバー2 the Movie』は1993年公開。こうなると、2023年には『2』の極音上映もやってくれるはず」と期待を込めてコメント。次のアニバーサリーに向けて期待しつつ、イベントはひとまず終幕となった。
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