1980年代後期ソニーオールスターズによるJ-POPサウンドの総力戦――CD「CITY HUNTER オリジナル・アニメーション・サウンドトラック」シリーズ【不破了三の「アニメノオト」Vol.04】

2019年2月8日に約250スクリーンで公開され、その後も公開館が増え続けたアニメ作品「劇場版シティーハンター〈新宿プライベート・アイズ〉」。4D版(4DX/MX4D)上映や、「“もっこり”かけ声応援上映会」と題されたイベントなども経て、劇場用アニメとしては異例の長期間上映を達成しています。1980年代に誕生した「シティーハンター」という作品が、ファンの心の中にいかに強く残っているか、そしてその復活がいかに待ち望まれていたものだったかが、この息の長い上映期間からもよくわかります。「アニメノオト」第4回は、この劇場新作の公開に合わせ、ソニー・ミュージックダイレクトから2019年2月27日に一斉に発売された、CD「CITY HUNTER オリジナル・アニメーション・サウンドトラック」シリーズに注目します。

「シティーハンター」は、1985年に週刊少年ジャンプ(集英社)で連載が開始された北条司による漫画作品が原作。1987年にテレビアニメ化(1987年4月6日~1988年3月28日放送)され、その後も、「シティーハンター2」(1988年4月2日~1989年7月1日放送)、「シティーハンター3」(1989年10月15日~1990年1月21日放送)とテレビシリーズが継続。それ以外にも3本の劇場版やテレビスペシャルなどが90年代末まで作られ続けた、テレビアニメ史に残る人気作です。今回のCDは、その基本となった三期にわたる初期テレビシリーズの放送当時、計5枚にわたって発売された以下のオリジナル・サウンドトラック盤を一挙に復刻発売したものです。

・「CITY HUNTER オリジナル・アニメーション・サウンドトラック」

(オリジナル盤発売日:1987年6月3日発売)

・「CITY HUNTER オリジナル・アニメーション・サウンドトラック Vol.2」

(オリジナル盤発売日:1987年11月11日発売)

・「CITY HUNTER 2 オリジナル・アニメーション・サウンドトラック Vol.1」

 (オリジナル盤発売日:1988年06月22日発売)

・「CITY HUNTER 2 オリジナル・アニメーション・サウンドトラック Vol.2」

 (オリジナル盤発売日:1988年11月21日発売)

・「CITY HUNTER 3 オリジナル・アニメーション・サウンドトラック」

 (オリジナル盤発売日:1989年12月01日発売)

これらのCDに収録されている楽曲は、最新作「劇場版シティーハンター〈新宿プライベート・アイズ〉」の劇中でも数多く使用されているため、初期テレビシリーズのサントラ盤の復刻であると同時に、最新作のサントラを補完する役割も担っているわけです。

テレビアニメ「シティーハンター」と音楽の関係で誰もが思い出すのが、当時最先端のJ-POPアーティストたちとのコラボレーションで作られた各主題歌・挿入歌が放っていた強い存在感ではないでしょうか。それを象徴するように、これらのCDはいずれも、いわゆる純粋なBGM音楽集ではなく、主題歌・挿入歌もふんだんに含まれた「ソング&BGM集」という形のサントラ盤となっています。そして、ここに参加しているのはEPICソニーを中心としたソニー系レーベル所属のアーティストたち。シティーハンターの音楽世界には、80年代後半のソニーが誇っていた有力アーティストたちがこぞって参加しているのです。

テレビシリーズ第一期作品「シティーハンター」(以下、CH1)の前期オープニングは、小比類巻かほるによる「City Hunter~愛よ消えないで」。1985年デビューの彼女にとって5thシングルとなったこの曲は、日本テレビ系ドラマ「結婚物語」(1987)主題歌「Hold On Me」に続く連続ヒットとなります。これにより実力派シンガーとしての人気・認知度を盤石にし、同年末のNHK紅白歌合戦にも初出場を果たすなど、彼女のキャリアにおいても欠くことのできない代表曲となっていきます。そしてエンディングテーマは、シティーハンター・ミュージックの代名詞ともいえるTM NETWORKの「Get Wild」。TM NETWORKにとっての10thシングルであるこの曲は、6thシングル「Come on Let's Dance」、9thシングル「Self Control (方舟に曳かれて)」でも届いていなかった、グループ初のオリコンチャートベストテン入り(9位)を達成。かつ、「CH1」の放送期間=約1年間に渡ってテレビから流れ続けたため、100位以内に26週ランクインし、1987年度シングル売上げ22位、売上総計23.1万枚という息の長い大ヒットにつながっています。発売から30周年を迎えた2017年には、歴代の各バージョンやカバー、リミックスを合わせた4枚組全36曲収録という驚きのCD「GET WILD SONG MAFIA」(avex trax)が発売されるなど、もはや「Get Wild」は、日本のポピュラーミュージック史上に輝く特別な1曲となっています。その他、「CH1」には大沢誉志幸、鈴木聖美、大内義昭、大滝裕子、北代桃子などが参加。また、BGM音楽は国吉良一と矢野立美が担当しています。

第二期「シティーハンター2」(以下、CH2)の前期オープニングは、当時、1000万円以上したという音楽ワークステーション機材「フェアライトCMI」を駆使するサウンドクリエイター:松浦雅也と、圧倒的歌唱力を誇るボーカリスト:CHAKAによるユニット「PSY・S(サイズ)」が担当した「Angel Night~天使のいる場所~」。既存のどのような音楽ジャンルにも当てはめることができない彼らの活動は、当時のソニーが指向していた未来性、先進性、越境性を象徴するようなサウンドでした。こうした方向性は松浦雅也が音楽を担当したプレイステーション用ゲームソフト「パラッパラッパー」(1996/ソニー・コンピュータエンタテインメント)が、「音楽ゲームの始祖」として世界的大ヒットを収めていくことにもつながっていきます。前期エンディングテーマは、岡村靖幸の「Super Girl」。1986年にデビューする以前から、作曲家として吉川晃司、渡辺美里、鈴木雅之等に楽曲提供していた経歴を持つ彼は、シンガーである以前に総合的なサウンドクリエイターであり、みずから「シンガーソングライターダンサー」と名乗る異才でもあります。その他、「CH2」にはFENCE OF DEFENSE、TM NETWORK、小倉良、Jennifer Cihiなどが参加。加えて、冴羽獠を演じる神谷明、槇村香を演じる伊倉一恵によるボーカル曲も挿入歌として使用されています。また、BGM音楽は矢野立美と大谷幸が担当していました。

第三期「シティーハンター3」(以下、CH3)のオープニングは小室哲哉ソロ名義によるデビューシングル「RUNNING TO HORIZON」。「Get Wild」のサウンドを生み出した小室哲哉が、今度はみずからボーカルも務めるということで注目を集めました。3人の個性が溶け合うバンドとしてのTM NETWORKの風合いとは異なり、小室哲哉単独によって構築されているサウンドは、1994年のTM NETWORK(その当時の呼称は「TMN」)活動終了以降、trf、globe、安室奈美恵、華原朋美等の音楽プロデュースによってJ-POP界を1色に塗り替えた「TKファミリー」ブーム期の小室サウンドを彷彿とさせます。「RUNNING TO HORIZON」には、90年代型J-POPの予兆が含まれていると言っても過言ではないでしょう。また、CD「CITY HUNTER 3 オリジナル・アニメーション・サウンドトラック」には、BGM曲は大谷幸による「REQUIEM (INSTRUMENTAL)」1曲のみ(ただし10分超という壮大な1曲)の収録となっており、代わりに神谷明、伊倉一恵、海坊主役の玄田哲章らが出演するミニドラマが挿入されるなど、さらにコンセプチュアルなサントラ盤として構成されているのも特徴です。そしてもちろん、1987年に「ロンリーチャップリン」(鈴木聖美 with Rats & Star)の大ヒットで注目を集めた鈴木雅之の実姉・鈴木聖美によるエンディングテーマ「熱くなれたら」で、このアルバムは締めくくられています。その他、「CH3」にはKirsten Steinhauer、Red Monster、西薗まり、ANIMA、久宝留理子(本編未使用)などが参加しています。

アニメ主題歌に対して、ポップスや歌謡曲の世界で既に名の知れたアーティストを起用することを、よく「タイアップ型アニソン」と呼びます。80年代、従来からの「アニメソング歌手」ではないアーティストの起用が目立ってきた頃に、こうした認識が成立してきた経緯がありますが、アニメソング史を正しく眺め渡してみれば、「エイトマン」(1963)の克美しげるや、「忍風カムイ外伝」(1969)の水原弘など、テレビアニメ黎明期からすでに先例は存在していました。こうした「スター起用型」のアニソンは、映画「さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち」(1978)の沢田研二や、映画「銀河鉄道999」(1979)のゴダイゴ、テレビアニメ「キャッツ・アイ」(1983)の杏里の参加などでピークを迎えたと言えるでしょう。

しかし80年代に入ると徐々に様子が変わってきます。アニメソング市場に参入したビクター音楽産業(当時)やキャニオンレコード(当時)などによってアイドルソングとアニメソングとのハイブリッド化が試み始められ、「おはようスパンク」(1981)の井上望、「さすがの猿飛」(1982)の伊藤さやか、「タッチ」(1985)の岩崎良美、「ハイスクール!奇面組」(1985)のうしろゆびさされ組・うしろ髪ひかれ隊などが続々と成功を収めていきます。相乗効果を狙った「アイドルタイアップ型」アニソンの確立と言えるでしょう。

 そして、1987年に始まる「シティーハンター」で行われたアニメソング製作の試みは、有名アーティストとのコラボレーションという形でありながら、上記のいずれとも違った、さらにその次の次元へのアニメソングの進化を示すものでした。「シティーハンター」が目指したのは、いわばミュージシャンの作風と映像作品の作風のとの共存共栄。そのために召集されたのは、「シティーハンター」の作風を踏まえた都会的で疾走感のある楽曲製作ができるシンガーソングライターや、TM NETWORKやPSY・Sのように作曲と編曲が不可分な、音色そのものが作品でもあるサウンドクリエイターたちでした。こうした「作風共存型」のアニソンの実現には、音楽側と映像側、双方による入念な調整と作品理解、そして合意形成が必要となります。実際、「シティーハンター」ミュージックは、そこに時間と手間を惜しまなかったからこそ、ここまでの親和性を獲得できたのだと思います。

「Get Wild」の楽曲依頼の経緯について小室哲哉氏は、もともとあった曲が採用されたのではなく、「シティーハンター」のエンディングテーマに使用することを前提に作られた曲であることに加え、以下のようにも述懐しています。

『アニメの制作会社とかなり念入りな打ち合わせをさせていただいたんです。曲のイントロの何秒間はストーリー本編がまだ続いていて、そこから曲がフェード・インして、エンディングの映像につながる。しかもその切り替わりのタイミングで“何か爆発するような音を”という具体的なオーダーがあったんです。』

『当時はようやくアニメーターと音楽家の間でコミュニケーションが取れるようになった時期で、そういう具体的な提案があったことに僕も喜んだんです。意識としては、TMのヒット曲を作ろうというよりも、サウンドトラックのつもりで、主人公の冴羽獠をかっこよく見せようとしました。』

<引用:「サウンド&レコーディングマガジン」(2006年4月号/リットーミュージック)>

また、「シティーハンター」制作担当のよみうりテレビ(現・讀賣テレビ)プロデューサー:諏訪道彦氏は、以下のように振り返っています。

『(デモを聴いたとき)イントロは皆さんが知っている完成形の「Get Wild」でした。歌詞はまだ入っていなかったと思います。“都会的”“疾走感”というリクエストについては見事に応えていただいていた。ただ、イントロは“ドラマ部分と重なるからおとなしめに”とお願いしたんですが、おとなし過ぎないかとは思ったんです。そこで植田さん(※アニメの制作会社「サンライズ」側のプロデューサー植田益朗氏)と話し合って、セリフや劇中のBGMが重なることもあるからこれでいこうと。それでぜひこれを完成させていただきたいと山口さん(※EPICソニー TM NETWORK担当ディレクター山口三平氏)にお願いしたんです。』

『当時は“新たなアニメソング”ではなく、番組を愛していただく要素のひとつ……作品の世界観を強める“表表紙と裏表紙”としてのテーマソングを作りたかった。とは言え、楽曲はやはりアーティストのものですし、アーティストのエネルギーを番組にいただくもの。だから番組とアーティストとのくさびを僕らがどう作っておくかが大事だったと思っていました。その意味では「Get Wild」のサウンドもすべてTM NETWORKから提示していただいたもので、こんな素晴らしい曲を提供していただいたということはうれしかったですね。』

<引用:「サウンド&レコーディングマガジン」(2017年6月号/リットーミュージック)>

「シティーハンター」の主題歌製作が、「スター起用型」「アイドルタイアップ型」に続くタイアップアニソンの第3段階である「作風共存型」を当初から明確に指向していたことがおわかりいただけるでしょうか。そしてその成果が、このタイプのアニメソングの力の絶大さを世に示し、現在もなお続いているタイアップアニソンの完成形・理想形として引き続かれていくことになるわけです。

最新作「劇場版シティーハンター〈新宿プライベート・アイズ〉」においても、色あせることなく劇中に響き渡っている1980年代の「シティーハンター」主題歌・挿入歌群とは、新たな時代のテレビアニメ、アニメソングの形を模索するアニメ制作者側と、その想いに全力で応えようとしたソニー系アーティストとの総力戦の中で磨かれていったものと言えるでしょう。劇場上映は終了しつつありますが、双方のクリエイター魂の鍔迫り合いから飛び散る火花のようなその輝きは、引き続きぜひ映像ソフト等で確認していただければと思います。

(文/不破了三)

【商品情報】

■CD「CITY HUNTER オリジナル・アニメーション・サウンドトラック」

・発売日:2019年2月27日

・オリジナル盤発売日:1987年6月3日

・価格: 2,500円(税別)

・レーベル:ソニー・ミュージックダイレクト/GT music

・収録内容

1. CITY HUNTER ~愛よ消えないで~

2. COOL CITY

3. MR. PRIVATE EYE

4. MIDNIGHT LIGHTING (Instrumental)

5. BLUE AIR MESSAGE

6. Get Wild

7. THE BALLAD OF SILVER BULLET (Instrumental)

8. WHAT'S GOIN' ON

9. BLOOD ON THE MOON (Instrumental)

10. GIVE ME YOUR LOVE TONIGHT

■CD「CITY HUNTER オリジナル・アニメーション・サウンドトラック Vol.2」

・発売日:2019年2月27日

・オリジナル盤発売日:1987年11月11日

・価格: 2,500円(税別)

・レーベル:ソニー・ミュージックダイレクト/GT music

・収録内容

1. WANT YOUR LOVE

2. JUST A HUNTER (Instrumental)

3. ゴーゴーヘブン

4. FIRE WITH FIRE (Instrumental)

5. NEVER GO AWAY

6. 終りのない傾き

7. THE SHINING OF CAT'S EYE (Instrumental)

8. FOOT STEPS

9. PARADISE ALLEY (Instrumental)

10. 砂の CASTLE のカサノヴァ

■CD「CITY HUNTER 2 オリジナル・アニメーション・サウンドトラック Vol.1」

・発売日:2019年2月27日

・オリジナル盤発売日:1988年06月22日

・価格: 2,500円(税別)

・レーベル:ソニー・ミュージックダイレクト/GT music

・収録内容

1. CHANCE

2. Angel Night ~天使のいる場所~ (シングル・バージョン)

3. DOMINO TARGET (Instrumental)

4. YOUR SECRETS

5. CITY HEAT

6. FANTASTIC SPLASH (Instrumental)

7. EARTH ~木の上の方舟~

8. NO NO NO

9. LADY IN THE DARK (Instrumental)

10. SUPER GIRL

11. LONELY LULLABY

■CD「CITY HUNTER 2 オリジナル・アニメーション・サウンドトラック Vol.2」

・発売日:2019年2月27日

・オリジナル盤発売日:1988年11月21日

・価格: 2,500円(税別)

・レーベル:ソニー・ミュージックダイレクト/GT music

・収録内容

1. NAME OF THE GAME

2. SARA

3. GIMME SHOCK

4. CRIME AND PASSION (Instrumental)

5. WITHOUT YOU

6. PARTY DOWN

7. SNOW LIGHT SHOWER

8. HOLY NIGHT RHAPSODY (Instrumental)

9. ESCAPE

10. 街中 sophisticate

11. SWEET TWILIGHT (Instrumental)

■CD「CITY HUNTER 3 オリジナル・アニメーション・サウンドトラック」

・発売日:2019年2月27日

・オリジナル盤発売日:1989年12月01日

・価格: 2,500円(税別)

・レーベル:ソニー・ミュージックダイレクト/GT music

・収録内容

1. RUNNING TO HORIZON

2. A LOVE NO ONE CAN CHANGE

3. FOREVER IN MY HEART

4. JUST LIKE MAGIC

5. シャイに Sexy

6. THE PRESSURE

7. CANDY

8. REQUIEM (Instrumental)

9. MIDNIGHT RAIN

10. 熱くなれたら

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