【インタビュー】宣伝プロデューサーが語る「大ヒットアニメの陰で、苦境に陥る中堅アニメ」──逆境のアニメ業界に風穴を開ける「邪神ちゃんドロップキックX」夏目公一朗(製作総指揮)×栁瀬一樹(宣伝プロデューサー)【後編】
2022年7月5日より「邪神ちゃんドロップキック」(以下、「邪神ちゃん」)のアニメ第3期「邪神ちゃんドロップキックX」がスタートする。
原作は、ユキヲさんが2012年より「COMICメテオ」で連載している人気コミック。魔界出身の悪魔・邪神ちゃんと彼女を召喚した女子大生・花園ゆりねの、危険でおかしな同居生活を描くコメディアニメである。
2018年にTVアニメ第1期が、2020年より第2期が放送。第3期に向けたクラウドファンディングでは、6700万円を超える資金を調達したほか、釧路・帯広・富良野・南島原の4自治体のふるさと納税の返礼品としてご当地アニメの制作、タイトルの命名権を販売、新キャラクター・エキュート役の声優を一般公募するなど、前代未聞の取り組みを行い、アニメ業界の異端児として存在感を放ち続けている。
そして、ついにこの7月より第3期「邪神ちゃんドロップキックX」の放送・配信がスタート。それを記念して、アキバ総研ではアニメ「邪神ちゃん」シリーズの製作総指揮・夏目公一朗さんと、宣伝プロデューサー・栁瀬一樹さんにインタビューを行った。
第3期にたどり着くまでのエピソードをうかがった前編に続き、後編ではアニメ業界の現状にも触れつつ、この先に向けた展望をうかがうことができた。
⇒自治体コラボ、Vtuberキャスト、そしてプロデューサーもポケットマネーから制作費を捻出……! アニメ第3期「邪神ちゃんドロップキックX」夏目公一朗(製作総指揮)×栁瀬一樹(宣伝プロデューサー)インタビュー【前編】
第3期の見どころは「ヤバいメデューサ」!?
――具体的な第3期の見どころをあげるならどこでしょうか?
栁瀬 いっぱいあるんですけど……一番はメデューサがヤバい。メデューサがヤバい。
──2回言いましたね(笑)。
栁瀬 キャラ崩壊していますから(笑)。今回、全編を通して私が一番笑ったのはそこでしたね。原作では全く描かれていないメデューサが出てきますので、ぜひ注目してほしいです。
夏目 今回は地方編を4本入れたことで、従来の「邪神ちゃん」の持っていた世界観を維持しつつも、いい意味で場の変化に結びついたと思います。今までの「邪神ちゃん」ファンの方はもちろんですけど、「邪神ちゃん」をあまり知らない人でも楽しめます。
栁瀬 はい。普通の観光アニメとしても楽しめます。
夏目 さっき話したように、すごくていねいに各地方の名所・名物を描いているので、そこに行ってみようと思うはずです。それから、今回からキー局がテレビ東京になったんですよ。テレ東さんも注目していて、放送したいとおっしゃってくださりました。
栁瀬 テレ東アニメになれたのは、嬉しいですね。ちょっとメジャー感が出た気がします。
第4期に向けて、来て欲しい自治体を大募集!
――そして、邪教徒の皆さんが気になっている今後についてもお聞きしたいと思います。第4期以降も狙っているとは思いますが、今後どうやっていこうと考えていますか?
栁瀬 それをお話しするうえで、現状の中堅以下のアニメがどれだけきついかを改めて確認したほうがいいと思います。大きく分けると、きついことは6つ。
1. パッケージが売れない。
2. スポンサーが減少。
3. コロナでイベントをやっても人が来てくれない。
4. 最近中国の審査が厳しすぎて配信できない。
5. 円安がひどくて、海外でものを作っても利益が出ない。
6. アニメの制作の単価が急激に値上がりしている。
1に関しては内訳が2つあって、ひとつはお客様が買わない、買う必要がない。もうひとつが、レンタル店にも出回らない。今まではレンタル店が円盤(Blu-ray、DVD)を何万枚とかまとめて買ってくれていたんですよ。これがなくなりました。
2は、かつてはパチンコ・パチスロが大スポンサーさんだったのですが最近はなかなか買っていただけなくて。さらにアプリのゲーム会社さんはスポンサーになるのをやめて、自社でアニメを制作するようになってきましたね。
3はご存知だと思います。4は「邪神ちゃん」がどうなるかわからないですけど、事実として現在は毎クール70作品ぐらいある中で10数本しか中国での審査に通らないんです。そういう状態ですから、中国への配信でお金を稼げなくなりました。5もそのままですね。
――6はアニメの制作現場の待遇改善の結果でしょうか?
栁瀬 そうです。それ自体はいいことなんです。体感では2年で3割ぐらい制作費が上がりました。
――アニメの制作費が3割増えたからといって、売上がそのまま3割増えたわけではないですよね? むしろそっちは厳しくなっているわけで。
夏目 そうなんです。パッケージしかり、中国での配信しかり。
――そこにアンバランスが生じますよね。世間的に騒がれるような大作アニメは本当にひと握りですし。
栁瀬 皆さんもお気づきのように、現在、日本のアニメは超ハイクオリティな作品とそうじゃない作品とで大きく分かれています。「そうじゃないほう」の中堅アニメは本当に厳しいです。
――今後、アニメ業界はどうなっていくと思いますか?
夏目 全体の作品数は確実に減ると思います。最盛期は平均すると1クールに70本くらいあったアニメが、今後は40本くらいになっていくでしょう。
栁瀬 なので、「邪神ちゃん」はクラウドファンディングやふるさと納税など全く新しいビジネスモデルを作ることに挑戦をしましたし、これからもやっていこうと思います。
夏目 それなくしては成立しないです。
――ということは、「邪神ちゃん」のビジネススキームが今後の中堅アニメのモデルケースになることもあるわけですね。
夏目 そうですね。
栁瀬 ふるさと納税に取り組むアニメは「邪神ちゃん」の千歳モデルを皮切りに次々と出てきていますからね。このモデルは今後もいろいろ引き継がれていくでしょうし、我々はまた今までにない新しいモデルを考えようと思っています。
――そういった自治体との取り組みは第4期に向けてもやっていくと。
栁瀬 はい。聖地巡礼やアニメツーリズムってありますよね。それに関して、北海道大学の山村高淑教授が「アニメツーリズムのためのトライアングル・モデル」を提唱したんです。「ファンと自治体と制作者がうまくやると、いい聖地ができるよね」といった内容で、それ以来、トライアングルにあてはめたさまざまな研究がなされてきました。
でも、それは成功事例のケーススタディなので誰もがマネできるものではない。全国に2000近くある自治体のうち、鷲宮や大洗や沼津のようなヒット作が向こうからやってくる可能性なんてほぼゼロじゃないですか。それなら「邪神ちゃん」は「聖地がないなら作ればいいじゃない」という考え方で、ロケ誘致歓迎!というスタンスになりました。
ですから、うちをアニメ聖地にしてほしい!アニメでシティプロモーションしたい! という自治体さんがいらっしゃいましたら、すぐに行きますので、ぜひお声がけいただきたいです。
――第4期は毎話ご当地ということもあり得るのですね。
栁瀬 極端な話、12自治体が集まったらすぐに作ります。(作品の舞台である)神保町から出ていいのか、って議論もあると思いますが、すごく有名な作品でも最初は全く別物だったことって結構あるじゃないですか。私は変化を拒んで終わってしまうよりも、変化しながら邪教徒の皆さまと一緒に作品を楽しんでいける時間を増やしたいと思っています。
第4期に向けて「邪神ちゃん」に来てほしい自治体の方、ご連絡お待ちしています!
(取材・文/千葉研一・編集部)
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