「きみと、波にのれたら」の愛らしいキャラたちの秘密を、キャラクターデザイナーの小島崇史が明かす【アニメ業界ウォッチング第55回】

これまでに見た、どんなアニメとも違う。普段はアニメを見ない層の女性たちに愛されそうな新鮮さがある――2019年6月21日に公開される「きみと、波にのれたら」(湯浅政明監督)の第一印象だ。
サーフィン好きの女の子、ひな子とイケメンで頼りになる彼氏、港との不思議で切ないラブストーリーを描いた「きみと、波にのれたら」の魅力は、なんと言ってもクセのないキャラクターデザインだ。アニメ特有の“お約束”に縛られない自然な存在感のあるキャラデ、そして映画全体の総作画監督を担当したのは、まだ若手といってもいいアニメーター、小島崇史さんだ。
初の劇場オリジナル作品に、小島さんはどんな心境で向き合ったのだろうか?

一点突破型ではなく、すべてできるアニメーターになりたい


──アニメ業界に入って、どれぐらい経ちますか?

小島 20歳ごろにアニメーターになりましたから、もう10年ぐらいは経過しています。最初の1年ぐらいは動画をやって、次に第二原画を半年から1年ぐらいやってから、原画を描かせてもらえる会社に移りました。

──今は、どこにも属さないフリーランスなんですか?

小島 はい、今は会社員ではなくフリーです。原画マンになってからは、ひとつの会社に2年くらい腰をすえるよう意識して仕事してきました。たくさん作品を回せるとか、ひとつの作品にゆっくり時間をかけるとか、スタジオによる違いを体感したいので、自分にはある程度の時間が必要なんです。現状は自宅での作業が増えてきているので、微妙な感じになりましたが……。

──やっぱり、いろんな会社を見て回ったほうがいいんですか?

小島 単純に、僕はいろんな会社を見てみたいタイプなんです。1か所に長く在籍したほうが、よい仕事の回ってくるチャンスは増えますから、ひとつの会社で仕事するのが向いている人もいるでしょう。僕の場合、2年ぐらいでコロコロと移動してきましたけど、別にどの会社とも絶縁したわけではなく、「お仕事をいただけるなら、もちろんやらせてください」という円満な関係を保っています。

──憧れている先輩アニメーターはいますか?

小島 業界に入るまで、それほど絵を描いてこなかったんです。作画オタクというわけではなかったので、アニメーターさんについての知識がありませんでした。業界に入ってから勉強して、各スタジオごとに、よいところを学ぶようにしてきました。それぞれのスタジオに師匠と呼べるアニメーターさんはいて、「フリップフラッパーズ」(2016年)の押山清高監督からは、テクニカルな面でもメンタル面でも仕事のやり方でも、いちばん影響を受けました。「フリフラ」で学ばせてもらったことが、今では僕の中での中枢、核になっています。
名前を知らずに「この人の描く絵はいいな」と感じたのは、石浜真史さんです。アニメーターとして非常にリスペクトしていたので、石浜さんが「新世界より」(2012年)を監督されると聞いて、自分から能動的にスタジオを移りました(小島さんはキーアニメーターとして参加)。

──小島さんは、ひとつの話数の原画を、丸々ひとりで描いたりもするんですよね。

小島 「四月は君の嘘」(2014年)の第5話が、ひとり原画でした。この当時は大した実績もない状態だったので、「わからせる」という気持ちで取り組んだ作品でした。「四月は君の嘘」は、かなり自分を前に進ませてくれた仕事でした。

──演出にも名前がクレジットされていますね。

小島 ひとりで全カット原画を描くときは当然のことですが、タイムシート、キャラクターの感情、カメラワークもすべてのカット・コントロールをしています。ですから、演出にクレジットされてもおかしくないかもしれません。

──初めてのキャラデは「フリップフラッパーズ」でいいんですか?

小島 キャラデと、総作画監督ですね。ほかの人の絵を直す作業は、初めてでした。「フリフラ」はシンプルでフワッとした絵柄ですが、マンガっぽくなりすぎないよう、地に足のついた演技をつけるように心がけました。そういう意味では、幅の広い仕事ができました。できるだけ一点突破型のアニメーターではなく、どんなものでも描けるようになりたいんです。


──「フリフラ」の後、湯浅政明監督の「DEVILMAN crybaby」(2018年)に、演出と原画で参加しましたね。

小島 押山さんが「DEVILMAN」のデザインと作画監督をやるので「一緒にどう?」と誘われたことがキッカケです。湯浅監督には、第9話の演出と原画を気にいってもらえた気がしました。

──それで、今回の「きみと、波にのれたら」のキャラデと総作監に抜擢されたのでしょうか?

小島 全体的にうまくいったのはもちろんですが、ひとりで原画と演出まで担当するのは、スケジュール的に過酷なんです。なので、「これだけひとりで描けるアニメーターなら、映画1本まかせられるんじゃないか?」という目算が湯浅監督の中にあったんじゃないでしょうか。それは、かなり自分でいいように捉えちゃった見方ですけど。

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