丸井グループが掲げるテーマ「インクルージョン」を描くオリジナルショートアニメーション「そばへ」制作秘話! 東宝・武井克弘×オレンジ・和氣澄賢のWプロデューサーにインタビュー!
「僕のヒーローアカデミア」「Dr.STONE」といったTVシリーズのほか「天気の子」「HELLO WORLD」などの劇場映画作品を手がける東宝と、「攻殻機動隊 ARISE」「宝石の国」「BEASTARS」を手がけ、CGのクオリティの高さに定評のあるオレンジがタッグを組んで制作されたショートアニメーション「そばへ」。3月に「マルイノアニメ」公式チャンネルで配信された本作は、7月に公開された「天気の子」の上映前広告CMとしても上映され、丸井グループが掲げる『すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現をめざして』という企業理念から“インクルージョン”をテーマに描かれている。今回アニメーションを手がけた東宝の武井克弘プロデューサーとオレンジの和氣澄賢プロデューサーに、作品についてはもちろん、ショートアニメーションやCGアニメーションへの思いについてもお話しいただいた。
──「そばへ」という企画の経緯についてお聞かせください。
武井 丸井さんが品物を売るためではなく、企業のPR、自社のPRのための映像を作りたいというお話がありまして、複数のところにお声をかけられたようで、その中のひとつが私の所属する東宝でした。こういう案件があるという話を上司から聞きまして、ちょうどショートアニメーションをやってみたいと思っていた時期でもあり、丸井さんのコンペに参加したというのがことの発端です。コンペの結果東宝・武井に預けていただけることになるのですが、その企画は和氣さんと一緒に考えた企画でした。その時の企画書に作品のあらすじって入っていましたっけ?
和氣 あらすじは入っていましたが、今とは全然違うあらすじででしたね。
武井 コンペに通った内容とできたものが全然違うのですが(笑)、丸井さんからのお題であるインクルージョンは、もともと丸井さんが掲げている企業理念で、自由に考えさせていただきまして、僕らはテーマとして雨を選びました。
和氣 丸井さんとお話をしている中でターゲットが固定化されてしまうと共感し辛いのではないかという話がありまして、雨という、誰にでも同じように降りかかる天候をコンセプトにしてみたら面白いのではないかなと思いました。僕自身雨が好きですし、大学で建築を学んでいた時の研究室の教授は雨をコンセプトにした建物を設計するのが好きな方でした。皆さん子供の頃は雨で遊んで楽しかったというような瞬間があったと思うのですが、大人になってからは、単純にじめじめしているとか、汚れちゃうから雨が嫌いだみたいな思いがある中で、それでもいいと思える瞬間があると、それはインクルージョンというテーマに合うのではないかと思いました。
──尺の長さなどの指定もなかったのでしょうか?
武井 打ち合わせの内容についてはその都度丸井さんに報告をしていて、方向性が間違っていないかは確認をしていただきました。その中で「これは止めてください」というのはありませんでしたし、「おまかせします」というありがたいお言葉をいただきました。尺の長さもショートアニメというだけで特に指定はなかったですし、もともとWEB配信がメインと聞いていたので制約はなかったです。むしろ尺の長さが気になるのは予算の関係で和氣さんのほうだと思います(笑)。
和氣 CGで作るとなるとキャラクターの数がそのまま工数というか予算になってしまうので、なるべくキャラクターが少ない状態でやり切れるように、短編にあった作り方を提案させていただきました。
──ショートアニメーションに興味があったというお話をされましたが、どういった理由でしょうか?
武井 数年前だとCGは作画アニメの自動車の部分とかメカの部分だけとか限定的な使い方をされていて、CGのイメージが固定化されていたような気がしていました。僕と和氣さんが初めて一緒に関わった「宝石の国」という作品が2017年に放送されたのですが、あの企画のベースにはそういう、CGってそれだけじゃないよね、という思いがありました。CGとしてはチャレンジングなことをしています。ただ、そういったシリーズものですと1本作るのに2、3年かかってしまいますし、お金の面でも巨大なバジェットが必要になってしまうので、なかなか次から次へといろいろな表現にチャレンジしていくとか、幅を広げていくということが難しいのです。でも、ショートアニメーションならもう少し短いスパン、サイクルでCGの表現を広げて開発ができるのではないか?という話を和氣さんと常々していました。
──そういったチャレンジできるところがショートアニメーションと相性がいいのでしょうか?
武井 幸か不幸か本当に制作期間が短く(笑)、短い期間で実現しなくてはいけないというある種の課題としてはよかったと思います。雨の表現や布の表現にチャレンジができました。
──タイトルの「そばへ」はどなたが考えられたのでしょうか?
武井 「そばへ」というタイトルは石井監督が持ってきてくれた言葉で、「日照雨と書いてそばへと読むんです」と教えてくれました。調べてみたら“そばふ”という動詞もありまして、これには戯れるという意味があって、その名詞形で“そばへ”という戯れという意味があるらしく、よくよく考えてみると傘が持ち主の「側へ」戻ってくるというお話でもあるので「監督これトリプルミーニングできますよ!」と言ったら「それではこれにしましょう」という流れになりました。
──今回石井監督を抜擢された理由を教えてください。
和氣 「僕だけがいない街」という作品で監督をされていた伊藤智彦さんは知っている方だったので単純に伊藤さんの作品を観ようと思って観ていたのですが、その作品で石井さんが2話の演出・絵コンテをされていて、それがすごく面白く、この人と一緒に仕事をしたいと思い始めて、知人の紹介で何度かお会いさせていただいて、今に至るという感じですね。
──石井監督の印象は?
和氣 この作品はどういう絵作りをしたらよいのだろうか?というところから監督と話を始めたのですが、監督としての指示の出し方に慣れていなくて苦労されている感じでした。ただそこから先のコンテ作業や現場としてのチェックというのはシリーズで慣れているだけあって、自分でできることできないことがわかっていて線引きをしている感じがしました。CGというものに関してはまったく未知の領域だったので、そのやり方については苦労されている感じでしたね。
武井 最初のアイデア出しではたくさんアイデアを出されていたし、和氣さんが見初めた通り、やりたいことは明確にある人なのだなと感じました。プロダクションの部分に関しては通常の演出の範疇なので普通にこなされていて、初めてだったのはプリプロとCGの部分ですよね。プロダクションの前のコンセプトを決めるとかお話を作る作業とかをアニメではプリプロと言いますが、そこは確かに苦労されているように見受けました。テレビシリーズの演出は当然そんなところから始まらず、脚本はありますし絵コンテもありますし、やらなければいけないことが決まっている状態から原図を描いたりしてもらうのですが、そういう意味では、演出業をしているとプリプロの段階で「こういう色にしてくださいとか、ライトの方向はこっちです」といった具体的なところから説明してしまうんですよね。
──ショートアニメーションのよいところはどんなところでしょうか?
武井 お客さんにとっては短い時間で完結したアニメーションが気軽に観られて、しかも満足感が得られるところでしょうか。僕は普段、テレビシリーズや劇場版をやっていてショートアニメは今回が初めてだったのですが、そのよさはすごく感じました。Pixarの長編作品では手前に短編が付くのですが、毎回チャレンジングなことをやってくるんですよね。それを理想としていたのでお手本として参考にさせていただきました。
和氣 シリーズものですとひとりの監督と2、3年ほど関わる感じですが、短編だと、たとえば半年単位だったりします。テレビシリーズだとなかなか今すぐお願いすることが難しいスタッフともお仕事ができたりするので、そういった短い単位でいろいろなスタッフとお仕事ができるのはよいところですね。作り方にしても、テレビシリーズだとスケジュール的に難しいことも短編だから頑張ってみようと挑戦できたりして、「そばへ」で言うと、カラースクリプトという全部の絵コンテに色をつけることができました。あと社内のことでいうと、CGアニメーターは若手だけでやっていて、若手にチャレンジする場所を提供できるというところが面白いかなと思います。
──お2人のユニット名である「プロジェクト」についてお聞かせください。
武井 実情を申しますと、和氣さんと武井がやっている作品では「プロジェクト」という屋号を使っていこうということにすぎず、立ち上げたとか何かすごいものを作ったとかという気はないんです。もちろん「そばへ」は大事に作らせていいただきましたが、それぐらいの意識で、すごくユルイ感じです(笑)。名前の由来は、日本語だと「投企」と訳される哲学用語で、2人のアティチュードみたいなものを表しています。
──新千歳空港のPVを作られたようですが。
武井 プロジェクトの活動に興味を持ってもらいお声がけをいただきまして、またショートアニメを作る機会をいただけました。名乗ってみるものだなと(笑)。
──今後挑戦してみたいことがありましたらお聞かせください。
武井 今回の「そばへ」のお話はすごくありがたかったですし、このようなお話をどんどんいただけたら嬉しいです。その行く先で長編やシリーズもの、大きな映画などをオレンジさんと一緒に作れたら嬉しいですし、そこを目指していきたいなと思っています。
和氣 「そばへ」もそうなのですが、企画をするときには技術的な挑戦を毎回していきたいと思っています。「宝石の国」「そばへ」でできたこともあるのですが、できなかったことも当然あって、それを忘れずに次回できるようにするにはどうしたらいいかを考えながらチャレンジし続けていきたいです。
──ありがとうございました。
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