「手描きのロボットアニメ文化がついえてもいいのか」なぜガンダム・エアリアルは3DCGではないのか──『機動戦士ガンダム 水星の魔女』岡本拓也プロデューサーインタビュー後編
毎週日曜午後5時から、MBS/TBS 系全国28局ネットにて放送中の、ガンダムシリーズのTVアニメーション最新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(以下、『水星の魔女』)。
本作は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(以下、『鉄血のオルフェンズ』)以来、7年ぶりのTVシリーズ新作であり、TVシリーズ初の女性主人公、そして学園を舞台にした世界観が話題に。また、放送開始前からPARCOとのタイアップなど数多くのトピックスがアニメファンを騒然とさせていた。前日譚「PROLOGUE」(以下、「PROLOGUE」)も、クオリティの高い映像とともにどんな物語が紡がれるのか、みんなの期待をさらに高めてくれた。
そんな大注目の本作について、前編に続いて制作プロデューサーにお話をうかがった。
今回は誰もが気になるモビルスーツのデザインコンセプトを中心に話していただいた。
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物語の大きな要素となるGUNDフォーマットや身体拡張
――「PROLOGUE」を見ていて、やはり「GUNDフォーマット」や「ガンビット」は気になりました。そのあたりの着想や表現したかったことについて、物語の重要な要素になるとは思いますが、言える範囲で教えて下さい。
岡本 「GUNDフォーマット」は、この世界でのガンダムを描くうえで必要な設定です。詳細はまだお話できませんが、本作で描こうとしている大切な要素のひとつに紐付いている設定であることは間違いないです。「GUNDフォーマット」を使ったMS、ガンダムは「PROLOGUE」では、その存在を否定されていましたが、本編の世界でどうなっていくのかは、ぜひ物語を追って見てもらえればわかると思います。
――詳細は物語を楽しみにするとして、GUNDフォーマットは医療技術から発展した技術のようですが、そこは現実から想像しやすいことも考慮したのでしょうか?
岡本 本作では「身体拡張」と言っていますが、意識の拡張というか、人間を拡張するという発想がありました。それは『機動戦士ガンダム』の元々の着想がそういう考え方に基づいて作られたと記憶していて、小林監督がアイデアを出したときに、それをどこまで意識していたかはわかりませんが、人間の拡張という意味では義手・義足といった医療から繋がっていたのかなと思います。モビルスーツやロボットはなかなか現実と繋がりづらいところがありますが、医療技術にすることによってもう少し身近なものにできたのかなと思います。そう感じていただけたのなら嬉しいですね。
――ちなみに、この世界でGUNDフォーマットはどのぐらい普及しているのでしょうか?
岡本 「PROLOGUE」の段階では、あの技術を使っている人は一部にいましたが、まだスタートアップといった感じですね。可能性を広げるためにオックス・アース社と手を組んでいました。
モビルスーツを手描きすることのへのこだわりとは?
――モビルスーツの描写についてもお聞きします。『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(以下、『閃光のハサウェイ』)では3DCGをメインに使われていて、今後のガンダムはCGで行くのかなと思っていたら今回ガツガツの手描きで来ましたよね。ディテールも細かくなっていましたし、手描きのモビルスーツに対するこだわりを教えてください。
岡本 やはり手描きの良さがあると思っています。TVシリーズにおいて、なかなか昔ほど簡単に手を出せるものではないですが、やれるところまではやりたいというのが個人的な望みです。
――今回はCGでいくか手描きでいくかといった話もあったのでしょうか?
岡本 当初3DCGに舵を切っていくことも検討はしていましたが、サンライズにはまだロボットを手描きで描いてくださる方々がいらっしゃいますし、その方々の魅力を作品にうまく溶け込ませられたらいいなと。
一歩引いた目線で言うと、サンライズがTVシリーズで手描きのロボットアニメをやらなくなったら、他にやるところはほとんどないと思うんです。この文化がついえていいのか、という思いもありますね。
――手描きの味や魅力に関しては、やはり岡本さん自身も思い入れがあるのでしょうか。
岡本 そうですね。私自身、この会社に入ってから、割とロボットものに関わることが多かったんです。3DCG主体でやった作品もあり、そちらにも非常に魅力を感じていますが、環境的に手描きでロボットを描いてくださる方々が周りにいたというのも大きいかもしれません。
今回のガンダムは筋肉質でボディビルダー!?
――ガンダム・エアリアルなどを手掛けているJNTHEDさんは「メタルギア」などのゲームも描かれていた方ですし、ほかにも主題歌にYOASOBIを起用したりPARCOとタイアップしたりと、本作は若者向けのアートやストリートカルチャーを意識している印象も受けます。今までのアニメやガンダムの文脈とはちょっと違うぞと。そのあたりはどのような意図があったのでしょうか?
岡本 アートやストリートカルチャーを、ものすごく意識しているかといえば、そうではないのですが、今までのガンダムとは違う切り口を目指している部分はあります。JNTHEDさんに関しては、メカデザインのコンペで、JNTHEDさんからあがってきたものは今までのガンダムとは異なるアプローチだったので、いい意味で化学反応が起こらないかな……とは思いました。
スタッフィングに関しては、少しずつ新しい血を入れることを意識しています。ある種、異種格闘技戦じゃないですけど、違う文脈から入ってきた方がいることは、作品にとって良い刺激になると思っています。YOASOBIさんやPARCOとのタイアップに関しても、今までガンダムに触れてこなかった若い世代の方々に壁なく入ってきていただけるようにしたいと思いました。今のカルチャーを担っている人たちの力をお借りして、若い世代に向けてガンダムを広げていくことは意識しているところです。
――JNTHEDさんのガンダム・エアリアルは、体型も筋肉質でありつつ、ちょっと女性っぽさもある不思議なニュアンスがありますよね。
岡本 女性的だねとおっしゃっていただくことが多いんですけど、実はあまり意識していないんです。どちらかというと、筋肉質というか、ちょっとボディビルダーっぽい感じです。
――太ももはすごいですけど、締まっているところは締まっていて。
岡本 そうですね。腰もキュッと細いですしね。全体的に筋肉が詰まっているイメージです。そこは監督とJNTHEDさんがキャッチボールでやり取りされていました。
――そういう話を聞くと、身体拡張というか今回のテーマにも通じるものを感じますね。JNTHEDさんは最初から「GUNDフォーマット」などを意識して描かれたのでしょうか?
岡本 メカデザインは物語と並行して作っていましたが、オールレンジ兵器が出てくることは決まっていました。当時は、ホビー事業部の方々と、ブンドド(プラモデルやフィギュアを手に持って戦わせる遊び)じゃないですけど、攻撃にも守りにも使えるものとしてどんなギミックだったら面白いかなという話をしていましたね。
最初はビットのパーツをもっと細かくできないか、といった話もありました。ファンタジーとリアリティの線引きはありますが、さまざまなアイデアを出しあって、最終的に今の形になりました。
──いろいろなアイデアが今回のガンダムには詰まっているのですね。アニメ本編での活躍も楽しみにしています。今回はありがとうございました!
(取材・文/千葉研一)
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