「ガンダムは僕らに向けたものじゃない」10代のリアルな言葉に衝撃を受けて──『機動戦士ガンダム 水星の魔女』岡本拓也プロデューサーインタビュー前編

毎週日曜午後5時から、MBS/TBS 系全国28局ネットにて放送中の、ガンダムシリーズのTVアニメーション最新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(以下、『水星の魔女』)。

本作は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(以下、『鉄血のオルフェンズ』)以来、7年ぶりのTVシリーズ新作であり、TVシリーズ初の女性主人公、そして学園を舞台にした世界観が話題に。また、放送開始前からPARCOとのタイアップなど数多くのトピックスがアニメファンを騒然とさせていた。先行して公開された前日譚「PROLOGUE」(以下、「PROLOGUE」)も、クオリティの高い映像とともにどんな物語が紡がれるのか、みんなの期待をさらに高めた。

そんな大注目の本作について、プロデューサーを務める岡本拓也氏に企画の立ち上げからスタッフのこと、本作でこだわったポイントなどたっぷりと話を聞いた。

10代の「ガンダムは僕らに向けたものじゃない」の言葉が刺さりました

――本作はガンダムのTVシリーズとしては7年ぶりの新作となります。まずは、制作に至った経緯について教えてください。

岡本私自身が『水星の魔女』に関わり始めたのは2020年の初春頃でしたが、次のガンダムとしてこのプロジェクトの話が出始めたのは2018年頃だったと聞いています。ガンダムの50周年、60周年に向けて、次の世代に向けた作品を作りたい、というところからスタートしたそうです。そして、2020年になって「女性を主人公としたガンダムをやってほしい」と話をいただきました。

――最初の段階からターゲットのボリュームゾーンは若い年代を考えていたと?

岡本 そうですね。今までの、宇宙世紀以外を舞台にしたガンダム作品は、基本的にはティーン層に向けた作品という印象が強かったので、この作品もそこに向けたものだろうと考えていましたし、オーダーとしてもありました。

――学園を舞台として始まるのも、そういったターゲットを意識したところがあったのでしょうか?

岡本 これまでも学校が登場するガンダムはありましたが、少年兵からスタートするとか、初手からシリアスな作品が多かったと思います。今回の『水星の魔女』も、ストーリーを考える上で何回か転換点があって、最初は結構重いところからスタートする内容だったんですね。でも、ちょうどその頃に、社会科見学で来た10代の子たちから話を聞くタイミングがあったんです。そうしたら「ガンダムは僕らに向けたものじゃない」「(タイトルに)ガンダムとついていたら見ません」と言われて……。

――衝撃的な言葉ですね。

岡本 結構刺さりましたね。ガンダムは宇宙世紀シリーズはもちろんですが、宇宙世紀以外の作品にしても『機動戦士ガンダムSEED』(以下、『SEED』)から20年経っています。それは歴史であると同時に、ある種、壁や重みのようにもなっていて、若い世代にとって入りづらさになってしまっていると思います。これまでも若い世代が入りやすいように、クリエイターの方々がさまざまなアプローチしてきました。しかしさらに彼らの身近な環境から作品をスタートさせるのがいいんじゃないかと思い、学園を舞台にしよう、という話が出た感じです。

――いきなりヘビーなところから行かずに、だんだんと物語を深めていく感じなのですね。

岡本 日曜5時(17時)という枠ですから、あまり入り口から重々しくするよりも入りやすさを意識したのもあります。それに企画当時は、大国間同士の戦争は、若い世代にとって実感が湧きづらい題材なのではと感じていました。もう少し今の若い方々にも身近に感じてもらえる、「あれ? これって僕たち私たちの話なんじゃないか」と思ってもらえるのはどこだろう、ということは考えましたね。

――企画が岡本さんにおりてきた時点で、女性主人公と決まっていたそうですが、女性主人公だから描けることについてはどの程度意識しましたか?

岡本 女性のキャラクターだからこそ描けることはもちろんあると思っていますが、特に意識していません。あくまで一人のキャラクター、人間として描いていければと考えています。

キャラクターやメカニカルデザインはそれぞれの役割分担があります

――スタッフィングについてお聞きします。本作ではキャラクターデザイン原案のモグモさんを含めるとキャラクターデザインの方々が4人いますね。

岡本 本作では描かれるキャラクターの数も多く、皆さんの力をお借りして体制を構築しています。具体的には、メインキャラクターを田頭真理恵さん、周りを固めているキャラクターを戸井田珠里さんと高谷浩利さん、に担当いただいています。

――基本的には、モグモさんが元のデザインを起こされているのでしょうか?

岡本 モグモさんにお願いしたのは、学生サイドといいますか、若いキャラクターが多いですね。それに、⼩林(寛)監督も非常に絵が達者で、監督から絵としてアイディアが出てくることも多いです。モグモさんとキャッチボールすることもあれば、監督の絵をベースにアニメのキャラクターデザインを起こしていただくこともあります。

――メカニカルデザインもJNTHEDさんを筆頭に6人いらっしゃいます。こちらも役割分担などがある感じでしょうか?

岡本 ある程度、勢力ごとに分けて担当いただいています。JNTHEDさんには基本的にガンダム・エアリアルやガンダム・ルブリスを中心に主役系のモビルスーツを、海老川兼武さんにグラスレー社のモビルスーツ、形部一平さんにジェターク社のモビルスーツ、稲田航さんにペイル社のモビルスーツをお願いしています。

その他、柳瀬敬之さんや寺岡賢司さんにも他の勢力やMSデザインなどをご作業いただいてます。



「魔女」がなにを意味するのか、物語を通して感じてもらいたい

――お話をうかがっていると、すごく自由な発想で新しいものを作られていると感じるのですが、岡本さん自身は新しいものを作っている実感はありますか?

岡本 宇宙世紀シリーズはいろんなことが決まっているので難しいと思いますが、宇宙世紀以外を舞台とした作品群はある程度自由度が高い認識でいます。とはいえ、こちらも『機動武闘伝Gガンダム』から、30年弱ぐらいの歴史がありますから、人ぞれぞれのガンダム像がありますよね。視聴者の方が持っている想定から、いい意味で外れつつも、望んでいるものをちゃんと満たしていく必要があると考えています。

――ということは、従来のガンダムファンも楽しめる要素があるわけですね。若い世代を意識すると、逆に「自分たちのものじゃない」と感じてしまう方々もいるのではと思ったもので。

岡本 そこはガンダムの懐の深さだと思っています。『SEED』を見ていた中高生も、今では30代になっていますからね。大人も耐えうるドラマがしっかり本作にも入っていますので、幅広く皆さんに喜んでいただけるものになっていると思います。

――ちなみに、タイトルの「魔女」は何を指すのでしょうか?

岡本 「魔女」といっても、いろいろな概念があると思います。見る人によって受け取り方は違うと思いますが、物語を見ていただければ「魔女ってこういうことだったんだ」とわかると思いますので、ぜひ物語を追っていただけると嬉しいです。


後編に続く!

(取材・文/千葉研一)

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