【コラム】「こういう展開でこそオレは燃える奴だったはずだ」! スラダン大好きライターが語る「SLAM DUNK」愛と、映画「THE FIRST SLAM DUNK」への期待

1990年代に「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載され、空前のバスケブームを生み出した、井上雄彦さんの伝説的コミック「SLAM DUNK」が、2022年12月3日、新作劇場作品「THE FIRST SLAM DUNK」として映像化される。

TVアニメ以来、26年ぶりの映像化ということで話題を呼んでいる本作は、良くも悪くも注目を集めている。ファンが多い分、いろいろな意見、思いがあるだろうが、ひとまずひさかたぶりのお祭りである新作を盛り上げていこうではないか!

ということで、リアルタイムで「SLAM DUNK」を楽しみ、スラダンこそ人生!と豪語するライター・塚越淳一に、「SLAM DUNK」への思いの丈を書いてもらった!

リアルタイム世代が抱いた「スラダン」の第一印象

「SLAM DUNK」は、ざっくり言うと不良からバスケ部に入った主人公・桜木花道がバスケにハマり、スポーツマンになっていく物語である。そして、彼が入った湘北高校バスケ部には、不動のセンター赤木剛憲、3Pシューターである三井 寿、ポイントガードの宮城リョータ、そして花道のライバルであり、同学年の天才・流川 楓といった個性的な面々が揃っている。これらのキャラクターだけでなく、そのライバルまでも生き生きと魅力的に描いていたのが「SLAM DUNK」という作品で、当時それほど人気がなかったバスケットボールの人気や認知度を爆発的に高めた作品でもあった。

そんなバスケ漫画の金字塔が映画化される。しかも原作者である井上雄彦みずからが監督・脚本を手がけるというのだから驚きだ。はたしてどんな映画になるのか……ここではその予想と、「SLAM DUNK」の魅力をつらつらと語っていきたい。

疲れたときに缶のポカリが開けられずにカチカチやってから「なぜオレはあんなムダな時間を……」とつぶやいてみるなど、日常生活の中で「SLAM DUNK「の名言を使う人は少なくはないだろう。なかでも汎用性が高いのは「バスケがしたいです」、「あきらめたらそこで試合終了だよ」あたりだろうか。原作漫画連載当時は、「SLAM DUNK」のセリフを言えば、誰もが元ネタを理解してくれていたのだから、大したものである。

だが本当にすごいのは、連載終了から20年以上経った今もそのセリフが語り継がれていることだろう。それだけ世代を超えて響く言葉だし、人生で起こる現象はだいたい「SLAM DUNK」でたとえられるので、そういう使いやすさもあったのかもしれない。

連載開始当時は中学生で、基本的に真面目クンだった筆者が、流川 楓や水戸洋平に憧れてボンタンを履いたり、授業中に居眠りをするくらいの影響力があった「SLAM DUNK」。その物語の入り口は、「ヤンキーもの✕スポーツもの」半々というバランスだった。ちょうどジャンプ黄金期で、当時の連載作品は「ドラゴンボール」や同時期に始まった「幽遊白書」など、かなり豪華かつバブリーなラインアップで、バトルものが大半を占めていた。いっぽうスポーツものはというと、ほとんどない、もしくはあってもそれほど長くは続かない印象があった。

そんな中スタートした「SLAM DUNK」。序盤はバスケもしていたが、ケンカもよくしていて、水戸洋平&etc.の桜木軍団や青田龍彦、鉄男といった不良の名キャラクターが登場し活躍していた(※青田は不良ではないかもしれない)。当時「ろくでなしBLUES」なども連載していたので、ストレートにスポーツものとして始まらなかったというのは、今にして思えば大正解だったように思う。そこから、自身の怪我が理由で不良になった三井が改心をし、バスケ部に復帰してからは完全にスポーツものにシフト。そのタイミングが絶妙だったし、この頃にはすでに大人気バスケ漫画になっていた。

そうなると必然的にバスケ部人気が高まり、全国のバスケ部員は急増した。この時点で、バスケットボールを愛し、それを広めたいと思っていた井上雄彦のひとつの大きな願いはかなっていたのかもしれない。そして、人気絶頂のまま「SLAM DUNK」の連載は終了。連載期間は6年に及んだが、劇中ではわずか4か月しか進んでいなかった。

「第2部」ではなく、「映画」になって帰ってきた「スラダン」

物語としては、湘北は全国大会で強豪の山王工業を破り(次の試合でボロ負け)、きれいに終わったのだが、筆者はそれに納得いっていなかったひとりである。いい終わり方だったと言う人も多かったが、個人的には花道と流川楓が出会った際に書かれていた「のちに終生のライバル」になるという文言や、桜木花道が流川のプレイを観察するようになってから加速度的に成長していくのが「もうちょっと先の話」であるという文言など、全然伏線が回収されていないと思っていたからである。

しかも流川や花道にはそれぞれにライバルがいたし、森重寛(名朋工業)や土屋 淳(大栄学園)といった全国の猛者も出しっぱなしで、まだ戦ってもいなかった。いったい土屋はなぜ出てきたのだろうか……。どう考えても第1部が終わっただけで、続きがなければおかしい締めくくりだった。

漫画で、流川のアメリカ行きを安西監督は止めていたが、当時はまだ夢の舞台であったNBAは、連載当時無敵だった秋田県立能代工業高等学校(山王工業高校のモデルとされている)出身の田臥勇太が辿り着き、今では、渡邊雄太と八村 塁が2人同時に活躍している。いずれ流川と花道がNBAに行って活躍すると思っていたが、まさかの現実が漫画を追い越してしまった。それを井上雄彦がどう思っているのかは知るよしもないのだが、彼が選んだのは、連載の再開ではなく映画監督という道だった。

映画「THE FIRST SLAM DUNK」は、原作・脚本・監督を原作者・井上雄彦みずからが手がけていることが最重要ポイントである。彼の世界を描けるのは彼しかいないということなのだが、このあたりの経緯は井上雄彦オフィシャルサイトのコメントを読んでほしい。

新キャストの顔ぶれを見ても、これは井上雄彦が妥協することなく選んだ結果なのだろうなと感じた。おそらく監督の中で響いていたキャラクターの声に一番近い声優を選んだのだろう。個人的にはぴったりだと思っている。

そして、当時のTVアニメでは再現できなかったリアルなバスケ表現は、3DCGに期待したい。予告映像で、少年がバスケをしているシーンがあったが、あの何気ないシーンを手描きでやるのは難しいのではないかと思っている。カメラワーク含めて、臨場感のあるバスケシーンを描きたいのならば、やはり3DCGだろうという選択は理解できた。

とは言っても、本編映像がまったくと言っていいほど出ていないのでわからないことも多い。試合のアクション描写は3DCGで、会話などを含めたドラマ部分は作画になるのだろうか。漫画のキャラクター同士のドラマをCGで動かすというのは、いくら2DルックのCG技術が発達していたとしても難しい印象がまだあって、その場合キャラクター自体を3DCG用に作り直すしかないと思っている。

なので、あのキャラクターを動かしたいなら手描きしかない。だからこそ「甲鉄城のカバネリ」シリーズの江原康之がキャラクターデザイン・作画監督で入っているのだろう。

ちなみに作画という意味で、よくできていたのは資生堂 AlephのアニメCMで、これは漫画の「SLAM DUNK」の絵がアニメで動いているという最初の体験だった。このレベルのものが来るのか、3DCGとのバランスはどうなるのか、気になるばかりだ。

ストーリーに関しては、花道のバッシュがエアジョーダン1であることから、全国大会以降であることは確定している。宮城リョータがキーになっていそうで、PVで海辺を走っていたシーンも宮城っぽいし、円陣でチームに声をかけていたのも宮城だった。そうなると、彼を中心に、彼の過去も描かれるのではないだろうか。

また、短編作品の「ピアス」が関係しているんじゃないかなどの考察も上がっていたが、これはまだわからない。

それにタイトルの「THE FIRST」の意味も、ポジションの1番という意味なのか、シリーズが続くという意味なのか、謎である。

宮城リョータでいうと、全国が終わったあとにキャプテンになっていたが、冬の選抜に向けて、三井は残り、赤木は大学推薦がなくなり受験をすることになっていた。何らかの理由で赤木が戻れば、宮城リョータを中心にした原作の先のエピソードになるかもしれないと思うのだが、そんなに早く桜木花道の怪我が治るのだろうかというのもある……。

そうなるとTVアニメではたどり着くことがなかった、山王工業との戦いが描かれるというのが妥当な線だろう。山王戦は宮城の活躍も光っていたし、「ドリブルこそチビの生きる道なんだよ!!」という名言もある。これに関しては、どこと対戦するのかを特番でも伏せていたくらいなので、予想して楽しんでくれというところだろうか。

ロック色が強まった主題歌

そして主題歌も発表された。

1990年代に放送されたTVアニメの主題歌群に関しては、個人的に今だに好きではあるのだが、正直な話、アニメの内容とはほぼ関係がないタイアップ曲だったのも事実だ。それは当時のアニメソングを取り巻く時代背景など、いろいろな事情がある部分なので何とも言えないが、今回の映画では、OP主題歌がThe Birthday。ED主題歌が10-FEETが担当するというアナウンスがされた。

これは納得のチョイスでもある。1990年代といえば、The Birthday のフロントマン・チバユウスケが所属していたTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTによるガレージロックが流行っていたし、それを監督が好きだったとしてもおかしくはない。チバユウスケの声と疾走感のあるロックンロールが劇場で聴けるならば、こんなに嬉しいことはない。

さらに10-FEETも、そのコメントからスラダン愛がひしひしと感じられた。「第ゼロ感」もイントロからぶち上げてくれるし、歌詞も、映画の内容がわからないから確信はないが、物語に沿ったものになっているのだろう。最後に流れたら感動しそうだ。

いろいろ期待している要素はあるし、劇場で観ることはもう決まっているのだが、やはり前情報の少なさがどのような影響を及ぼすのかは、始まってみないとわからない。「SLAM DUNK」という伝説の漫画を描いた井上雄彦を監督に、優秀なスタッフたちが監督の表現したいものを作り上げた、純度100%の井上雄彦の映画です!と言われても、実際に観るまでは、無責任に「おすすめの映画です」とは言えない。

いずれにせよ試合開始は12月3日で、もう1か月を切っている。「まだあわてるような時間じゃない」とも言っていられない時期になってきているので、とりあえず前売り券を買いに走ろうと思う。


(文/塚越淳一)

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