【年末特別企画】今年のアニソンのキーワードは「財力」と「愛」!? 出口博之×鮫島一六三が大いに語る、これが2022年の聴くべきアニメソングだ!
2022年も残すところ、あとわずか。ということで、アキバ総研の年末恒例企画、ミュージシャン・DJの出口博之さんとお笑い芸人・鮫島一六三さん(BANBANBAN)による、アニソン語りが今年も開催されました!
3年目に突入したコロナ禍。その中で、アニメ、そしてアニメソングをとりまく状況は大きく変わりつつあるようです。そんな激動の2022年のアニメソングシーンを、今年も二人がバシバシと斬りまくる! アニソンDJとしても名をはせる2人が見た、2022年のアニソンは一体!?
例年通り、2022年冬クールから秋クールまでの各シーズンに放送されたアニメからセレクトしたBEST3に加え、今年はアニメ映画使用曲からも3曲をチョイス。思う存分アニメソングについて語っていただきました。
──今年はどんな1年でしたか?
鮫島 相変わらずコロナな1年でしたけど、アニクラはだいぶやりやすくなって、今年はお客さんの前でわりといい反応をもらいながらアニソンを流すことができたので、今、フォロワーさんにはこれが当たっているんだなと体感することができた1年でした。2020年、2021年とは全然違いましたね。
出口 鮫島さんが言ったように、今年はライブやイベントがやりやすくなったというのはあるんですが、自分の2022年はアニソンというか劇伴を作ったり、レコーディングをしたりとか、そういった作業の方が多かったので、イベントでの肌感、実感みたいなのはまだないんですよね。楽器を触る機会は増えたけど、DJをやることが少なくなったので。
鮫島 ライブハウスではソーシャルディスタンスは、おのおので守ってる感じですか?
出口 そうですね。お互いに思いやりを持って楽しみましょうという感じ。
鮫島 行政からも、発声は25%までは大丈夫って言われてますけど。
出口 あれも現場としては判断が難しいところもあって、戸愚呂(弟)か!って(笑)。継続的な発声の定義として「その曲の総演奏時間の約25%程度以上の時間の声出し」ということらしいのですが、25%の部分だけに注目が集まってしまい公演時間の25%なのか、全力の発声を100%とした時の25%の力なのか。それが自己申告なのか。それとも観客が100人いたら25人まで声出していいのか、みたいな解釈違いが生まれてしまうっていう。
鮫島 プロレスの会場もマスクをすれば発声OKとか、だんだん声が出せる会場も出てきてますね。内藤哲也も、3年ぶりに後楽園ホールで「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」コールをやっていたし。
出口 それは声に出して言いたい言葉だ(笑)。
出口博之さん
2022年冬クール
──そんな2022年のアニソンを、今年も振り返ってみたいと思います。まずは1月~3月の冬アニメからお願いします!
・鮫島一六三
「知らなきゃ」安月名莉子(「ハコヅメ~交番女子の逆襲~」OP)
「風にまかせて」明日小路(CV:村上まなつ)「明日ちゃんのセーラー服」第4話ED)
「光るとき」羊文学(「平家物語」OP)
・出口博之
「知らなきゃ」安月名莉子(「ハコヅメ~交番女子の逆襲~」OP)
「くらだらねえな」忘れらんねえよ(「闇芝居」第10期)
「光るとき」羊文学(「平家物語」OP)
鮫島 まずは「ハコヅメ」OP「知らなきゃ」。安月名莉子さんです。安月名さんは去年からずっとタイアップが途切れないという方で注目しているんですが、歌がうまくて楽器が弾けて踊れるというすごい才能の持ち主です。リズム感がとにかくいいと思ってまして、この曲についてもラップっぽい始まり方をするんですけど、生歌の時も全然狂わず歌われていました。毎回困難な曲が彼女に降りかかるんですが、クリエイターも安月名さんなら歌えるだろうという信頼のもとに作られている気がするんですよね。
出口 鮫島さんと全く同じこと言いますけど、タイアップが途切れず、秋クールまで毎シーズン歌われてるじゃないですか。毎回曲のタイプも全く違っていて、この「知らなきゃ」は打ち込みメインの楽曲で、安月名さんが普段やられている音楽から遠いところにある曲なのかなという風に感じました。ご本人はアコースティックギター一本での弾き語りスタイルでライブハウスに立たれていたりして、その人がこういう打ち込みっぽい曲を歌うのは面白い組み合わせだと感じました。Aメロの畳みかけのところはラップっぽいというよりも、シンガーソングライターの方がアコースティックギターを弾きながら言葉数を詰め込んで歌う手法にすごい似てるんですよ。
16分のリズムのとり方が楽器を演奏する方特有のとり方だなと思って、同じようなタイプのアニソンはたくさんあるけれども、安月名さんの歌が抜きんでているのはそういった音楽の勘所なのかなと思います。歌がうまいというのはもちろんなんだけど、その裏付けとして楽器を弾きながら歌うことができるから、リズムが気持ちいいのかなと思います。
鮫島 「ハコヅメ」って警察ものなんですけど、パトカーのサイレンの音から曲が始まるんですけど…これがまずいい! あと「風がハイタッチしてくサイドミラー」っていう歌詞があるんですけど、車の疾走感をこういう風に表した歌詞って聞いたことがなくて、いい表現だなと思います。
あと先日、自分の主催イベントで吉本の劇場に安月名さんをお招きさせていただきまして、一緒にギターで演奏させていただいたのが大変いい思い出になりました。アーティストとしてめちゃストイックですし、すごく尊敬しています。
出口 そのイベントのリハを拝見してたんですが、ギターがうまいうえに音に対しての反応の仕方というか、「こうきたらこう」というのが抜群にうまいと思いました。だから全然違うジャンルの曲がきても、きちんと対応できるんだなと。このコラムとは別の企画として、安月名さんの歌われたアニソンを並べて聴いてみる企画も面白いのかもしれないですね。実は芸歴が長い方でもあるので、そこで素養が鍛えられたのかなとも思うんですよね。以上「知らなきゃ」でした。
鮫島 おお~。まずはワンペア! 続いて自分の2曲目は「明日ちゃんのセーラー服」4話のED「風にまかせて」です。この第4話はパラパラ漫画みたいな特殊EDでした。縄跳びの絵がしなやかで美しい! 一体何コマ使ってるのかわからないんですが、素敵すぎて原作勢も大歓喜したそうです。
原作マンガにも縄跳びシーンがあるそうなんですが、アニメ本編ではカットされたらしいんですよ。でもED映像という形で、ちゃんと映像化してくれたということで、原作愛がちゃんとある作品だなと思いました。
出口 本編でカットされた原作の要素を、こういう形で取り上げるっていうのは、ありそうでなかった感じがありますね。
鮫島 YouTubeに公式動画があがっていて、何回も見ちゃいましたね。曲もかわいらしくてよかったと思います。
鮫島一六三さん
出口 自分の2曲目は「闇芝居」。忘れらんねえよの「くだらねえ」です。毎回「闇芝居」の曲は連載コラムでとりあげているのに、この時は選ばなかったんですよ。なぜかというと、エクストリームすぎたから。
鮫島 わはははは!(笑) いや、出口さんが「闇芝居」出してくるとなんか笑っちゃうんですよ。
出口 ちょっとね、恐ろしすぎるくらいにむき出しだなと。これは細かい解説でどうこう言える曲じゃない。忘れらんねえよは、リビドーや鬱屈した感情を爆音で吐き出すタイプのバンドなんだけど、この曲はアコースティックギター一本とボーカルの柴田隆浩さんの歌のみ。ハモってるんだかハモってないんだか、すごい微妙なラインでワンフレーズだけ歌うんです。30秒たらずなんだけど、爆発力のあるバンドサウンドの核にあるのは、こういう捻れるように渦巻くエネルギーなんだとよくわかる、あまりにも強烈な曲ですね。
歌詞も言葉数が少なくて「くだらねえ」だけなんだけど、それだけに収まらない感情が込められていて、すごい曲だなと。これをアニソンとして、きちんと受け皿になる「闇芝居」は稀有な作品だと思います。
鮫島 「闇芝居」、もう何期目ですか?
出口 第10期です。
鮫島 すごい人気だなあ~。10期はすごいですね。
出口 そして1位が「平家物語」の「光るとき」羊文学!
鮫島 わはははは!(笑)ツーペア!
出口 この曲ね、聴いたら泣いちゃう。第1話のOPを見ながら「俺、これ駄目だ」って思って、無理やり楽しいことを思い浮かべて意識をそらしながら観ました。
鮫島 これはたまらなかったですね。琵琶が、自分にとって大事な人と手を取ってくるくる回るシーンが特にすごい。回るたびに大切な人が切り替わるんですが、アニメを観続けていくとこのシーンが「儚い」ということがわかってくるんです。曲もすごくきれいなんです。
この世界は残酷だけどすごく美しい、ってテーマはほかのアニメでもあったと思うんですけど、なぜか「平家物語」だけはそこが特に印象的なんですよね。
出口 琵琶が誰かと手をつないでいたり、片眼で見るとぼやけて周囲に人がいたりするじゃないですか。あの辺りも物語が進んでいくと意味も持って見えてくるし、しかもみんな幸せそうじゃないですか。曲とアニメのリンクがすごくうまい。
「平家物語」は最終的に仏教になっていくわけじゃないですか。輪廻転生とか六道とか、仏教的なところに話が着地していく中で、歌詞の「あの花が咲いたのは そこに種が落ちたから いつかまた枯れた後で種になって続いてく」っていう一節は輪廻転生のことだし、見方を変えれば因果応報でもあるわけじゃないですか。
歴史の授業では「平家一門は倒すべき敵」として教えられた印象が強かったけれども、そこにも普通の人の営みや家族があったはず。もちろん後世にわたって敵として語られる理由はあるし、そもそも琵琶のお父さんは平家に殺されているわけじゃないですか。でも、それを許す琵琶がいて、一族の最後を見届けるっていう全体のストーリーとリンクする歌詞がすごい。
鮫島 「最終回のストーリーは初めから決まっていたとしても」っていう歌詞もヤバイですよね。これは辛い。僕もなんとなく源氏がいい方で、平家が悪い方っていうイメージがずっとありました。平家は貴族になった武家で、源氏はそれを打ち倒して自分たちの時代を作った、っていうイメージがあったんですけど、平家も平家で何か現状を打破したくてようやくその暮らしを手に入れていたわけで、だから何が正義かわからなくなってくるんですよね。
その中で、「君が諦めないから」世界が美しいというフレーズが救いになっている気がします。僕ががんばってればそれでいいんだなと。フルで聴いたら涙が流れてきそうな一曲ですね。音のいいライブハウスで気持ちよく聴きたいです。
出口 もともとFODという配信ベースのアニメだったりとか、内容的にもテレビアニメの今後を感じられるいい作品だったし、何よりも曲自体がよかった。結果的にアニメソングとして、非常に素晴らしい一曲になったと思います。
鮫島 いやー、まさかいきなりツーペアになるとは。他にもいい曲はあったんですよ。「着せ恋」とか、「異世界美少女受肉おじさんと」の「暁のサラリーマン」とか好きでした。
出口 どれも捨てがたかったんですけどね。
2022年春クール
・出口博之
「喜劇」星野源(「SPY×FAMILY」ED)
「AIDA」ano(「TIGER &BUNNY2」第1クールED)
「Venus Line」広瀬香美(「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」OP)
・鮫島一六三
「ミックスナッツ」Official髭男dism(「SPY×FAMILY」OP)
「チキチキバンバン」QUEENDOM(「パリピ孔明」OP)
「Venus Line」広瀬香美(「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」OP)
──続いて、4~6月の春アニメにいきましょう。
出口 春はまず「SPY×FAMILY」のEDです。星野源の「喜劇」。ド派手なOPとは対象的な、しっとりとした落ち着いたローファイなヒップホップみたいな曲だなと。
星野源といえばもう少し明るくフォーキーなポップスのアプローチが多かったけれど、ここにきてヒップホップの要素が入ってきたという音楽的な面白さ。でも、実は星野源の本質というか、やってきた音楽の核ってこれが一番近いのではないかと思います。音数が少なくて狭い室内での音楽というのが星野源の音楽の真骨頂なんだろうなと考えた時に、これはまさに最先端の星野源だなと。
もう少し無責任な奔放さというか、いわゆる「おもしろおじさん」みたいなマインドも得意とするところだと思うんですけど、最近はぐっと内向きの音楽が増えてきたっていうのはコロナが社会に与えた影響によるところもあるのかなと思いますね。そこにきて「喜劇」だからね。なんというか、新しい時代のポップスだなと思いながら聴いていました。大好きです。
鮫島 僕も外せないというところで、「SPY×FAMILY」のOP「ミックスナッツ」が3位というか同率2位です。当時、渋谷駅周りの「SPY×FAMILY」の広告がすごくて、交差点におりたら360°に看板が出てたんですよ。何枚あるのかと数えたら13枚ありました(笑)。どの方向見ても「SPY×FAMILY」っていう。そんな第1クールのOPとして「ミックスナッツ」は間違いなかったですね。疾走感のある曲で、大成功だなという感じでした。
あと「ミックスナッツ」という曲のタイトルなんですが、本作って実は戦争とか飢餓とかそういうものも描いていて、バラバラな人たちの物語でもあるんですよね。そういうものも一つの袋に入れられたミックスナッツになろうよと。「SPY×FAMILY」ってそういうことを描いていると思うので、そこも含めて素敵な曲だと思いましたね。
ちなみに同率2位の曲は、「パリピ孔明」の「チキチキバンバン」。
出口 なるほどね。
鮫島 このクールは「SPY×FAMILY」一強かと思っていたんですが、まさかの伏兵が「パリピ孔明」でした。一気に話題をかっさらった。第1話が終わってからのツイッターの反応がすごかったですね、「めちゃくちゃ面白いアニメが始まったぞ」と。ただ、このMVが……なかなかひどいんですよ(笑)。DA PUMPの「USA」もそうですけど、あえてこの路線を狙っているのかなと。
出口 去年のDJ KOOさん、MOTSUさん、芹澤優さんの「EVERYBODY! EVERYBODY!」もそうですよね。その流れみたいなのが、続いている印象があります。それを好きなアニソンファン層がいるのか。それを好きな方がメーカーにいるのか (笑)。この路線の曲が持つ謎のエネルギーはありますよね。
鮫島 2020年、2021年とコロナがあって、アニクラもちょっとバラバラになっていたんですが、ようやく一つになれる曲が出てきた感があります。2019年までは「みんなが好きな曲」っていうのがあったけど、20年、21年は好きな曲がみんなバラバラだったんですよ。そんな中で2022年、本当の意味でみんなが一つになれる曲として「チキチキバンバン」が出てきたと、アニクラでかけながら思いましたね。まさに孔明の計略にかかった感じがあります。
出口 「ミックスナッツ」とかはみんな好きで、アニクラでかけてもワッという反応はくるけど、そこから先がなかなか難しいんだよね。
鮫島 その点、「チキチキバンバン」は振り付けもあるから、みんな歌いたくなるし踊りたくなるのかなと思いました。
出口 自分の2曲目は「TIGER &BUNNY2」のED、Ano「AIDA」です。
ちょっとびっくりするくらい曲がよかった。虎徹とバーナビーの関係性、バディ感にも通じるところも含めて、正しくアニソンだと思います。この曲のバンド感が’90年代オルタナロックに近いところ、少しシューゲイザーも入ってるところもポイントかなと。
Aメロはタイトで音数が少ない進行で、サビで一気に轟音に流れていくという。ピクシーズとかスマパン(スマッシング・パンプキンズ)を彷彿とさせて、めちゃめちゃかっこいい。
鮫島 これまでの「タイバニ」にはないタイプの曲でしたよね。「タイバニ」には、もっとオシャレというかクールなイメージがありました。
出口 うん。もっと疾走感というか、タイトな印象があったんだけど、違うタイプの曲だったから正直合うのかなと思っていたら実際すごく合うし、何より抜群にいい曲だった。これもフェスとかライブで聴いたら、うわーって泣いちゃうと思う(笑)。とにかく声がいい。
そして春の一番は、「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」の「Venus Line」!
鮫島 おー! 広瀬香美! いいですね。自分も1位です!
出口 わはははは(笑)。春は鈴木雅之(「かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-」OP「GIRI GIRI」)とどっちにするか悩んだんです。曲のインパクト、破壊力が同等なんですよね。鈴木雅之が「かぐや様」シリーズの新作ごとに、他を寄せ付けないほどクオリティの高いものをバン!と出し続けるわけじゃないですか。その第1弾にあたる「ラブ・ドラマティック」と同じ衝撃が「Venus Line」にもあった。こんなに完璧なアニソンないよって。
鮫島 これはもう本物が来た感じがすごかった。「みんな静かに!本物だから!」って(笑)。説得力が抜群なんですよね。アニソンとしても、広瀬香美さん自身が歌うのは「カードキャプターさくら」の「Groovy!」(1998年)以来。スピード感も最高ですし。「Venus Line」で始まって、Bメロでちょっと不穏な感じになるんですよ。そこからまたサビで「Venus Line」と戻ってくる。1分30秒の中で見事に曲線を描いていて、心を揺さぶらせてくれる。
出口 アニメのOP映像ともめちゃめちゃあってるんですよね。でもお話自体は「プロゴルファー猿」なわけじゃないですか。バトルものというわけじゃないけど、ここまで爽やか世界観じゃないわけじゃないですか。でもゴルフをテーマにしているアニメの主題歌としては、これ以上ないとは思います。すごく気持ちいい。「はねバド!」のOP「ふたりの羽根」にも近い。
鮫島 あー、わかります!
出口 スポーツの躍動感と、アニメの映像がバシバシとはまっていく気持ちよさを歌がつないでいるのは、やはり歌がうまい人特有のリズム感だなと。先ほど話した安月名さん同様、楽器を演奏するボーカリストのリズム感のよさが感じられる曲だと思いました。
鮫島 春クールは、他にも「アオアシ」の「無心拍数」があったし、TrySailが歌う「阿波連さんははかれない」の曲もよかった。
出口 「であいもん」の「菫」もよかった。
鮫島 あとは「サマータイムレンダ」の「夏夢ノイジー」、「盾の勇者の成り上がり」の「Bring Back」もよかったんですけど、やっぱり「Venus Line」。「Venus Line」ってゴルフ用語なのかなと思って検索したらどっかの高速道路が出てきました。ゴルフ用語でもなんでもないんですって! 広瀬香美さんご自身がYouTubeで楽曲解説していたので、そちらもぜひ見ていただきたいですね。めちゃくちゃ歌うの難しいとも語ってらっしゃいました。
出口 「Venus Line」」は、ほかに似た曲がないという点で突出していたよね。
鮫島 いやー、いいですね。順調にペアがそろってきてますね。
──いや、そういうゲームじゃないですから(笑)。
2022年夏クール
・出口博之
「チクタクボーイ」理芽(「5億年ボタン【公式】〜菅原そうたのショートショート〜」ED)
「罪と罰とアングラ」松岡充(「風都探偵」ED)
「マルコッパ」眉村ちあき(「ちみも」OP)
・鮫島一六三
「花の塔」さユり(「リコリス・リコイル」ED)
「story」前島麻由(「異世界おじさん」OP)
「かたち」安月名莉子(「メイドインアビス 烈日の黄金郷」OP)
──次は7~9月の夏クールです。
鮫島 夏アニメは、もう「リコリス・リコイル」の「花の塔」ですね。
アニメの終わりのいいところで流れてくるイントロ──これが流れたらアニメが終わるんだなという「シティーハンター」の「Get Wild」現象といいますか。そのおかげでより一層印象的になって、アニメの顔になっていくのがよかったですね。映像も千束とたきなの日常が描かれていて、残酷な話が続く中でもほっとさせてくれました。アニメのエンディングって、視聴者をクールダウンさせて現実に戻してくれる効果があると思ってて、そういうのを含めてこういう日常が描かれているエンディング映像はほっとして大好きです。
2曲目は「異世界おじさん」OP、前島麻由さんの「story」です。
前島さんの楽曲はこれまでもどれもかっこよかったんですが、コミカルな絵に乗っかるのは初めてだったんじゃないですかね。セガのゲームネタがいっぱい散りばめられてるし、コミカルなダンスもあったりするのに、前島さんの歌が浮いていないから、もしかして前島さんって面白い人なんじゃないかなと思い始めて、YouTubeとかSNSとか見てみたんですが、実際に面白い人でした(笑)。面白いことが好きな人なんだなというのが分かりました。新しい前島さんの魅力を掘り下げてくれた曲だと思います。大発見でした。
そして最後ですが、「メイドインアビス 烈日の黄金郷」OP「かたち」。安月名莉子さんです。
もう僕……ぶっちゃけて言うと安月名さんのファンです! 「メイドインアビス」は残酷というか救われない話のアニメなんですが、そこに歩んでいく行進、前進していくようなメロディが乗っかってくる。これがほかのアニメならそのまま突き進んでいくような曲なんですけど、「メイドインアビス」ゆえに「行っちゃだめだ!」という気持ちになっちゃう。「痛みと痛み取り替えよう」という歌詞があるんですが、ここが一番聴きたくないですね(笑)。いやだよ!っていう気持ちになっちゃう、そこがとてもいい曲ですね。
出口 勝手に想像する安月名さんの得意とする曲って、こういうのなのかなっていう気がします。一番はまってるよね。声がすごく明るいから悲壮感、シリアスな感じがあまり内に向いてないというか。ちゃんと明るくて前向きなんだけど、それだけじゃないのが「メイドインアビス」っぽい。
鮫島 あれで絵柄が「北斗の拳」みたいだったらもう大変ですよ(笑)。あの絵だから見てられるのかなと思います。
──対する出口さんはいかがでしょう?
出口 まずは「5億年ボタン」の「チクタクボーイズ」。曲を書いているのが相対性理論の永井聖一さん(ギター)なので、もう間違いがないだろうと。
何度も聴きたくなる中毒性がある。すごくかっこいいのに、どこかおかしい。けど、ものすごくポップ。ここ最近、80’sリバイバルやニューウェーブっぽい感じが流行していましたが、永井さんは流行とは関係なところでそれをずっとやっていて、この曲は時代がようやく追い付いた感があります。やっていることは全く変えていないところに面白さがあるし、尖っている。まったく迎合していない。
コーラスがかかったギターのチャキチャキした感じもいいし、メロもいい。めちゃくちゃかっこいい。
──原作者の菅原そうたさんが、B-DASHのGONGONさんの弟さんなんですよね。かつて主人公のトニオが、B-DASHのCDジャケットに使われたりしていたので、それでキャラを知ってる人もいたんじゃないでしょうか。
出口 B-DASHなどのバンドを夢中で聴いていた我々世代にとって見覚えのある懐かしいキャラクターが、今風のアニメキャラと並んでいるのがすごくおかしいし、野沢雅子がトニオの声を当てているのも面白い。いろんなものがごった煮状態のカオス感こそ、正しく深夜のサブカルアニメですよね。
2曲目が「風都探偵」の「罪と罰とアングラ」。これは松岡充が歌って、サウンドプロデュースが吉川晃司ですからね。仮面ライダーエターナルと仮面ライダースカルですよ。もう完全に「仮面ライダーW」です。
鮫島 これは出口さんらしいチョイスだ。
出口 連載の時はあえて入れてなかったんですよ。話題が特撮の方向性になってしまうので、その辺りは勝手ながら自分のルールを決めてまして。
「風都探偵」では「仮面ライダーW」の主題歌「W-B-X 〜W-Boiled Extreme〜」がアレンジされた「W-B-X 〜W-Boiled Extreme〜」という挿入歌も使われていたり、随所に原作のリスペクトが盛り込まれています。
「罪と罰とアングラ」も原作で特に重要な決め台詞「お前の罪を数えろ」という歌詞から始まるし、2番が「今更数え切れるか」っていう歌詞があるんですが、この返しにも元になる場面がある。元ネタを知っていると劇中のいろんなキャラクターの顔が見える。しかも歌ってるのが本人。「仮面ライダーW」愛が炸裂した楽曲です。
そしてもう一つが「ちみも」の「マルコッパ」。この曲も、なんかわかんないけど聴いたら泣いちゃう曲です。アニメも絵柄はほんわかしているし、曲もすごくかわいい。でも、なんかおかしいんですよ。ちょっとアングラな匂いがある。どこがどうというのは、ちょっと言葉にしづらいですけど。Bメロあたりのメロもそうですけど、言葉選びですよね。(聴きながら)泣けるんだよな……。
これ、正しい例えかわからないんですけど、80年代のサブカルというか、アングラ系のバンドというか、精神的なパンクを感じます。かわいい曲を歌っているのに、はみ出してくる狂気みたいなものをこの曲から感じるんです。ストレートに曲を作られていると思うんだけど、どこか普通じゃない不思議な曲。そのやんわりした歪さがポップさにつながっていると思う。メロディの運び方が2000年以降のゲーム音楽に通じる大衆性も感じるんですよね。「もじぴったん」とか、わかりやすくて中毒性の高いグッドメロディのラインと性格が似たところがあるなというのは感じて、そこがすごくいいなと。
──歌われている眉村ちあきさんは、作詞・作曲もやっているんですね。
出口 うん、全部ひとりでやられているからすごいなと。それにしても、「ファンファン イテテ マルコッパ」ってなんだっていうね(笑)。意味が分からないけど、この言葉の響きとメロディがあわさって独特の世界観になっているのは、正しくアニメソングだなという感じがしました。
鮫島 夏アニメの歌は、「よふかしのうた」OPもよかったし、「ブッチギレ!」の西川貴教も熱くて好きですね。「テニプリ」のEDがバカバカしくて好きでした。
出口 「邪神ちゃんドロップキック」はどうですか?
鮫島 「邪神ちゃん」はですね……アニメの内容とか、周辺の立ち回りの方が目立って(笑)。あの姿勢は素晴らしいと思いましたね。あとは「エンゲージキス」のEDも明るくてよかったです。
出口 うん。EDはよかったですね。夏はけっこうまとめるのが難しいクールだった気がするけど、その中でやはり「メイドインアビス」とか「リコリス・リコイル」がひとつ飛びぬけていたかな。いい意味でバカな作品がなくて、わりと真面目な作品が多かったよね。
鮫島 原作ものも「SPY×FAMILY」みたいな強い作品もちょっと少なかった感じですね。
出口 その分、秋に大作、話題作がずれ込んできた印象がありますよね。
2022年秋クール
・出口博之
「KICK BACK」米津玄師(「チェンソーマン」OP)
「Secret, voice of my heart」倉木麻衣(「名探偵コナン 犯人の犯沢さん」ED)
「MYSTERIOUS」女王蜂(「後宮の烏」OP)
・鮫島一六三
「アキバ大回転」とんとことんスタッフ一同(「アキバ冥途戦争」OP)
「チェンソーマン」ED全曲(「チェンソーマン」ED)
「ギターと孤独と蒼い惑星(ほし)」結束バンド(「ぼっち・ざ・ろっく!」挿入歌)
──大作・話題作が大量に出そろった10~12月の秋クールです。
出口 秋クールはいまだにちょっと悩んでます。5曲あるんですけど(笑)、どういこうかなと。今の話の流れで行けば、もう「うる星やつら」「ガンダム」「チェンソーマン」なんですよ。このほかにも、まだまだ入れれなかった作品があるし、だけれどもこれを選ばなかったらダメだよね、というところでこの選曲になりました。
鮫島 わかります。
出口 でも、それじゃあコラムと同じになってしまうので、ちょっと組み立てなおします。まず「チェンソーマン」の「KICK BACK」は残します。
この曲はたぶんアニメソングに限らず、今のJ-POPの一番新しいところにある曲だと。今の日本の一番尖った才能が、ここに集約されているのかなと思います。今までのアニメソングの流れでいけば「この曲がアニメソングなんて」っていう、これまでのスタンダードから外れた曲だと思うんですよ。でもこれがスタンダードになったというのは、アニソンが次のタームに進んでいるような気がします。
「チェンソーマン」自体が、これまでみんながやりたくてもやれなかったこととか、「それってどうなの?」みたいな懐疑的な部分まで平気でやるわけじゃないですか。たとえば、このエピソードだけ特別なEDになってたりっていうのはあったけれども、ここまで明確に1話ごとに変えます、各話書き下ろしてもらいますっていうのは、みんなやりたかったことだと思うんですよ。だから、これを受けて他の作品含め次の一手はどうなるのかなっていうのは楽しみだったりします。
とはいえ、曲が放送で一回しか使われないのは、かつてアニソンを演奏していたバンドの人間からすると少し寂しいものを感じます(笑)。
鮫島 そうですよね。できればちゃんと1クール流してほしいですよね。
出口 でも、そのおかげで作品性、作家性がすごく高まるのも事実だと思います。こういったことが重なってチェンソーマンの圧倒的な作品力になっていると考えると、「参りました」に尽きます。
みんなで歌えるアニソンから正反対の、聞く人を突き放すような楽曲だけれども、原作が原作だからね。これまで「週刊少年ジャンプ」で連載されているような漫画と本質が異なるからね。ジャンプで大切にしてきた流れを否定する所から始まるし。
鮫島 友情・努力・勝利じゃないんだなって。
出口 すでに大切な何かを喪っている状態でスタートして、今の若い人がそこに乗るわけじゃないですか。正直言って俺はそこに乗れなかったんだよね。でもそれが今っぽいというならば、最先端はこういうことかなと思いました。
次は、全部同率1位ではあるんですが「名探偵コナン 犯人の犯沢さん」EDで、倉木麻衣の「Secret, voice of my heart」。いわゆるセルフパロディギャグものです。全身タイツみたいな男が出てきて「おいおい!」っていうアニメのEDが、倉木麻衣のセルフパロディというね。でもこれ、ちゃんとコナンのEDになってるんですよ。
鮫島 めっちゃ王道の倉木麻衣だ(笑)。
出口 めちゃくちゃおしゃれで、面白いんですよ。パロディのやり方がどんどん多様化してきてる。今まではキャラとかセリフなど作品内のパロディをしていたんだけど、今や作品のあり方すべてパロディの対象にしているのは面白い。
でも、この元ネタを知らなくてもこれはいい曲だと思うし、知ってる人は「おお!」ってなる。この余裕感に大人の本気を感じるし、長寿シリーズだからこその面白がり方だと思いました。
そして最後が「後宮の烏」のOP、女王蜂の「MYSTERIOUS」は曲がよかった。
──ジャンル的にはジャズっていうんですかね。
出口 ジャズで間違いないと思います。すごくアダルトな雰囲気ですね。女王蜂といえば、エッジのきいたバンドサウンドが特徴でソリッドな楽曲が多い印象ですが、ここにきて妖艶で深みのある世界観を広げているのは、バンド自体がどんどん進化している渦中にあると感じます。
「後宮の烏」の世界観、雰囲気とバンドのサウンドがバッチリ噛み合っています。
──鮫島さんはいかがでしょうか。
鮫島 自分は「アキバ冥途戦争」の「アキバ大回転」です。初めて曲を聴く時って、自分の引き出しから「これはこれっぽい曲だな」とか思うんですが、この曲に関しては例えが出てきませんでした。ミクスチャーというか、ぶっ飛んだイカれた曲だなと。
最初、いろんなセリフをサンプリングして、サビでは強引に萌えっぽくもっていくじゃないですか。そんないかれた曲なんですがお話自体もイカれてて、ふたを開けたらヤクザ映画なんですよね。EDも演歌調で本当におかしい世界観で、スタッフはみんな高熱でやられちゃってるのかなって感じを受けました(笑)。オンリーワン!
そして、もう一つが「チェンソーマン」のED……全部!
出口 わははははは(笑)。その手があったか!
鮫島 確かに1話ごとの楽曲という儚さはあるんですが、ちゃんとアニメのお話に沿ったEDになっていることがわかった時に、正しくアニソンだなと思いました。OP映像がいろんな映画オマージュがちりばめられているというので、第1話のEDはどうなるのかなと思っていたら、黒バックのエンドロールだったんですよ。
「映画好きなら納得だよな」って思っていたら、第2話からはちゃんと毎回違うアニメーションを作っているんです。その力の込め方がすごくて、参りましたというしかないですね。歌詞もちゃんとアニメに沿った内容になっていて、素晴らしいですね。だからもう……全部です(笑)。
で、第1位は「ぼっち・ざ・ろっく!」挿入歌「ギターと孤独と蒼い惑星(ほし)」。最初にライブに出るオーディションでこの曲を演奏するんですよ。そこでは一致団結してうまくやるんですけど、第8話で初めてお客さんの前でライブをやった時に緊張からなのか、全然うまくできないんですよ。
──ドラムの走り方とか合わなさが、ものすごくリアルでした。
鮫島 そうそう! ボーカルもズレまくるし、生々しかった。僕、バンドの好きなパフォーマンスが「アイコンタクト」なんですよ。バンドメンバー同士が目で「いくよ」とか「せーの」ってあわせる瞬間が好きで、オーディションのシーンではベースとドラムのアイコンタクトがちゃんとあるんですけど、第8話のライブシーンでは全員のアイコンタクトがないんです。全員意思の疎通がとれていない。そこで一曲終わって、お客さんの反応もまばらなんですけど、そこからギターのぼっちちゃんが一心不乱にギターをかき鳴らすんです。
ライブってバンドだけで作ってるんじゃなくて、ライブハウス全体で作ってるんだなって思ったのが、照明さんがこの時にアドリブでふっと一回ライトを落とすんですよね。そこからばっとまたステージが明るくなって、みんなの演奏が入ってくるという演出があって、本当にライブハウスが好きな人が作ってるアニメなんだなと思いました。素晴らしい音楽と演出だったということで選ばせていただきました。
このクールは「SPY×FAMILY(第2クール)」とかもありましたけど、「ぼっち・ざ・ろっく!」が頭一つ突き抜けてましたね。ほかにも「ガンダム」「ゴールデンカムイ」「ヒロアカ」など、非常に豊作でした。
出口 次点は「不徳のギルド」の「Never the Fever!!」かな。「うる星やつら」の「アイウエ」もよかったし、「ポプテピピック」のOP「PSYCHO:LOGY」もいいですよね。良い意味でむちゃくちゃやってんなって感じで(笑)。どういう発想なんだろう。「BLEACH」の「スカー」もよかったしね。
個人的にはJAM Projectが歌った「マブラヴ オルタネイティブ」OPがよかったかな。「令和のデ・ジ・キャラット」も捨てがたい。
やっぱり秋クールはちょっとすごい多作の季節でしたね。だって「やっぱこれは見るよね」みたいに言える強さのあるアニメが、こんなに揃うなんて。
鮫島 本当に各シーズンに分散させてもいいくらい秋に集中しましたね。
2022年映画
・出口博之
「新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」Ado(「ONE PIECE FILM RED」主題歌)
「すずめ feat,十明」十明(「すずめの戸締まり」主題歌)
「Ubugoe」森口博子(「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」主題歌)
・鮫島一六三
「新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」Ado(「ONE PIECE FILM RED」主題歌)
「すずめの戸締まり」劇伴(「すずめの戸締まり」)
「LOVE ROCKETS」The Birthday(「THE FIRST SLAM DUNK」OP)
──最後にアニメ映画主題歌部門にいきましょう!
鮫島 「ONE PIECE FILM RED」の「新時代」です。説明する必要はないですよね。いまだにロングランしていますし、お話が面白いのは当然なんですが、作品にブーストをかけたのはやっぱり曲だったんじゃないかなと思います。他にもいい曲が揃っています。何よりも映画と曲がバラバラで覚えられてないのがいいですよね。ちゃんと映画とセットになっているのがいいと思います。
出口 曲と映画がちゃんとシンクロしているというのがあるし、ちゃんとキャラクターが歌うという説得力もあるし、ストーリーも今っぽいというか内に向いた内容じゃないですか。今の時代の閉塞感を連想させる部分もあったり、で、それをどう打ち破っていくのか、となった時に音楽の力があるっていうのはとても胸が熱くなります。アニメソングにはこんなに力があるんだ、という証明でもありますね。
ヒットの規模というか、一つのアニメ映画の主題歌として考えたらちょっと普通じゃないヒットの仕方じゃないですか。やはり音楽の持ってる力はすごいなという所で、選ばないわけにはいきませんでしたね。
──2人とも「ONE PIECE」だけでなく、「すずめの戸締まり」も選んでますね。
鮫島 僕は劇伴全部です(笑)。芹澤(神木隆之介が演じるキャラクター)がドライブする時に懐メロをかけるんですが、その使われ方がよかったですね。今までの新海誠映画だと、こういうところでRADWIMPSの曲が使われたんですが、今回は昔のJ-POPが使われてるんです。またこの芹澤のキャラがバカでデリカシーがないから(笑)、主人公の鈴芽と環がけんかを始めたら河合奈保子の「けんかをやめて」とかかけるんですよ。
旅立ちの時は「これでしょ」ってユーミンの「ルージュの伝言」をかけたりして、「俺はこういう古い曲を知ってるぜ」ってアピールするような浅はかさを感じるんですよね。こいつはこういう奴だよなっていうところが人間っぽくて、すごくよかったですね。
出口 自分は「すずめ」。正直に言うと、「すずめの戸締まり」は映画の予告を見た時は全然ピンとこなくて、若い男女のつかず離れずのちょっとSFっぽい恋愛映画かな、と思ったんです。
鮫島 「天気の子」の時も言ってましたよね(笑)。
出口 でも実際に観たら全然違ってて、すごく面白い「君の名は。」だった(笑)。
鮫島 あはははは(笑)。でも本当に面白かったです。
出口 根幹には男女の恋愛みたいなところはあるけど、それは脇にあって、本質はロードムービーですね。音楽の使い方もうまかった。特にタイトルとエンディング、物語の始まりと終わりが、ちょっとびっくりするくらいうまいと思いました。で、そこに曲がマッチしていた。RADWIMPSのエンディングテーマ「カナタハルカ」も素晴らしかった。
これまでの新海誠監督作品だと、RADWIMPSの曲がかかったら「ここ盛りあがります!」みたいなちょっとした圧を感じてしまい、画面を真っすぐ見れないところあったんだけど、今回はそこがうまいこと圧が抜かれるというか、ちょうどいい塩梅だったから楽しく鑑賞できました。
鮫島 ここ最近はRADWIMPSの主張が強すぎるという面も……ごめんなさい! ちょっと感じてしまうことが個人的にありました。
出口 そこでハマれば一気に作品にのめり込めるけども、そこでつまづいちゃうと入り込めなくなる。それが良くも悪くも音楽の力だと思いました。
「すずめ」に関しては、びっくりするくらい印象が変わりました。映画の短い予告で曲を聴いただけで「もう本編全部観ました!」って気になっていたけど(笑)、本編を観たら全然違っててすごい好きになった。
鮫島 そして自分にとっての1位は「THE FIRST SLAM DUNK」。The Birthdayの「LOVE ROCKETS」です。
出口 これから観に行く予定なんで、よかったっていう情報だけください(笑)。
鮫島 早く観に行ってください(笑)! アニメ映画のOPとしては、屈指のカッコよさだったんじゃないかなって思います。この曲にあわせて井上雄彦の線画で湘北のメンバーが描かれていくんですけど、キャラクターがひとりずつ描かれてアニメになって躍動していくんですよね。楽曲も、ベースの音から始まって、ドラム、ギターと順番に入ってくる。最終的にバンドサウンドと歌が5つ重なって、同じように湘北メンバーも5人出てくる。これがめちゃくちゃかっこよくて、このOPを見るためだけにもう一度映画を観たいくらい。ちょっとかっこよすぎました。
EDの10-FEETもよすぎましたね。
The Birthdayのチバユウスケさんは、この話がくるまで「スラムダンク」を読んだことがなかったそうです。オファーを受けて全巻を読んで、「この作品なら疾走感だな」と思われたと話していました。チバユウスケさんをして読みこませるくらいの力が、「スラムダンク」という作品にあったんだなと思います。
出口 自分の1位は「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」。森口博子さんの「Ubugoe」です。なぜなら、この曲じゃないけど、森口さんのガンダムカバーアルバム「GUNDAM SONG COVERS 3」で自分がベースを弾いたから(笑)。
鮫島 わははは(笑)。
出口 森口さんのアルバムに参加するにあたって、これはもう一度「ガンダム」シリーズを観ないとだめだなと思って、最初のTVシリーズから「Zガンダム」、劇場作品など関連作を観直したんです。なので、体が一番ガンダムに満たされている時期に「ククルス・ドアン」だったので、誰よりも深く体に入ってきた。
TVシリーズの、ただの1エピソードを安彦良和監督が現代風に解釈して、今やっている正史の時系列に組み込んで描くというのは正しいリメイクだと思いました。
それを受けての森口さんの歌は、長年にわたって「ガンダム」を歌い続けたからこその包容力と、誰よりも深い作品愛に溢れていて、これ以上ないガンダムソングですね。
──2022年のアニソンを総括するといかがでしょうか。
鮫島 こんな締め方でいいのかわからないんですけど……予算、強えなと。
出口 わはははは(笑)。
鮫島 予算はすごいっていうところと、愛で戦うところの勝負だったのかなと思いますね。「SPY×FAMILY」なんて髭男と星野源が主題歌って、その時点でずるいじゃないですか(笑)。「チェンソーマン」の米津玄師と、全部EDが違うのもずるいし、「ONE PIECE」の予算のかけ方もすごい。
そのいっぽうで「パリピ孔明」の「チキチキバンバン」が、どのように食い込んでいったのか。「リコリコ」の「花の塔」がアニクラでいっぱいかかった印象もありましたし、アニメソングをアニメの中でどう印象付けることができるのか、とそれらの曲が戦った1年だったのかなという印象です。
出口 自分も予算は大事だなと思いました(笑)。そのいっぽうで、ここ数年でもっとも曲が作品と結びついているということを感じた1年だったように思います。さっき鮫島さんが言った「予算が強いよね」っていうところと、「やっぱり愛だよね」っていうところなんですが、これだけ多くの作品がひしめき合っているので、楽曲がいいのは当たり前なんですよ。じゃあそこでどうやってアニメと曲と結びつけるのか、聴いた人にどう印象付けるのか。とか、曲に関する周りの要素みたいな部分を、ものすごくていねいに、どう攻めるのかを考えていると、強く感じました。
だから「これアニソンっぽいよね」っていうフォーマットがもうないんだなと思いましたね。ちょっと前までは「これアニソンっぽい」みたいな感じが残っていました。今年は、そのアニソンっぽさっていうのがどんどんなくなっていったんだなっていうことを、特に思いました。
鮫島 予算があって、お金の力ってすごいなというのは確かにあるんですが、どの製作陣も作品に愛を注いでいると思いましたね。ネームバリューだけで勝とうとしているんじゃなくて、ちゃんと作品を観てアニソンを理解して、ていねいに作っているのは感じます。
出口 それは感じます。さっきの「THE FIRST SLAM DUNK」でも、原作を読んだことのないチバさんが、きちんと原作を読んで楽曲を作るにあたって本質的なものをきちんとつかむとか。
鮫島 うん。ちゃんとファンと真剣勝負をしてるのは、すごく伝わってきました。
出口 ただ来年以降のアニソンの動向みたいなのが、全然わからなくなってきたなあ。何が流行るのか全然わからないし、何が来ても驚きしかない。驚くことしか今後ないんだろうなと思うと、すごく楽しみです。
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