アニメーター・横田拓己 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第38回)

ライターcrepuscularの単独インタビューシリーズ第38回は、アニメーターの横田拓己さん。アニメ制作会社AICの若きホープとして「喰霊-零-」、「ストライクウィッチーズ2」、「そらのおとしものフォルテ」、「R-15」、「えびてん 公立海老栖川高校天悶部」などに参加し、美少女もの作品で頭角を現した横田さんは、「プピポー!」でキャラクターデザインを初担当。フリーになってからも原画や作画監督で大車輪の活躍を見せ、ファンの間では「幸腹グラフィティ」の総作画監督や「三ツ星カラーズ」のキャラクターデザイナーとしてもその名を知られている。新作「波よ聞いてくれ」のキャラクターデザインではこれまでにないチャレンジもあったようで、2020年4月の放送開始が待ち遠しい。記事ではキャリアや創作論を掘り下げつつ、業界の抱える課題や今後の抱負についても語っていただいた。

アニメーターは「絵描きとして勉強しやすい職業」


─本日はどうぞよろしくお願いいたします。最初に、横田さんはアニメ業界に入られてどのくらいになるのでしょうか?


横田拓己(以下、横田) 大卒でufotable(ユーフォーテーブル)という制作会社入って、作画に転向したのが1年後くらいなので、なんだかんだで13~14年経ってしまいましたね。


─アニメ作画の魅力は何だと思いますか?


横田 絵の勉強になりますね。アニメーターの人ってびっくりするくらいうまい人がたくさんいるんですよ。どこかにまだファンの心が残っているのかもしれないですね。「あの人みたいに描きたい!」みたいな。あとアニメは描くこと自体、不思議と飽きないんですよね。自分は基本飽き性なんですけど、やっていていまだに「仕事嫌だな」と思ったことがないんです。徹夜が続いている時以外は、ですけど。


─アニメ制作はアニメーター以外にも各部門の専門家がいて、その点を窮屈に感じる作家さんもおられるようですが……。


横田 僕は大人数で作れるところが好きですね。自分の思想だったり、表現を100%%出すのに一番適しているのは、多分、マンガや小説だと思います。自分も大学の時はマンガ家をやろうと思って、結構投稿だったりしていましたけど、それで一番つらかったのは、ずっとひとりで黙々とやらなきゃいけないことなんですよ。1本作り終わった時はすごい気持ちよかったですけど、大学から家に帰って寝るまでチマチマ描くのが非常に苦痛で。


─創作活動にあたり、影響を受けた作品は?


横田 アニメだと、幼少期の記憶で残っているのが宮崎駿監督作品、あとは初期のガイナックス作品ですね。7歳くらいだったと思うんですけど、偶然床屋で「ふしぎの海のナディア」(1990~91)を観て、めっちゃ怖かったのを覚えています。「ナディア」って子どもの頃観たら、結構怖いシーンが多くて、画面とか鮮明にトラウマのように残っているんです。「新世紀エヴァンゲリオン」(1995~96)も怖かった。オンエアしていた頃がちょうどシンジ君と同じ年齢だったんですよ。


アニメーターというか原画というものを意識したのは、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」(1997)、いわゆる「夏エヴァ」です。2号機と量産機が戦っているところを磯光雄さんが描かれているんですが、本当にデカく見えたんですよ。重いものが重く見える、というか。


─ツイッターには「シスター・プリンセス~リピュア~」(2002)の写真をアップされています。


横田 「シスプリ」はアニメーターになって、ちょうど作画オタクになっていた頃に買ったDVDですね。突出した画柄の回があると聞いて、それが柴田由香さんがコンテ・演出・作督をやられた6話Bパートです。信じられないくらいかわいかったんですよね。そのとき「これが最先端だ!」と思って、延々とリピートして観ていました。


─ゲームはいかがでしょうか?


横田 自分が小学生5~6年の頃に「ファイナルファンタジーVI」があって、「FFVI」をきっかけに絵を描き始めたんですよ。パッケージが天野喜孝さんの絵で本当にカッコよくて、あれの模写をしていたんです。それをクラスの人に見せたら褒められて、それからずっと絵を描いています。

「美少女」、「雰囲気」、「動物」等を描くのが楽しい


─お得意な作画やジャンルはありますか?


横田 すごい難しい質問だな……。アニメーターは「攻殻機動隊」から「サザエさん」まで何でも描けるのが理想ですが、個人的に描いていて楽しいと思えるのは「美少女もの」ですね。でも「美少女もの」で難しいのは、美少女じゃなきゃいけないってところなんですよ。崩れた瞬間すべてが崩壊するので、その点で言ったら、おっさんとかを描いていたほうが気は楽なんですよね。


重いものを重く表現できる作画が好きです。「雰囲気」の表現ですね。アニメって色と線でしか構成されていないんですが、「アルプスの少女ハイジ」(1974)のハイジのチーズとか、少ない情報量で本当においしそうに見えるじゃないですか。


あとは、「動物」をアニメで表現してかわいくなった瞬間もいいですね。最近だと「3月のライオン」(2016~18)の猫ちゃん。動物って実写だとコントロールしきれないですよ。映画「南極物語」の撮影も相当大変だったと聞いたので、動物のような現実ではうまくコントロールできないものをうまくコントロールできるのも、アニメのよさって気がします。


─「動物」で言えば、ストライクウィッチーズ 劇場版」(2012)に、芳佳が川で溺れた犬を助けるシーンがありました。


横田 そこは自分じゃないですね。手伝いで戦車のエフェクトを描いたくらいです。


─エフェクトですか! ちょっと意外ですね。


横田 エフェクトも楽しいですよ。エフェクトってリアルに描くこともできるし、あえてダサくするっていう選択肢もありますからね。映画「花とアリス殺人事件」(2015)で、車が発進する時に煙がモコォって出るカットがあるんですけど、めっちゃ煙のフォルムがヘボイんですよ。でも、それが作品にすごく合っているんですよね。

横田さんの昔の愛車「カワサキZ900RS」

成人向け作品も「抵抗なし」


─美少女で言えば、ツイッターアイコンは美少女イラストですね。何度か変えられていますが、比較的釣り目キャラが多いような……。


横田 釣り目の女の子が好きなんですよ。そこは多分、冨樫義博先生の影響だと思います。冨樫作品では「レベルE」のサキ王女とか模写してました。マンガ家のさめだ小判先生、胃之上奇嘉郎先生の絵も、結構模写しましたね。


─さめだ小判さんは、「スプライトシュピーゲル」や「異世界帰りの勇者が現代最強!」といった一般向けマンガだけでなく、「肢体を洗う」や「サイミンアプリ -悪夢の寝取られゲーム-」といったアダルトゲーム、いわゆるエロゲーでも、キャラクターデザインをされています。横田さんは、そういった成人向け作品にも抵抗はないのでしょうか?


横田 散々描いていますし、特にないですね。自分が所属していたAICという会社自体、美少女ものが強い会社でしたし。抵抗があるアニメーターさんも結構いると思いますけど、自分は全く抵抗ありません。


─一般向け作品ですが、横田さんが原画で参加された「kiss×sis」(2010)第3話には、レイティングされなかったのが不思議なくらい性的な描写がありましたね。


横田 三日月が、調理実習で作ったチョコバナナを舐めるところをやりました。こういうシーンは視聴者の反応もいいので、描いてて楽しいですね。


─「えびてん 公立海老栖川高校天悶部」(2012)も原画で参加されています。パロディも多い作品でしたが、どういったカットを任されたのでしょうか?


横田 第2話のセーラー服美少女戦士の変身カットなんかをやりました。


─「続・終物語」(2019)で描かれたカットは?


横田 3話の暦のナレーションに合わせて、撫子がコーラをガブ飲みするシーンです。「撫子の変なところを描いてくれ」と言われて描きました。変なところを描くのも好きですね。


─「変なところ」ですか。


横田 たとえばタイツを脱ぐシーンとかは、難易度高いんですけど、やりたいなと思いますね。ダンスシーンとかも喜んでやりますよ。


─「幸腹グラフィティ」(2015)のエンディングにも、変わった動きがたくさんありました。きりんが両手をうねうね動かしている、「タコタコウィンナー」のカットのとか。


横田 そこは自分が作監修で描きました。八瀬祐樹さんの演出修で「タコっぽい動きにしてほしい」とあったので、なんであの動きになったのか自分でもわからないんですけど、八瀬さんもよろこんでくれたからOKでしょうと。

キャラクターデザインで心がけている「3つのこと」


─キャラクターデザインをする際のこだわりをお聞かせください。


横田 心がけていることが3つくらいあって、まず第1に「原作ファンの人も納得してくれるもの」。2つ目が「アニメーションとして描きやすいもの」、3つ目が「キャラクターデザイン単体として魅力があるもの」です。


自分のアニメーションデザインの理想は、「魔法少女まどか☆マギカ」(2011)などのキャラデをされている岸田隆宏さんなんです。岸田さんのデザインは、見ていると描きたくなるのがいいんですよ。自分がキャラデをする時はいつも、あんなふうにできたらいいなぁって考えながらやっています。道が険しすぎる。


─色の決定にも関わっておられますか?


横田 打ち合わせには毎回参加しています。理想を言えば、色まで全部コントロールしたいというのはありますね。実は、別名義でイラストレーターをやっていた時もあって、その時に色も自分でコントロールするのに慣れてしまっているんですよ。

「プピポー!」や「波よ聞いてくれ」のデザイナーとして


─初キャラクターデザインは、「プピポー!」(2013~14)でしょうか?


横田 はい。押切蓮介先生のファンだったので、一緒に仕事できたのは本当によかったです。初キャラデでスケジュールも厳しかったんですけど、押切さんの絵の感じを損なわずにうまいことできたらな、と思ってやっていました。


─振り返ってみてご感想は?


横田 押切さんの絵は自分の素の絵に近いので、描いててストレスはなかったですね。押切さんもかわいい子は基本、釣り目なんですよ。あと世代的にも一緒だから話しやすかったです。やっているゲームも同じだし。またどこかで一緒に仕事できたらいいなと思います。あと、この作品が一番恵まれていたのは作画スタッフが全員、すばらしい方だったことです。参加されていた方を今検索してみたら、すごい方ばかりですよ。


─流行は意識していますか?


横田 最新の絵柄は常に意識しています。最新のアニメを観て、「こういう絵柄があるんだ!」と思ったら、積極的に取り入れるようにしていますね。


─「三ツ星カラーズ」(2018)の衣装も、とてもオシャレでした。


横田 原作者のカツヲさんがその辺りにすごく気を遣われる方だったので、「三ツ星」に関しては、ファッションが得意なめばちさんに全てお任せしました。アニメは集団作業なので得意な人に得意なところを任せる、というのも大切なことだと思っています。


─2020年4月放送予定の「波よ聞いてくれ」のデザインについても、お聞きしてよろしいでしょうか?


横田 原作の沙村広明先生が、信じられないくらい絵がうまいんです。なので、自分も絵がうまくならなきゃいけないのが大変です。あと沙村さんは白と黒の線の使い方が洗練されている方で、原作はタッチの表現とかも多いんですよね。そこを線で表現するか影で表現するかも、結構悩みました。

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