祝! 14年ぶりの新作「新サクラ大戦」発売! 日本のメディアミックスの歴史を変えた「サクラ大戦」の歴史を振り返る【ゲーム、レジェンド語り!第1回】
1996年、セガの「セガサターン」、ソニーの「プレイステーション」、任天堂の「NINTENDO64」が三つ巴となってゲーム機戦争を展開していた頃のこと。各社が趣向を凝らしたソフトを発売する中、セガが満を持して投入したのが「サクラ大戦」であった。
原作と総合プロデューサーには、当時「魔神英雄伝ワタル」や「天外魔境」シリーズといったアニメ・ゲームで知られるクリエイターの広井王子氏が抜擢された。当時セガの副社長であった入交昭一郎氏からの依頼は「キャラクターを作ってほしい」というもの。サイパンへ旅行に行った広井氏を口説き落とすため、入交氏が後を追って海を渡ったというから、セガがいかに本気であったかがわかるだろう。
「サクラ大戦」の大きな特徴としては、アドベンチャーゲームで表現されるキャラクター性と、シミュレーションゲームによる戦闘が融合しているところにある。キャラクター性とシミュレーションを組み合わせる試み自体は「マスターオブモンスターズ」や「ファイアーエムブレム」「伝説のオウガバトル」といった作品ですでに行われていたが、「サクラ大戦」はこうした作品とは大きく異なっていた。30分のテレビ番組のような構成で、アドベンチャーゲームでの受け答えがキャラクターたちの能力に影響を与えるのだから、当時のシミュレーションゲームとしてはかなり尖った作りといえるだろう。これも企画の立脚点がキャラクターを作ることにあるためで、目指すべきビジョンの明快さと、これにともなう取捨選択。そして、広井氏というアニメ経験の豊富な人物を中心に据えた入交氏の慧眼がうかがえる。
「サクラ大戦」独特の、時間制限付き選択肢「LIPS」。作品とともに進化していき、「サクラ大戦2」では、しばらく返答しない(熟考する)と新たな選択肢が出現するというパターンも登場、プレイヤーの臨場感を高めた
さて、この頃のセガには特に硬派なイメージが存在しており、ファンたち(少なくとも筆者とその周囲の人々)もこれを自認していたところがあった。なにしろ、セガサターンの前はハードなアクションゲームで知られる「メガドライブ」を発売しており、ゲームセンターでは1/60秒の激しい攻防を繰り広げる「バーチャファイター」を展開していたメーカーなのだ。そのセガが、かわいらしい女の子でいっぱいの「サクラ大戦」なるソフトを出すというのだから、筆者や周囲の古くからのセガ好きからは、イメージの違いにとまどいの声が上がったものだった。しかし、ゲーム雑誌の記事を読んでいくうちに「サクラ大戦」なるゲームはどうもモノが違うのではないか……と思えてきた。大正のようなレトロモダンな時代、桜の花が舞い散る中、歌い踊る「帝国歌劇団」と、魔に対する「帝国華撃団」という2つの顔を持つ美少女たちがスチームパンクなパワードスーツ「霊子甲冑」で戦うというのだから、これはもうワクワクするしかない。最終的に購入の後押しとなったのはセガというメーカーへの信頼だった。これまでにも全力のゲームで楽しませてくれたセガだから、「サクラ大戦」もきっと面白くなるに違いないというわけだ。それでもなんとなく気恥ずかしいものがあり、レジの順番を待っている時は妙にそわそわとしていた記憶がある。
実際にプレイして驚いたのは、とにかく王道を突き進んでいるということだ。いかにもヒロイン然とした快活な主人公・さくら、プライドが高いすみれ、冷静沈着なマリア、天真爛漫なアイリス、奇妙な発明品を作る紅蘭、ムードメーカーのカンナ……という隊員たちも王道なら、彼女らがシューターに飛び込んで自動で着替えさせられ、肖像画の裏にしつらえられた出口から姿を現すという出撃準備も特撮を思わせる王道のもの。霊子甲冑・「光武」が弾丸列車「轟雷号」や飛行船「翔鯨丸」に積み込まれて敵のもとへ向かう様もまた王道だ。いろいろと事件は起こるが正義は必ず勝ち、隊員たちは「勝利のポーズ」を決めて物語は一件落着、そして次回予告が始まる。TVアニメ的なノリをゲームで再現することにまったく照れがなく、その上で“定番”のギミックや演出については必ずプレイヤーの想像を超えてくる。実のところ、TVアニメをゲームで再現するというのは「サクラ大戦」が初めてではない。過去にもさまざまな作品がTVアニメのお作法を扱ってきたが、そうした作品によくある、照れやパロディの臭いがしないのが「サクラ大戦」だった。TVアニメをゲーム機で遊ぶというテーマに真正面から取り組んだものであり、そうした全力疾走は実にセガらしい姿勢。セガはやはりセガだったというわけで、「サクラ大戦2」の発売日には何の不安もなくゲーム屋へ急いだことを覚えている。
“「サクラ大戦」はギャルゲーか否か”という議論がある。ヒロインたちの魅力を描いているのだからギャルゲーだという意見と、公式で「ドラマチックアドベンチャー」とされているのだからギャルゲーではないとする声がある。どちらも一理あるのだが、個人的には後者に票を投じたい。その理由は、主人公・大神一郎の存在にある。多くのギャルゲーで主人公はプレイヤーの分身であり、特に1990年代ギャルゲーではオフィシャルの名前はなく、目も隠れた状態で描写されるなど、限りなく透明な存在だった。しかしながら大神一郎はキャラクター性と声を持ち、彼の努力が、それまでバラバラだった帝国華撃団・花組のメンバーたちを結びつけていく。真っ直ぐな熱血漢だが、どこか抜けたところがあり、更衣室やシャワールームなどに行くと「身体が勝手に動い」て結果的に覗きをはたらいたりしてしまう。しかし、いざ戦いとなれば二天一流を使いこなす猛者であり、危地に陥った隊員がいれば身を挺して「かばう」懐の深さを示す。そして、個性的な隊員たちのそれぞれにあわせて合体技を放つのだから、まさに達人だ。男の子が理想とする姿であり、少年マンガやアニメの主人公的で、描写が難しい類のキャラクター。当時のギャルゲーでは主人公の個性不要論が当たり前のようにささやかれていたことを考えると大きな違いだが、「キャラクターを作る」ことから始まった「サクラ大戦」だから、主人公はシッカリと立っていないといけないというわけだろう。だからこそ、プレイヤーは「なんでデフォルト名を変更できないんだ」などということなく、大神一郎を「主人公」ではなく「大神さん」と呼ぶようになった。そして、隊員たちの姿を見るのと同じくらいに大神さんの出番を楽しみにし、誰とエンディングを迎えても祝福することができた。「サクラ大戦3」では厳しい条件を満たすと「黒髪の貴公子」という称号を獲得できたが、ファンたちはこれに異議を唱えることはなかった。それはもはやヒロインがヒーローを仰ぎ見る視線。大神さんはそれほどの人物に成長したのだ。
特に印象的なのが、2001年の「サクラ大戦3」(ドリームキャスト専用タイトル)。発売前の段階でいろいろな議論が交わされていたことを覚えている。物語の舞台は日本の帝都からフランスの巴里へ。そしてヒロインたちは総入れ替えになるというから、ファンとしても心穏やかではいられなかったというわけだ。しかし、世に出た「サクラ大戦3」は期待を遙かに超えたものだった。藤島康介氏が手がける、華のあるキャラクターデザインは花の都・巴里のムードにピッタリなもの。底抜けに明るいシスターのエリカ、誇り高い貴族グリシーヌ、サーカスの団員コクリコ、懲役1000年を課せられた犯罪者ロベリア、ミステリアスな花火といった隊員たちはとにかくオシャレで華やかで、帝国華撃団の面々とは異なった魅力を持っている。また、帝国華撃団の隊員の扱いも絶妙で、攻略こそできないものの「頼れる先輩」として存在感を発揮しているのも見逃せない。シリーズものの映画やゲームにおいてターニングポイントが3作目。「サクラ大戦」では世代“交代”に成功したというより、帝国華撃団と巴里華撃団が“並立して受け入れられた”感がある。コンテンツを続けていくうえでの理想であり、あまり類を見ないといえる。帝国華撃団の新たな世代ではなく、巴里華撃団という地理的に隔絶されたところにいる別集団とした設定の妙だ。巴里という街についても、当時の風俗やさまざまな名所がリアリティを持って描かれており、プレイヤーは新天地を探検する感覚が得られる。隊員たちとの触れあいはもちろんのこと、巴里の風景や細かなディテールを見るのが楽しかったのは筆者だけではないだろう。異国の地で大神さんが苦闘しつつ隊員たちをまとめあげ、周囲から尊敬を得る姿は感情移入も容易だった。
戦闘についても大きく進化している。フィールドからはマス目がなくなり、行動力を示す「ARMSゲージ」がなくなるまで自由に行動できるように。攻撃するにしてもコマンドを選択して終わりではなく、ボタンを連打すれば連続攻撃が発動するのだからまるでアクションゲームのようである。結果として、シミュレーションゲームの戦略性を保ちつつ、より直感的に遊べるシステムの構築に成功している。シミュレーションゲームという形式は、多数の隊員たちが同時に登場し、これを大神さんが指揮するという「サクラ大戦」に最適のもの。しかし、一見してややこしそうに見えるという宿命があった。普通なら「シミュレーションはそういうものだ」で終わってしまいそうな所だが、そこで終わらない辺りがセガのすごさ。さまざまな工夫により、ゲームとしては当たり前のローディング画面すら存在しないのだからセガは全力だ。そして、恒例のミニゲームもクオリティアップしている。おまけのゲームなのに中身は豪華で、まさに劇場の如きもてなしといっても過言ではないだろう。「サクラ大戦」と「サクラ大戦2」ではセガサターンがアニメを流すTVになった。「サクラ大戦3」においては、ドリームキャストが巴里華撃団の劇場になったといっても過言ではないだろう。
この後、大神さんの物語は、帝国華撃団と巴里華撃団が合流する「サクラ大戦4」でひとまず完結。紐育に舞台を移した「サクラ大戦V」(PlayStation 2専用タイトル)では、大神さんの甥である大河新次郎を隊長に、剣士でカウガールかつ二重人格のジェミニ、敏腕弁護士のサジータ、賞金稼ぎのリカ、病弱なダイアナ、性別不明の昴という個性的なメンバーが活躍。前日譚としてアクションゲームの「サクラ大戦V EPISODE 0」が発売されたことも話題を呼んだ。その後「サクラ大戦」シリーズは14年という長い休眠期間に入ったが、2019年に「新・サクラ大戦」と(PlayStation 4専用タイトル)して復活を果たした。
「サクラ大戦」が後世に与えた大きな影響といえば、メディアミックス展開だろう。声優本人がキャラクターを演じ、歌い踊る様は、現在の2.5次元展開を20年は先取りしたものがある。初代作の声優たちは、舞台公演で本人がキャラクターを演じることを視野に入れたうえで、広井氏が舞台やライブを行脚して探したというから徹底している。その甲斐あり、「歌謡ショウ」は夏のイベントとして定着し、春の「新春歌謡ショウ」、そしてよりダイナミックとなった「スーパー歌謡ショウ」、クリスマスの「ディナーショウ」に各種のライブなど、さまざまに展開を続けている。つまりはゲームで聞いたあの声が聞こえてくる“本物”の華撃団のショウを現実で見られるというわけで、ゲームと現実が一体になったかのような体験ができるのだ。これらの会場で驚かされるのが、女性客の多さである。歌劇的な要素がより広い層にアピールしているというわけで、これも「サクラ大戦」が長く愛され続けている理由のひとつだろう。また、花組を愛するギャング団のボス団耕助や、その一員であるベロムーチョ武田など、オリジナルキャラクターたちも活躍しており、これは舞台としての完成度の高さを示すものだろう。
公演により劇場とファンに心理的な繋がりが生まれていることも見逃せない。たとえば「紐育星組ショウ」では、日本青年館大ホールで公演が行われていたことと、紐育華撃団の本拠地が「リトルリップ・シアター」であることから、会場が「リトルリップ・青年館」と呼ばれていた。こうした愛着があるからこそ、「サクラ大戦」ファンたちは14年間の休眠期間を耐え抜くことができたのではないだろうか。
「サクラ大戦」を語る上では、田中公平氏による楽曲の数々も外せない要素だ。なかでも主題歌「檄!帝国華撃団」は、一度聞いたら忘れられぬイントロから物語の概要を語り、そして華撃団隊員たちの熱さがほとばしるという、「ディスイズ主題歌」とでもいうべき出来映えになっている。「サクラ大戦」を知らない人にもこの曲を聴いてもらえれば内容が理解できるという、ゲーム及びアニメ主題歌のマスターピースだ。「新サクラ大戦」の「檄!帝国華撃団〈新章〉」は、基本的に「檄!帝国華撃団」の流れを汲む曲だが、あまりに完成されていて手を入れるのも憚られるであろうイントロとサビにトランペットとコーラスを入れることで音の密度と曲全体の緊張感を高めているあたりの攻めっぷりも見逃せない。同作では新隊長・神山誠十郎が持つ連絡用デバイス「スマァトロン」の着信時に同曲のイントロが流れるが、その度にテンションが上がってしまうプレイヤーも少なくないだろう。
帝国華撃団の構想は広井氏の叔母が松竹歌劇団に所属していたことから生まれたものだという。歌って踊ってさらに戦う秘密戦隊は広井氏なくしては生まれなかったものであることは間違いない。単に斬新なアイデアというだけでなく、歌と踊りで邪を祓い、魔を鎮めるという歌舞音曲の本質にまで踏み込んだ理由付けがされているあたりは「サクラ大戦」らしい緻密さだ。
2019年の我々はゲームと現実が渾然一体になったメディアミックスや2.5次元展開を当たり前の様に享受している。しかし、入交氏がサイパンで広井氏を口説かなければ、そして広井氏が「サクラ大戦」を作らなければ、現在のメディアミックスシーン自体がなかったかもしれない。そうした意味で「サクラ大戦」が与えた影響は非常に大きなものがある。そして、これまでのどの作品も時代を越えた魅力がある。「新・サクラ大戦」をきっかけに、「サクラ大戦」とメディアミックスの歴史に思いを馳せてみてほしい。
(文/箭本進一)
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