「10年後の放課後ティータイム」として5人がステージに立つ奇跡──「Animelo Summer Live」ゼネラルプロデューサー・齋藤光二さん「Animelo Summer Live 2019 –STORY-」振り返りインタビュー(後編)
長きに渡ってアニサマを統括し、世界最大のアニソンフェスのステージを作り上げてきたキーマンである齋藤光二ゼネラルプロデューサーにインタビュー!
後編では、「Animelo Summer Live 2019 –STORY-」(アニサマ2019)の裏話に、よりフォーカスしていこう。
⇒紅白歌合戦から氷川きよし、如月千早まで、今年のアニソンシーンと「アニサマ」を語りつくす! アニサマゼネラルプロデューサー・齋藤光二「Animelo Summer Live 2019 –STORY-」振り返りインタビュー(前編)
──最近のアニサマを見ていると、アーティスト個々のステージが集まったというより、それぞれの構成につながりがある、1本のライブとしての流れがあるように感じます。そのあたりは意識していますか?
齋藤 そこはまさに考えてやっていますね。アニサマという場が成熟してきたこともあるだろうし、プロデューサーとしてその方向に持っていっている部分もあるかもしれません。特に今年は“STORY”というテーマがあったことも大きいと思います。出演順や歌う楽曲についてはアーティスト側からの希望を最大限考慮して、皆さんとキャッチボールをしたうえで決めていきます。だから当然コラボとか、歌ってほしい楽曲とか、面白いなと思ってもなんでも実現できるわけではありませんが、それでもセットリストなどにささやかな意図を込めることはあります。それをどう読み解いてくれるかはお客さん次第なところがありますが。
──毎年コミュニケーションを交わすことで、できることの幅も増えてくるのでは。
齋藤 一緒のステージを作る成功体験の共有、同じ釜の飯を食った記憶というのはとても重要ですね。今回、放課後ティータイムがアニサマのステージに立ってくれましたが、豊崎さんや寿さんがスフィアで一緒にやってきたこと、日笠さんがソロアーティストとしてアニサマで歌ったこと、竹達さんがカロリーQueenとしてステージでお肉を食べたことなど、すべてがつながっているんですね。よく知っているアニサマという場なら「けいおん!」の10年目の恩返しができるんじゃないか。新しい衣装で歌いたいという希望があれば、何が何でもかなえますし。アニサマという場を一度経験したアーティストからは、次の年はこういうことをやりたい、という希望が出てくるんですよ。
──ゲネ(通し稽古)で前後のアーティストのパフォーマンスを見て、演出を若干変えることもあるそうですね。
齋藤 NHK BSプレミアムで放送された副音声で話したのは、ReoNaさんの後に登場するi☆Risのことですね。ReoNaさんはステージで世界観をきっちり構築するアーティストなので、次に歌うなら入り方を考えないといけない。「幻想曲WONDERLAND」は「ここ、どこだろう?」のような台詞から入るんですが、前の曲からの流れ的に「ここからi☆Risの時間だよ、盛り上がっていいんだよ」というシグナルを送ったほうがいいと感じたので、最初に軽いあおりから入って客席のスイッチを切り替えるようにアドバイスしました。今年は楽曲がちょっと大人な構成な分、MCでは元気なi☆Risを出そう、メンバーそれぞれの個性を改めて強調してやってみようとか、そういうことをゲネの中でコミュニケーションしながら作っていきました。そういう前のアーティストとの温度差や空気の切り替えは、fhānaとスフィアの時も意識していたと思います。セットリストの流れの話で言うと、実は今回、一度できあがったDAY2のセットリストに、結城アイラさんの「Violet Snow」、茅原実里さんの「エイミー」を後から追加しているんです。元々は北宇治カルテットの「トゥッティ!」から水瀬いのりさんの「Wonder Caravan!」という流れだったのが、2曲が入ることで一度空気がしんみりとしますよね。そこを再びパーンと自分の世界に引き戻せるのは、水瀬さんの実力があればこそだと思います。
──「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」から「Violet Snow」と「エイミー」を追加したとのことですが、このタイミングで京都アニメーションにフォーカスしたセットリストにするかどうかは、難しい判断があったのではないかと思います。
齋藤 ここはすごく悩みましたね。言葉にはしなくても、ファンも、ステージに立つアーティストも起こってしまった出来事に対する想いはいろいろあったと思います。言葉にするとうまく伝わらないかもしれないし、どう言葉にしていいかわからないようなことを、音楽に乗せて伝えるステージだったんじゃないかと思います。茅原さんは京アニ作品にすごくゆかりがある人ですし、茅原さん、TRUEさん、結城さん、fhānaの佐藤さんとtowanaさん、黒沢さんや豊崎さんや日笠さんたちキャストの皆さんと本番までにいろいろと、それぞれの想いについて話しました。
──去年も「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のバトンをつなぐ構成をやって、京アニ作品楽曲のステージを作ってきたアニサマだからこそ、自然にあの流れを組みこめた気がします。
齋藤 悲劇的な事件に対する怒りや悲しみは当然あるんですが、幸せな日常を続けていくこと、前を向いて生きていくことの大切さというものも伝えていかないといけない。だから、特別なことをやったわけではないんです。放課後ティータイムとして出演した豊崎さんたちも、最高のパフォーマンスで「けいおん!」が大好きだという気持ちを伝えてくれました。北宇治カルテットのもえし(豊田萌絵)も泣きそうになりながら笑顔でがんばってくれた。この大変な時期に、バックにアニメ映像を流す許諾などに応じてくれた関係者の皆さんには本当に感謝しています。
──茅原実里さんの「純白サンクチュアリィ」や、栗林みな実名義に戻した栗林さんの「Crystal Energy」にはアニサマと一緒に歴史を積み重ねてきたアーティストの原点を感じました。
齋藤 「純白サンクチュアリィ」はこちらからも提案したし、茅原さんの側からも歌いたいという希望がありました。2005年にアニサマを立ち上げた頃は、まだほかに似たようなアニソンフェスはなかったし、アニサマが続いていく保証もどこにもなかった。今のように認知されていなかった頃に協力してくれた栗林みな実さんや奥井雅美さん、JAM PROJECTさん、水樹奈々さんといった方々には本当に感謝しています。そしてあの頃のままに、それ以上の歌声とかっこよさを見せてくれるのは本当にすごいことだし、貴重なことだと思います。積み重ねてきた曲を、ずっと続いてきたアニサマのステージで歌うことで生まれる意味もあると思うんですね。
──今回の放課後ティータイムの復活にも、アニサマの流れがあるんですよね。
齋藤 豊崎さんが2017年の「涼宮ハルヒの憂鬱」SOS団の復活ステージを知って、「けいおん!」でもやりたいと思ってくれたそうです。それで、豊崎さんや日笠さんがステージに立ちたいと働きかけてくれたことが、今回の実現にもつながっています。
──サプライズとして「けいおん!」放課後ティータイムが登場した時の歓声は本当に圧倒的で、たっぷりと間を取った導入映像の間に、気づいた人から歓声が上がるグラデーションが面白かったです。
齋藤 スクリーンで最初に、ギターやベースのアップでモノクロ映像を見せたんです。わかる人はここで歓声が上がるんですね。豊崎さん(唯)の手元を映したりするうちに、徐々にステージに現れるのが誰かが会場に伝わっていく。
──「Don't say "lazy"」のステージ衣装は新調なんですよね。
齋藤 豊崎さんたちからあの衣装を着てみたいという要望があって、あのステージのためだけに新調したんですよ。「けいおん!」のオープニング映像は部室で演奏している映像ですが、エンディングはプロのMVのような構成じゃないですか。実はあの映像は、アニメの10年後の放課後ティータイムという設定があるそうなんです。だから今回のアニサマは、10年後の放課後ティータイムの衣装を着た彼女たちが、「けいおん!」のアニメから10年後にアニサマのステージに立つという再現なんです。
──それがわかった時、知った時の気持ちよさはすごいですね。
齋藤 アニサマではユニバーサル(普遍性)とマニアックの両面を大事にしていて、10年後の「Don't say "lazy"」の意味とかはわかる人にはわかるマニアックの面なんです。スクリーンの機材を見た瞬間にわかるかもそうだし、それは作品への思い入れ、ゴーマニ(マニアックさ)の度合いによって受け取り方は変わってくるんですね。だけど、「Don't say "lazy"」が流れた瞬間の会場が割れるような大歓声や、JAM Projectの歌声とともに吹き上がる炎、fhānaの「青空のラプソディ」でたくさんの人が登場してステージでみんなで楽しくやっている感じとかは誰もがなんとなくでも楽しめるものじゃないですか。そういうユニバーサルとマニアックな両面の感動を伝えたいと考えています。
──休憩前を放課後ティータイムが締めくくり、休憩後をJAM Projectからスタートする構成はなんともぜいたくであると同時に、主役を張れるアーティストが数多くいるライブならではの構成の大変さが透けて見えます。
齋藤 JAMさんがバリバリの現役アーティストだからこそできることで、対バンのような感覚がありました。ライブの中盤でJAM Projectとアニサマフレンズが一緒に歌う「SKILL」の後を人間が担当するのは無理だろうということで、小倉唯さんと内田真礼さんのハムスターに「ハム太郎とっとこうた」をお願いしました(笑)。
──あれはやはりアニクラでの流行を意識しているのでしょうか。
齋藤 当然少しは意識した選曲ではあるんですが、小倉さんと内田さんは(アニクラを)知らないので、会場のコールにびっくりしていましたね。誰かを傷つけるわけじゃなく、自分勝手じゃなくみんなで楽しむためのコールってアニソンらしくていいなと思います。
──今回はRoselia feat. Konomi Suzukiが「This game」をやったり、Poppin’Partyが「feat.アニサマバンド」として「ティアドロップス」を演奏したりと、バンドレベルでのコラボが目立ちました。それはバンドとしての信頼感がある程度ないとできないことだと思うんですが、いかがですか?
齋藤 ほかのアーティストとバンドとして共演することは大変なことだし、ボーカリスト・鈴木このみって怪物だよ、と(Roseliaのボーカルとして鈴木さんと一緒に歌う)相羽さんにちょっとプレッシャーをかけたりもしました。その圧に対し、相羽さんは受け身が取れる人だと思ったので。「This game」は普段アニサマバンドで披露している名曲ということもあり、ベースとドラムの合わせ方とか、細かいところまで指示を出して、結果的にパフォーマンスで応えてくれたと思います。Poppin’Partyにしてもアニサマバンドはトップレベルのプロですから、これなら大丈夫と思わなければ一緒に演奏してとは頼めないですよね。(ドラムの)大橋彩香ちゃんの「NOISY LOVE POWER」のレコーディングドラムをアニサマバンドのmasshoi君が担当していて、彼女はそのドラムがすごく好きなんだそうです。だからリハの時にmasshoi君にドラムのコツを教えてもらってすごく嬉しかったと話していました。今となってはとても貴重な経験になってしまいましたが。
──2019年12月4日、アニサマバンドでドラムを務めていた山内“masshoi”優さんが亡くなりました。今回、インタビューの直前に発表がされたタイミングですので、masshoiさんについてもうかがえますか。
齋藤 12月4日に心不全で亡くなったという知らせを、直後に受け取りました。ご家族の意向で、葬儀は近親者と本当に近しいミュージシャンだけが参加する形でした。彼は事務所に所属せずフリーで活動していたので、今回の発表についてはアニサマでお手伝いさせていただきました。
──masshoiさんとの思い出や、印象深いことについて聞かせていただければと思います。
齋藤 とにかくドラムが素晴らしくて、いつも頼りにしてたし、カッコよくて性格もやさしくて最高の男でしたね。一緒に仕事ができること、本当に誇りに思っていました。
──訃報に対して、アニソン業界だけに留まらない本当に多くの方が追悼されていました。関わったアーティストや作品の数々の名前が伝えられて、これほど広く活躍されていたことを改めて認識した人も多いと思います。
齋藤 彼はアニサマバンドのメンバーではあるんですが、本当にいろいろなアーティストのライブやレコーディングに参加していました。アニサマに出演したことのあるアーティストで言えばLiSAさん、angela、東山奈央さん、オーイシさん、奥井雅美さんやしょこたん(中川翔子)のライブでドラムも担当していました。大橋彩香さんや内田真礼さん、「けものフレンズ」も。あげていくときりがないですが、アニソンファンはmasshoi君のことを意識していなくても、みんな彼の音を聴いているはずなんです。NHK BSプレミアムで今年のアニサマの映像が放送されましたが、目の前の映像でドラムを叩いているのに、もうmasshoi君はいないんだ、という事実はいまだに不思議で信じられないです。
──訃報が公表される前に放送されたDAY2の映像でも、ドラムを叩く姿のかっこよさが印象に残っていました。アニサマの映像はバンドメンバーにフォーカスすることも多いですよね。
齋藤 私が映像のディレクションをする時にそれは意識しています。主役はアーティストさんなんですが、音楽やステージはダンサー、振付師、照明、PAといったスタッフ、そしてバンドメンバーがいて、みんなで作っているものなので。だからライブの音楽を映像にする時に、ドラムの音が印象的なパートならそこを映して立体的に見せたいと思っているんです。縁の下の彼らの表情や、奏でる音がこんなにかっこよくて、楽しんで演奏していることを見てもらいたい。ミュージシャンは音や映像が残るので、彼がすごいドラマーだったんだよってことを見て、聴いてもらうことで彼を思い出してほしいです。
──最後にアニサマファンにメッセージをお願いします。
齋藤 今年のアニサマのテーマは「STORY」でした。STORYは楽しいことだけではなくて、悲しいこと苦しいこともあります。2019年のアニサマも決して楽しい記憶だけではなく、いろいろな想いが交差した年でもありました。でもだからこそ、来年はもっといい年にしよう、もっといいコンサートにしようという想いは、出演者も、ファンの皆さんも共有してくれるのではないかと思います。今年、放課後ティータイムという奇跡を目の当たりにできたように、来年は何を見られるんだろうと期待してほしいですね。アニサマに限らず世の中の大きな話として、今年よりも来年、来年よりも再来年がよい年になればいいなと思います。音楽には特別な力があるので、それをこれからも届けていきたいと思います。
(取材・文/中里キリ)
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