「サザエさん」だけじゃない! 老舗アニメ制作会社「エイケン」の歴代主題歌集「エイケン50周年記念 エイケン主題歌セレクション」【不破了三の「アニメノオト」Vol.05】

「アニメノオト」第5回は、2019年4月24日に発売になった「エイケン50周年記念 エイケン主題歌セレクション」に注目します。

「エイケン」とは、テレビアニメ史上最長の放送期間を誇る長寿番組「サザエさん」(フジテレビ系/1969~放送中)の製作で知られる老舗のアニメ制作会社。エイケンの前身である「株式会社テイ・シー・ジェー動画センター」の設立が1969年3月であるため、そこから50周年の今年を記念して発売されたものです。企業としてのエイケンのルーツにはそこからさらに先があり、1952年、現在では輸入自動車販売大手として知られる「ヤナセ」が、来たるべきテレビ時代(日本での地上波テレビ放送の開始は1953年)に備え、テレビ受像機の輸入販売を目的として興した「日本テレビジョン株式会社」にまで遡ります。その会社がテレビCMの製作に乗り出し、かつ、アニメーションを使ったCMづくりを得意としていったことが、エイケンの発足へとつながっていきます。テレビ時代・アニメ時代を先読みした、とても目の付けどころが鋭い会社であったことがおわかりいただけるでしょうか。ずっと「サザエさん」だけを作っているのんびりとしたアニメ会社……と思っていると、とんでもない。その万全の「安定感」の中には、進取の気性や開拓精神などの「意外性」がしっかりと刻まれているのです。

今回の「エイケン50周年記念 エイケン主題歌セレクション」は、エイケンが制作してきた歴代のアニメ番組主題歌から選りすぐりの21曲を収録したコンピレーション企画になっています。収録曲の1曲目は「仙人部落のテーマ」。「鉄腕アトム」に遅れること9か月で、エイケンは連続テレビアニメの放送に乗り出します。それがテレビアニメ「仙人部落」(フジテレビ系)です。15分番組ではあったものの、放送時間が23:40(後に22:30に移動)という深夜帯、かつ、お色気を含んだ大人のためのアニメ番組という大胆な企画でした。そして2曲目、3曲目には、テレビアニメ黎明期の大ヒット作として名高い「鉄人28号」(フジテレビ系)、「エイトマン」(TBS系)のテーマを収録。しかしよくよく調べてみると、「仙人部落」が1963年9月放送開始、「鉄人28号」が同年10月放送開始、そして「エイトマン」が同年11月放送開始という驚きのタイミングであることがわかります。週替わりで放送される連続テレビアニメのノウハウがまだ固まっていないこの時期に、エイケンは3作品を同時並行で制作するという荒業に挑戦していたわけです。「鉄腕アトム」1本でフル回転していた虫プロも、「狼少年ケン」(「エイトマン」と同じ11月放送開始)でテレビアニメへの進出を準備していた老舗アニメ制作会社・東映動画(現:東映アニメーション)も、このエイケンの豪快さには驚かされたそうです。制作体制や技術が異なる現在の状況と単純に比べることはできませんが、テレビアニメという新興メディアに賭ける当時のスタッフの意気込みと熱量には、なんとも心を揺さぶられます。

ここからは、「未来からきた少年スーパージェッター」(TBS系/1965)、「遊星少年パピイ」(フジテレビ系/1965)、「遊星仮面」(フジテレビ系/1966)とSFヒーローアニメの主題歌が続きます。「スーパージェッター」は「エイトマン」の後番組、「遊星少年パピイ」は「鉄人28号」の後番組、そして「遊星仮面」は「遊星少年パピイ」の後番組と、この時期、エイケン制作のアニメ枠が継続していたわけです。また「鉄人28号」「遊星少年パピイ」「遊星仮面」の主題歌の作曲はすべて、日本のCMソングの父とされる作曲家・三木鶏郎が担当しています。一社提供番組が少なくなり、近年はあまり意識されなくなってきましたが、当時のテレビには、こうした「放送枠のイメージ」を大切に継承するという文化がありました。初期エイケン作品には、そうした当時の空気を感じることができます。

続いては「サスケ」(TBS系/1968)、「忍風カムイ外伝」(フジテレビ系/1969)の主題歌。「忍者ハットリくん」(NET系/1966)、「仮面の忍者 赤影」(フジテレビ系/1967)など、実写ドラマが先行していた忍者ブームを受け、エイケンは白土三平原作の忍者漫画を相次いでテレビアニメ化。「サスケ」は、エイケン初のカラーによるテレビアニメシリーズとなりました。そして「忍風カムイ外伝」が放送されたのは、フジテレビ系列日曜18:30の「東芝提供枠」だったことに注目です。そう、現在もなお続く、あの「サザエさん」の放送枠でのエイケンのアニメは、「忍風カムイ外伝」から始まっていたわけです。「カムイ外伝」本放送当時は、「東芝がカラーでお送りする忍風カムイ外伝」のナレーションとともに、主人公カムイの姿に東芝のマークが大写しになるという、一社提供番組ならではオープニングが流れていました。

かくして、「忍風カムイ外伝」の後番組として始まった「サザエさん」が、世界で最も長く放映されているテレビアニメ番組としてギネス世界記録を更新中であり、エイケンの看板番組となったのは皆さんがよくご存じのとおり。放送開始から変わらないオープニングテーマ「サザエさん」、エンディングテーマ「サザエさん一家」とも、もちろん今回の商品にも収録されています。また、「火曜日サザエさん」の名で親しまれた再放送番組「まんが名作劇場 サザエさん」(1975~1997)では数多くのオープニング/エンディングテーマが作られていますが、今回の商品には、最も長期間使用され、原作者の長谷川町子氏もお気に入りだったという「サザエさんのうた」「あかるいサザエさん」の2曲が収録されています。

また1976年にはロボットアニメ「UFO戦士ダイアポロン」(TBS系)が放送されています。あのエイケンがロボットアニメを?と驚かれるかもしれませんが、前述のとおり、日本で最初の巨大ロボットアニメ「鉄人28号」を手がけたのはほかでもない、エイケンなのです。1972年の「マジンガーZ」(フジテレビ系)以来、大ブームを巻き起こしていたロボットアニメの市場に、満を持して再参入したのが本作ということになります。三体の小型ロボが合体して主人公メカ・ダイアポロンになるというシステムや、主人公が「操縦」ではなくダイアポロンに「合身」して戦うというスタイル、当時流行のアメリカンフットボールの試合着を模したスマートなロボットデザインなど、さまざまな新機軸を打ち出し、当時の子どもたちから喝采を浴びました。作曲家・山本正之が「ヤッターマン」(フジテレビ系/1977)の大ヒットでアニメソング作家として一躍脚光を浴びるよりも前に作り、伝説のアニメソング歌手・子門真人が高らかに歌い上げた名主題歌「UFO戦士ダイアポロン」も、もちろん本レコードに収録されています。

そのほか、本商品には、1980年代以降、すでに人気のあった原作漫画をていねいにアニメ化することでエイケンの安定感と底力を見せつけた「キャプテン」(日本テレビ系/1980)、「ガラスの仮面」(日本テレビ系/1984)、「ハーイあっこです」(テレビ朝日系/1988)、「コボちゃん」(日本テレビ系/1992)、「クッキングパパ」(テレビ朝日系/1992)、「ぼのぼの」(フジテレビ系/2016)等の各主題歌が収録されています。

最後に種明かしをすると、この「エイケン50周年記念 エイケン主題歌セレクション」、なんとアナログレコードのみの発売で、CD商品は存在しないという大胆な企画なのです。近年、アナログレコードの人気再燃にともない、CD製作の際、ボーナス商品としてアナログ盤も同時リリースするという企画は増えていますが、復刻再発でもない新規のコンピレーション盤をアナログレコードだけで発売するというのはなかなかに珍しく、実に挑戦的な試みと言えるでしょう。このあたりも安定感と意外性とが共存してきたエイケン50年の企業精神がにじみ出ているような気がします。

今年10月には、テレビアニメ「サザエさん」も放送開始50周年を迎えます。放送開始以来、さまざまな世相と生活文化を反映し、私たちの暮らしとともに歩んできた「サザエさん」も、近年は声の出演で長年耳なじんだキャストの世代交代や、「カムイ外伝」時代から番組を支えてきた東芝がスポンサーを降板するなど、さまざまな変化を迎えています。また、50周年記念プロジェクトの一環として、放送初期のフィルムがデジタルHDリマスターされてAmazonプライムビデオで配信されたのも記憶に新しいところ。現在の「サザエさん」とは全く異なる作品性や色彩感、斬新な画面デザインなどに驚かされた方も多いのではないでしょうか。

これこそまさしくエイケンが内に秘めたる意外性の姿。安定感の中にも常に挑戦的な心を忘れないエイケン50年の歩みを、今一度振り返りながら、その歴代名主題歌が刻まれたレコード盤に針を落としてみるのはいかがでしょうか。

(文/不破了三)

【商品情報】

■アナログ「エイケン50周年記念 エイケン主題歌セレクション」

・発売日:2019年4月24日

・価格:6,000円(税別)

・レーベル:日本コロムビア

■収録内容

《12inch》

Side-A

1.仙人部落のテーマ* (『仙人部落』より)

 歌/スリー・グレイセス

2.鉄人28号* (『鉄人28号』より)

 歌/デューク・エイセス

3.エイトマンのうた<レコード・バージョン>* (『エイトマン』より)

 歌/克美しげる

4.スーパージェッター (『未来からきた少年スーパージェッター』より)

 歌/上高田少年合唱団

5.遊星少年パピイの歌* (『遊星少年パピイ』より)

 歌/デューク・エイセス

6.遊星仮面* (『遊星仮面』より)

 歌/デューク・エイセス

7.サスケの歌 (『サスケ』より)

 歌/ハニー・ナイツ

8.忍のテーマ (『忍風カムイ外伝』より)

 歌/水原弘

9.しっぽはぐぐんと (『のらくろ』より)

 歌/大山のぶ代

10.おんぶおばけの歌 (『隆一まんが劇場 おんぶおばけ』より)

 歌/前川陽子

Side-B

1.UFO戦士ダイアポロン (『UFO戦士ダイアポロン』より)

 歌/子門真人

2.君は何かができる (『キャプテン』より)

 歌/99 Harmony

3.ガラスの仮面 (『ガラスの仮面』より)

 歌/芦部真梨子

4.キッチンから愛をこめて (『ハーイあっこです』より)

 歌/小坂明子

5.ガンバレ男の子 (『コボちゃん』より)

 歌/大谷育江

6.ハッピー2・ダンス (『クッキングパパ』より) ※「2」は二乗

 歌/YASU

7.bonobonoする (『ぼのぼの』より)

 歌/モノブライト

*モノラル録音

《7inch》

Side-A

1.サザエさん (『サザエさん』より)

 歌/宇野ゆう子

2.サザエさん一家 (『サザエさん』より)

 歌/宇野ゆう子

Side-B

1.サザエさんのうた (『まんが名作劇場 サザエさん』より)

 歌/堀江美都子

2.あかるいサザエさん (『まんが名作劇場 サザエさん』より)

 歌/堀江美都子

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