【インタビュー】坂本真綾と椎名林檎のコラボが実現! 新曲「宇宙の記憶」は、ジャジーで哲学的
TVアニメ「BEM(ベム)」のオープニングテーマ「宇宙の記憶」を、30枚目のシングルとしてリリースする坂本真綾。楽曲プロデュースを椎名林檎が手がけたジャジーなナンバーで、バックの演奏は「BEM」の音楽を担当し、椎名林檎とも親交を持つジャズバンド、SOIL & "PIMP" SESSIONS。豪華な顔ぶれによる曲となった。また、カップリングには、坂本真綾の作詞・作曲による「序曲」や、the band apartのカバー「明日を知らない」を収録。30枚目という節目にふさわしい、聴き応えのある1枚になった。
「今だ!」という気持ちで、椎名林檎さんにオファーしました
──ニューシングル「宇宙の記憶」は、TVアニメ「BEM」のオープニングテーマです。「BEM」は、1968年から翌年にかけて放送されたTVアニメ「妖怪人間ベム」の放送開始50周年を記念した新作ですが、オリジナルとは世界観がかなり違って、番組PVを最初に見たときは驚きました。
坂本 ニューヨークをイメージした街(劇中の名称は、リブラシティ)を舞台に、大人っぽい洒落た雰囲気のアニメにしたいと、スタッフさんから最初に説明を受けました。サウンドトラックを、SOIL & "PIMP" SESSIONSが担当すると聞いて、「じゃあ、こういう世界観なんだな」とイメージしやすかったですね。
──SOIL & "PIMP" SESSIONSは、5人組のジャズバンドです。坂本さんとは、どのような関わりがあるのでしょうか?
坂本 メンバーの方に私の曲の制作に参加していただいたことがありました(たとえば、シングル「DOWN TOWN/やさしさに包まれたなら」収録の「悲しくてやりきれない」は、SOIL & "PIMP" SESSIONSのピアノ・丈青、ベース・秋田ゴールドマン、ドラム・みどりんによるピアノトリオ、J.A.Mのプロデュース)。それで、「BEM」の新曲を誰にお願いして、どんな曲にしようか考えたとき、SOIL & "PIMP" SESSIONSと、よく一緒に作品を作られている椎名林檎さんが思い当たったんです。
──椎名林檎さんが、坂本さんの新曲をプロデュースするというのは、ビッグニュースでした。椎名さんとの接点は、今まであったのでしょうか?
坂本 仕事での接点はありませんでしたが、林檎さんがデビューされた頃から、ずっと聴き続けて、刺激を受けていました。自分と同年代の女性シンガーソングライターの中でも異彩を放っている方で憧れましたし、プライベートでカラオケで歌ったりして、私の人生の身近にあったアーティストです。いつか仕事でご一緒できたらいいなという希望をいだきつつ、私が林檎さんの世界観と交われる機会なんてあるのだろうかと思っていました。
──その機会が、「BEM」でついにやってきたと?
坂本 はい。「今だ!」という気持ちで、思い切ってオファーしたら、プロデュースを快諾してくださいました。
──作詞、作曲、編曲のすべてを、椎名林檎さんに依頼されたんですよね。
坂本 「BEM」はよりスタイリッシュになっていますが、正義が勝つとは限らなかったり、いい行いをしても報われなかったりする理不尽な世界を冷ややかに見つめている視線は、昔の「妖怪人間ベム」と共通しています。林檎さんはシナリオを読んだり、作品のテーマに沿って作詞してくださいました。私にとって30枚目のシングルという節目の作品なんですけど、今回はあえて自分で歌詞を書かずに、まな板の上の鯉になって、林檎さんに料理されてみたいと思ったんです。実際、私の新鮮な一面を引き出してもらえて、お願いしてよかったです。
──シナリオを読み込んだうえで、「宇宙の記憶」の歌詞ができ上がるというのが、椎名林檎というアーティストのすごさだと思います。
坂本 私には絶対に書けないもので、初めて読んだときはしびれてしまいました。陰と陽、男と女といった相反するものが並べられている歌詞なんですけど、その中に自然の普遍の摂理や、人間の業について語られている。それほど長くない楽曲の中に無駄なく言いたいことが詰め込まれていて、俳句を読んでいるような感覚に包まれたんです。第1稿の段階であまりにも好きになって、「完璧です」とお返事したんですけど、その後、ここを直します、ここも直しますと、何度も推敲されて、細かいフレーズをブラッシュアップしてくださって。その度にどんどんよくなっていくのを見て、林檎さんの表現を追求するお姿に、大いに刺激を受けました。
──ワンワード直しただけで、印象とか意味合いが変わっていくというか。
坂本 そうですね。しかも、このメロディに対して、こういう言葉の乗せ方をするんだと、作曲したご本人ではないと出てこない発想がところどころにありました。「これは、歌うのは難しいかも」と一瞬感じてしまったんですが、不思議なことに口に出してみたら快感に変わるというか、これしかないというところにピンポイントでボールを投げてこられたような面白さがありました。
──歌うことで快感をもたらす歌詞というとらえ方は、素敵です。
坂本 もうひとつ面白いなと思ったのは、楽曲を作る前にキー合わせをしなかったことです。林檎さんのマネージャーさんが、「椎名は絶対にばっちりのキーで作ってくるので、大丈夫です」と明言されて、初めてご一緒する方なのに、キー合わせをしないなんてことがあるのかなと思っていたら、本当にばっちりだったんですね。
──坂本さんのボーカルを、すごく理解されて作られたということですね。
坂本 林檎さんが歌う仮歌を聴いた段階で、いつもとは雰囲気が違っていて、私が歌うことを前提に作ってくださっているんだなと理解できました。まるでオーダーメイドの服を仕立ててくださったようなぴったり感があって、「こんなにフィットするなんて、不思議!」と思ったんですけど、林檎さんにとっては不思議でもなんでもなく、すべてが意図的なんです。鋭い個性とともに、すぐれた客観性をもった方なんだなと思いました。
──意外に感じるのですが、とても職人的な作り手であるということですね。
坂本 そういう曲作りに、喜びを感じていらっしゃるような気がします。自分自身のために曲を作るときとはまた違う切り口で、オーダーに的確に作っていくことも林檎さんにとっての楽しみなのではないかなと。
──レコーディングにも、椎名さんは立ち会われたのでしょうか?
坂本 はい、みずからディレクションしてくださいました。印象に残っているのは、大サビの前にメロディが変化する「あなたのまなこが なみだを湛えている」という部分で、私は最初、歌い上げる感じにしていたんですけど、すごく抑えてウィスパーで歌ってほしいという指示がありました。それから、間奏部分も面白くて、「ここに女王様のうめきを入れてください」と(笑)。私が声優だから、そういうオーダーをしてくださったのかもしれませんが、普段聞かない指示だったので、思わず笑っちゃいました。
──実際に「女王様のうめき」を演じられたんですか?
坂本 宇宙の女王様のような存在が人間の愚かな行いを眺めて、嘆いている様ということだったので、うめきというよりは、ため息に近い声になりました。
──歌詞カードの表記の仕方も変わっています。1行19字詰めのタテ書きのブロックになっていて、行替えがないんですよね。
坂本 林檎さんは、ご自身の歌詞も最近はその表記になっているので、提供曲も準じたということだと思います。ブロックになった歌詞は、目で見ると哲学性を帯びていて、耳で聴くと不思議なリズム感を生み出しているんですね。その完成度にはひれ伏すしかないです。
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